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第24話 エスコルヌ女子爵(2)

「その意味において、王国を震撼せしめし暴れドラゴンを討伐し、Sランク冒険者へと上り詰めた“神童”フィブレ様の実績は、そんじょそこらの田舎貴族よりもはるかに上だと、わたくしはそう思うのです」


 そう言うと、エスコルヌ女子爵はそれはもう素敵な笑顔で俺を見つめた。


 高貴な美女の、まるで恋人にでも向けるような熱い視線に、俺は思わずドキリとしてしまった。


 どうやらエスコルヌ女子爵は、俺のことをかなり高く評価してくれているらしい。


「自分のことを存じ上げていただいていたとは、恐縮です」


 しかし、俺がマジで調子に乗っていた頃の二つ名“神童”が、貴族の皆様にまで知れ渡っていたとはな。

 驚きを感じるとともに、当時の黒歴史も伝わっているかと思うと、なんとも恥ずかしく思ってしまう俺である。


「もちろんご活躍は知っておりますわ。先だっても街道周辺を荒らす魔獣の群れを、一匹残らず討伐されたとか」


「かなり離れた地域の話でしたのに、お詳しいのですね」


「ノースランドのような小さな街にとって、他都市と繋がる街道は文字通り生命線ですわ。領地経営をしておりますと、街道絡みの問題には自然と敏感になりますのよ」


「なるほどです」

 俺はおおいに納得した。


「せっかくですし、その時のお話を聞かせていただいてもよろしいかしら? わたくし、フィブレ様がどのように魔獣の群れを討伐したのか、とても興味がありますの」


「少し長くなりますが、構いませんか?」


「構いませんわ。それではどうぞ中にお入りくださいな。フィブレ様の活躍で街道がまた賑わいを取り戻したおかげで、ちょうど美味しい紅茶とクッキーが手に入ったところですのよ」


「ありがとうございます。頂戴します」


 俺はまるで貴族のような丁寧な扱いでもって応接室に通されると、紅茶とクッキーをいただいた(マジで美味しかった)。


 そして先だってのキングウルフ討伐について、エスコルヌ女子爵に少し話を盛りながら面白おかしく語って聞かせた。


 武勇談を語るのは冒険者にとって日常茶飯事なので――時には冒険者同士でどっちがすごいかマウント合戦をする――トークには俺もそれなりの自信がある。


 そういうのもあってか、


「それで、その後どうなったのでしょうか?」


 エスコルヌ女子爵はとても楽しそうに&興味深そうに、俺の話を最後まで聞き終えてくれたのだった。


 そんな風にまずは軽く世間話をして場を温めてから、俺は本題へと入った。


「それで今回のお話なのですが、本当にこのような安い金額で土地を譲っていただけるのでしょうか?」


 おずおずと。

 しかし誤解が生じないように、明確に切り出す。


「ええ、先だって書面でお伝えした通りですわ」


「では金銭以外に、何か別の対価が必要なのでしょうか? 例えば労働力などでしょうか」


 ギルドの冒険者たちは皆、身体を鍛えているうえに、様々な技能を所持している。

 そこには少なくない利用価値がある。


「まさかまさか。先日提示した金額だけで十分ですわよ。提供するのはどうせ農地にならない荒れた土地ですし、遊ばせておくくらいなら有効活用した方がよろしいでしょう?」


「ですが、それにしても安すぎると申しますか――」


 農地に適さない荒れ果てた原野とはいえ、ただ同然で譲ってしまってはエスコルヌ女子爵に何のメリットもないのでは? という俺の考えは、しごく当然だ。


 何か裏があるのでは、と心配になってしまうのも無理はなかった。


 こう見えて俺は、冒険者ギルドのギルドマスター。

 裏方スタッフも含めれば400人を超える大所帯を預かる身なのだ。


 甘い誘いに乗って、愚かな決断をすることだけは許されなかった。


「ふふっ、噂通りフィブレ様は真面目な方なのですわね。そうですわね、わたくしがあなたに個人的な恩義を感じていると言えば、納得していただけますかしら?」

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