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第一章 その4 絆

魔物の残骸は霧散し、静寂が戻った森の中——。


 リーネがアキトの肩の上にぽんっと姿を出した。

リーネは戦闘中は指輪の中に戻る。ソウルフォージの力を十分に引き出すにはそれが必要らしい。


「ふぅ……ほんっと、やっと終わったじゃん。もっとサクッとできなかったわけ?」


 リーネが肩の上で不満げに顔をしかめ、しっぽをパタパタと揺らす。


 俺は膝に手をつき、荒い息を必死で整えていた。体の奥から震えが止まらない。


「はは……まだ、体が追いつかないな……」


 クロエが豪快に笑いながら、背中をどんと叩いた。


「でも、ちゃんとやったじゃん。立派立派! これなら《鉄の絆》でもやっていけるさ!」


 ルカスは黙ったまま一度だけうなずき、ティナは風の魔力を収めながらニヤリと笑った。


「ま、最初にしちゃ上出来だって。次はもうちょい派手にやってくれると嬉しいけどさ!」


 それぞれの魔核は淡く輝き、吸収した力を秘めている。ソウルフォージの余韻が、体の隅々にまだ残っていた。


 森を抜け、村の近くまで戻る途中、クロエが歩きながら語りかける。


「なぁ、新入り。お前、自分の核——どう思ってる?」


「どうって……」


 リーネ自身を指しているのか?ぶっちゃけかなり気に入っている。あのゲーム【ソウルレイブ物語】は恋愛ゲームの要素があり俺は何度もリーネのルートをプレイしていた。


 俺は指輪に宿るリーネをちらりと見る。彼女はふんっと顔をそむけつつも、しっぽは機嫌よく揺れている。


「ボクはあんたの核なんだからさ、もっとちゃんと大事にしなよね?」


 リーネが口を尖らせる。


「核ってのは、力そのもの。生きるも死ぬも、これ次第だ。だけどよ——単なる道具にするなよ?」


 クロエの言葉には、芯の熱があった。


「仲間だと思え。信じてやれ。そうすりゃ、いざって時に応えてくれるさ」


 俺は、無意識にリーネの頭を指で撫でた。


「……仲間、だな」


「ちょ、なに勝手に撫でてんの!? ま、まぁ……悪くないけど……しょーがないから許してあげるし……」


 顔を真っ赤にしながら、リーネはぷいっと横を向いた。


 村に着く頃には、すっかり日も傾いていた。


 ギルド《鉄の絆》の仲間たちは、さりげなく俺の肩を支え、帰還を迎える空の下を歩く。


「おかえり、新入り!」


 門の前で待っていた仲間たちが手を振る。


 俺は、確かにここに来た。確かに生き延びた。——この世界で生きるために。


「……ありがとう」


 その言葉は、自分でも驚くほど自然に口からこぼれていた。


 リーネは、ふわりと微笑んだ。


「ま、悪くないじゃん? あんたのくせに♡」


 夜空の彼方には、異世界の月が静かに輝いていた——。


 それからの日々は依頼を通してこの世界での生活に必要なこと戦う術をクロエたちに教わっていくことになった。


 そんな日々の依頼の帰り道のことである。


 森を抜け、村の近くまで戻る途中——俺は、指輪に宿るリーネを見つめていた。


「さっきの、ありがとな」

 

 リーネは剣術を口悪くも細かく教えてくれており、戦闘中はどうすべきか指示を出していてくれた。


 何気なく言った言葉に、彼女はぴくっと反応する。


「な、なに急に? べ、別にあんたのためにやったわけじゃないし? バ〜カ」


 しっぽをふいっとそむけながら、でもその声はどこか曇っていた。


「……昔さ」


 ぽつりと、リーネが口を開く。


「ボクにもいたんだよ、撫でてくれる人が。バカみたいに優しくて、ウザくて、でも……あったかかった」


 風が静かに木々を揺らし、彼女の髪とリボンを揺らす。


「いつもボクのこと『大丈夫だよ』って言ってさ、頭撫でて、笑ってくれて……」


 きっとリーネの兄、ゲームの主人公シオンの話だろう。その声は微かに震えていた。僕は何も言わず、そっと彼女の頭に指を伸ばす。


「……っ、ば、バカ……!」


 拒絶しながらも、リーネは逃げなかった。指先にふわりと触れる髪、かすかにぴくっと震える耳。


「ほんとはさ……嬉しかったんだよ、ずっと……でも素直に言えなかった」


 彼女は目を伏せたまま、静かに言葉を紡いだ。


「……なんかね、あんたさ。声とか、手の感じとか——ちょっとだけ、似てんの」


「似てる?」


「うん。アイツと」


 懐かしさと、痛みと、ほんの少しの微笑みが混ざった表情だった。


「だから……もうちょっとだけ撫でてていいよ? しょーがないから、特別」


 俺は微笑んで、指を優しく滑らせる。


「ありがとな」


 リーネは照れたように顔を赤くして、けれど微かに笑っていた。


「……バカ」


 そのまま、村へと歩き出す。


 ギルド《鉄の絆》の仲間たちの影が、夕焼けの中で長く伸びていた——。




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