第14話 ファースト・ステップ:隊商護衛の依頼
◇
数日後。
予想した通り、商人ギルドから隊商の護衛を依頼するクエストが届けられた。
「先ほど商人ギルドから、隊商の護衛依頼のクエストが来ました。なるべく早い日取りでのスタートを希望。まずは1か月の契約とのことです。クエスト料金は通常の護衛の相場の3倍を、前払いで提示してきています」
情報を伝えにギルマス執務室までやってきたリーリアが、商人ギルドから届けられたばかりの文書を俺に提出しつつ、依頼内容をかいつまんで説明してくれた。
「3倍とは、なかなか気前がいいな。ま、駐留騎士団を呼べばさらに2、3倍はかかるだろうから、それに比べれば安いもんか」
「しかもあの人たちときたら、融通がきかない上に、やる気もぜんぜんないですからね……」
駐留騎士団とは、地方の中核都市に拠点を構える騎士団のことだ。
しかし騎士たちの中では王都にある第1騎士団か、王宮を警護する近衛騎士団こそが正統とされており、駐留騎士団への配属は「島流し」と呼ばれて左遷の象徴とされているのだそうな。
そのため駐留騎士団は、とかくモチベが低いことで有名だった。
わざわざ中核都市まで出向いて必死に陳情をしても、派兵されるのは早くて1ヶ月後──なんてのはざらだ。
しかも来たら来たで、もうやたらと偉そうに振るまう上に、仕事ぶりは雑の一言。
なにせ面倒ごとをやりたがらないのが、駐留騎士団なのだった。
しかもチビるほど高額ときた。
ま、駐留騎士団がそんなだからこそ、冒険者ギルドには美味しい話がいくらでも転がってくるわけなのだが。
その中でも今回の護衛クエストは、特に美味しい案件なのは言うまでもない。
だって相場の3倍だぞ3倍!
しかも前払い。
いつにも増してやる気も出るってなもんだった。
「よし、事前打ち合わせ通りにBランクパーティを、ローテーションで護衛に当たらせてくれ。細かい調整は全てリーリアに一任する」
「お任せください」
このクエストは隊商の移動に合わせてその都度、護衛を出さないといけない。
そのためパーティが別々にクエストを受けるのではなく、冒険者ギルドが指揮を執って全体のタスクを一元管理しながら、穴が開かないように各パーティにローテーションで護衛クエストを差配をするのだ。
そういう管理業務は、数字が強いリーリアがおおいに得意とする分野だった。
「ただし、何かあればすぐに報告を頼むな」
「心得ております」
「それとキングウルフの狙いは、反撃されるリスクの高い人間よりも、むしろ荷台を引く無防備な馬だと思う。馬をやられないように意識するよう、念押しだけしておいてくれ」
リーリアなら言わないでもそれくらいはやってくれるだろうが、大事なことは念押しして、し過ぎることはないのだ。
「それも承知しました。あとは、これでキングウルフたちが危険を察知して、元の住処の山奥に戻ってくれたらいいんですけど……」
「それが理想ではあるんだが、おそらく無理だろうな」
「ですよね……」
「わざわざ人里近くまで下りてきたってことは、そうしないと生きられないってことだ」
「はい……」
「餌がなければ、腹が減る。腹が減れば、死んでしまう」
「飢え死にを前にすれば、人間が危険な存在だと分かっていても、リスクを犯して下りてくるのは必然ですよね……」
「こればっかりはしょうがない。そして被害が出てしまえば、討伐せざるを得なくなる。なぜなら――」
「なぜなら一度、手軽に食べ物が手に入ると覚えてしまった魔獣は、何度も襲撃を繰り返しますから……」
そうなればもう、人間社会のためには生かしておくわけにはいかなくなる。
「ま、そういうわけだから、当面の差配はリーリアに任せる。頼んだぞ」
「心得ました。魔獣とはいえ生き物。願わくば、群れごと山に帰ってくれますように──」
しかし心優しいリーリアの願いもむなしく。
それから10日も経たないうちに、キングウルフの群れへの討伐依頼が、ポロムドーサ冒険者ギルドへと届けられた。
依頼主は商人ギルドと畜産ギルドの連名だ。
護衛を強化した隊商は無事だったのだが──キングウルフたちも武装した冒険者たちが目を光らせていたんで警戒したのだろう──代わりに畜産ギルド所属のヤギ小屋が襲われたのだ。




