第22話 転機のきざし
◇
無事にキングウルフ討伐クエストを完了した俺に待っていたのは、もちろんいつもの日常だった。
ギルドマスターとしての業務を様々にこなし、サー・ポーロ士爵との定例協議では、またいつものように嫌味を言われる。
そんな代わり映えのない日々だった。
今もサー・ポーロ士爵の屋敷で行われた定例協議に出向いていたのだが、開口一番サー・ポーロ士爵が言った。
「先だって商人ギルドと畜産ギルド合同の依頼で、キングウルフの群れを討伐したそうじゃの」
「はい。なんとか大きな事故もなく、依頼を完遂することができました」
「なんじゃ、自分たちが優秀だと自慢しておるのか?」
「まさかそんな。単なる事実の報告です」
「ふん、まぁそんなことはよい。それより聞いておるぞ? なんでも報酬が相場の3倍じゃったそうじゃの?」
サー・ポーロ士爵がニヤニヤと底意地が悪そうに笑った。
「先方もそれだけ緊急性を要していたのでしょう。かなり大きな被害も出ておりましたので、我々も他のクエストを後回しにして、最優先で事に当たらせていただきました」
「ふむ。やはり冒険者ギルドは存分に儲けておるようじゃのぅ」
「儲けていないとは、申しませんが……」
……また金の話かよ。
お前はうちに法外な賃料をふっかけて、暴利をむさぼっているだろうが。
金、金、金、金……。
どれだけ金を欲しがってやがるんだ。
などと思ったものの、もちろん口には出さない。
「これは次の契約更新が楽しみじゃのぅ。くくく……」
「その件ですが。改めて考え直してはいただけませんでしょうか? さすがに今の2倍の家賃というのは少々、無理がすぎるのではないかと――」
「ならぬ。あれは決定事項と言ったじゃろう。店子が儲けておるのじゃから、家主に利益を還元するのは当然ではないかのぅ?」
「……そう、ですね」
ここで何を言っても意味がないことを散々身に染みて味わってきた俺は、言いたいことをグッと我慢した。
サー・ポーロ士爵は冒険者ギルドを対等な交渉相手とは見ていないのだから。
「さて、他に何か言うことはないかの?」
「……いいえ、ありません」
「では今日の定例協議もお開きじゃの。また次回、足を運ぶがよい」
「本日はお時間を取っていただき、誠にありがとうございました。それでは失礼いたします」
「うむ」
横柄に頷くサー・ポーロ士爵。
今日もまた、俺は悔しさを噛み殺しながらサー・ポーロ士爵の屋敷を後にしたのだった。
◇
定例協議からの帰り道、俺は自問自答を行っていた。
「何をどうやったって、今の2倍の賃料は無理だ。だがサー・ポーロ士爵は絶対に自分の意見を曲げないだろう」
まるで俺に恨みでも抱いているかのように、サー・ポーロ士爵は次から次へと無理な要求を押し付けてきやがるのだ。
「何か、何か打開策はないのか?」
長年にわたって積み立ててきた積立金を取り崩せば、かろうじて1,2年なら持つだろう。
だがこれはもしもの時の保険であり、そもそも積立金がなくなったらその時点で詰んでしまう。
「ほんのわずか延命できるだけに過ぎず、根本的解決には程遠い。だから家賃問題では、積立金は手を付けられない。これは絶対の絶対だ」
積立金に手を付けるのはもう最後の手段なのだから。
「少なくとも、これならいけると俺が確信を持たない限り、積立金は絶対に使わない」
だが今のままで行き詰まってしまう――。
「何かないのか? この雁字がらめのような状況を打開する妙案が、どこかに――」
そんな俺の切なる願いが通じたのだろうか。
それから数日後、とある情報が俺の元へと届けられた。
それは当初は「ちょっといい連絡」程度のものだったのだが。
いつしかそれが、この苦しい状況を大きく変えるゲームチェンジャーになることを、この時の俺はまだ知る由もなかった。




