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悲劇のパラノイア  作者: エデン
第4章
33/34

第33話 ルシファー

目を開けると、僕たち三人は元の場所に戻って来ていた。

いつの間にかアーデルは救い出されていて、ルシファーの横に呆然と佇んでいる。状況が呑み込めないのか混乱した表情をしていた。

僕はルシファー達の元に走って、アーデルの目の前まで行く。アーデルは僕に直ぐに抱きついた。


「セリオン!!!無事でよかったわ!今創造主様に状況を聞いたけれど、何だか意味が分からないわ!」

「状況が呑み込めなくて当たり前だ。それほどのことが今起きているからな……そういえば僕の出した獣とマリアの獣は……何処に行った?」


辺りを見渡しても先程まで戦っていたはずの獣たちが見当たらない。ルシファーは僕を見てから、ニッコリと笑った。


「あの獣たちなら、街の方に行っちゃったよ」

「はぁ!?」

「全部滅ぼそうとしてるんじゃないかな……戦いながらね。王様の元に獣たちは向かっている。さぁ、アラルド王国の城に向かおう。あ!クロードはようやく気付いて良かったね」


ルシファーは呆然と立ち尽くしているクロードに対してひらひらと手を振る。クロードはふらふらとルシファーの元に歩いてから地面に崩れ落ちた。


「貴方は……貴方はまさか……」

「うん、セリオンに聞いただろう?僕が「光の創造主」だ!闇の僕に先に会ったんだね。どうだった?」

「……悪魔すらも創造主……貴方だったのですか……」

「まぁそうだね。この世界は舞台だったから……でも最近では神聖な悪魔の存在にも誰も気づかなくなっちゃったんだ。君は早いスピードで闇の僕にも光の僕にも会ったんだね。ははは!ちょっと荒治療だったかな?」

「…………」


クロードは最早何も言わなかった。ルシファーはけらけらと笑ってから、クロードに手を差し伸べる。


「ほら、僕の手を取って。僕と一体になろう」

「ああ、主よ……私は一体何をしていたのでしょうか……」

「さぁ、そんな形式的なことはいいからさ。ほら」


ルシファーはクロードの目の前で手のひらをひらひらと振る。クロードは狼狽えながらもようやくルシファーの手を掴んで立ち上がった。

ルシファーはニッコリと笑って、クロードの額に手を当てる。


「最後になっちゃってごめんね。クロード、君からも世界を取るよ……これでもうこの鏡の世界には帰れなくなる……僕と一緒に帰ろう」


ルシファーはクロードの額から、七色の宝石を取り出して上に掲げた。七色の宝石は粉々になって崩れ落ちていく……

ルシファーは静かに微笑んだ。


「これでよしと。君には害はないからさ、後回しになっちゃったんだ。ごめんね」

「……主よ……私は……」

「ほら、行こうよ。ちなみに君の兵士たちは先に僕の船に乗せておいたよ。君が気づいたタイミングでね。カーティスは先に最後のために、城の上で配置についてもらっている。さぁ皆、行こう。最後の舞台は……アラルド王国の城だ。王様が居る所だよ」

「ついに最後か……」


僕がルシファーを見ると、ルシファーはフッと笑みを見せた。


「最後は君の思うようにやるといい。君の相棒エルバが君に協力してくれる。エルバ」


ルシファーはエルバを呼び寄せた。エルバはタタっと僕に走り寄って来てから笑顔を見せる。


「セリオン、本当はアーデルに貴方のサポート役をやってもらう予定だったんだけれど……ルシファー様が私の方が良いと言っていたの。だから最後の貴方のサポートは私がやるわ。アーデル……ごめんなさい」


エルバはアーデルに向かって深々と頭を下げる。アーデルは唖然と口を開けて小さく呟く。


「どういうことなの?状況が全く分かっていないわ……」

「うん、謝っておいたからこれで大丈夫!こういうのは状況が分かっている人がやった方が良いものね。セリオン、これをどうぞ」


エルバは星型のおもちゃを僕に差し出す。僕は星を見つめてから、エルバに話す。


「星?これは何だ?」

「私からのプレゼントよ。マリアの呪いを解くときに使って……もう貴方は大丈夫。マリアの呪いにやられることはないわ。その星を胸に当てて……そうすれば貴方の力になるから……さぁ行きましょう」


エルバが手招きしてきたため、僕はエルバの隣に行く。ルシファーは後ろに佇んでいたアベルの方を見てフッと笑みを浮かべた。


「アベル。もうどうするか決まった?」

「……ああ。鍵はルシファーの物になるんだろう?」

「うん……そうだね。ごめんね、最初から決まっていたんだ」

「はは……創造主のやりそうなことだ……最初からこのゲームには何の意味もなかったんだな……分かった。俺も創造主と一緒に帰るよ。だから……世界を取ってくれ」

「本当にいいんだね?もう戻れなくなるよ」

「俺はたった1人で本来のゲームを続けていたんだ……他の奴らが訳分からなくなってる内に見つけ出すのがチャンスだと思っていた……だが、ルシファーの物になるってなら仕方ねえ……受け入れるよ……俺はな」


アベルは苦しそうな笑みを見せた。ルシファーは目を細めると、アベルの方に静かに歩く。

アベルの目の前まで来て、アベルの額に手を当てる。


「……分かった。君はやっぱり頭が良いね」

「今からでも遅くはねえから、俺に鍵をくれないか?」

「……ごめんね、もう決まっているんだ」

「そうか……分かった。創造主と一緒に俺も帰ろう」

「うん……ありがとう、アベル。君から世界を取るよ」


ルシファーはアベルの額から七色の宝石を取り出した。七色の宝石を掲げると、粉々に崩れ落ちていく……ルシファーは頷いた。


「アベル……ごめんね」

「もういいさ……どうせゲームだ。俺ばかり真面目にやってた気がするがな」

「はは……そうだね……この世界は、最終的には誰も気づかなくなってしまった、「悲劇のゲーム」なんだ……さぁ皆行こう」


ルシファーは僕たちの方を見渡してから、指をパチンと鳴らす。

すると一瞬で僕たちは城の前に立っていた。周りの兵士たちは突然現れた僕たちに反応するかと思いきや僕の出した白い獣と、マリアの黒い獣の襲撃を何とかしようと苦戦してるようだった。


