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第11話 移籍の理由

「まずは理由を聞いてもいいかな?」


 認めるにせよ、引き止めるにせよ。

 まずはそれからだ。


 ……もちろん、おおよその想像はついているのだが。


「最初に言っておくんだが、オレも仲間も、アンタが嫌いなわけじゃないんだ。特にオレは、アンタと一緒にパーティを組んだこともあるし、オレよりもはるかに優れた冒険者だと思ってる」


 クラウスは申し訳なさそうにしながらも、しかし淀みなく自分の意見を述べてゆく。


 ……ほんと、いい冒険者に育ったな。

 俺は我が子の旅立ちを見届けるような、そんな感傷を思わず覚えてしまっていた。


(俺には子供はいないので、あくまで想像だが)


「なにより冒険者のなんたるかをオレに教えてくれたのは、他でもないアンタだ。まだ駆け出しだったオレに目をかけてくれて、育ててくれた。今のオレがあるのはアンタのおかげだ。それはもう間違いない」


「だったらどうして――っ!」


 思わずといった様子で口を挟もうとしたリーリアを、


「リーリア、まずはクラウスの話を聞こう」

「……すみませんでした」


 俺は優しくそっとたしなめてから、視線でクラウスに続きを促した。


 クラウスはこれまた申し訳なさそうに、リーリアをチラリと見てから、また俺へと視線を向け直して話を続ける。


「今、このギルドがいろいろと苦労しているのは知っている。けどオレらも命をかけて冒険者をやっているんだ。高ランクパーティが受けるクエストは、それだけ危険度も高くなる。それに見合った相応の対価は必要だ」


「そうだな、俺もそう思う。当然の意見だよ」


「だがここのギルドの取り分は40%、クエスト報酬の半分弱はギルドに持ってかれちまう。よそは30%が相場なんだろ? 10%の違い、これはでかいぜ」


「だってそれは、施設利用料が高すぎるからであって。こうでもしないと、とても払えないから――」


「リーリア。それはギルドとサー・ポーロ士爵との話であって、クラウスとギルドの話には関係ない。クラウスには自分たちの取り分を主張する権利がある」


「……すみませんでした」


 リーリアがしょんぼりと肩を落とした。


 もちろん今、俺が言ったようなことは、言われなくたってリーリアならわかっているはず。

 だがわかっていても、言葉にするのを止められなかったに違いない。


 なにせ先代ギルドマスターはリーリアのお祖父さんだ。


 リーリアは小さい頃からここポロムドーサ冒険者ギルドに入り浸っていた。


 それこそ自分の家のように思っているだろうし、お菓子をもらったり、冒険譚を聞かせてもらったり、冒険者たちを家族のように感じていたに違いない。


 当然のように自らも冒険者になった。


 今は特技のソロバンを活かし、ギルドマスターである俺の秘書&事務方トップをやっているが、本来はリーリアも冒険者の1人なのだ。


 志を同じくする家族同然の人間と離れるのは、誰だって辛いものだ。

 もちろん、それは俺も例外ではない。


「その辺りのことも少しは聞いているさ。だがオレはパーティのリーダーとして、パーティの仲間に命の掛け損だけはさせられねぇんだ」


「クラウスさん……」


「あいつらにはもっと大きな対価を得る権利がある――って俺は思う」


 俺の目から見て、クラウスはあまり金に頓着しないタイプの冒険者だった。

 冒険者として高みに上ること、それ自体を目標にするストイックなタイプだ。


 あとは人並みに名誉欲があるくらいだが、これは冒険者で持っていないやつはいないだろう。


 事実、パーティのリーダーという面倒な役目をやっているにもかかわらず、クラウスは報酬の取り分をきっちり均等割りにしていた。


 ゆえにこれは、本当に仲間のためだけを思っての苦渋の決断に相違なかった。


 ならもう、俺がここでぐだぐだ言う必要はないよな。

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