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ラブコメ短編集

幼馴染が小説を書いてきて毎回俺に朗読させようとするんだが

※この作品はフィクションです。

 俺はタカシ、30代の無職おっさんだ。


 今日も平日の真昼間に近所の小さな図書館に来て、冷房の効いた涼しい環境を満喫しているところだ。

 自宅は電気代節約のために電気を止めてあるから仕方がない。


 人がいない図書館は静かで快適。皆が社会を動かすために忙しく働いている中で、俺は毎日のんびりお昼寝生活。社会の底辺のくせに贅沢しちゃって申し訳ないね。


「はあ~~、つまんねえなあ。地球つまんねえ。人類の文明くそつまんねえ。異世界転生してえわ~~」


 長椅子で仰向けに寝転がって、そんなことをつぶやく。俺はおっさんになり何事にも心を動かされなくなり。人生に飽きてしまったのだ。


「もうっ!! タカシくんったら、またそんなこと言ってる~~」


「あ!?」


 ふいに、俺の独り言に女の子の声で返事が来て、変な声が出てしまった。

 天井ではなく声がしたほうに目を向けると、そこには白いワンピースの小柄な美少女が立っていた。


「詩織か、また来たのかよ」


「タカシくんが一人で寂しがってると思ったから来たんだよ」


「寂しくなんかねえよ」


 詩織は俺の幼馴染の美少女だ。彼女とは家が隣同士で物心つく前から付き合いがある。そして、結婚しようという子供のころの約束を俺がかなえてくれると、今でも信じているちょっと変わった女の子だ。


 だが今の俺は、社会の歯車から抜け落ちてる無職のおっさんで、彼女とは釣り合わないって誰が見てもわかるだろう。


 それなのにいつまで俺たちは幼馴染の関係を続けるのだろうか。




「今日もね。タカシくんに読んでもらおうと思って」


 そう言うと詩織はカバンからノートを取り出し、俺に渡した。


「またかよ」


 ノートをめくると綺麗な文字で物語が紡がれていた。

 彼女は小説を書いている。別に小説家ではない。趣味で書いているだけだ。そしてそれを読むのは、この世界で俺だけらしい。


 俺が起き上がると、俺の膝の上に詩織がちょこんと座った。


「はやく、読んで♡」


「はあ、仕方ねえな」


 俺は付箋が張られているページを開く。今日の物語はそこからという印だ。




「おはよータカシくん!」

 大好きな幼馴染の詩織が俺を起こしに来た。


 俺たちは高校生、寝坊しがちな俺を毎日、詩織が起こしに来る。

 そして、仲良く一緒に登校するのだ。


 』



 俺が朗読を始めても誰も文句を言わない。図書館には俺と詩織しかいないからだ。


「俺を主人公にするのはやめろっていつも言ってるだろ」


「えーでもタカシくんが私の理想の主人公なんだもん」


 俺は主人公になんか、なれねえよ。

 と心の中でつぶやきつつも、続きを読む。




 学校では隣の席。


 俺はズボラなので教科書を忘れると、いつも詩織が机をくっつけて見せてくれた。


 はたから見ると、なかよしカップルに見えるらしい。


 見せつけてんじゃねえよと独身の教師にやじられる。


 クラスメイトにも笑われたが、俺たち二人を祝福するような和やかな感じだった。


 』



 これは高校のころの俺と詩織の思い出話なのか?

 いつも教科書忘れてたのは天然ドジの詩織の方だったけどな。




 昼休みは屋上で詩織の作ってくれた弁当を食べる。


 親が出張がちでいつもいない俺のために、栄養たっぷりの弁当を毎日作ってくれた。


 詩織には感謝しかない、本当によくできた俺の嫁だ。


 いや、まだ嫁じゃないけど、結婚できるようになったらすぐにしてやるさ。


 でも金持ちのお嬢様の詩織と俺じゃあ、やっぱり釣り合わないかな。

 なんてことを言ったことがある。


 でも詩織は、

「そんなの関係ないよ。私はタカシくんがそばにいてくれたら、それでいいの」

 って言うんだ。


 』



「どうかなあ?」


 俺と詩織のラブラブな日常が描かれた小説。

 それを朗読させられる俺。


「どうって? 読んでて死ぬほど恥ずかしいが?」


 甘すぎて胸焼けしそうだ。


 これはどういう羞恥プレイなんだ?


「私の文章、変?」


「いや、内容の問題だろ」


「主人公とヒロインがラブラブで、すごくいいでしょ?」


 いやその主人公とヒロインが俺たちのことじゃなければいいんだが…



 高校時代、現実はそこまでラブラブだったわけじゃなかったけどな。

 思春期で、お互いどう接すればいいかわからなかった。

 恋愛感情を表現するのが照れくさくて、彼女の気持ちを傷つけたこともたくさんあった。

 好きなのはわかってたんだよ。でも「好き」という直接的な言葉は、結局言うことができなかった。



「ねえ、次のページ♡」


「ああ、まだあるのか」


 俺は詩織の甘い声で、続きを読むように催促される。




 詩織と結婚するために、努力しないとって言ったら。詩織からは、

「タカシくんは私が養うから好きなことを自由にやっていいよ」

 って返された。


 だが、彼女の親の会社が、競合する海外企業の台頭でつぶれそうになってるのを、俺は知っていた。


 IQ200の天才の俺をなめんなよ。俺の方が詩織を幸せにしてやるんだ。


 そう意気込んだ俺は一流大学卒業後、詩織の親の会社に入って、見事に会社を立て直した。

 俺の能力がこの仕事に向いていたのもあるだろう。


「ありがとうタカシくん! 大好きだよ♡」


 そして皆に祝福されて詩織と結婚した。


 ~めでたし、めでたし~


 』



「読んでくれてありがとう」


「詩織は俺とこうなりたかったのか?」


「これはただの物語だよ。タカシくん」


 詩織の物語の中では俺は彼女を救うヒーローだ。

 だが当時の俺は自分の可能性を探るために、地元を、彼女のそばを離れた。

 世界を救うヒーローにでもなるつもりだったのだろうか?



「なんつーかさ。過去はやり直せねえんだよ。当たり前だけど俺はヒーローじゃなかった。地元にいても、外に出ても、結果は同じだったよ」


「タカシくんごめんね。タカシくんが一番苦しんでるときに・・・、私、そばにいられなかった」


「別にお前のせいじゃないだろ」



 俺が無職なのは昔いろいろあったせいだ。


 地元を出た俺は、自分の能力を過信して、世のため人のために生きようとした。

 でも努力しても報われなくて、生きる意味を見失い、何もかもがどうでもよくなった。


 仕事を辞めた俺は、すでに親がいなくなった実家に帰ってきて、貯金が尽きるまで生きる屍と化し、意味のない日々を孤独に過ごすのだろうと思っていたのだが…


 詩織がずっと地元にいて、俺の隣の家で俺の帰りを待っていてくれていた。


 そしてゴミのようになって帰ってきた俺を温かく迎えてくれた。

 彼女は地元を出て行った俺が、いつかきっと迎えに来てくれると信じていたんだ。



 本当だったら社会で成功して帰ってくるはずだったのに、お前を幸せにしてやれたのに…


 いや、働いているときは地元に帰ることなんて考えもしなかったんだけどな。


 俺は薄情者だ。




 物語の中で俺と詩織は必ずハッピーエンドになる。現実はそうじゃないけど、それでも俺は、彼女がいるこの世界でもう少し生きてみようと思った。


 ~おしまい~


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