第105話 御前裁判(2) 国王陛下の御前にて
「国王陛下のおな~り~~~!」
若手の貴族からなる近衛兵の大声での案内とともに、国王陛下専用の重厚な扉が重々しく開かれて、国王ニコラウス3世が悠然と入室してきた。
俺たちはいっせいに頭を下げる。
国王陛下が玉座に座るまでは、臣下は頭を下げ続けるのが習わしだとエスコルヌ女子爵から教わっていたのだが。
「よい、面を上げよ」
まだ30代後半の若々しい王は、歩きながら顔を上げるように命ずると、全員の視線を一手に受けてもまったく動じることなく、王家に代々うけつがれてきた荘厳な玉座に深々と収まった。
こうやって謁見するのは暴れドラゴンを倒してSランク冒険者の称号をもらって以来、2度目なんだが。
あの時よりもさらにすごみが増しているな。
まるで抜き身の刀のようだ。
戦闘能力とかじゃなく、意識の鋭さの話だ。
国王陛下が登場したことで、ついに役者はそろい。
宰相フローレンスが高々と宣言した。
「それではこれより御前裁判を開催する。国王陛下の御前ということはすなわち、嘘偽りは国王陛下に対する侮辱とみなされる。厳しく罰せられる故、肝に銘じるよう」
その言葉に俺とエスコルヌ女子爵、サー・ポーロ士爵とシグマは大きくうなずいた。
「また、偉大なる国王陛下に裁判という些末事にて手をわずらわせるわけにはいかぬゆえ、裁判の進行は不肖、私フローレンスが執り行う。その旨、ご了承いただきたい」
俺たちはもう一度うなずいてみせた。
こうしてついに御前裁判が開始された。
「まずは事実関係の確認を行う。サー・ポーロ士爵に問う。フィブレ士爵から出された訴状によれば、サー・ポーロ士爵が、冒険者ギルド移転による多額の利益喪失の恨みからフィブレ士爵の命を狙い、下賤の者を使って暗殺を企てたとある。まずこれは事実であるか?」
「否、そのような事実はありませんな」
サー・ポーロ士爵は堂々と否定した。
「重ねて申し上げるが、この場での嘘偽りは非常に重い罪となる。よろしいな?」
「もちろんですじゃ。ワシも息子のシグマも、そのようなことは寝耳に水。まったく心当たりがありませんのでのぅ」
サー・ポーロ士爵は俺たちの方を見ると、小ばかにしたようににやにやと笑みを浮かべた。
対してシグマは顔が真っ青だ。
もはやシグマは相手にする必要なしとみて、俺はサー・ポーロ士爵だけに意識を向ける。
「と、このようにサー・ポーロ士爵は言っておりますが、それに対してフィブレ士爵は何か反論はありますかな?」
宰相フローレンスは次に、俺に反論を求めてきた。
このように、国王の代わりに進行役を務める宰相フローレンスが、事件の真相を探るべく、俺とサー・ポーロ士爵に疑問点を問いただし。
問われた側はそれに答えていき、最後に国王陛下が裁定を下す。
これが御前裁判の基本的な流れである。
ちなみにこの場においては、黙秘権などというものは存在しない。
国王陛下に代わって進行役を務める宰相フローレンスの問いかけに答えないとはつまり、国王陛下の問いかけに答えないということだから、当然だ。
「あります。移転直前、冒険者ギルドとサー・ポーロ士爵の関係はこじれにこじれていた上に、俺は実際に命を狙われました」
そしてこの辺りはエスコルヌ女子爵が、検討に検討を重ねて用意してくれた想定問答通りなので、俺は理路整然と主張を述べていった。
「暗殺の動機はあると言いたいわけですな」
「さらに言えば、Sランク冒険者の俺が仲間と戦って危うく命を落としそうになるような、暗殺を生業とするプロ集団です。雇うには相当な資金が必要なはずですが、それを辺境で払えるのはごく一部の貴族や上級商人に過ぎません」
「ですがそれはつまり、商人の可能性もあるわけでは?」
宰相フローレンスはあくまで中立の立場の進行役なので、俺に不利になることも当然尋ねてくる。
もちろんその答えも用意してある。




