番外編 ソウルフォージ
ギルドの片隅、柔らかな夕暮れの光が差し込む窓辺。
俺——蓮城アキトは、テーブルに指輪を置き、その銀の輝きをじっと見つめていた。
「なんか真剣な顔じゃん?」
机に乗ったリーネが、からかうようにしっぽを揺らす。
「……いや、この“ソウルフォージ”っていうのが、どういう仕組みなのか……ちゃんと知りたいと思って」
「ふーん? ま、いい心掛けだし♡」
そこへ、ティナが顔を出す。
ギルド内で1番詳しいティナにレクチャーをお願いしたのだ。
「おまたっ!ソウルフォージ講座のお時間だよ! あたしに任せときな〜!」
目を輝かせてティナは椅子に飛び乗ると、勢いよく指を振る。
「まず“核”——魔核ってのは、魔物の体内に宿る魔力の結晶! 魔物を倒すと出てくるアレね。でもそれだけじゃなくて——特別な“精霊核”ってやつがあるんだよ!」
「精霊核?」
ティナは目を瞬かせる。
「そう! 魔核はただのエネルギーだけど、精霊核は“魂”が宿ってる特別な核! だから人格も記憶も持って魔力の量もはんぱない!武具に変える時のパワーもケタ違い!」
「つまりボクのこと♡」
リーネは胸を張り、しっぽをふわふわ揺らしいぇーいとティナとハイタッチをする。
「そ、リーネはその精霊核さ! あ〜もうホント大好き!可愛いし!レアだし!めちゃくちゃモフりたいし!」
ティナは目をハートにして、リーネを凝視した。
「も〜〜 ボクさぁ、別にアンタのペットじゃないんだけど! 気持ちはわかるけどちょっと距離置いてくれる?」
「こんな生意気なガキ猫のどこがいいんだか」
リーネはムスッとし肉球でペシペシと手を何度も叩いてくる。
前言撤回、ちょっと可愛い。ちょっとな。
「いやいやいやいや♡ そこがイイんじゃん!むしろツンツンしてる方が最高!」
「だめだこりゃ」
俺は呆れて苦笑いしながらじゃれ合うふたりを眺める。
「でさ、核に魔力を流し込むと、情報が引き出されて——武具とか防具に“変身”するのがソウルフォージ!」
「それが……俺の指輪?」
「そーそー。アタシたちみたいな普通のギルド員や兵士なんかは、魔核をアクセサリーに加工して身につけるの」
そう言うとティナはイヤリングを指差し魔力を流す。すると銃のような形をした杖が現れた。
「核が壊されたら魔力と情報が散って武具は形を維持できないの。まぁ核は頑丈だから簡単には壊れないけどね」
ティナは杖を消しそこで胸を張る。
「ちなみにアタシ、ギルドの鍛冶屋もやってるんだよ! ソウルフォージを作れる人間は限られてるし、核の加工や武具の改造はアタシの専門分野! 強力な魔物から取れる核、つまりは魔力量の多い核から強い武具が作れるのがこの世界のルール!」
俺はそっと指輪を撫で、リーネを見つめた。
「じゃあ……これは誰かの命を奪って得たもの、ってことか」
ティナはふっと表情を引き締めた。
「——そうだよ。核はね、その命そのもの。アタシたち鍛冶屋は、いつもそれと向き合ってる。軽く扱えば、必ず自分に返ってくる。……だからこそ、ちゃんと大事にしなきゃなんないの」
リーネはその言葉に、小さく瞬きをして微笑んだ。
それはどこか子供が真っ直ぐ育ってくれた母親が見せる安心した眼差しに似ていた。
「つまりアキトは特別ってこと♡めちゃ強めちゃレアのボクに選んでもらえてありがとうございます〜ってちゃんとお礼言ってよね♡」
「うるせぇ……でも、ありがとな」
俺は微かに笑い、指輪を指にはめ直した。
この世界がゲームのクリア後っていうのなら、精霊核に選ばれることはつまり避けられない何かがあるのだろう。
だからその日のためにーー
「俺は、強くなるしかないからなーー」
夕陽の中、銀の指輪が淡く光った。
その光は、まだ遠い未来の戦いを、静かに予感させていた。
勢いで描いてるのでちょくちょくおかしい点やら手直しやらがあると思いますが温かい目で見守ってください。
何卒お願い申し上げます。