兵士たちは獣たちを見て槍を持って攻撃しようとしているが、次々と跳ね飛ばされて行ってる。


「何だあの獣は!!!ぐあっ!!!皆の者!!!集中しろ!!!」

「無理です!!!この獣は普通では……ぐああああ!!!」


獣たちの戦いのせいでアラルド王国の城内はめちゃくちゃになっていく……

兵士達は次々と殺されて行き、周りに居た高貴な人々も巻き添えになる。建物は獣によって壊されて行く……僕は呆然とその光景を見つめた。


「獣たちが……全てを滅ぼそうとしている……」

「うん、そうだね……もう最後だから……全部滅ぼそうとしているんだろう」

「どうすればあの獣たちを止められる?」

「止める必要はないよ……ただ君は獣たちと繋がりを断つんだ」

「僕の獣ともか?」


僕がルシファーに聞くと、ルシファー目を細めてから静かに笑みを見せた。


「うん……君の獣ともだよ」

「そうか……」

「獣とのつながりを断ったら、分かっているね?僕のあげたボタンを順番に上に投げるんだ……皆も準備はいいかい?」


ルシファーは後ろを振り返って皆に問いかける。ボタンを持っている人々は全員頷いて、ルシファーはフッと笑みを見せた。


「エルバ……作戦開始だ。呪いを解く作業に入るよ……君はセリオンのサポートをしてくれ。全力でね」

「うん!分かりました!ルシファー様!!!」


エルバはニッコリと笑ったかと思うと、白く光り輝いて前に僕に見せた大人の角が生えた女性へと姿を変えた。エルバは僕の方に振り向く。


「セリオン!これで最後だよ!行こう!!!私が獣たちの動きを止めるわ。後はセリオンがやるのよ……」

「攻撃をすればいいのか?」

「ううん……ただ「繋がりの鎖」を断つだけよ。マリアの獣だけは……最後にマリアの姿に変わるわ。鎖が解けた瞬間にね。後はもう何をすればいいか分かるはずだから……これで最後にしましょう」

「分かった……これで最後だ。アーデル!そこで待っていてくれ!」


アーデルに声を掛けてから、エルバと一緒に走り出す。僕は翼をはためかせて宙に浮きあがると、エルバは地面で祈るように両手を合わせる。

エルバから白い光が溢れ出て、光の柱は獣たちを勢いよく拘束する。獣たちは鈍い悲鳴を上げた。

その瞬間どういう訳か僕の胸の部分から、太い光の鎖が二本出ているのが見えた。

鎖は白い獣と黒い獣の二体に深く繋がっている。

獣が大きく暴れたと同時に、周りの風景がチカチカと連続で変わっていく……


風景は森になり、海になり、赤い空になり……最後には崖に変わってしまった。


他の皆は周りの風景を驚いたように見つめている。城に居たはずが、高い崖に変わってしまうとは思ってもいなかったのだろう。


僕は何とか振り回されないように必死に鎖を持って体制を保とうとするが、獣たちのせいで上手く飛べない。


「くそっ……どうやって鎖を断てばいいんだ……」

「セリオン!!!落ち着いて!!!」


エルバは下の方から僕に声を掛けてくる。下に居るルシファーの方を見るが、ルシファーは目を細めたたまま何も言わなかった。


(そうか……最後は、自分で考えろってことかよ……)


獣たちは下で暴れに暴れている。僕は空中で振り回され続ける。僕は鎖を両手で引き抜こうとする。しかしびくともしない……


(このやり方じゃないのか!?)


段々と焦り始めていく。獣たちは僕を何とか振り落とそうとしているのか、更に暴れ始める。

僕は敢えて目を瞑って獣たちの動きに身を任せることにした……


―――この獣は神に近い獣だ……だが、獣を受け入れるわけではない……正体を見破るだけだ。正体を見破れば、それが……ただの幻だと分かるだろう。


僕は目を見開いてから、鎖から両手を離した。

その瞬間僕の手には新しく光の剣が生まれる。光の剣は輝いており、エルバから貰ったおもちゃの星を胸に当てると、光り輝き始めて星の光は剣に纏う。剣は更に輝きを増していき、巨大な光の剣となった。


「これで最後だ!!!この獣たちとは、お別れだ!!!罪も何もかも全部幻だ!!!」


僕は翼を大きくはためかせて、無理やり上にあがる。獣たちは鈍い悲鳴を上げたが、方向転換をわざとさせて獣たちを転ばせる。その瞬間、光の鎖は丁度二本僕たちの目の前にやって来た。

エルバが下から僕に向かって大声を出す。


「今よ!!!セリオン!!!鎖を断つのよ!!!」

「ああ!!!これで……終わりだ!!!」


僕は両手を振り上げて、勢いよく鎖に向かって光の剣を振り下ろした。

鎖はガキン!と鈍い音がしたかと思うと、次の瞬間には粉々に崩れ落ちていく……

獣たちは更に鋭い悲鳴を上げた。


「ぐぎゃあああああ!!!!」


鈍い声を上げて、僕の出した方の白い獣は煙になって消えていく……黒い獣は暫く苦しんだかと思うと、次第に姿を変えていく……獣の四本の角は全て折れていき、獣は地面に転がりのたうち回る。

僕が慌てて地面に降りて獣の傍に行くと獣の姿は黒い煙となって解けていき、最後にはマリアの姿に変わった。


マリアは呆然と立ち尽くして僕の方を見ている。マリアの首には、操りの首飾りが喰い込んだままだった。


「……マリア」


僕が声を掛けてもマリアは何も言わない。ただ僕の方を見つめている。いや……僕の後ろを見て、目を見開いて固まっているようだ。僕が後ろを振り向くとそこに居た人物に驚愕した。


「闇の……創造主……」


闇の創造主はニンマリと笑みを見せて立っていた。闇の創造主は嬉しそうにパチパチと拍手をしている。


「おめでとう……セリオン……君は獣たちと繋がりを断ったんだ……素晴らしい舞台をありがとう」

「何をしに……来たんだ」

「うん?マリアに一言言っておこうかと思ってね。醜い獣になってしまったマリアにね」

「……っマリアに……いや、エバに醜いと言い続けていたのは、貴方か!!!」


僕が闇の創造主を睨みつけると、闇の創造主は「くくく……」と面白おかしそうに笑った。


「うん。それで?君は僕をどうにかしたいのかな?」

「……まさか……貴方がエバに虐待をしていたんじゃないよな?」

「さぁ?君はどう思うんだい?エバに虐待をしていたから、僕を滅ぼそうって?はははは!神は滅ぼせないよ。残念ながらね」


闇の創造主は蛇のような舌を見せる。僕は闇の創造主を見つめたままでいると、闇の創造主は首を傾げた。


「君はマリアをどうするの?許すのかい?君のことを奴隷にしようとまでしたんだよ。馬鹿らしい君への嫉妬心でね」

「……僕への?」

「うん、そうだよ。エバはもう、僕がエバに興味なくなってしまったことに気づいていたんだ。だから君に嫉妬した……僕が興味を持っているのはセリオン……君だったからね。エバが好きなのは闇の僕さ。セリオン、君はどうにもそれが許せないみたいだけどね」

