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悲劇のパラノイア  作者: エデン
第1章
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第6話 エダン

次の日、早朝から晴天に恵まれ、僕の所属するエキストラ劇団員は、公演のために平民区にある公園で舞台設備を整えていた。簡易的なものではあるが、木造の台を1から外に設置するため、作業員たちは大変そうに作業をしている。

周りを見ると、他の役者たちは今日の公演の打ち合わせをしている。僕の出番は1人のため、こういったときに打ち合わせなどは全く必要ない。あるとしても何時に出るかどうかを確認するくらいだ。


適当に傍のベンチに座ると、空を眺める。雨だった場合は中止になる恐れもあったから、今日は晴れて良かった。最後の確認のため自分で作った台本を見ていると、突然後ろから肩を叩かれた。


「セリオン。頑張ってるわね」

「…アーデル?」


時刻もまだ早いというのに、アーデルは何故来たのだろうか。それに驚いていると、アーデルは自然と隣に座ってきた。


「気になって来ちゃったわ。それにしても凄い人数ね。あなたの所属する劇団は本当に大きいのね」

「…ああ。それなりに名前を持つ劇団だからな」

「あら、なんだか他人事みたいに話すのね」

「僕はいずれ完全に独立したいんだ。この劇団の名前を借りずに済むように。今のままだと、まだ完全に1人で立ったとは言わないからな。これより高みを目指している。頂点に立って全てを見下ろせるほどに、僕の名前を強めたい」


淡々と僕の思いを語ると、アーデルは不思議そうに此方を見つめてきた。


「頂点に立ったら次はどうするの?それに…誰かと居るということは、何かあった時に助けを求めることができるじゃない。1人の力だと限界になる時も、あるかもしれないでしょう?」

「…いいか。人は必ずしも助けてくれるわけじゃない。殆どの場合他人を疑うべきなのが、この世界だ。1人の方が裏切られるリスクを負わずに済む。もう少し生きる上で緊張感を持った方がいいぞ。いつ…人が裏切ってくるかは分からないからな」

「…ええそうね。他人は裏切ってくるかもしれないし、何かを押し付けてくるかもしれないわ…でもその考えは、私にとっては何だか…寂しいように思えるわね」


アーデルは眉を寄せて、僕の方を向いた。アーデルの瞳は揺れていて、僕をただ見つめてくる。一心に見つめられたからか居たたまれない気分になり、思わず目を反らして僕はもう一度話す。


「いや。寂しいとは思わないな。この世界の法則は、そういうものだ。人は真の意味で分かりあえる奴なんて居ない。信じられるのは…己自身だけだ。僕はそうやって生きてきた」

「……そうなの。あなたが強い理由が分かった気がする。でもあなたは…私を助けてくれたじゃない。ほら、人が誰かを助けたことになるでしょう?」

「…っそれは僕がやったことだろう。僕自身は誰にも助けられたことはない」


僕が吐き捨てるように言うと、アーデルはハッとした表情をしてから、表情を曇らせた。


「…やっぱり寂しいわよ。そんなの……決めた。もしもあなたに何かあったら、私が助けてあげる」

「…何だって?」

「助けてあげるわ。これは約束よ。…あ!あなたのお仕事を邪魔しちゃってごめんね。実は買い物のついでに寄ったのよ。また昼に来るわね!」


突然アーデルは立ち上がると、照れくさそうにしながら走って去って行ってしまう。それを呆然と見つめてから、僕はフッと笑う。


(助ける、か…どうせ口だけだ。実際に行動を起こす奴はいない)


アーデルが去っていく後ろ姿を見つめながら笑顔を元に戻すと、再び静かに台本を広げた。



エキストラ劇団の役者たちの公演が始まり、時刻は昼に近づいていた。

エキストラ劇団が庶民向けの公演を初めて行うということで、観客の人数は思いのほか沢山集まった。「あのお高い劇団が、庶民向けに公演を開いた」ということで民衆たちはエキストラ劇団に対する好感度を勝手に上げているが、それも劇団側の策略だということに一切気づいていない庶民は、相変わらず馬鹿なことには変わっていない。


舞台裏で目を瞑って瞑想をしながら、出番の時刻を待つ。僕の後の出番の役者たちは、必要以上にそわそわとしているが、僕は違う。ただ僕自身を実話の世界に没入させる準備をする。


「セリオン殿、出番です」


劇団の者から声を掛けられると、僕は目を開ける。僕はこれから舞台に立ち、どんな人物でも演じることができる。舞台の世界は全て…僕の物なのだから。

舞台の上まで階段を上ると、幕裏から舞台の表に出る。


大勢の観客たちが好奇心の瞳で僕を見つめる。アーデルを探してみると、前の方の席に座っていて僕をしっかりと見ている。その横にはフィオナの姿も見えた。

ほかの観客たちは、一心にどんな話を演じてくれるのかを今か今かと待っている。僕は観客の前で丁寧に礼をして見せた。


「本日はお越しいただきありがとうございます。僕の名前はセリオンです。僕の名前を聞いたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。此方の劇団に所属するまでは一般の方向けに演劇していたことがあります」


それを言うと、観客のうち1人の若い男が立ちあがって話し出す。


「ああ!見たことがある!昔酒場でやっていなかったか?あの時の演劇は、中々楽しかったぞ!」

「おや?僕の昔を知っているのですね。どうもありがとうございます。またこうして貴方の前で披露することが出来て嬉しく思います……それでは今日は特別に短いお話を3つ連続でやりましょうか。不倫、機転を利かして陥れての金儲け、復讐心。題材は簡単なものですが、その中でも特別に笑い溢れるものとなるでしょう…」


庶民向けには、貴族相手にするものよりもユーモア溢れるものが好まれる。よってより厳選した話を披露することにした。


「さてまず1つ目の題材は「不倫」です。悲劇でもありますが、男女の興味深い関係性をお楽しみ頂けるでしょう…」


僕はもう一度礼をして、ようやく演技に入ろうとしたところ、突然観客席から男の声が聞こえ始めた。


「おい!やめろ!今すぐやめろ!!!」


男の怒声が聞こえた方を見ると、目を思わず見開いてしまった。前にアーデルの家で脅しのように、アーデルの尻を触っていた商売人の不倫男、「ローガン」が怒り狂ったように観客席で叫んでいる。


「お前のことは知っている!何でもかんでも笑いのネタにしているだろう!しかも題材は人の不幸話だと?人のことを馬鹿にして、何がそんなに楽しい!実際にその話題を出されて、似たような思いをしたことがある人々がどう思うか分かっているのか!お前のやっていることは、ただ人を馬鹿にしているに過ぎない!それを聞いて悲しむ者もいるだろう!神の意志の冒涜にも繋がる!お前などに舞台に立つ資格はない!」


ローガンが立ち上がって叫んだ途端、まるで用意されていたかのようにローガンの周りの数人の男達が立ち上がる。


「そうだ!お前がやっている演劇は昔に見ていたがな!内容は酷いものだった!弱者を陥れる内容がそんなに楽しいか?人の不幸を題材にするなんて、人に対して何も思っていない証拠だろう!お前のやっていることは全部間違いだ!取り消せ!」

