第13話 決意を新たに、前を向いて。
クラウスを見送り、2人きりになったギルマス執務室で、
「クラウスさん、行っちゃいましたね……」
リーリアがか細い声でつぶやいた。
「しょうがないさ。Aランクパーティは挑むクエストの難易度も高い。当然、リスクも高くなる。そのリスクに正当な対価を求めるのは、仕方のないことだ」
「仕方ないって。うちにはAランクパーティが3つしかないのに、それが2つになっちゃったんですよ? 3引く1は2なんですからね?」
リーリアが俺の眼前に、ズイっと見せつけるように右手突き出してくる。
その手は最初3本の指が立っていて、そのうち1本がすぐに折り曲げられた。
「だよなぁ。Aランクパーティを10も20も抱える大きなギルドならまだしも、うちみたいな小さなギルドで3が2になるのは、ぶっちゃけダメージでかいよなぁ……」
貴重なAランク帯が、驚異の33%の戦力ダウンだ。
俺としても頭が痛いところである。
しかもAランクパーティの中でもクラウスたちは一番、戦力の高いパーティだった。
リーダーのクラウスだけでなく個々のメンバーも優秀だし、チーム内での連携も高いレベルで取れていたし、クエストの解決精度も高かったのでクライアントからの評価も上々だった。
――だからこそ、移籍という話にもなったんだろうが。
ま、嘆いていてもしょうがない。
俺まで暗い気持ちになってたら、しょんぼりリーリアはもっとしょんぼりしてしまうだろう。
俺は冒険者ギルドを預かるギルドマスターとして、俺の右腕であり、ギルドを愛してやまないリーリアに頼れる姿を見せないといけないのだ。
「近々キングウルフの討伐依頼がありそうだって話をしましたよね? 護衛程度ならBランクパーティでも可能でしょうけど」
「低ランク魔獣ならともかく、キングウルフの討伐ともなると、現実問題Bランクじゃちょっと厳しいよな」
Bランクと言ってもピンキリなので、Aランク間近なBランクパーティならできなくはないだろうが、それでも少しリスクが上回る。
「Aランクの残る2つのパーティは今、クエストで遠征中です。討伐依頼が来たらどう対処したらいいか……」
「対応できる人員もいないし、俺が行くしかないよな。面倒な書類仕事も終わったことだし、気分転換がてらに討伐クエストをやるのは、ちょうどいいっちゃちょうどいい」
「そうやって何でも自分で抱え込んじゃうと、フィブレさん、いつか倒れちゃいますよ……」
「その時はリーリアが看病してくれよな? ほら昔、リーリアが作ってくれた『オカユ』だったか? 『ウメボシ』とかいうのが入っている柔らかいお米。あれは美味しかったし、食べやすかったよ」
何年か前に、風邪を引いたことを俺は思い出す。
怪我もしないし風邪もひかない元気印だった俺が、本当に珍しく風邪を引いたのだが。
いつも元気な俺が寝込んでいるのをいたく心配したリーリアが、母直伝というとっておきの病人食を作ってくれたのだ。
「そんなこと言って……。何でも抱え込んじゃう人には、それこそ何もできないように、つきっきりで看病しちゃうんですからね?」
褒められて嬉しかったのだろう、リーリアが頬を赤くしながらはにかんだ。
「おー、それは嬉しいな。次に風邪をひくのがちょっと楽しみになってきたぞ? ふむ、今日はちょっとお腹を出して寝てみるかな?」
「もぅ、ダメですよ。わざと風邪を引いたりとかしたら。ただでさえ大変な時なんですから、フィブレさんがいなくなったこのギルドは機能不全になっちゃいますからね? めっ! ですからね」
リーリアが恥ずかしそうに、指をつんつんしながら上目づかいで俺を見る。
その可愛い仕草に、なんととも言えない幸福感を覚えると同時に、俺はホッと安心した。
「よかった、ちょっとは元気が出たみたいだな」
「あっ……」
「正直しんどい状況ではあるけどさ。凹んでいても始まらない。前を向いて、なんとか乗り切っていこうぜ」
「……ですね!」
リーリアが元気を取り戻したところで、俺は当初の話のまとめに入った。
「キングウルフに討伐依頼が来た場合は、俺が対処する。さすがに一人じゃ無理だから、人員はちょっと借りるかもだが。それまではリーリアに一任する。現状維持をしつつ様子見ってことで」
「なにか妙案があればいいんですけどね……一応わたしも情報収集をがんばってみます」
「頼りにしてる」
こうして俺とリーリアは、前向きな気持ちで決意を新たにしたのだった。