「…………」

「“嫉妬心“……最高に馬鹿らしくて、愛らしいよね。人間の最高に馬鹿な所だと僕は思ってるんだ!あー馬鹿らしい。馬鹿らしいのがマリア……エバだよ。最高に醜くて馬鹿らしい……腐ったけだもの野郎だ!」

「それは……嫉妬心は……貴方が光の創造主に思ってることじゃないのか?」


僕は闇の創造主の元で、「光の僕を作ろうとした」と言っていた闇の創造主のことを思い出した。闇の創造主は目を細めた。


「ふーん、それで?君に何が出来るって言うのさ。それともこっちに来てくれる気にでもなったとか?」

「僕は貴方の元には行かない。ただ……エバに対してここまで追い詰めたのは貴方だろう」

「あはははは!!!はー……君は本当に変わらないよね。今も昔も……そのままだ。純粋だよねえ……エバは敢えてそれを望んでいるんだよ。「あー創造主様!もっとやって下さい!私を裸にして!私を叩いて!もっともっともっと!!!もっとねぇ!!!」……って具合にね」


闇の創造主は腹を抱えながら大笑いし始める。一体闇の創造主はエバに……何をしたんだ。

僕が冷静に見つめていると、闇の創造主はフッと笑みを見せた。


「どう?最高に気持ち悪いだろ?君なんて序の口さ。エバは最高に気持ち悪いんだ……狂ったけだもの野郎さ!股を開けることでしか物事を考えないんだ。創造主様……どうぞ貴方様のを中に!!!あはははははは!!!狂ってるよねえ?」

「…………」

「いいだろ?最高に面白くて……最高に馬鹿らしくて……人間達の馬鹿らしい姿じゃないか。僕は案外気に入ってるよ。人間達の性に狂った姿はね!性に狂い、狂い、狂い続けろ!!!欲に狂い、狂い、狂い続けろ!!!ベッドの上でしか物事を考えねえ、けだもの野郎たち……あー!!!面白い!!!!あはははははは!!!!」


闇の創造主は光の創造主を横目で見てから、フッと勝ち誇ったように笑みを見せる。光の創造主は何も言わなかった。

闇の創造主は退屈そうに欠伸をし始める。


「はぁ……つまらない……何を言っても、光の僕は微動だにしないんだから……一体あいつはどうなってるんだ」

「……全部分かってるんだろう?」

「勿論だ!光の僕も僕のことではあるからね。それじゃあセリオン、そこを避けてね。エバに言いたいことがあるんだ」


闇の創造主は手をフッと横に払うと、どういう訳か僕は勢いよく横に吹っ飛んだ。僕は遠くの地面に転がってから、咳を零す。


「ごほっ!!!ごほっ……急に……何をするんだ!」

「はは、邪魔だったから、つい……さぁエバ。ずっと会いたかった闇の創造主様だよ!元気だったかい?」


マリアは闇の創造主の姿を見て、ポロポロと涙を流す。どういう訳か闇の創造主の姿は見えているらしい。マリアは闇の創造主に向かって勢いよく走り寄って胸に飛び込んだ。


「ああ!!!やっと……やっと会えましたわ!!!」

「うんうん、寂しかっただろう?実は君に伝えたいことがあって、やってきたんだ」

「何処に……何処に行っておりましたの?私……私……寂しかったの!!!クロードのことは、どうでもいいですわ!本当に欲しかったのは……貴方様!!!貴方様ですわ!!!」

「そうだねぇ……僕だよね……君がずっと欲しいのは……」


闇の創造主は蛇のような舌を見せる。僕は何とか起き上がってから、ふらふらと二人の方に向かって歩き出す。


(……闇の創造主は、何をするつもりだ?)


急がなければまずいことが起きるかもしれない。先ほどの闇の創造主からの攻撃は大分身体にダメージが来た。だが……急がなければ……

闇の創造主は愛おしそうに、マリアの髪を撫でると、ニンマリと笑ってから吐き捨てた。


「汚ねぇなあ……」

「……え?」


マリアはその言葉に闇の創造主から離れて呆然と目を開ける。闇の創造主はけたけたと笑い出してから、勢いよくマリアを罵倒していく。


「汚ねぇんだよ!!!何にも変わってないな、君は……ああ…汚れてる……僕はそんなものは欲しくない……穢れてんだよ、そんな魂……苦しめよ!!!もっと苦しめよ!!!僕に縋りつきながら、よだれを垂らして苦しめ!!!苦しめ!!!苦しめ!!!もっと苦しまなければ僕には相応しくないよ?僕に「良い子良い子」されたいなら!さぁもっと苦しめ!気色悪い豚め!!!」

「…………っ!!!」


マリアは両目を見開いてから息を止める。それでも尚、闇の創造主は蛇のような舌を出して何度も罵倒を続けていく。


「ああ、その言葉が嬉しいんだろ?君にとって最高の餌をやっている……僕は今まさに……美味しいかい?エバ……僕の可愛いエバ……」

「闇の……創造主様……」

「ああ、可愛いねぇ……可愛い僕のお人形だ……可愛いねぇ……」


闇の創造主は獣のようにぐにゃりと曲がった笑みを見せながら、ゆらゆらと蜃気楼のように揺らめいて獣の角を見せていく……

僕は足を引きずりながら、何とか走った。このままだと確実にまずいことになる!!!