「何も感情がないからこそできるんだ!この冷酷野郎!どれだけそれで悲しむ人がいるか……俺の弟はな、お前の演劇のせいで心が傷ついて、家から出てこられなくなったんだ!責任とれ!」

「はやく舞台から降りろ!お前なんて必要ない!」


ローガンの周りの男3人が立て続けに叫ぶと、周りが一気に騒つきだした。僕はそこで演技をしようとしていた動きをやめて、冷静に分析をする。


(…これは罠だな。どうやって僕のことを調べたかは知らないが、ローガンは僕がイザベルの名前を言って、アーデルを助けた時のことを根に持って、僕に仕掛けたんだろう。そして周りの男3人は仕掛け人だ……だが)


周りの人々はそれを聞くと、先ほど僕の演技を昔見ていたという男まで立ち上がる。


「確かに…あんたのやる内容は、善意の感情に沿った内容じゃあなかったな。楽しいことは楽しかったが、人のことを考えたことがない内容そのものだ」


それに釣られて、横に居た女まで立ち上がって隣の男に声を掛ける。


「私も見たわよ、この男の演技。内容は酷いものだったわ。人の不幸話をまるで笑い話のように語るんだもの。他人のことを何も考えていない。そんな人の演劇なんて…見たくないわ」

「内容は確かに酷いよな!前から思っていたが……こういう男こそ犯罪者になるんじゃないのか?」

「ええ。危ないことには違いないわ。それにそういう考えに影響されて、周りの人々にも悪い影響が出るかもしれない」


男女が大声で語り始めると、さらにその周りが釣られて「本当か?」「確かに聞いた話じゃ、酷い話ばっかだった」と、どんどんとざわつきが大きくなる。


(なるほど…ローガンは確かに“商売人”だな。人の心情をよく分かっている。僕をはめるために、全部仕掛けたってことか)


1人が立ち上がって中傷すると、突然何も思っていなかった人まで勝手に影響されて1人を攻撃し始める。日ごろの鬱憤が溜まっているからか、攻撃する的を見つけた民衆たちは、一斉に敵意を向け始める。的になった人物…つまり今回の場合僕は、一斉に民衆たちの敵意に陥れられることになる。


ざわつきが大きくなると、後ろの方で聞いていた丸い眼鏡をかけた中年くらいの男が、大きな鞄を抱えて歩いて舞台に近づいてくる。


「皆様落ち着いて!私がその話を全てまとめてお話しましょう!!!」


重そうな鞄を一生懸命抱え込みながら舞台の前まで来て、立ち止まってから僕を見上げると、不似合いな眼鏡がその衝動でずり落ちた。


「私は人の心情を研究している者です。なので、貴方の話す内容の不幸話とやらがどれだけ善良な人々に影響を及ぼすか、判断できます」


男は大きな鞄を地面に降ろすと、その中から本を一冊取り出した。本は分厚いようで、持つのにも一苦労しながら、ページを必死にめくっている。


「ああ!ほらありましたよ!この本はあの有名なルーカス・カーター著です。「善良な人々の大切さ」この本の150ページにこう書かれております。「人の不幸話を笑い話にするような人物は、人の善良な心情が分からない。冷酷な人物になりやすい傾向がある」ああ…まさに当てはまっておりますね!これはいけません!」


男はさらに必死にページをめくりながら、周りに大声で説明し始める。


「どうです!?分かりましたか!皆様もそうお思いでしょう?私実はこの男の言動は昔から気を配ってみておりました…あまりにも目についた言動が多かったので。それで今回の人々の声でやっと目が覚めましたよ!私は間違えていなかったと!」

「なるほど、人の心情を研究している者が言うのなら、間違いないな!この男は完全に間違えている!」


眼鏡の男に影響されて、再び人の心情は燃え上がるように僕へと敵意をむき出しに向ける。

「降りろ!」「降りろ!」「降りろ!」そんな声が複数人から聞こえ始める。

さて……これにどう対処するべきか。明らかにローガンの罠であることは分かるが、まんまとはめられたようだ。

僕が目を瞑って思考していると、突然アーデルの声が辺りに響き渡った。


「……もう、いい加減にしなさいよ!!!何なのあなたたちは!?せっかく役者が演技をしようとしているのに、妨害するつもり!?」


驚いて目を開くと、アーデルが1人立ち上がって大きく声を上げている。流石歌姫だからか、その声は誰よりも大きく響き渡っている。アーデルはローガンの方を見ると、指を勢いよく差した。


「それに、よりにもよってあなたが言うセリフ!?この不倫男!!!」

「……なっアーデル!!!何故ここに…!?」


ローガンはアーデルの存在に気づいていなかったのか、心底驚いた表情を浮かべている。

アーデルはローガンの方に勢いよく近づいて、目の前まで立って睨みつける。


「私に何か言いたいことがあるなら、はっきりと言いなさいよ。セリオンにじゃなくてね!!!どのみちあなたからの支援は切れたわよね?教会にすら一度も顔を見せたことのない男が、神への冒涜を語るつもり?はっ笑っちゃうわね!」

「この女……!!!それ以上言うと、どうなるか分かっているよな!?」

「やれるもんならやってみなさいよ!!!私はセリオンに助けられたわ!他でもないあなたの非道な行いからね!もしもセリオンを攻撃しようっていうのなら私が許さないわ!!!」


アーデルとローガンはお互いに強くにらみ合っている。周りはそれを見て、一体どういうことだと更にざわつき出す。

等々ぶち切れたローガンがアーデルに手を出そうと拳を思い切り振り上げた。


「アーデル!!!痛い目に合わないと分からないようだな!!!」


(―――まずい)


咄嗟に僕が舞台上から降りようとした途端、ローガンの振り上げた拳は、突然現れた派手な服の男エダンが掴んでいた。


「ははは!なんだこりゃ!演劇よりも面白いことになってるじゃねえか!しかも善良だかを大事に語る野郎が、美しいアーデルに手を出そうとしたんじゃ、どんなお笑い話よりも最高だな!!!」


エダンはニヤリと笑ったまま、ローガンの腕を強くねじ伏せた。ローガンからは唸るような悲鳴が大きく上がる。


「おい、やめてくれ!!!やめてくれ!!!痛い!!!」

「痛い?今お前は美しいアーデルに拳を振り上げようとしたよな?アーデルを痛みつけようとしたことを、ちゃんと分かっているか?男の筋肉は、そんな馬鹿なことのために使うもんじゃねえだろ。まさにこれが“男の魅力”をはきちがえた結果だな。こいつこそ演劇のネタに丁度いいんじゃねえか?」

「…何であなたがここに居るのよ!?」

「そりゃあ貴方とセリオンに会いにですよ…それでこの男を貴方はどうしてほしいですか?俺としては背負い投げで観客席の外側へと帰っていただくのが、おすすめコースです」

「……今回ばかりは、あなたの案に賛成するわ」


アーデルの頷きと共に、エダンはより一層笑みを強めた。ローガンはそれを見て、顔を真っ青にさせる。


「…っ待て!悪かった!俺が悪かっ……あああああ!!!」

「さて、アーデルのご要望通り、観客席の外へどうぞ!!!スペシャルコースですが、お代は要りませんよ!!!」


エダンは相当な馬鹿力を持っているのか、ローガンを一気に観客席の外側まで吹っ飛ばすようにぶん投げた。ローガンは空中を弧を描くように浮遊し、鈍い悲鳴を上げながら、観客席の外に置いてあった演劇の小道具に激突する。


「……こんなのって……ないだろ……」


ローガンは最後に苦しい悲鳴を上げてから、ぐったりと意識を失う。エダンはそれを見て、パンパンと手を叩いてから満足そうに頷いた。


「スペシャルコースは完了です。エダン様の力強くてハンサムな演劇をご覧いただきありがとうございました!ちなみに無料キャンペーン中なので、観客の皆様からもお代は取りません!」


エダンのあまりの馬鹿力に、観客席に居た人々は圧倒されたように静まった途端、一斉に歓声が沸き上がる。気が付くと、今まで僕を罵倒していた人物すら、すっかりと忘れて拍手を送っている。

これは一体どういうことなのか。僕が観客に中傷攻撃をされた途端、アーデルがローガンに喧嘩を吹っかけて、エダンがそれを助けた……結果的に僕は二人に助けられたのか?

