第101話 リーリアとエスコルヌ女子爵の顔合わせ
そして冒険者ギルドの移転――というかもはや街そのものの移転ともいうべき大事業は、サー・ポーロ士爵の妨害がめっきり減ったことで、それはもう順調に進んでいき。
それと並行して俺は、命を狙われ&リーリアを傷つけられた復讐を着々と進めていたのだが。
さらにそれと並行して、俺には絶対にやっておかねばならないことがあった。
それこそ復讐よりも何よりも最優先でだ。
それが何かというと――エスコルヌ女子爵とリーリアの関係性の構築である。
(ちなみにリーリアは毒からすっかり回復し、後遺症も残らずに元気を取り戻し、仕事に復帰している。
本当に良かった。
解毒剤をくれたシノビには感謝してもしきれない)
俺は2人を同時に部屋に呼んで、単刀直入に言った。
「俺は2人ともが好きだ。心から愛している。だから2人どちらも妻に娶りたい」
ストレートに想いを告げる。
2人はというと、無言で顔を見合わせた。
むむ……、反応が芳しくないな……。
「急に言われてもいろいろと思うことがあると思う。2人が直接、顔を合わせるのは今日が初めてだしさ? だけど俺は3人でうまくやっていけると思っているんだ。だから俺の気持ちを受け入れてもらえないかな?」
さすがに事が事なので――なにせ正々堂々と二股したいと言っているわけで――俺は真剣に心からの気持ちを伝えた。
後ろめたい提案だが決して視線をそらさず、2人の答えをジッと待つ。
すると2人はどちらからともなく俺へと向き直り。
「ふふっ、フィブレ様は勘違いをしておられますわ」
まずはエスコルヌ女子爵がくすくすと小さく笑いながら言うと、
「はい、フィブレさんはとても大きな勘違いをしています」
リーリアもおなじように小さく笑いながらそれに続いた。
おや……?
なんだか思ったよりも2人の距離感が近いような……?
「ええっと、勘違いってのは?」
「わたくし、リーリアさんとは初対面ではありませんわ。もう何度も顔を合わせております。ね、リーリアさん?」
「はい」
「そうだったのか? いったいいつの間に……」
そんな話、まったく聞いてなかったんだが?
「最初はリーリアさんのお見舞いに行きましたの。そうしたらとっても話が弾みまして」
「そこからはすぐに仲良くなって、毎日のように会っていたんですよ」
どうやらそういうことのようだった。
「ならそうと言ってくれればよかったのに」
「内緒にした方が面白いと思いまして、リーリアさんにも口止めしていたのですわ。ね、リーリアさん」
「はいクラリス様」
リーリアが「クラリス様」と呼んだ。
通常、部外者はエスコルヌ女子爵と呼ぶ。
そうでないのはいわゆる「内側の人間」だけ。
屋敷の使用人であったり、親しい友人であったり、そういった内側の人間だけが使う呼び名をリーリアがした。
それは2人が既に、かなり打ち解けた近しい関係であることを如実に示している。
「面白いって……」
「おかげで真剣に想いを伝えてくれるフィブレ様を見ることができ、わたくしとってもご満悦ですわ♪」
「えへへ、私もです♪」
「ああ、うん……」
どうやら俺は、してやられたらしい。
「やはり殿方の真剣な表情というのは、心に来るものがありますわよねぇ」
「それが愛しい人の物ならなおさらです」
「あら、リーリアさん、わかってらっしゃいますわね」
「こう見えて恋する乙女ですから」
キャイキャイとガールズトークで盛り上がるエスコルヌ女子爵とリーリア。
それを眺める俺は、拍子抜けしたというか、微妙に蚊帳の外というか。
なんとも言えない気持ちで眺めていた。
ふと「尻に敷かれる」という慣用句が頭をよぎっていた。
とまぁ、そういうわけで。
エスコルヌ女子爵とリーリアの顔合わせは、まったくもって何事もなく終了した。
(そもそも顔合わせですらなかった)




