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2 王の番からみた物語(本編スタート)


彼との出会いは5歳の王城で行われたパーティーでだった。


そのパーティーは国中の貴族の娘が集められた華やかなものだ。表向きは建国パーティーということだったが、今年7歳になる皇太子のラルフ・キングスバリーの『番探し』だという噂だ。


獣人が統治するセノリカでは、皇太子がある程度の年齢になると番探しが始まる。


獣人にとって番は重要なものだ。

番相手であれば優秀な子孫が生まれることが多い。

遺伝子での相性という意味でもあるのかもしれないが、それ以上に魂が求めて、一生をかけて愛し尽くす存在を得られるだけで人生の色が大きく変わる。

それが王ならなおさらだ。

セノリカをより盤石な国にするために、こうして番探しが始まる。


けれど、それは簡単なものではない。

国中の、下手すれば世界中の存在の中から一人だけが番となれるのだ。


だから、集められた貴族の娘から番が見つからない場合は潔く諦めなければならない。

平民を番にすれば貴族の均衡が崩れるし、他国の者ならなおさらだ。


昔は身分関係なく番を探したらしいが、見つからずに番探しに狂う者、見つかったとしても身分が低かった場合、高位貴族からの反発が大きく国の弱体化にもつながった。

優秀な子孫は勿論大事だ。けれど、それにより失うものの方が大きければ、国の安寧の方を優先される。


リディア・メイソンは父親に連れられて初めての王城に訪れていた。

内向的な性格で、趣味はレースを編むこと。めったに外に出ないため、初めての社交の場がいきなりの大舞台となった。


周りに見知った人はおらず、父親も周りの貴族への挨拶回りに忙しい。

リディアは尻込みし、壁に背をつけてぼーっとダンスホールを見回していた。


もしかしたら番に選ばれるかもしれないと人生最高のドレスを着ている人ばかりで、目の前の光景はおとぎ話のように華やかだった。


その中から、一人の男の子が現れた。

現れたというのはおかしいが、彼だけシャンデリアの光をすべて集めたように光り輝いて見えたのだ。

困惑していたリディアだったが、その男の子はこちらにまっすぐと歩いてきた。

周りの貴族はざわつき、慌てて彼の進む方向を開けて道をつくる。そして頭を下げた。


リディアと男の子を一直線につなぐ道。

彼はゆっくりと歩き、やがて目の前に立ち止まった。

周りの時が止まったようだった。

誰も微動だにしない中で、彼の目だけがリディアを捕らえていた。

薔薇のように赤い目が、徐々に潤んでいく。

彼はリディアを抱きしめて言った。


「やっと見つけた」

その時心に広がった暖かさは、リディアの人生の中で経験したことが無いものだった。


リディアは内向的な性格だったので、家族としか深い交流はなかった。

しかし、家族も良い意味でも悪い意味でも貴族的だったので、娘であるリディアの将来は他の家に嫁いで家を大きくするための道具として育てられた面が大きかった。

物心ついてからは両親から抱きしめられたことはなかったのだ。

抱きしめられて、彼の黒髪が頬をくすぐる。

生まれてから今まで欠けていたもの、夜寝る前にふと舞い降りる寂しさ。それが一瞬で消え去って、生涯訪れることがないことを予感させる。

そんな暖かな気持ちがリディアの心に染み込んでいく。


男の子はリディアの手を握りしめたまま振り向いた。

「彼女が僕の番だ!みんな、祝福してほしい!」

その言葉で一斉にダンスホールは拍手に包まれた。


王が番を見つけたのだ。奇跡のような確率で。


その言葉で、リディアは男の子が皇太子ラルフ・キングスバリーだと気がついた。



そこから先は怒濤の日々だった。

両親の別れの挨拶もそこそこに、メイソン家から王城に住む場所を移した。

将来の皇后としての教育を受ける日々が始まった。覚えることは多かったが、リディアは辛くはなかった。


ラルフが毎日来てくれたからだ。


「おはよう。今日は城下町で話題のケーキを買ってきたんだ。一緒に食べよう!」

「はい!あ、でもこの後歴史の勉強が……」

「そうか……でも、甘い物があると勉強がはかどるよね?フィリップ」

フィリップはリディアの教師だ。彼はため息をつきながらも愛おしそうに二人に言った。

「少しだけですよ?それからはみっちりと勉強してもらいます」

二人は微笑みあって、ケーキに口をつけた。


ラルフはリディアにプレゼントをするのが大好きだった。

自分の持てる力をすべて使って、リディアを自分の愛で埋め尽くしたかったのだ。

リディアはお返しをしたかったが、自分の持てる力は少なかった。自分が一年かけても手に入れられないようなものを、ラルフは一日で手にできるのだ。


だが、リディアには一つだけラルフに渡せるものがあった。


レースだ。


内向的なリディアは家の中にこもることが多かった。その中で、自分の乳母から教えてもらったレース編みの技術を身につけていった。

教えられた図柄を次々を編んでいく。その時間だけは、自分に全く構ってくれない両親を見なくて済むからでもあった。


自分の手で、時間を掛けて編んだ美しいレース。それだけはリディアにも誇れるものだった。

夜寝る前や、勉強の休み時間を使って黙々と編んだレースは見事なものだった。王族の紋章を使うのはまだ恐れ多かったので、リディアの好きな薔薇の花を編んだ。

初めて彼の目を見たときに思い浮かんだ花でもあったから。


それを二人のお茶の時間の時に渡す。

「あの、これ編んでみたんです。良かったら使ってください。……あの、膝に掛けたりとか、もしあれでしたらお着替えの時に足を置く場所にでも」

だんだんと自信を無くして、声も小さくなっていったし、用途も卑屈なものを提案してしまう。


けれど、それをラルフはすぐに否定して喜びの声を上げた。

「大事にするよ!肌身離さずつける!本当にきれいだ!僕のために作ってくれたんだろう!なんて素敵なんだ」

はしゃいで、リディアをレースごと抱きしめる。

自分の好きなものを、自分ごと抱きしめられる。それはリディアの人生すべてを肯定してくれるようなものだった。


ラルフの番に対する愛に、自分の好意が伴っていないのではないかとどこか思っていた。

けれど、この時にこれからの人生すべて、自分の愛はすべてラルフに捧げたいと思ったのだ。

二人の仲はさらに深まった。



王城の者達は王が番を見つけたことを喜んでいた。

番が見つけられなかった王達の失意の記録に触れている者が多いからだ。王城には獣人も多いことも理解が深い要因だった。

一生を掛けても見つけられない番を得られたのだ。

国がさらなる発展をする兆しのように思っていた。



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