第17話 シノビのおしごと
「シノビか。今日もまた急に現れるなぁ……」
「わわっ!?」
突然の登場に驚く俺とリーリア。
ちなみに俺はかなり気配の察知が得意な方なんだが、シノビの気配を感じ取れたことは一度もなかった。
今だって俺も含めて誰にも気付かれることなく、いつの間にか音もなく馬車と並走してたんだぞ?
こんなの察知しろとか言う方が無理だろ。
「これが我らシノビの性分ゆえ許されよ。それよりもギルマス。そろそろキングウルフの住処が近い。ここいらで馬車を止め、風下から回り込むのがよろしいかと」
「わかった。おーい! 馬車を止めてくれ。キングウルフの居場所が近い。ここからは歩きで行く!」
俺が大きな声で指示を出すと、
「了解です」
「2番車了解!」
「3番了解!」
きびきびとした返事とともに、3台の馬車はゆっくりと停止した。
街道脇に馬車を寄せて、適当な低木に馬をつなぐ。
誰もおしゃべりする者はなく、適度な緊張感が感じられた。
ここまではリラックスして馬車旅を楽しんできた面々だが、一瞬で戦闘モードに気持ちを切り替えてくれたようだ。
Bランクともなれば、かなりの場数を踏んできた冒険者ばかりだ。
この辺りの注意は言わなくても大丈夫そうだな。
「シノビ。早速、案内してくれるか?」
「御意。それでは先導します」
「頼む」
街道の脇に馬車を止めた俺たち討伐隊一行は、シノビに先導されて歩き始める。
ビュウウ!
すると俺たちの周囲を、強い風が吹き抜けていった。
「そろそろ強い風が吹き始めるゆえ、奇襲かけるにはよい頃合いかと」
シノビが空を見上げながらそんなことを言ってくる。
「強い風は草木を揺らし、一番隠しづらい音を消してくれるからだよな?」
風下から近付けば、匂いは隠せる。
藪や低木に隠れながら進めば、視覚も誤魔化せる。
だが音を隠すのは、なかなか難しい。
しかし強風が草木をざわつかせれば、こちらの音はほとんど相手に聞こえなくなる。
つまり強風は奇襲する側に極めて有利に働くのだ。
「左様。さすがギルマスはものを知っておられる。なにより良い運を持っておられる」
「そりゃ強風が吹いてくれるに越したことはないんだが、強風が吹くかどうかなんてわかるのか?」
「この辺りは山から下りてくる風の通り道。その強さは上空の風の強さ、日差しの強さ、そして山頂と麓の温度差によって大きく変わります」
「そんなに変わるなら、やっぱり予測は難しいんじゃないか? いや、疑ってるわけじゃなくて、あくまでズブの素人の素朴な疑問な? 根拠を教えてくれ」
疑問に思ったことは、やはり確認しておくべきだろう。
「それは逆なのです。大きく変わるがゆえに、条件は突き止めやすくもあるわけです。なーに、この程度の予測は大したことではありませぬ」
「たった数日の先行探索だったってのに、当たり前のように言うなぁ……」
思わず口に出た俺のつぶやきに、しかしシノビは顔色一つ変えなかった。
本当に当たり前のことを当たり前にやったって思ってるんだろうなぁ。
そしてこれだけシゴデキにもかかわらず、シノビは忠誠心が異常に高かった。
ギルマスの俺が言うのもなんだが、クラウスに逃げられるくらいに金がないポロムドーサ冒険者ギルドなのに、文句も言わずに最高の仕事をやり続けてくれているのだから。
とてもありがたくはあるものの、申し訳なさを感じもする俺だった。
「事前情報はクエストの成功率と達成率を、大きく左右します。特に現地の詳細な情報は貴重です。その意味でナイトワイズの貢献度は、Aランクパーティに引けを取りませんよ」
リーリアの意見に、俺はおおいに納得したのだった。




