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第10話 稼ぎ頭クラウスの申し出

「ギルマス。オレだ、クラウスだ。話があるんだが、入ってもいいか?」

「クラウスか。どうぞ、入ってくれて構わないよ」


 俺が返事をするとドアが開き、ハタチ前くらいの青年が入ってきた。


 スラリとした長身は、しなやかな筋肉の鎧に包まれ、若者のみなぎるエネルギーをこれでもかと感じさせる。


 ポロムドーサ冒険者ギルドの稼ぎ頭、Aランクパーティのリーダーを務めるクラウスだった。


「取り込み中に悪いな」

 クラウスは直立不動でそう言うと、小さく頭を下げた。


 クラウスは俺がギルドマスターになる前は、何度もパーティを組んだこともある気の置けない間柄だ。


 俺が先代ギルマスから冒険者の何たるかを教えてもらったように、若いクラウスに俺は冒険者としての様々なことを教えた。 


 ま、俺の教え子みたいなもんだ。


 そんな、いつもなら「ういっす!」くらいの軽い挨拶をしてくるクラウスの、普段とは明らかに違った妙に改まった態度に、少し嫌な予感が脳裏をよぎる。

 冒険者の直感ってやつだ。


「いや、ちょうど書類作りも終わって一休みしていたところだよ」

「そうかい。そりゃよかった」


 会話の一瞬の切れ目に、リーリアがタイミングよくスッと言葉を挟む。


「こんにちは、クラウスさん。先日は高難度クエストの攻略、お疲れ様でした。クライアントも喜んでいましたよ」


「別にあれくらいはたいしたことないさ」

「ふふっ、さすがはクラウスさんですね」


 笑顔でねぎらいの声をかけるリーリアに、クラウスは小さく笑って返すと、真面目な顔をして俺に視線を向けた。


 すぐ調子に乗ってあれこれ語り出すクラウスらしからぬ殊勝な態度に、リーリアが「あれ?」って顔を見せる。


 俺の中の嫌な予感は、既に確信に近くなっていた。

 そんな心の内を俺は顔に出さないように意識しながら、問いかけた。


「それで、どうしたんだ? わざわざ改まって」


「……」

 俺の問いかけに、まずは沈黙が返ってくる。


「…………」

 俺は静かに次の言葉を待つ。


 逡巡するような、言いあぐねるような沈黙の後、クラウスが言った。


「うちのパーティは、隣の冒険者ギルドに移籍しようと思ってるんだ」


 ――やはり、そういう(たぐい)の話だったか。


 俺が即答せずに、いったん頭の中で返事を整理していると。


「そんなクラウスさん! クラウスさんたちに抜けられたら、困りますよぉ!」


 俺が言葉を発する前に、リーリアがガタンと大きな音を立てながら席を立ち上がって、抗議するように言った。


「リーリア、冷静に――」

「だってクラウスさんのパーティはうちのギルドの稼ぎ頭なんですよ!?」


「リーリアにもすまねぇんだが、どうか聞き入れて欲しい」


「そんな、急に言われても……」

 リーリアが泣きそうな顔で俺を見る。


 リーリアが目の前で感情的になってくれたおかげか、妙に冷静になれた俺は。

 頭の中で状況を整理し終えると、話しやすいように意識的に笑みを浮かべながら言った。


「まずは理由を聞いてもいいかな?」


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