エダンは勝ち誇ったように、舞台の上に居る僕の方を見てニヤリと笑った。


「セリオン。見せ場を取っちまったか?大事に舞台の上に居るから、アーデルをここぞという時に守れないんだぞ?ははは!」

「ねぇ…ちょっと、やりすぎじゃない?ローガンだけど、完全にのびているわよ…」

「おっ美しいアーデル…俺に惚れなおしましたか?そうですよね?惚れましたよね?」


エダンはアーデルに迫ってみるが、アーデルは思い切り顔を顰めて全力で後ろに後ずさっている。

馬鹿力の披露が、観客の熱意を最高潮にまで高ぶらせたのか、「もっとやってみてくれ!」という可笑しな意見まで上がってきている。エダンはそれに調子に乗ったのか、舞台まで走ってくると、何と舞台の上にまで上がってきた。

エダンは僕の方を見てから、力強く肩を組んでくる。その衝動で僕は大きくよろけた。


「セリオンを攻撃していた、眼鏡のおっさん!そしてそこの若者二人よ!お前たちはもっと自分の意見を持った方がいいぞ!特に眼鏡のおっさんな!大事な本がないと意見すらも言えねえのか?まぁ俺はこいつの演劇は一回も見たことはないが、こいつ本人は純粋そのものだ!あと女好きだ!俺と一緒に女の居る夜の店ではっちゃけてたからな!」

「おい!エダン。余計なことを言うな!」

「ははは。本当のことだからいいじゃねえか。いいか、お前ら。簡単に人の意見に乗せられていると、いつか自分のことすら、分からなくなるかもしれねえぞ?まずは自分自身の考えを持つことだな。このハンサムな男、エダン様のように!!!」


それを聞いた舞台の下に居る、先ほどの眼鏡をかけた分厚い本を持った男は眼鏡を更にずり落ちさせる。若者の男女二人は顔をお互いに見合わせた。

どういう訳か僕の舞台のはずが、観客は全員エダンに注目している。これは完全に……エダンに全て持っていかれたのだろう。エダンは笑顔で、拳を上に突き上げた。


「ハンサムな男エダンと、おまけのセリオンの素晴らしい演劇はこれにて終了です!どうぞ皆様、次回の活躍にご期待下さい!」

「エダン、何なんだよお前は!!!勝手に終わらすな!」

「アーデルを助けたヒーローは俺だ。つまり今回は俺が主役そのものだろう?セリオン」


エダンは勝ち誇ったように笑みを浮かべている。馬鹿がやっていることに過ぎないだろうに、何故こんなに悔しい思いが沸き上がるのだろうか。エダンは僕の片手を無理やり上に上げさせると、ゆっくりと僕を巻き込んで舞台の後ろに下がっていく。

観客達はどういう訳かエダンのテンションに釣られたのか、歓声をどの演劇よりも大きく上げている。


「いいぞー!何か分からないが、面白い演劇だった!!!」

「観客を巻き込んだ新しいスタイルなのね!」

「斬新で素敵よー!!!」


観客達はどういう訳か都合よく全てを受け取ったらしい。舞台裏まで下がった後に、思わず苦笑いを浮かべてしまうと、エダンは横でニヤリと笑ってくる。


「どうだ?楽しかっただろう?」

「………もう僕は何も言わん」

「ん?アーデルとエダン様に助けられた!ありがとうって?はは、そりゃあ友人を助けるのは当然のことだろう?ああ、そうだ…アーデルに会いに行かないとな。感謝のキスが待っているかもしれない」


エダンに肩を組まれたまま、再び歩き出される。舞台裏の役者たちは何かを言いたげに僕の方を見てくるが、僕は曖昧に笑うだけ笑っておいた。


(これは…後で上に呼び出されるかもしれないな…)


最悪契約違反となるが、今回の場合観客からの故意な攻撃だったため、何とか説明しておくしかないだろう。エダンと一緒に公園の方に出ると、アーデルとフィオナは既に観客席から外に出ていたのか公園の外に二人で佇んでいる。


「美しいアーデル!俺の活躍はどうでしたか?さぁ!感謝のキスを頂いても?」


アーデルは僕とエダンを見てから、苦い笑顔を浮かべる。エダンは突如僕から離れてキスを迫るようにアーデルに勢いよく近づくと、アーデルはエダンの突撃をサッと横に交わした。


「たった今、感謝の心はなくなったわ…」

「ということは、感謝の心はあったということですね?つまり俺に惚れたと、なるほど!」

「惚れてないわよ!!!」


アーデルは大声を出して否定する。エダンは何故これで惚れないのか分からないとでも言いたげな表情を浮かべて、首を傾げている。僕は言い合っている二人の方に近づいて、真っ直ぐ二人を見据えた。


「その……すまなかった。アーデルは僕を助けようとしてくれたんだな。ローガンとはもう話したくなかったろう」

「おい、セリオン、エダン様への言葉は???」

「お前は一旦黙ってろ!ローガンのことを何も知らないだろう!」


僕が突っ込みを入れると、エダンは「確かに知らん」と真顔になる。アーデルは僕に近づいて、柔らかい笑みを浮かべた。



「…いいのよ。そもそも今回も私のせいだわ。ローガン…変に根に持ったのね。それにローガンには一回ビシッと言ってやりたかった。その強さを…貴方に教えられたような気がするの」

「……だが、仕方ないことだったじゃないか。ローガンに言えなかったのには…理由があったと言っていただろう」


僕がその言葉を言った途端、アーデルはハッと驚いた表情をしてから僕を見つめた。

アーデルが何故こんなにも驚いた表情を浮かべるのかは分からないが、僕はアーデルに言われた、「抵抗すると、それ以上のことをされるかもしれない」という言葉は覚えている。だからこそ、アーデルが今回僕を助けたことは……勇気を使ったに違いない。結果的にアーデルはそれ以上のことをされそうになり、僕はアーデルを助けることが出来なかった。僕は自身の両手を強く拳を作って握りしめてから、一言呟いた。


「アーデル…ありがとう」


僕は永遠に女に感謝することなどないと思っていた。だが……ここは言うべきだ。アーデルが僕を助けようとしたことは明確な事実なのだから。感謝の言葉など、ずっと忘れていた…たった一言、「ありがとう」という言葉が、どういう訳か酷く重く感じる。