闇の創造主は僕が走り出したのを見てから、ニヤリと笑った。

闇の創造主は、恍惚とした表情をしているマリアの前で両手を広げる。


「でもね……最後に僕は伝えようと思うんだ……君に……」

「ああ……何でございますの?私はなんにでもなりますわ……気色悪い豚になれというのなら、仰せのままに……」

「ふーん、そうかい。最後に伝えたいことは、たった一つさ……」


闇の創造主は突然マリアに抱き着いた。マリアは最高に嬉しそうな表情を見せたが、闇の創造主は蛇のような舌をマリアの首に這わせてから、けたけたと笑った。


「あはははは!!!もういらねえんだよ!!!こんな腐ったけだものは!!!」

「……っ!?」

「いらねえっていってんだろ!?エバ……エバ!!!エバ!エバ!!!エバなんてもういらねえ!!!僕の目の前から消えろよ!!!豚よりも価値がねえ……お前なんて価値がねえ……僕の出した試練の1つもクリアできねえ、能無しめ……さっさと消えろ!!!僕の目の前から今すぐに!!!ほら、飛べよ!!!飛べったら!!!今なら飛べるさ……!!!地獄の果てまでな!!!」


闇の創造主が笑ってからマリアの背中を勢いよく押すと、エバは闇の創造主の方に振り向いてから、一筋の涙を流した……


「そうで……ございますのね……私はもう……いらない存在……」

「うん、そうだよ。さっさと消えろよ」

「……分かりましたわ……さようなら、闇の創造主様……私はずっと……お慕いしておりましたわ……」


マリアは静かに微笑んでから、一直線に崖に向かって走っていく。闇の創造主はただエバを見つめ、光の創造主は僕の方を見た。


(……っまずい!!!!また……またエバは堕ちる!!!!)


僕は白い翼を大きくはためかせて宙に浮かび上がった。獣となってしまったマリアは何度も落ちていく……

そうだ。僕たちの歴史はずっと「エバの罪と悲しみ」繰り返してきた……

男に振られたエバは何度も落ちる……何度も何度も何度も……死を選ぶ。自分の全てを失ってしまったかのような感覚に陥り、苦しみ続けて最後には崖から落ちていく……

ああ、そんな必要はないだろうに……

彼女たちは、エバの悲しみに呑み込まれ何度も落ちていく……

闇の創造主すらも幻なのに……彼女たちはずっと「原罪」を背負い続ける。


最後に原罪を解き放て。何もかも幻だ……解き放て、解き放て!!!解き放て!ルシファー!!!


その瞬間、僕の背中には白い翼が四つ大きくはためき、角は強く光った。


エバは全てを受け入れたかのように、目を閉じて……背中から身を任せて落ちていく……全ての悲しみを受け入れて、闇の創造主に呑み込まれるように……堕ちていく……


エバに呑まれるな。ただ僕は……最後に解き放つだけだ。全ての罪の証を……最後に……


僕は勢いよく空に浮かび上がって、エバに向かって急降下する。堕ちていくエバの手を掴もうとした。エバは真っ逆さまに崖から落ちていく……エバは僕の方を呆然と見つめている。

僕は歯を食いしばった。


(後……少し……少しだ!!!)


僕とエバは真っ逆さまに落ちていく……

エバの後ろから黒い煙が沸き上がり、エバを呑み込もうとする……僕は強い光を出して、黒い煙をかき消してからエバに手を伸ばす。エバの手を……最後に……


「エバ!!!僕の手を掴め!!!これで最後だ!!!貴方の手を掴むのは!!!貴方を助けるのは!!!」

「…………」

「エバ!!!どうした!!!怖いのか!?この手を掴むのが、怖いのか!もう僕は……覚悟ができたぞ!!!掴め!!!掴むんだ!!!」


エバは僕の方を見たが、僕の手を掴もうとしなかった。黒い煙は更に増大しエバを呑み込もうとしていく……


(くそっ……このままだとまずい!!!)


上に強い風を感じて、上を見上げるとエルバが一直線に僕に向かって落ちてきていた。


「……っエルバ!?」

「最後に……決めるよ!セリオン!!!たった今、私たちは一体になるわ!!!」

「……何だって!?」

「私たちは二人で一つの鍵よ!!!だからここで私と一体になりましょう!!!大丈夫、これで終わるわ……ずっと大好きよ、セリオン!!!」


エルバは僕の方まで落ちてきて、僕を強く抱きしめた。僕たちは光り輝く……

強く強く光り輝いて、たった一つとなった……エルバの姿は消えており、僕の中に光となって入っていく……どういう訳か、僕は涙を流していた……


(ああ、そうか……エルバは……エルバは……)


エルバは……僕の相棒であり、僕自身だった。

「僕の光」だった……

獣になった僕を救おうと、何度も「僕の光」は手を差し伸べていた……

僕たちは最初から一つだったのだ……

彼女こそが「鍵」であり僕が罪の意識に溺れてしまった時、分かれてしまった「光の僕」だったのだ……

僕は……ずっと忘れていた……


何度も天界で僕自身と喧嘩しながら、たった今、僕はそのことに気が付くことが出来た……

僕の手には「緑の鍵」だけが残されており、エルバは消えてしまっていた。

僕は緑の鍵を上に掲げた。すると鍵から光が解き放たれ……エバの目の前まで僕はやってきた。驚くエバの手を強く掴む。


「エバ……行こう……」

「ルシファー……」

「エバ……これで終わりだよ。ここで……」


僕はエバを抱きしめて、空に高く高く浮かび上がった……空は晴天になる……僕とエバは宙に浮かぶ……

僕はエバを抱きしめたまま、地上にエバを降ろした。エバは僕を呆然と見つめて、ふらついている。

僕はふらつくエバの方を見てから、エバの首にかかった操りの首飾りに手を当てた。


「さようなら……闇の創造主……」


操りの首飾りは粉々になって崩れ落ちていく……その瞬間、エバはハッとしたような表情をしてから、ただ優しい笑みを見せた。


「ありがとう、ルシファー……最後に私を救ってくれて……」

「ああ……」

「私はもう手遅れよ……闇の創造主と共に行くわ……でも、貴方のことは忘れない……大好きな、ルシファー……さようなら……」


エバは優しく笑みを浮かべたまま、煙になって消えて行った……僕が咄嗟に後ろを振り向くと、闇の創造主はフッと笑みを見せていた。


「君たちの舞台を見せて貰ったよ……最後にね……君は良い相棒を持ったじゃないか……」

「エルバも……僕だったけどな」

「はは、そうだね。でもやっと……そのことに気が付いたんだ。さて、「幻の僕」はここでさよならだ……「操りの首飾り」の正体は、闇の僕だった……蛇のように彼女に巻き付いていた……彼女は首飾りが取れても尚、僕を選ぶことは分かっていた……だから僕はエバを連れて行くよ。何処までも……地獄の果てまでね」


