表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/38

1 王から見た物語


セノリカは獣人が統治している国だった。


肥沃な土地を有し、かつての異種間の戦争で獣人が勝ち取ったところにできた国だ。

その戦争で最も活躍した黒豹の獣人が王となり、他国と戦争をしながら領土を広げていった。


他国を吸収していった過程で、かつての戦争相手だった人間も受け入れて、今では人間の国民の方が多くなっている。


昔よりは少なくなった獣人だが、王族のジョーンズ家をはじめとして獣人の影響はとても大きい。


そして、今代の王はラルフ・キングスバリーだった。


キングスバリーは黒豹に姿を変える獣人の一族で、ラルフ自身も違わない。

黒豹は国旗にも描かれて、セノリカの象徴とも言える存在だった。



獣人がもっとも重視するのは番の存在だ。


番がいるだけで精神が満たされて、人生は完璧なものになる。

さながら、魂の片割れと評されている。


だが、唯一の番を見つけることは至難のものだった。

世界は広い。国の中にいるのならまだ良い方だが、他国にいる可能性だってある。

砂漠の中でダイヤを見つけるようだと言われ、一生、番と巡り会えない獣人は珍しくなかった。


そして、ラルフ・キングスバリーの番は、この世界にいないというイレギュラーなものでもあった。


セノリカでは魔術が発展していなかった。

獣人の圧倒的な力ですべて解決ができたので不要だったからだ。むしろ、自分の力ではない魔術という異次元のものに頼ることに嫌悪感すらあった。


しかし、時代は移り変わるものだ。

獣人の数が徐々に減り始めたことをきっかけに、背に腹は代えられないと魔術の研究にも力を入れ始めていた。


その研究過程で、自分の望む者を召喚するという魔術があった。古代魔術を研究し直した際に再発見されたものだという。


セノリカは強大だったが、獣人が減り続けた未来に備えて、より優秀な子孫を残さなければならない。

王としての責務と、そして自分自身の望みのために、ラルフはその召喚に掛けることにした。


そしてやってきたのが、カナメ リアという少女だった。


彼女は自分たちが暮らす世界ではなく、異世界のニホンという国からやってきたのだという。

こことは文明も暮らす人々もすべてが違う国。自分の番がそんなところにいたのかと、どうりで見つからないはずだと思った。


そこからは幸福の日々だった。

番が隣にいるだけで心が充足し、彼女の願いは何だって叶えてやりたくなる。


最初は戸惑っていたリアだったが、すぐにこの状況を受け入れて自分の愛を当然のように受け止めてくれた。


失ったものがようやく戻ってきたのだ。



けれど、一つだけ懸念点があった。


皇后の存在だ。

ラルフが10歳になった時に、番探しとして国中の年頃の令嬢が集められ、その中から選ばれたのが皇后リディア・メイソンだった。

番がいなくてもその場で配偶者を選ばなければならず、もっとも最適として選ばれたのが彼女だったのだ。

メイソン家は当時力をつけ始めていた貴族で、領土にある港を活用して他国との貿易が順調だった。

国の行く末を考えれば、今後の他国との交流に役に立てるのではと、そんなメイソン家を後ろ盾に持つリディアが選ばれたのだ。


両親が早世し、早くに王になったラルフを支えてくれたのがリディアだった。が、正直に言えばあまりその頃の記憶が無い。

自分自身が、王になる為に必死だったというのもあるし、彼女はあまり表に出てくるタイプではないのか、王と皇后としてのこれまでの思い出があまりないのだ。


番が来たとはいえ、皇后を交代とはいかない。

だから、リディアはそのままにリアを皇妃とという話で進めていた。それならばリディアも納得するだろうと。

正直に言えば、ラルフはやはり番をもっとも自分の近くに起きたかった。最も愛おしい存在が隣に立ち、同じ目線でものを見たかったが、メイソン家に失礼だろうと妥協したつもりだった。


けれど、リディアは怒り狂った。

自分こそがラルフに愛される存在だと発狂したのだ。

涙を流し、ラルフに追いすがった。自分達の思い出をでっち上げて周りをあきれさせもした。

皇后の仕事も放棄し、泣きわめいてその後には呆然と宙を見つめていた。


狂った皇后として、城のものから忌避されるようになる。


もう彼女をそばに置いておけない。このままだと大事なリアが傷つくかもしれない。

そう思っていた時、リディアがレースを差し出した。これはあなたを思って編んだものだと。自分を少しでも愛しているなら受け取ってほしいと。


ラルフは考えた。

もし、ここでこのレースを受け取ってしまったら、リディアに期待を持たせてしまうのではないかと。

ここでばっさりと彼女を拒絶したほうが、後々の彼女のためではないかと。


だから、ラルフは一度レースを受け取り、それを踏みつけた。


リディアは目を見開いて足下のレースを見て、そして近くにいた衛兵が帯刀していた剣を素早く抜き取った。

ラルフはとっさに隣にいたリアを抱きしめてかばった。

けれど、リディアはラルフ達ではなく自分を傷つけようとしていた。ラルフの行動に傷つき、自害しようとしたのだろう。


首筋に剣を当てようとしたが、弱った体のリディアは剣を取り落としてしまう。

即座に近くにいた衛兵がリディアを取り押さえた。そして彼女は王に反逆した者として捕らえられてしまう。


通常なら、どんな立場であろうと死罪だ。


しかし、皇后を死罪にすることは皇族への威信を傷つける可能性があること、今まで少なからず皇后として国の役に立っていたこと、メイソン家との今後の関係……などを考えて、皇后としての立場を剥奪して城から出されることになった。


ようやく邪魔なものはいなくなって、リアだけを目に入れることができる。


ラルフは改めて愛おしい番を腕の中に抱きしめた。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