全身に重みが降りかかる。僕の視界が、大きく揺らいだ。


「…セリオン。私はあなたに助けられたことがあるんだから、当然のことをしただけ。ねぇ…人との縁って不思議よね?」

「人との縁?」

「ええ。人との縁ってね、どこで繋がっているのか分からないものなのよ。縁の中には、絶対に助けてはくれないと思っていた人から助けられたり、助けてくれると信じていた人から裏切られたり…色んなことがあるわ。私がセリオンと縁を持ったのにも、何か理由がある気がするの。それがどんな縁なのかは…まだ分からないけれど」


アーデルが呟くと、横で聞いていたエダンは突然勢いよく手を挙げた。


「つまりそれは俺とアーデルが出会った縁にも何かあるってことですよね?二人の愛の象徴ですかね…深い深い縁となるでしょう!」

「……だからあなたは黙っていて」


アーデルがピシャリと言い放つと、エダンは大げさに項垂れて見せてから僕の方を恨めしそうに見つめる。


「おーい、セリオン。何でアーデルには感謝の言葉を伝えて、俺には言わないんだよ?俺はあの場の盛り上げ役、張本人だぞ?」

「……ああ、そうだな。感謝するよ。流石だな」

「何故か感情がこもっていないように思えるな?」

「そりゃあ感情など込めてないからな」


僕が淡々と話すと、エダンは「酷くないか?」と項垂れる。アーデルは僕とエダンの両方を見てから、フッと笑みを見せた。


「なんだか、貴方たち二人は友人として上手くやっていきそうね?ああ…私は絶対にエダンとは友人にはならないけれど」

「ええそりゃ勿論!セリオンとは最初から友人ですから!ですが、恋人とまでいかなくても、俺にもアーデルの友人にならせては貰えないのですか?」

「……あなたの態度全てを改めてくれたから、考えてあげてもいいわ」

「俺の態度?…ハンサムな部分は生まれ持った才能ですし、筋肉があって強いところも変えられませんね……態度……一体どの部分でしょう?」

「…もういいわ。あなたに何を話しても無駄だから」

「アーデル、その点だけは僕も同意する。後、何回も言うがエダンとは友人じゃない」


僕とアーデルは顔を見合わせてから、何度か頷く。エダンに関しての意見は一致したようだ。この馬鹿は何を言っても聞きやしない。全て自分の都合の良いように受け取ってくる。

エダンは僕とアーデルを見て、腕を組む。


「何で、二人で頷き合っているんだ?」

「セリオンと意見が同じになったからよ。あなたに関してのね」

「……つまり俺がどれだけハンサムかについて?」

「違うわよ!!!」


アーデルは悲鳴を上げそうなほど叫んでいる。もうこいつに構っている時間だけ無駄なような気がしてくる。ため息をつきそうになっていると、突然アーデルの横に居たフィオナが笑い出した。フィオナに気づかずにアーデルとエダンはまだ何かを言い合っている。


「……ふふ!」


ずっと黙ったままだったフィオナが、くすくすと笑っている。この少女も笑うことがあったのかと驚いて見ると、僕に見られていると気づいたフィオナは顔を真っ赤にさせた。


「…ごめんなさい!その……ふふ、面白いですね」

「あー…何がだ?」


僕が思わず突っ込みを入れると、フィオナは柔らかい笑みを見せて僕を見る。


「なんだかお笑い劇みたいで。その…セリオンさんの演劇を見れなかったのは、残念でしたが、楽しいです。あっ!ごめんなさい。アーデルさんは酷い目にあわれたというのに…」

「何が楽しいのかよく分からんが……」

「えっと……掛け合いが?雰囲気ですかね?少し…セリオンさんの雰囲気が柔らかくなったような気がします」

「柔らかくなった?」

「……はい。それともう一度……私を父から助けてくれてありがとうございました」


フィオナは頭を下げてから、もう一度僕を見上げて照れたように顔を真っ赤にさせる。フィオナは自分が持っていた鞄から、小さな布の包みを取り出すと僕の方に差し出した。


「……ごめんなさい。お金がなくて、こんな物しか作れなかったんですけど…簡単なお守りを作ってみました。教会の人に作り方を聞いて……セリオンさんにお渡ししたくて」

「……あ……ありがとう」


僕が受け取ると、フィオナは嬉しそうに笑みを見せた。しかし直ぐに照れたように俯いてしまい、アーデルの後ろに隠れるように下がっていく。アーデルはその行動でようやくフィオナに気づいたようだ。どういう訳かフィオナを見て笑みを浮かべている。

アーデルはニッコリと笑ったまま、手を一度叩いた。


「ねぇ、セリオン。仕事は終わったんでしょう?みんなで私の家でご飯を食べない?」

「いいですね!行きましょう!!!」

「……何であなたは平然と入ろうとしているのよ」


アーデルとエダンはまた何かを言い合い出したため、僕は一度アーデルに声を掛ける。


「劇団の者に確認してくるから、少しここで待っていてくれ」

「あら?今度は行けるのね」

「……ああ、劇団の者から許可を貰えれば行ける」


僕は頷いてから、フィオナに貰ったお守りを手に持ったまま、公園の方に走り出した。

フィオナのくれたお守りが手の中で温もりに包まれる。アーデルと…おまけでエダンが僕を庇ってくれたことを思い出す。

ただ前を見据えて走った。少しの距離だというのに、舞台裏まで長く感じる。

手に持ったお守りを、僕は強く握りしめた。



***


僕は我が家で、今日から始めた筋肉トレーニングをしながら、昨日のことを思い出していた。


エダンの行いのおかげで、エキストラ劇団の上に僕が散々注意を受けることになった。ローガンの故意の中傷攻撃を、友人と知り合いが助けてきたと説明したところ、契約破棄にはならなかったが、危うい所だった。

やっと戻ってきてアーデルとフィオナ、そして無理やり着いてきたエダンとアーデルの廃屋に向かうと、エダンは妙にテンションを上げて、あちらこちらを見ようとしたため、アーデルに喝を入れられた。

ここまでは最早いつものことだが、アーデルが食事を作ってくれている間に「酒が足りないな」とエダンは勝手に外に出て行き、笑顔で酒瓶を持って帰ってくると、昼間から酒を飲みだした。

ここからが思い出すと……恐ろしい。主にアーデルがだが。エダンは案の定酔っ払い、突然上半身裸になり、1人でわいわいと騒ぎ出した。アーデルは思い切りひいてそれを見ていたのだが、エダンが突然椅子の上に立ち上がり、拳を上に突き上げた。


「エダン様のハンサムな肉体を披露します!皆様ご注目下さい!!!」


エダンは下半身のズボンに手を付け始めた。幸い全てを脱がずに下着は死守したようだが、それがアーデルの怒り全てを買うことになった。

アーデルはエダンのパンツ一丁姿に、悲鳴を外にも聞こえるほど大きく上げ、そこらにある物全てをエダンに投げつけた。エダンは物の嵐を食らうことになり、それに最初は何とか耐えていたが、その物の1つがエダンの股間に激突しそうになったため、流石にエダンはそれは交わしていた。

