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恋愛模様

作者: 藤井桜

 


 高校生の私が恋をした。


 普通の恋愛じゃない。


 名前も何処に住んでいるのかも分からない。


 一目惚れっていうのかも知れない。



 その人を見つけたのは毎朝、通学で乗る電車の中だった。

 私は通学、そして彼は通勤。

 スーツ姿に身を包む会社員だ。



 気付かれる心配なんてないから。

 さりげなく隣に並ぶ。

 これじゃあ、まるで変質者?

 でも、少しでも貴方のことを知りたくて。



 つり革に掴まったまま文庫本を読む姿をじっと見るわけにいかないからさりげなく。

 読んでいる本はブックカバーが掛けられているので、分からない。

 何を読んでいるのかな。


 何処から乗ってくるんだろうか、そしてどこで降りるのだろうか。

 だって、私が最初に降りちゃうので分からないからだ。



 ぼーっとしていたら電車が大きく揺れた。

 私の身体も大きく揺れる。

 吊り革は、疲れるので、握っていない。



 次の瞬間、私は憧れの人の肩に頭をぶつけた。



「す、すみませんっ」



 私は一体、何をしているのだろう。

 油断した。

 ぶつけて痛い鼻を押さえながら青年に謝る。



「だ、大丈夫?!」



 彼は驚いたようで…そりゃあ、私も驚いたから当然と言えば当然なのだが。

 私の腕を掴んで、真っ直ぐに立たせてくれた。

 あ、優しい人だ。



「大丈夫です、すみません、ぼーっとしていました」



 鼻を押さえたままぺこりと小さく頭を下げる。

 心配そうに覗き込む姿も格好良い。



「良かった」



 笑顔。

 やっぱり、私はこの人が好き。

 笑顔がステキ。

 どうしよう、好きが止まらない。



 恋人は居るのですか…?

 聞きたいことは山ほどあるけれど。



「ありがとうございました!」



 何のお礼なんだろう、私はお礼と頭を下げる事しか出来なかった。

 だって、もうすぐ、降りる駅だ。

 格好良すぎて、顔も上げられない。



 人ごみを掻き分けて私は電車から飛び出した。

 その人がどんな表情をしているのか、なんて、分からない。



 お話することが出来るなんて!

 やっぱり、優しい人だった。

 声も仕草も一度に覚えた。



 また、会えるかな。

 今日、ちょっと話したくらいじゃいきなり挨拶するのは変かな?

 大好きなあの人を思い浮かべる瞬間はどきどきする。

 


 明日、また会えることを祈って。


 私は、改札口で待つ仲の良いみっちゃんに大きく手を振った。

 いっぱいいっぱい、話を聞いてもらうんだ。



 社会人に恋をする高校生の話。

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