第103話 決戦前夜
「ゆっくり確実に、貴族のなんたるかを学んでいきましょうね」
その姿は、妹を慈しむお姉さんって様子だ。
なんか、いいな。
復讐の計画を遂行している真っ最中だっていうのに、なんだかほっこりしてしまう俺である。
仲睦まじい2人を見ていて、俺はとても幸せな気持ちになっていた。
っていうかこの二人、出会って日が浅いのにすごく仲がいいよな?
気が合うに越したことはないんだけど……。
2人がタッグを組んで攻勢に出てきたら、対処できそうなビジョンが見えないぞ……?
まぁ、それはそれとして。
「善は急げだ。シノビ、いるか?」
俺は周囲に最大限の注意を向けつつ、その言葉を口にした。
姿は見えないが、呼べば来るはず。
いつものようにこっそりと現れるだろう。
だがこう見えて俺もSランク冒険者。
いい加減、シノビに不意打ちを食らってばかりはいられないんでな。
さぁどこから来る?
どこからでも来い。
この前の暗殺者との死闘で、なまっていた実戦感覚や勝負勘もかなり戻ってきているからな。
今の俺は、わずかな違和感すらも見逃さないぞ?
さぁ来い。
今日こそは俺が勝つ!
俺は気配を探ることに全神経を注ぎながら、シノビの出現を待ち構えていたのだが。
コンコンコン。
丁寧なノックの音がして、
「シノビ、参上しました」
シノビの声が部屋の入り口のドアの向こうから聞こえてきた。
「シノビさん、どうぞ」
エスコルヌ女子爵が返事をすると、
「御意」
シノビは律儀に返事をしてから、ドアを開けてごくごく普通に中に入ってきた。
さらに音もなくドアを閉めると、これまた音もなく俺の前までやってくる。
「……あのさぁ?」
どこからでも来いとは思ってたけどさ?
なんで今回に限って普通に入り口から、ノックまでして入ってくるわけ?
警戒していた俺がバカみたいじゃないか?
あれか?
不意打ちごっこでは飽き足らず、今度は心理戦でも仕掛けてきたのか?
俺が警戒していた裏をかいて、敢えてノックをして入ってきたと?
いや、さすがに俺が深読みしすぎか?
俺の負けず嫌いがそう思わせるのか?
「どうかされましたか?」
呆れたような俺の問いかけに、しかしシノビはいつもの無表情で淡々と答える。
今日も黒い頭巾で顔の半分を隠しているのもあって、俺はシノビの意図を読み取ることができなかった。
「……いや、なんでもない」
「左様ですか」
俺は頭を振ると、言った。
「シノビのことだから話は聞いていたんだろ? この嘆願状を王都に届けてほしい。なるはやでだ」
「御意」
「先日と同じで、王宮の衛兵にわたくしエスコルヌ女子爵から国王陛下に宛てた書簡を預かってきたと伝えれば、後は向こうが取り次いでくれるはずですわ」
「御意」
まず俺に、ついでエスコルヌ女子爵に、シノビはコクコクと小さく頭を下げた。
「じゃあ頼んだぞ」
「直ちに向かいます。今日中には届けてみせましょう」
必要最低限のやり取りだけで、シノビは部屋から退出していった。
本当に超ハイスぺでシゴデキなやつである。
◇
そして数日後。
御前裁判が開催される旨を記した書状――というか召喚状――が届いた。
「フィブレ様。ついにこの時が来ましたわね」
「ああ、こっちの準備は万全。あとは叩き潰すだけだ」
証拠は揃っているし、模擬討論なども重ねてきた。
もはや恐れるものはない。
「勝つのは当然として、圧倒的に勝利する。それが俺たちの目標だ」
そして指定された期日に、俺たちは満を持して王都にある王宮の、王の間へと参上した。