しかしアーデルの攻撃はエスカレートしていき、アーデルは悲鳴を上げながら何度も何度もこのセリフを叫んだ。


「この変態男!!!服を着なさい!出て行け!!!今すぐ出て行って!!!」

「待ってくださ…っ痛っ!!!アーデルちょっ…っ痛ぁっ!これじゃあ服を着ることも……っ痛い!!!」


エダンはアーデルに追い詰められ続け、最終的に下着姿のままで外に追い出された。エダンが転げるように外に出ると、アーデルは沸騰寸前の顔をしてエダンの脱いだ服を地面に投げつけると、音を思い切り立てて扉を閉め、念入りに鍵までかけた。

それを呆然と見つめる僕とフィオナと、いつもアーデルの家の入り口で迎えてくれていた女性、ベルの方を振り向いて手を一度叩いた。


「もうあの馬鹿男は一生家に入れない!助けてくれたから一度は家に入れたけど、もう…っぜっったいに!!!家に入れないんだから!!!」


何かに誓いを立てるように何度も何度も頷くと、自ら投げつけた物の片づけを黙々としはじめる。ベルが曖昧に笑いながらそれを手伝い始めたため、僕とフィオナも一緒に物の片づけを永遠と行っていた。



ここまでが、昨日の出来事だ。今まで僕の日常ではここまで騒がしいことはなかった。

流石にここまで騒がしいことになると、昨日のことを思い出さずにはいられない。

何故か昨日の出来事が、フィオナの言う通りお笑い劇のように思えてしまい、思い出しながら笑ってしまう。いや、何で僕は笑っているんだ。生きていることを全力で楽しむような男が勝手にしたことに過ぎないだろうに。


「…っ6、……7…8!」


別にエダンに影響されたわけでは断じてないが、家の床で腹筋トレーニングをし続ける。今までトレーニングは主に演技の為の練習であったため、最低限しかしてこなかったが、筋肉の方も鍛えた方がいいかもしれないと思いついたからだ。


「……9!…10!…何が、大事に舞台の上に居るから、アーデルをここぞという時に守れないんだぞ?だっ!僕にだってな!!!…11ぃ!!!」


エダンに言われた言葉を思い出したから、トレーニングをし始めたわけではない。だが、あの言葉が異様にイラついただけだ。僕はこのイラつきをトレーニングの力に変えようとしている。


「12…!!13っ!!!はぁ!」


ひたすらに腹筋トレーニングをしていると、突然扉のけたたましいノック音が聞こえた。

この叩き方は……絶対に奴だろう。


「セリオン!俺だ!エダンだ!!!今回ばかりは開けてくれ!!!」


……何故かいつもと様子が違うようだ。僕は立ち上がってから、扉をゆっくりと開けると、そこには落ち込んだ様子のエダンが突っ立っていた。


「……何か用か?」

「……アーデルに本格的に嫌われたらしい」


何だそんなことかと一瞬で僕は表情を真顔に変える。そもそもエダンは元からアーデルに嫌われていたようだったようだが、ようやくこいつは自覚したようだ。


「そんな用事なら帰ってくれ。今僕は忙しいんだ。ただでさえお前のおかげで、劇団の上にどやされたってのに…」

「でも、俺とアーデルが居なかったらお前はもっとまずいことになってたんじゃないか?」

「……それはそうだが」


僕が思わず頷いてしまうと、エダンは僕をまじまじと見てから、ははーんとにやけだす。


「何でそんなに汗だくなんだ?まるで……家で筋トレしていたみたいだな」

「………そんなわけないだろ」

「ほー?そんなわけないか?いい武術の稽古場所なら知っているぞ?教えてやろうか?」

「そんな必要はない!いいから帰れ」


大体こいつは何しにまた来たんだ。いつもの調子に戻ったエダンは、突然僕を押しのけて家の中に入ろうとする。


「おい!何勝手に入ろうとしている!」

「別に部屋を見学するくらい、いいだろう?お前、ちゃんと食うもの食ってんのか?」


エダンはずかずかと家に入って行く。それを全力で止めようとしたが、エダンの足の方が早かかったため、部屋の中に入られてしまった。


「不法侵入だ!出ていけ!」

「まぁまぁ。友人の家にやってきただけじゃないか。へぇ…意外と家の中は片付いているんだな。しかしまぁ…面白味のない部屋だな。そこらにあるのは……本か?」


エダンは本棚に注目したようだ。にやけ顔のまま、まじまじと本を見つめている。


「……エロ本は…ない、か。何だ、もっと面白味がないじゃないか。官能的な小説も中々いいものだぞ?俺のおすすめシリーズを教えてやろうか?まぁ…男のご立派な武器に関することなんだが…ああ!そうか。お前のことだから何処かに隠してあるんだな?大体男の隠し場所と言ったら決まってるよな?まぁ俺の場合は隠してはないが」


エダンはあちらこちらを見ては、「ここか?」と勝手に見回り始める。エロ本などないと言いたいところだが、確かに持ってはいる。それは…演劇のネタの為だ。ただそれだけの為なのだが、僕は絶対に見つからない場所に隠してある。だからこそ、エダンに見つけられるはずはない。


「否定しないってことはあるんだな?はは。こりゃ燃えてきたぞ」

「変なところで闘志を燃やすなよ…」

「はは。友人の趣味を確認したくなる性質なんでね。…おっ、これは?」


エダンはある本を取ると、パラパラと広げ始める。それは…エロ本よりもっとまずい。僕の演劇のネタ帳なのだから。


「おい!それは駄目だ。仕事上秘密にしておく必要が…」

「そんな堅いこと言うなよ。どれどれ…「民衆が好むネタの心得」?エロネタは庶民に使うべし?ははーん……随分と詳しくエロネタについて書いてあるな。発想はどこからだ?」

「…庶民たちに聞いた話だ。昔、酒場でな」

「何だ、お前自身の体験談じゃないのか…」


エダンは僕の言葉で、直ぐに興味を失ってしまった。それと同時にエダンから無理やりネタ帳を取り上げる。


「僕自身の話は殆ど演劇ではしない。一回は…特別に披露したことがあるがな」

「ほほー?どんな内容だったんだ?」

「……お前には教えない」


僕はエダンから離れた場所にネタ帳を置くと、近くにあった布のソファに座ってエダンを見上げた。


「いいから早く出て行ってくれないか?」

「そんなこと言うなよ。他人の家に興味がある性質なんだ」

「だから昨日あれだけ、アーデルの家も漁ろうとしていたのか?」

「そうだ!そう…それだ。アーデルだ。昨日謝ろうとしてアーデルの家にもう一度行ったんだが、取り入ってくれなかった。だから今日また謝ろうと思っているんだが…お前も一緒に来てくれないか?お前にはアーデルも扉を開くだろ」

「……何で僕が協力しなきゃならない。お前が勝手に裸になって、勝手に嫌われただけだろ………っくっ」


昨日のことを思い出して、僕としたことが思い出し笑いをしてしまった。エダンはそれを見るなり、腕を組んで此方を見てくる。


「お前……今笑ったな?」

「……笑ってない」

「いいや、笑っただろ。俺に誤魔化せると思ったか?お堅いセリオンがついに、俺で笑ったか……お前も成長したな!」

「何を勝手に決めつけている?成長したってどういうつもりだ」


エダンは僕の隣に腰かけると、どういう訳かしみじみと語り出す。


「…成長だよ。それがな。最初に話しただろ。日常にはジョークが必要だってな。お前は働くのがどうだ、上手く生きるためには何を実行するかばかり言っていたが、それじゃあ人ってものは煮詰まっていくんだよ。自分でも分からないうちにな」