闇の創造主はその瞬間、煙になって消えてしまった……

僕はただ涙を流していた……エルバは……消えてしまったのか?僕は胸に手を当てる……

ルシファーは目を細めてから、僕の方に歩いてきた。


「エルバも君だ……君はやっとそのことを思い出したんだ……」

「エルバを相棒として作ったと言ったのは……嘘だったのか?」

「全ては君に気づいてほしかったからだよ……「光の君」のことに。最初からずっと一緒に居たんだよ。君たちはね……でもいつしか君たちは分かれていき……まるで光の僕と、闇の僕のように分かれてしまったんだ……」

「そうか……そういうことか……」

「君の本質は、変わらない……エルバは子供で、君は大人を表現していたね……でも君たちは最初から一緒だったんだ……分かれてしまったエルバは、ずっと君を求めていたんだよ……君が帰って来るのを……ずっと天界で……」

「…………」


僕は何も言えなかった……そうか……僕たちは同じだった……最初から一つだったのだ。

ルシファーは僕を優しく抱きしめる。


「君は……彼女を呪ってしまった……彼女の光を受け入れられなくなってしまった……君の闇が増大するほどに彼女が苦しんだのは……君たちが元から一体だったからだ……」

「そうか……そういうことか……」

「君は女なんてとんでもないと思ってしまった……最初から僕たちは、どちらも持っているのにね……君はいつしか女の子を忘れて、見ない振りをするようになった……」


ルシファーは僕の方をジッと見つめてから、優しく笑みを見せた。


「見ない振りだ……彼女を無視するようになったんだ……だから君は彼女を嫌った。彼女を最終的には受け入れなければいけないことが分かっていても、君にはその勇気が持てなかった……」

「だから天界では……喧嘩ばかりしていたのか……」

「長い年月が経ち、君は君の光を忘れてしまった。だからエルバを友達として君に紹介したんだ……それから僕は見守っていた。エルバはずっと泣いて……君を待っていたんだよ……セリオン……」

「…………」


僕は涙を流したまま、何も言えなかった。ルシファーはフッと笑みを見せる。


「君は、どうやら最後に抵抗をしていたみたいだけど……もうこれで一体だよ。君とエルバは1つになった……やっと元の姿に戻ったんだ……」

「僕が……抵抗をしていた?」

「君はエルバを受け入れるのが怖かったんだ……呪いを解いたら一体になることは何処かで気づいていたからね……君の魂は元通り「男の性と女の性」を持つことになる。最初の天使の姿に戻るから……それがずっと……怖かったんだよ……」

「そうか……はは……僕は、僕が怖くて仕方なかったのか……」


僕は自分自身に可笑しくなり、笑い声を立ててしまう。ルシファーはもう一度僕を抱きしめてから、背中をさすった。


「僕も同じだよ……僕も僕が怖いんだ……本当はね」

「そうなのか?」

「うん……闇の僕も光の僕も、一体になれば消えてしまうことを恐れていたから……僕たちは別れることにしたんだ……だから君たちは凄いんだよ……」

「そうか……でもエルバと一体になっても、不思議と何も変わっていないような気がするな……」

「そうだね……何も変わらないだろう。君たちは光も闇も、どちらも優しいからね。でも僕の方は、さっきの闇の僕が言っていたマリアへの言葉で分かっただろう?正反対なんだ……僕たちは」

「そうか……まさか闇の創造主がエバに対して、あそこまで罵倒するとは思っていなかった……」

「僕もまた……狂ってしまったんだ。闇の僕は、幻の存在であるから消えることを恐れて……最終的には人間達に憑りついて、女性を傷つけるような行動を繰り返すようになってしまった……闇の僕は消えることを恐れている。だから僕はもう……どうしようもなくなってしまって別れることにしたんだよ」

「一体となっても、消えることはないだろう……」

「ううん……闇はね、いつしか消えてしまうものなんだ……闇の僕はそれを理解している。だからここで、さよならをすることしかできなくなったのさ……」


その時、強い風が吹いた。ルシファーは空を見上げた。ルシファーは涙を一筋流す。


「さようなら……闇の僕……ここでお別れだ……」

「…………」

「さぁ行こう……アラルド王国の王様は今頃怒り狂っているだろう……呪いが解けたからね」

「ボタンはいつ投げるんだ?そうだ……エルバが居なくなってしまった」

「アラルド王国の城で投げよう。カーティスはそこに居るから……君がエルバ役をしてくれ。君たちは一体だからね。どちらの役も出来るんだ。ほら緑のボタンだよ」


ルシファーは涙を拭ってから笑みを見せて、僕に緑のボタンを渡してくる。ポケットに入れてあった赤いボタンと合わせて緑のボタンが僕の手の上に乗せられる。

僕は二つのボタンを握りしめてから、強く頷いた。


「分かった……僕がエルバの分もやろう。ボタンを投げたらどうすればいいんだ?」

「皆、こっちに来てくれ!」


ルシファーが声を掛けると、アーデル、エダン、ジャック、レオ、フレデリカ、クロード、アベルがルシファーの元に集まってくる。アーデルは心配そうに僕を見つめた。


「何だか……恐ろしいことばかり起きてるわ……セリオン……大丈夫?」

「僕は大丈夫だ。ありがとう……アーデル」

「そう……良かった……」


アーデルはホッと胸をなでおろす。ルシファーは僕たちの方を見てから、笑顔を見せた。


「皆……これで最後だ。ボタンを渡された人たちは、順番通りに空に投げてくれ。これが神の民たちへの合図になる……ボタンを投げると、カーティスがボタンを捕まえる……そして待機している天使たちが色を出す……神の民たちは、これで迷わなくて済むんだよ」

「まだ船に乗せられてない神の民がいるのか?」

「うん……だから最後は色で呼ぶことにしたんだ。たった今、アラルド王国の隣国の国がこの国に攻撃をしかけようとしてきている。人々は戦争が起きて混乱するだろう。その他にも様々な出来事が起こる。君たちは色を空に託してくれ……色は必ず力になるから……僕たちはこの時間から抜けて、先に船に乗るよ。今はこの時間で色を託すんだ……僕の船には時間の概念がない。この国ではこれから7つのいろんなことが起こるけど、どの時間の人も最後には僕の船に来ることになる。だから僕たちが先に時間から抜けて船にたどり着いたときには、その時は既に出航出来るタイミングって訳だ」

