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第一章 その3 鉄の絆

 ギルド《鉄の絆》から初めての依頼を受けた俺は、クロエたちと共に森へ向かった。


「ま、最初は肩慣らしってやつさ。とは言え、油断しないこと!」


 クロエは不敵に笑う。隣を歩くのは、細身の長身にマントを羽織った無表情の男——ルカス。


「任務……淡々とこなせば、問題はない」


 短く冷たい声。彼はギルドの斥候兼アサシン。感情を見せず、ただ静かに足を進める。


 全くの無音だ。ホラー映画のキラー役やらせたら絶対怖い。


 その後ろでは、少女が小さく手を振った。


「おーっし、がんばりなよアキトくん! ティナもついてるから大丈夫!」


 ティナ——魔核の研究者であり、ギルドの知恵袋。ふわふわした喋り方と裏腹に、頭脳は切れ味鋭い。らしい。


「こ、この子たち……ほんとに大丈夫か……?」


 肩に乗るリーネは、にやっと小悪魔の笑みを浮かべる。


「なにビビってんの?ウケる♡ ボクがついてんだから、余裕でしょ?バ〜カ♡」



 森の奥で、牙を剥いた狼型の魔物が数体、唸り声をあげて現れた。


「武器、出すよ……!」


 俺は魔核を握りしめ、意識を集中する。青白い光、足元に浮かぶ魔法陣。


「ソウルフォージ——!」


 銀の細剣が手に現れ、身体に軽装の鎧が転写される。俺だけじゃない——クロエも、ルカスも、ティナも、一斉に魔核から武具を呼び出していた。


「よし、行くよ!」


 クロエの斧が一閃。一撃で敵を吹き飛ばす豪快さ。


「援護する」


 ルカスの動きは静かで速い。影のように敵の背後に回り込み、喉を掻き切る。二体、三体、気づけば彼の足元には魔核だけが残る。


「はいはい、今いっきまーす!」


 ティナが指先を弾くと、杖から翠の光弾が放たれ、魔物の動きを封じた。風の鎖が足を絡め取り、動きを止める。


「今のうちにやっちゃいな! チャンス逃したら笑うしかないよー!」


 クロエの声に合わせ、俺も剣を振るう。肉を裂く感覚。返り血が頬をかすめる。


「やるじゃん♡ あんたも少しはマシになったんじゃない?」


 リーネのからかう声。


 魔物は断末魔を上げながら、黒い霧となって消えていく。消えいく魔物は、自身の魔核へ吸われ微かな光に変わるだけだった。


「はいはーい、回収回収っと! 核に生きるも死ぬもかかってんだから、忘れたらダメだかんね?」


 ティナは軽口を叩きつつも、手際よく魔核を拾い上げた。その顔は、戦いの最中とは思えないほど緩みきり笑みをこぼしている。涎もこぼしている。


 ルカスは剣を構え、静かに次の警戒を怠らない。


「まだ、終わっていない…」


 ルカスが剣を構え直した先——さらに大きな魔物が現れる。牙と爪、膨れ上がった肉体。


「行くよ、新入り!」


 クロエの掛け声と共に再び駆け出す。


「ほら、急げ急げ♡ 置いてかれるよ?」


 リーネの声に背中を押され、俺は剣を握りしめた——。


「……っ! 来るよ!」


 土煙を上げ、現れたのは巨大な獣型の魔物。全身を黒い鎧のような甲殻に覆い、赤い目が光る。


「アイツは……やべぇね!」


 ティナが呻く。


「下がれ、アタイが行く!」


 クロエが一歩前に出た瞬間、魔物は爆発的なスピードで突進してきた。地面が抉れ、巨体が唸る。


 クロエは大斧を地面に叩きつけ、土を舞わせて衝撃を受け止める。その一撃は轟音を立て、周囲の木々が震えるほどだった。


「ルカス! 援護!」


「了解」


 ルカスは影のように滑り込み、魔物の足元に素早く回り込む。足首を的確に斬りつけ、動きを鈍らせる。


「今だっ!」


 クロエの斧が再び閃き、魔物の側頭部を強打。甲殻が砕け、黒い体液が飛び散る。


 しかし魔物は倒れない。呻き声と共に巨腕を振り下ろし、クロエは地面を転がり、ギリギリで体勢を立て直す。


「アキト! 次、あんたの番じゃん!」


 リーネの叫びに我に返り、俺は剣を構え直す。心臓が痛いほど鳴る。


「くっ……!」


 踏み込む。魔物の腕の隙間を縫い、脇腹を狙う。硬い甲殻に剣が弾かれそうになるが、全力で押し込む。


「ティナ!」


「風はお任せっ!」


 ティナの杖が高く掲げられ、翠の魔法陣が輝く。風刃が巻き起こり、真空の刃となって魔物の関節を正確に裂いた。鋭く、冷たく、切り裂く風の力——それは動きを鈍らせるだけでなく、甲殻の隙間を抉り込む。


「よっしゃ、今のうちにやっちまいな!」


 ルカスが再び背後から喉元へ。鋭い双剣が咆哮を断ち切り、クロエの斧が追撃し——俺の剣が最後の突きを放つ。


 魔物は断末魔と共に崩れ落ち、その身体は霧のように消え、落ちた魔核に吸収されていった。



「ふぅ……終わったな」


 クロエが大斧を肩に乗せ、息を整える。


「いい動きだったね、アキトくん。最初の割にはさ!」


 ティナがにやりと笑う。


「やるじゃん? ま、ボクの言うこと聞いてれば当然だけど♡」


 リーネはくすっと笑い、しっぽを揺らす。


 燃える肺と痺れる指先——それでも、俺は確かに生きていた。

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