「あのな、お前が何も考えずに生きているだけだ。煮詰まるも煮詰まらないも、この国自体の仕組みとして、金と働くことに価値があるんだ。働いていれば一目置かれるし、それで大量の金貨を稼いでいれば更に凄い。その姿を見て誰もが称え始めるからな。下からのし上がればのし上がるほど、自分にとっても満たされていく…お前は働いてないから分からないだろうがな」

「……価値か。確かに金は男の魅力の1つにはなることは確かだ。それは女へのアピールポイントにはなる。だが……お前自身で縛り付けた物に囚われ続けると、いつか自分を見失うぞ…お前も…昨日の観客席の人々のようにな」


何故そこで観客席の人々の話題が出てくるのだろうか。確かにあの観客席の人々は周りの人に影響されて勝手に同調した結果ではあるが、それとこの国の仕組み自体は全く別の話だ。

どれだけ自分にとって満たされた環境で生きるかが、この国自体の仕組みとして行われている。満たされた環境を作り上げることが、最終的に自分を救うことになる。


「…何でそこまで僕の意見を気にする?お前には関係ないことだろう。お前は勝手に自分で思った正しいことすべてが、馬鹿することだとして仮定して、さらけ出して遊んでいればいい」

「はは。そうだな……お前に構う理由か……俺には……いや、お前は興味ないだろう?」

「……そこまで言われたら興味はあるな」

「…お前、歳はいくつだ?」


突然エダンは僕の年齢を聞いてくる。それに不審に思ったが、エダンがあまりに真剣に聞いてきたため、思わず答えてしまう。


「…18歳だ」

「……そうかやっぱりか。それくらいなんじゃないかと思っていた」

「それとこれの何が関係ある?」

「……関係あるんだよ」


エダンは派手な服の間からエダン自身の首元の後ろに手をかけると、首からゆっくりと銀色の首飾りを取り外す。それはシンプルに銀色のチェーンに銀の板がついており、丁寧に手入れはされているが、妙に古びて見えた。首飾りを僕の目の前で見せると、エダンは一言だけ呟いた。


「……これはな。俺の妹の物なんだ」

「…妹?」

「俺の妹の名前は銀の板に刻まれている通り、「フレデリカ」……といっても三年前に知ったんだがな」

「三年前に知った?妹のことをか?」


僕が聞くと、エダンは押し黙ってしまった。こいつには珍しく、神妙な表情になっていく。


「俺の家は有名な商売人の家だ。だが俺は商売人の両親の“実の子”じゃない。俺は両親を亡くした孤児で……その家に貰われた子供だ。俺は、まだ二歳のガキだった。記憶には勿論ないさ。商売人夫婦の間には子供が出来なかった。だから、商売の仕事を引き継ぐための男の子が欲しかったらしい。俺だけが夫婦に引き取られた。俺の両親は、昔は今ほど裕福でも有名でもなかったからな。二人引き取ってやる余裕はなかった。そして俺には二歳年下の妹が居たと知った……知ったのは三年前だ。俺の両親は俺の実の両親ではないことと、妹の存在をずっと隠してきたからな。父の書斎で俺が、自分の出生記録書を見つけるまでは」


エダンはそれを言うと、強く自身の首飾りを握りしめた。何かに耐えるように、ジッと首飾りを見つめている。


「今…俺の実の妹がどこで何をしているのかは分からない。別れてから消息はついていないと両親から聞いた。三年前に知った時から、様々な手を使って探し続けているが見つからない。だが、妹の存在を隠していた両親のことを俺は責められはしなかった。俺を愛して育ててくれた大切な両親だからな……だが、俺は……どこかで両親を責めてしまった。何で、俺だけを引き取って妹を引き取ってやらなかったのか……俺は男で妹は女だ。そうだ。俺が“男”だった。たったそれだけの理由で俺は選ばれ、妹は選ばれなかったんだ」

「……」


僕は押し黙った。エダンもただ黙っている。こいつがこれ程までに重いものを背負っているとは思っていなかった。……予想すらしていなかった。生きることを全力で楽しみ、何も考えもしていないやつだと…“勝手に”僕は思っていた。

何故エダンはこのことを僕に打ち明けたのか?エダンは僕を見ると、フッと笑う。


「そんな顔をするな…だから…つまり、俺はお前を妹と重ねてしまったんだろう。生きていたら妹も18歳だ。何故だろうか?お前は男なのにな…もしも妹が生きていて俺の傍に居たらどうだったか……俺は兄として何かをしてやれたのに。今の俺には妹が生きているかどうかすら、分からないんだよ。俺と妹を繋げるのは…両親から真実を告げられた時に貰った、この首飾りだけだ」


それを言うと、突然銀の首飾りを僕の手のひらに押し付ける。銀の首飾りはよく見ると、チェーンに着いた板の一部が不自然にギザギザになっている。板にはフレデリカという名前が刻まれていた。


「それ、よく見ると不自然だろう?真っ直ぐじゃない。実は元は一枚の二枚分の銀の板から作られていたようだ。それを真っ二つに不自然に分けた。元は俺がエダンの名前が刻まれた首飾りを、妹がフレデリカの名前が刻まれた首飾りを付けさせようとしていたらしいんだが…兄妹を離すことに、不憫に思った大人が俺と妹の首飾りを入れ替えて、俺の両親に託したらしい。妹の存在と名前を忘れないように……もしも妹と俺が再び出会うことが出来たら、再び重なり合うように」


エダンは僕の手のひらに乗った首飾りを見つめて、静かに笑った。


「だが、皮肉だよな?俺の両親は妹の存在を俺に隠してしまった。小さい頃から俺は1人だけだってずっと教え続けていたんだ。最初俺は赤ん坊の妹の存在を言っていたらしいが、両親の教育で俺はすっかり妹のことを忘れてしまった。ああ……何て俺は馬鹿だったんだって気づいたさ」