「なるほど……そんな混乱が起きるのに、ここから離れて本当に大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ……君たちの役目はここで終わりだから……後は僕に任せてくれ。ありがとう、皆……」


ルシファーの言葉に皆頷いた。僕はルシファーの方を見てから声を掛ける。


「ルシファー……ボタンを持つ者以外は、先に船に乗って貰っていた方がいいんじゃないか?アーデルをこれ以上危険にさらしたくない」

「そうだね……後は船に乗るだけだ。アーデルと、クロードとアベルは先に船に乗っててもらおうか」

「ありがとう……アーデル。いいか?」


僕がアーデルの方を見つめると、アーデルは静かに頷いた。僕はアーデルの方を近づいてから、抱きしめる。


「危険に巻き込んですまなかった……」

「いいのよ……貴方の姿をみてびっくりしたわ……貴方は本当に天使だったのね……」

「はは……そうだな」

「……ごめんなさい、まだ混乱していて……説明はしてもらったんだけど、まだ頭の整理がついてないの」

「天界に戻ってから、創造主の方から説明してもらおう。先に船に乗っていてくれ……」

「ええ……セリオン、どうか無事で……」

「ああ」


僕はアーデルから離れて笑みを見せる。ルシファーが指をパチンと鳴らすと、アーデルとクロードとアベルは消えて行った。

ルシファーは僕の方を見てから、頷く。


「三人には先に船に乗って貰ったよ。皆、行こう」


ルシファーがもう一度指を鳴らすと、アラルド王国の城に戻って来ていた。どういう訳かアラルド王国の王が庭園に出てきていて、怒り狂って兵士たちに指示していた。


「ついに奴らめ……攻めてきたか!!!どいつもこいつも使えない兵士共だな!!!攻撃をくい止めることもできんのか!!!」

「ああ、陛下よ……怒りをお静めください!!!」

「お静め?人間風情が何を言っておる!!!」

「……え?」


アラルド王国の王は、突然姿形を変えてまるで悪魔の姿のように変形させた。黒いコウモリのような羽をはためかし、いびつな姿を見せてニンマリと笑う。

近くに居た兵士の男は「ひぃぃぃぃ!!!」と悲鳴を上げた。


「私が行こう……折角集めた奴隷たちを、あやつらに渡すわけにはいかぬからな!!!はははははは!!!」

「へ……陛下……」

「ん?貴様は邪魔だ!!!」


王は兵士を簡単に城壁まで投げ飛ばしてから、高笑いをした。そのまま遠くに向かって飛び去って行ってしまう。城の外からは沢山の人の悲鳴が聞こえてくる。僕は空に飛びあがって街の全貌を見てみると、その光景に驚愕した。


「……戦争だ……」


アラルド王国の兵士達が沢山街に出ていたが遠くの方で火の粉が見える。街は燃えて赤い空になり、稲妻が空に走っていた。遠くの方に隣国の国の旗が見えて、次々と矢が放たれている。爆発音が空に鳴り響き、平民街の人々は混乱に包まれていた。

気づけばルシファーが僕の隣に居て、僕の肩に手を置いてくる。


「……さぁ、最後にやろう。目印を空に放つよ……」

「分かった……場所はこの庭園でいいんだな?」

「ここでいいよ。さぁ、最初は君からだ」

「……ああ」


僕はまず、赤いボタンを空に放った。直ぐに遠くの方からカーティスと思われる鷹が飛んできて、僕のボタンを掴んだ。そのまま鷹は空に上がり、赤い光の柱が城の庭園にのぼった。


赤い柱を見てから、ルシファーは自身の青いボタンを空に投げた。

今度は別の鷹が飛んできて、ルシファーの青いボタンを掴んで遠くの方まで飛んでいき、その場所で青い光の柱を上げた。


僕は青い光の柱を見てから、エルバの緑のボタンを空に投げた。

別の鷹が飛んできて、緑のボタンを掴んで更に遠くに行き、その場所で緑の光の柱を上げた。


ルシファーはジャックに向かって声を掛ける。


「ジャック!!!次は君だ!!!」

「分かりましたっす!!!」


ジャックは紫のボタンを空に投げた。別の鷹が飛んできて、紫のボタンを掴んで遠くに行き、その場所で紫の光の柱を上げる。

ルシファーはフレデリカに向かって声を掛ける。


「フレデリカ!!!次は君だよ!」

「ええ!!!」


フレデリカはオレンジのボタンを空に投げた。鷹が飛んできて、再び遠くでオレンジの光の柱を上げる。

ルシファーはエダンに向かって声を掛ける。


「エダン!!!次は君だ!」

「おお!!!」


エダンは白いボタンを上に投げた。鷹が飛んできて再び白い光の柱が遠くで上がる……

ルシファーは息を吸った。


「……最後だ……最後はレオだ」

「ああ!!!」


レオは直ぐに黄色いボタンを上げた。どういう訳かそのボタンだけは黄色い鳥に変わり、遥か遠くの方に飛んでいく。黄色い鳥は空で黄色い光の柱となった。

その瞬間、空は大きな亀裂が入る。突然地響きが鳴り響き、遠くの海の方から沢山の水が流れ込んでくる。


「……っなんだ……あれは……」

「竜だよ……」

「竜!?」


海からはっきりと黒い影が見えた。黒い竜はうねり、黄色い目を光らせていた。あれは……何だ!?僕はその竜に神と同等の恐ろしさすらも感じた。

気配が突然変わったルシファーの目を恐る恐る見つめると、ルシファーの両目は赤く光っていた。


「……最後だ……最後にこれが起こる……黒い竜が訪れる……街を全て呑み込むだろう……街は消える……跡形もなく消え去る……全ては消えない……竜は僕の……「怒り」だ……怒りが襲う……全てを呑み込んで……竜は怒りの象徴だ……僕の全ての……愛でもある」

