第106話 御前裁判(3)貴族子弟の証言
「いいえ、商人ギルドとは冒険者ギルドの関係は良好です。ギルドマスター同士も仲が良く、とても友好的な関係を築いております。有力者の中で俺にことさら大きな恨みを持っていたのは、サー・ポーロ士爵ただ一人だけと言い切れるでしょう」
「冒険者ギルド移転による金銭的な恨みから行われたと? たしかに動機にはなりえますが、暗殺者集団がサー・ポーロ士爵の依頼で動いたとまでは言えないのでは? 他の誰かの可能性は、完全には排除できません」
「サー・ポーロ士爵及び息子シグマと、暗殺者集団との関りを示す証言があります。この場に証言者を呼んでもよろしいでしょうか?」
「許可しましょう。証人を呼んでください」
もちろん証人についても事前に申請をしているので、この辺りの流れも実にスムーズだ。
そしてドアが開き、例の貴族の子弟が2人、王の間へと入ってきた。
「お、お前ら裏切ったな! 散々いい目を見させてやったのによ!」
それを見たとたんに、シグマが思わずといったように大きな声を上げて――
「黙らんかシグマ。興奮するでない」
隣のサー・ポーロ士爵に鋭い視線とともにたしなめられて、慌てて黙り込んだ。
チッ。
これでシグマがカッとなって洗いざらい自白してくれたら、一発だったのにな。
まぁいいさ。
別に敵失がなくとも、俺たちの勝利は揺るがない。
早いか遅いかの違いだけだ。
2人はおどおどした足取りでやってくると、まずは簡単な自己紹介を行った。
国王陛下の前、さらには全員の視線を浴びたことで緊張して震えているのだろう、震え声になりながら。
しかし何がなんでも保身を図りたいのだろう、彼らはぺらぺらと洗いざらいにしゃべりだした。
「わ、わ、私たちがサー・ポーロ士爵の息子シグマに、暗殺者を紹介しました」
「う、裏社会のやつらとは、女を紹介してもらったりと以前から付き合いがあって……それで……」
「そしたらシグマから冒険者ギルドのギルドマスターに――フィブレ士爵に恨みがあるから、暗殺者を紹介してくれって言われて――」
「でも俺らは仲介人を通じて引き合わせただけで、そこから先のことは何にも知らないんだ! 本当なんだ信じてくれ! 俺たちは何も知らなかった! まったくの無関係だ」
あまりにあけすけな告白に、王の間がざわめいた。
「貴族の子弟ともあろうものが、裏社会の者とつるんで女遊びにふけるとは、なんたる破廉恥な……!」
ここまで冷静に裁判を進行させていた宰相フローレンスが、ムッとしたように声を荒げる。
貴族のしきたりや誇りをことさら大事にする大貴族にとって、裏社会で悪事を働く下賤の民と交友があるなどもっての他だろう。
『これだから田舎貴族は』
『貴族の何たるかも知らぬと見える』
『若者というだけではとても擁護できませぬな』
『痴れ者めが。貴族の風上にも置けんわ』
国政を預かる上級貴族たちからも口々に罵られて、
「申し訳ありませんでしたぁ!」
「これからは心を入れ替えて生きてゆきます! お許しください!」
2人はもうほとんど涙目になりながら、悲鳴のような謝罪を口にした。
しかし彼らへの追及は今日の主題ではないし、俺も興味はない。
それに事前の司法取引によって、長めの謹慎を食らう程度で済むはずだ。
俺が興味があるのは、今の発言を基にしたサー・ポーロ士爵とシグマへの尋問だ。
「ではサー・ポーロ士爵にお尋ねします。証言者の発言はお聞きになった通りです。これは事実ですか?」
怒りを押し殺し、苦虫を嚙みつぶしたような顔をしながらも、冷静さを取り戻した宰相フローレンスが、サー・ポーロ士爵とシグマに問いかける。
「あっ、あっ――」
シグマは動揺が露骨に出た情けない声を上げた。
しかしサー・ポーロ士爵はまたも堂々と言った。
「否である。彼らの証言は、ワシらを貶めるための虚言じゃ」
「ほぅ。サー・ポーロ士爵は彼らが嘘を言っていると申されるか?」
「さようじゃ」
サー・ポーロ士爵は完全に腹を据えているようだな。