「…お前も幼かったんだろう?忘れたことは、仕方がない…ことだろう」

「……妹のことをもっと早く思い出してさえいれば…早く探せば探すほど妹のことを見つけてやれたんだ。だが、もう……遅い」


エダンは黙ってから、僕の手に乗せた首飾りを取ると、自身の目の前に掲げる。


「…はは。人に初めてこのことを話した。何でお前にこのことを話したんだろうな?理由は分からない」

「………妹さんだが……きっと……見つかるはずだ。遅いなんてこと…ないだろう」

「……ああ、そうだな。ありがとう」


エダンは笑って、銀色の首飾りを再びつけると、勢いよく立ち上がった。


「…長居してすまなかったな。アーデルの元には1人で行くことにするさ」

「…っ待て!!!」


エダンが直ぐに入り口の方に行こうとしたため、僕は大声を出してエダンを引き留めた。驚いた表情をして振り返ったエダンに視線をしっかりと合わせる。


「…僕は…お前のことを誤解していたようだ……それはすまなかった。お前は何の苦労もしていないやつだと……勝手に思っていた」

「実際に俺自体は苦労してはいないさ。妹の方が…きっと俺よりもよほど…」

「……だが、お前は“今”苦労しているだろう?それほどの…表情をしていれば、僕には分かる。だからアーデルの元に行くくらい協力はしてやるよ」


僕が立ち上がってエダンの傍に行くと、エダンは驚いた表情をしながら僕に向かって笑った。


「何だ?突然友人認定をしてくれたのか?」

「……ああ。ほら行くぞ」


僕が歩き出すと、エダンはハハっと笑ってから再び声を掛けてくる。僕が振り返ると、エダンの表情は妙に穏やかだった。


「……お前、気づいてはいたが、いい奴だな?その性格じゃ誤解されることは多いだろうが……お前自身は、見失いそうになりながらも、自分をしっかりと持っている。素直に自分のことに気がつくことができる……そんな奴なんだよ」


エダンは突然納得したように頷いてから、此方に向かって歩き出した。

もしかしたら……日常の中で僕が一方的に思い、判断していることは、他にもあるかもしれない。そして今回のことは、僕のその1つだったのだろう。

エダンのことは、人生で悩んだことすら一度もない、能天気な男だと思っていた。だが…実際に語られた内容は、今まさに悩んで苦しんでいる内容だった。

それに気づくと同時に、エダンを否定していた自分にすら気づいた。エダンが苦しみを打ち明けてきたことにより、僕の心の重荷が1つ和らいだ気がした。





エダンと共にアーデルの家に着くと、僕は恐る恐るアーデルの家をノックする。いつも昼間は開いていることが多いのだが、今日扉は閉まっているようだ。何故僕までこんなに緊張しなきゃならないのか。エダンは横に居ながら、また物が投げつけられてもいいように、戦闘準備している。


「はいー?」


ベルの声が一瞬聞こえたが、特に扉を開けてくる気配はなく、しばらく待ってみる。

ようやく扉が開くと、そこにはベルではなくアーデルが仏頂面で立っていた。


「あら…やっぱりセリオンを連れてきたわね?そんなことだろうと思ってた。悪いけど窓から家の前に誰が居るか、確認させて貰ったわ。エダンだけなら開けないつもりだったのに」

「……アーデル。エダンのことだが、許してやってくれないか?一応こいつも悪気はなかったと反省している」

「あら?何かでセリオンを買収でもしたのかしら」

「…いや、違う。買収されたわけじゃない。僕の意見として……あれは酔っぱらって、制御できなくなっただけだ。だからエダンも真っ裸になろうとは……くっ……」


僕はそこでつい笑ってしまった。何でこんな馬鹿らしいことを僕が大真面目に話しているのだろうか。そもそもこいつが謝るべきことだろうに、エダンは口を閉ざしたままだ。


「酔っぱらって制御できないね?ええ、誰しもそうよね。酔っぱらいはするわ。でもあれは人間の元の性質がでるだけだと思うわ。だから大して理由にもならないでしょう」

「確かに…こいつは元からそういう性質があったんだろう。まぁ、僕は酒場で何度も真っ裸になっている酔っ払いを見ている。僕自身はそんなことしないがな。幾ら酔っぱらおうとも」

「おーい、お二人さん…さっきからまるで俺が全裸になって、全てを露出したことになっているが、一応大事な部分は隠し…」

「そういう問題じゃないのよ!!!」


アーデルがエダンに一喝を入れると、エダンは落ち込んだように項垂れる。アーデルはそんなエダンを見て、ため息を大きくついた。


「まぁ…いいわ。これから実は市場に買い物に行くの。フィオナちゃんとね。ベルには留守番をしてもらうけど…今日は特別重い物を沢山買うから、それに付き合ってくれない?全部荷物を持ってくれたら、許してあげるわ」

「そんなことで、いいのですか?アーデルは、やはりお優しいですね!」

「ええ。でも何があってもセリオンとかに協力を求めないこと。絶対に1人で全部私の家に持ち帰ってね」

「分かりました!俺は筋力には自信があるんです。よし、セリオン行くぞ」

「……ああ、この流れは僕も行くのか」


僕が淡々と呟くと、エダンはニヤリと笑って「最初から行くつもりだろう」と話してくる。

アーデルは後ろのフィオナに呼びかけて、市場に向けて出発した。




市場に着いてから、アーデルとフィオナは永遠と市場で買い物をし始め、エダンの両手には荷物が次々と溜まっていった。まさかあの二人がここまで買い物を長時間し始めるとは思ってはいなかったため、僕は欠伸が出そうになる。両手がふさがりにふさがっているエダンを見ると、顔は平気そうだが流石に重くはないのだろうか。


「おい、エダン。また次の荷物が来そうだぞ……ああ、眠くなってきた」

「おいおい、セリオン。女の買い物をなめてかかっちゃ駄目だぞ?彼女たちにとっては、買い物は戦みたいなもんなんだ。何度か女の買い物に付き合ったことがあるから分かるがな。軽く5時間かかったことがあった。これは軽くだ」

「は?5時間?」


5時間かかるとしたら、朝9時に出発したとしたら、軽く昼は超える計算となる。今は市場に来てまだ2時間程度しかたっていない。つまり……あと3時間はこのままなのだろうか。


「買い物に一体何をそんなに時間がかかる?必要なものを買うんだよな?」

「そうだ。必要なものだ。彼女たちにとって、ショーケースにある物全てが必要なもの……そう考えた方がいい」

「だが、それは買わないんだろう?」

「ああ、買わない。買わないが、必要なものらしい。昔の女が言っていた」


アーデルの方をみると、フィオナと嬉しそうに商品を見ている。まぁここまで嬉しそうなら少しくらいは待ってもいいとは思うが、流石に何も買う目的がない僕にとっては辛くなってきた。


「はぁ。いったん帰ってもいいだろうか?」

「おいおい。今帰ったらアーデルにそういう印象を与えて終わるぞ。「私の買い物に付き合えないのね!もう知らないんだから!」って具合に」

「……まるでそんなことを、言われたことがあるようだな?」

「……確かにある。俺も昔は分かっていなかった。やっと落とした女に、買い物に付き合えと言われて、付き合ったところ、女は同じ宝飾店屋で永遠と見はじめた。別のところに涼みに行ってくると伝えて店を出て行こうとすると、彼女は急に怒ったんだ。今のセリフでな」


なるほど。こいつはこいつで苦労していたようだ。話しているうちに、アーデルは笑顔で振り向いて、話してくる。


「次の店に行くわよ?ほらほら、着いてきて」

「分かりました!あなたの為ならどこまでも!」


急にエダンは笑顔でアーデルの元に走り出して、僕はそれにゆっくりと着いて行く。次の店に欠伸をしながら向かうと、そこは宝飾店屋だった。エダンはそれを見て、急に神妙な顔になり頷きだした。


「俺は予測しよう!!!今から彼女たちはここに一時間はいるだろう」

「何だって?」

「一時間は軽くだ。女にとって宝飾品は命そのもの…彼女たちのハートを鷲掴みにして離さないからな」


エダンはそれだけを言うと、真顔になった。アーデルとフィオナは嬉しそうに話しながら、宝飾品を見始めている。確かに……あの熱気と勢いならば、それくらいは軽く超えるかもしれない。