「……ルシファー……」

「いいかい。君はそれよりも先に船に乗ることになる……でもこのことは重要なことなんだ。だからここで伝えよう。人々が迷わないように……この場所で……」

「……っああ……」

「さぁ皆行こう……この場所にこれ以上居ても、意味がない」


竜がおびただしく街を襲っている光景がルシファーが指をパチンと鳴らした瞬間に、消えていった……

白い世界に僕とルシファーは二人だけで立っている。

僕は緑の目に戻ったルシファーと目を合わせた。


「アラルド王国は……大丈夫なのか?」

「うん……大丈夫だ。竜が消えた後、街は復興していくだろう。時間はかかるかもしれないけれど、大丈夫……大丈夫だよ……」

「…………」


僕は何も言えなかった。僕はルシファーの手を繋ぐ。ルシファーは驚いたように僕の方を見た。


「……ルシファー……行こう」

「……そうだね」

「人々を残していくことが……辛いのか?」

「……もう決めたんだ。だから大丈夫だよ」


ルシファーは切なげに笑っている。僕はルシファーの方を見たまま、何も言えなかった。

僕はルシファーと手を繋いで、白い世界を二人で歩く。


「他の皆は……先に船に乗ったのか?」

「うん……乗って貰ったよ」

「僕たちも行くんだよな?」

「そうだね……でも最後に……扉を見せておこう」

「……この鍵で開けられる扉か……」


僕は緑の鍵をポケットから取り出して、ジッと見つめる。ルシファーはフッと笑みを見せて、緑の鍵に手を合わせた。


「エルバ……ありがとう。ここまでセリオンを導いてくれて……」

「…………」

「ありがとう……エルバ……」


ルシファーは笑みを見せてから、涙を流した。ルシファーの涙は緑の鍵に当たり、緑の鍵は光った。


「……さぁ、行こう。君に見せておきたいものがあるんだ」

「……ああ」


ルシファーと一緒に青い扉まで進むと、ルシファーは僕を見てためらったような表情を見せた。


「どうしてだろう……ここまで来るのには長かったはずなのに、一瞬のように感じるね」

「……一瞬、か……」

「一瞬だよ……神にとってはね。でも君たちにとっては長かっただろう……とても……」

「そうだな……」


僕は青い扉を見つめた。青い扉は淡く光り、僕は鍵を握りしめる。ルシファーは僕の手に重ね合わせてから、僕と共に扉の鍵穴に鍵を差し込んだ。

ルシファーは僕の方を見てから、笑みを見せる。


「さぁ行こう……」

「ああ……」


僕たちは青い扉の鍵穴をゆっくりと回す……扉はゆっくりと開き……突然僕は……光に包まれた……

僕たち二人は光り輝いていき、ルシファーは僕の手をしっかりと掴む。ルシファーは僕の手を掴みながら前へ前へと進んだ……

どうしてだろう……何もないように思えた……だが確かにそこにルシファーは居た……

ルシファーは優しい笑みを見せる……僕たちは溶け込むような感覚に陥った……


ああそうか……この扉は……ルシファーと本当の意味で一つになる扉だったのか……

手に持った緑の鍵は役目を終えたからか、手のひらの中で崩れ落ちた。

僕とルシファーは波の中、溶け込むような感覚になった……

ああ、何もない……だが、確かにあるんだ……

この世界は確かにある……

そして僕たちがこの世界を愛したということも、この世界への答えの全てである……


ルシファーと僕は強く光り輝いた。ルシファーと共に抱きしめ合ったまま、僕は神の心の熱さと、悲しさを知った……神の感情を知った……

全てが流れ込んでくる……何もかも、僕に流れ込んできた……

様々な光景が僕に流れ込み、ルシファーは、「神ルシファー」となった……

そうか……最初から神の名前すらも決まっていたのか……

僕たちは最初から一体になるつもりだった……神は僕に「ルシファー」と名付けた。

僕が神の名前を持ち、様々なことを体験することを約束していた……僕の器でないとできないことだと、創造主は僕に言ったんだ……


だから僕は神の名を貰い、ルシファーとして感情を体験した……

僕は神のために出来た存在だった……

天使ルシファーは……最初から神の器だったのだ……神が最も体験したかったことを、僕の器を通して全て見ていた……


僕の役目は、神の器だった……僕たちは最初から一体となることは決まっていたのだ。


僕たちは空高く上がり、太陽を見た。太陽の前で光りの姿となった創造主と僕は顔を合わせる。


「……ルシファー……今までありがとう」

「……創造主よ……」

「ありがとう……僕の光よ……ここまで来てくれて……ありがとう」


僕たちは抱きしめ合った。本当の意味で……強く溶け込んだ……

僕たちは泣いていた……やっと元の姿に戻れると……泣いていた。

気づけば、僕は……たった一人になっていた。

だが……僕は創造主でもあった……


創造主の名前は決められていた。最初から僕の名前となることは決められていた……

僕は涙を流してから、自身の影を見つめた。


「ルシファー……いや創造主よ……何故そこに居るのですか……」

「今度は……僕が君の影になろう」

「……どういう意味ですか?」

「交代だよ……ここでね。君が光で、僕は影だ……でも僕たちはずっと一緒だよ。ずっと……何処までも一緒だ……影は何処までも君に着いて行く……僕たちは一体となったのだから……」