「あら!この首飾り…アーデルさんに似合いそう!」

「フィオナちゃん………確かに綺麗ね」

「つけてみてはどうですか?」

「いえ……無駄な物は買っちゃ駄目よ」


今までの服類は無駄ではなかったのだろうか。エダンは急に目を細めてその様子を見つめると、ニヤリと笑って此方を見る。


「ほら、今がチャンスだ。「僕が買ってあげよう」と言ってこい…いや、それじゃあ芸がないな。こっそりあの首飾りを買って、後で二人きりでプレゼントがいいだろう。昨日助けてくれた、お礼だと言ってな」

「はぁ?そんなことをしたいなら……お前がすればいい。アーデルが好きなんだろう?女への贈り物は……どうせゴミにされる」

「………セリオン、お前……昔女にプレゼントを贈ってゴミにされたことがあるんだな?」


エダンは突然哀れみの目で見てくる。まずい。ここで動揺すれば、全て認めることになってしまう。僕は努めて冷静を装って、咳を1つこぼした。


「…ごほっ。昔友人が言っていたんだ。せっかく贈り物を苦労して買ってあげたのに、全部女にゴミにされたと。友人は深く深く傷ついたらしい」

「お前…そういうのはな、見極め時があるんだよ。“ここ”を使え」


エダンはトントンと自身の頭を指さして笑ってくる。ああ、これは駄目だ。完全に僕のことだと、決めつけられてしまった。


「だから僕のことじゃない。友人だ」

「友人か…そうだな、お前にとっては友人のしでかしたことにしたいに違いない。ほら、俺の勘全てが今買うべきだって言っている。アーデルとフィオナが店を出た時がチャンスだ。俺がアーデルの気を引き付けておいてやるから、その間に買えよ?いいな?」

「お前…アーデルのことが好きなんじゃないのか?お前が買って渡せばいいだろう」

「ああ、確かに好きだ。美しいからな。だが今、俺があの首飾りを買ってアーデルにあげたとしても、彼女はそれを投げつけてくるってことは分かる。いくらハンサムな俺が渡そうと駄目だ。宝飾品は本当に貰いたい人に貰いたいらしいからな」

「………本当にアーデルが貰いたい人は…僕ではないだろう」


僕が呟くと、エダンはハハっと笑って肩をすくめてくる。エダンは「仕方のない奴だな」と呟くと、突然アーデルに声をかけた。


「アーデル!向こうの店で全品宝飾品が半額らしいですよ!」

「は?何ですって!?」


アーデルとフィオナは急いで店から出てくる。エダンは笑顔のままアーデルに、「案内するので着いてきてください」と言ってから、僕にこっそりと耳打ちしてきた。


「ほら、今だ。絶対にあの首飾りを買えよ?」

「…っ僕は買うなんて一言も言っていない!」

「いいから、買え。渡すときはまた俺が機会を作ってやろう」


エダンはニヤリと此方を見たまま、アーデルに急かされて向こうの方へ歩いて行ってしまう。僕はそれを見つめてから、拳を握りしめる。


「……っくそ。何で僕が……」


目の前には宝飾店がある。アーデルの見ていた首飾りを買うくらいの金は勿論ある。

だが……それをアーデルにプレゼントできるかと言ったら別だ。しかし何故だろう。僕は、気づいたら店内に足を踏み入れてしまった。

中には女物の宝飾品が溢れており、綺麗に飾られている。しかもこの宝飾店は女の店員しかいない。どうすべきかと考えていたところ、僕に気づいた店の女が笑顔でこちらに近づいてきた。


「あら、こんにちは。贈り物をお探しですか?」

「…え?あ、ああ………まぁ……そんな感じだ…」

「それなら良かったです!今当店人気の宝飾品が、此方に飾られておりまして…」


女の店員は別の場所へと手招きしてくるが、僕はゆっくりと首を振った。


「…違う。もう決まっているんだ………これ、これが欲しい」


僕はアーデルの見ていた首飾りを指さした。その首飾りはガラスが埋め込まれているが、派手ではなく、シンプルな首飾りだった。女はその首飾りを見た途端、表情を輝かせた。


「お目が高いですね!その首飾りなんですが…実は!ペアの首飾りがあるんです。男性用も作られておりまして…今、店頭には出されてはいないですが奥にございますよ」

「ペッペアだって?いや…そんなものは必要ない。この首飾りだけでいいから」

「あらそうですか…残念ですが、それだけお包みしますね。他はいかがですか?髪飾りなんかも喜ばれたり…」

「いや、それだけでいい」


きっぱりと伝えると、女はどういう訳かフッと笑みを見せた。カウンターの方へ行って、丁寧に首飾りを包みだすと、僕に話しかけてくる。


「もしかして…先程この首飾りを見ていらっしゃった、お客様に向けての贈り物ですか?」

「…え?いや……何のことだ?」

「ふふ、実はあのお客様と貴方が一緒にこの店に来て、貴方が外で待っていたのを見ておりました。必ず…喜ばれますよ」


女は笑顔で此方に包みを渡してくる。それを無言のまま受け取ってから、金貨一枚と銀貨数枚を置くと、女は笑みを見せた。


「またお越しくださいね」


この女は他人のプライベートに口を出しすぎではないだろうか。しかし、上手い言い訳も思いつかなかったため無言のまま店外へ出たと同時に、アーデルの怒り声が遠くで聞こえた。


「ちょっと!半額なんて嘘じゃない!全部正規の値段だったわよ!」

「はは。可笑しいですね…俺が見間違えたようです」

「私を騙したんじゃなくて?」

「見間違えたんですよ!はは…」


アーデルがエダンに怒りながら此方に歩いてきて、その後ろをフィオナが曖昧に笑いながら着いてきている。僕は直ぐに首飾りの包みを持っていた鞄に隠すとアーデル達の方向へ顔を向ける。


「あなたは本当信用ならないわね!」

「怒りを鎮めて下さいよ!見間違えたのは悪かったですが…っとセリオン」


エダンは突然此方に向かって走ってくると、見下ろして「買えたか?」と口パクで聞いてくる。僕が何も言わずに睨みつけると、それを勝手に肯定と受け取ったのかニヤリと笑ってアーデル達の方向へ振り向いた。


「美しいお嬢さん方!まだ何か買い物はありますか?」

「いえ…何か怒ったら疲れちゃったわ。エダンのせいでね」

「そうですか!でしたら一旦荷物を家に置いて、何処かに行きませんか?ぜひ美しいお嬢さん方にお見せしたい場所があります!」

「あなたって本当暇人よねぇ…」


アーデルは哀れみの目でエダンを見つめている。エダンは「俺はいつでも暇人です!!!」と全力肯定で言っているが、お前は本当にそれでいいのかと突っ込みたくなる。


「ほら!セリオンも着いてくるので!楽しく行きましょう!!!」


エダンはにこやかに笑った後、勝手に帰り道の方向へ歩き出す。アーデルは「はぁ」と大きくため息をついた後、仕方なしという風に歩き出す。僕は鞄の中にある首飾りの存在を意識しながら、歩き出した。


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