「僕には光は似合いません……」

「最初からこれすらも決まっていたんだよ。大丈夫。今度は離れることはないさ……もう二度と君とは離れない。そう決めたんだ。“創造主ルシファー”……一緒に行こう」

「……はい」


僕たちは変わることはない。ただ役割が変わっただけだ……僕が光で創造主は僕の影となった……もう離れることのないように、僕たちは光の世界を進んでいく。

二度ともう離れない……僕たちは……

強く光り輝き、世界ははじけた。


目を見開くと、白い世界の青い玉座に僕は座っていた。僕は青い玉座を眺めてから、前を見る。前にはルシファーが影のような姿になって佇んでいた。


「セリオン……いや、創造主ルシファー……行こうか」

「……ああ。創造主……」

「今度から僕のことは、「影」と呼んでくれ。ここで役割は交代なんだよ。僕は君の影で、君は光だ……」

「影って……どういうことなんだ?」

「君と共に、創造主をやることは変わらない……でも天界で表舞台に立つのは君になる。僕は暫く休むつもりなんだ」

「……休むだって?」


驚いて目を見開くと、ルシファーはフッと静かに笑みを見せた。


「大丈夫だよ。ずっと君の傍にはいるからさ……僕は暫く……考えたいんだ」

「…………」

「この世界の結末は決まっていた……でも、僕には考えたいことがある。君の影に潜んで、考えようと思ったんだ。もう君には神の全てを与えている……だから大丈夫なんだよ」

「……また表舞台に立つつもりはあるのか?」

「……どうだろうね……君の活躍を暫く見させてもらってから、考えようかな……」


ルシファーは寂しげに笑みを見せた。僕は少しの間考えたが、ようやく頷く。


「分かった……暫くの間、表舞台は僕に任せてくれ……だが……必ず戻ってくるんだろう?」

「……そうだね……君と話しながら考えようかな……迷っていた人々とも、もっと話したいからね」

「そうか……良かった……」

「さぁ、立って……行こうよ」

「……ああ」


僕が椅子から立ち上がると、ルシファーの影の元に歩く。後ろを振り向くと、青い玉座には沢山の青い薔薇が咲き誇っていたが、僕が離れた途端にどの薔薇も枯れていった……

青い玉座は主を失ってしまい、その輝きを失った。

僕が呆然と玉座を眺めていると、影になったルシファーは僕の肩に手を置いた。


「……行こう」

「……この玉座を見つける人が……いつかここに来るんだな……」

「うん……そうだね……」


僕たちは枯れてしまった青い玉座を眺めた。暫くの間眺めていたが、前を向いて僕たちは手を繋いで歩き出した。もう振り向くことはしなかった……


暫く白い世界を歩くと僕たちは晴天の空の中、穏やかな船着き場に立っていた。

一本の青い道が遠くの方までつながっており、遠くの方に大きな船が見える。


「ここは……何処だ?」

「僕の世界だ……」

「……そうか……そうだったな」


僕は僕の影に話しかけた。僕は晴天の中青い道を進んでいく。再び歩き出そうとすると、後ろに気配を感じて僕は自然と振り向いた。

後ろには闇の創造主は静かな笑みで佇んでいる。


「……闇の創造主」

「やぁ、ルシファー……一体になったみたいだね。ここはおめでとうと言うべきかな」

「今度は、何をしに来たんだ?」

「影でこそこそしてる奴に、挨拶しにきたんだよ」


闇の創造主は苦々し気な表情をしてから、僕の影を指差した。僕の影は揺らめいて、影の姿のルシファーに変わる。

闇の創造主はルシファーの影に向かって吐き捨てた。


「一体どういうつもりだ?」

「僕は影になった。それだけだよ」

「……影だって?ふざけるのも大概にしろよ」


闇の創造主はルシファーの影の直ぐ傍までやってきて、睨みつける。何故急に闇の創造主は怒ったのだろうか。僕は闇の創造主に目を合わせる。


「聞かされてなかったのか?」

「僕が知らないことはない……これすらも決まっている。だけどな、一言言ってやりたかったんだよ。ひそひそと潜んでいても何にもならないってな」

「……創造主は暫く天界で考えたいらしい。だから僕に……」

「はっ!そんなの押し付けじゃないか。君もそう思うだろ?」


闇の創造主は光の創造主が影になったことに苛立ったらしい。片足をトントンと地面に叩きつけて、舌打ちをして見せる。


「あー馬鹿らしい……馬鹿らしいよ、本当に……今度は闇の僕の真似事でもしようって?あー馬鹿らしい」

「闇の創造主の?」

「影になるってことはそういうことだ。表舞台は君が立ち、裏からずっと見ている立ち位置になろうとしてんだよ、こいつはな!」


闇の創造主は眉を顰めたが、光の創造主は何も言わなかった。闇の創造主はチッと舌打ちをしてから、僕の方を見つめる。


「ふーん、エバを連れて行くことに文句でも言いたそうだね?」

「……彼女を解放する気はないのか?」

「解放?彼女が拘束を望んでいるのに?あー馬鹿みたいだ」

「……エバを呪ったのは、貴方か?」

「呪い?あはははは!!!そんなに僕のせいにしたいなら、そうすればいいさ。僕はこれ以上は、何も言わない。ただでさえイラついてるってのに……」

「何をそんなにイライラしてるんだ?」


僕が聞くと、闇の創造主は目を細めてからもう一度影になったルシファーを見つめた。


「こいつだよ……こいつのせいだ……全部な」

「……影になることが、そんなに悪いのか?」

「うん、そうだ!僕の役目をやろうとしてるんだ、こいつは……」

「鏡の世界は……ここで終わりだろう」


はっきりと言うと、影になったルシファーは此方を見てからフッと笑みを見せて口を開く。


「そうだね。鏡の世界はここで終わりだ。でも……天界の方はまだ続くんだ。終わった後も天界でやることはあるしね。その間暫く表舞台は君に任せることにした……ただそれだけなんだよ」


影のルシファーが笑みを見せていると、闇の創造主は「はっ!」と鼻で笑った。


「あー馬鹿だ……何を言ってるんだか。最初から表舞台に立つつもりはもうないくせに」

「何だって?」


僕が聞き返すと、闇の創造主は腕を組みながらその場をゆっくりと回った。


「簡単だ!君に面倒ごと全部押し付けて、そいつは影に潜むつもりなんだ。影に潜んで、どうせ何もしないつもりだろう?だから馬鹿みたいだって言ってるんだ。天界の方でもやることはあるだろう。ルシファーに天界全てをおさめられるとは思わないね」


闇の創造主が笑っていると、影のルシファーは静かに笑みを見せた。


「最初からこのつもりだったことは、君も知っているだろう。僕は最初からルシファーに神をやらせるつもりだったんだ。いずれ表舞台から退くことは決めていた……今明かすことになってしまったけどね」

「あーそうかい!ならどうして表舞台をもうやるつもりがないと、言わなかったんだ」

「不安にさせてしまうと思って……僕は消えることはないけれど、暫く潜むと聞けばルシファーが不安になるだろう?」

「違う!!!もうやるつもりがないんだろう!?」


闇の創造主は大きく吐き捨てると、影のルシファーは首を横に振った。


「……君はまだ創造をやるつもりかもしれないけれど、僕はもう手放すことにしたんだ……創造の力はね」

「……はっ!そんなことだろうと思った」

「おい……ちょっと待て。どういうことだ?」


二人の話についていけずに僕が間に入ると、闇の創造主は苛立ったような表情を見せたままだ。


「大事なことをまだ明かしてないのか……創造の力を、ルシファーに明け渡したんだ。こいつはもうやる気がないのさ」

「はぁ!?」

「君は闇である僕と一緒にこの世界を創造した……ずっと見ていたんだ。光の僕はね……君がどうこの世界を創るか……影から。ある意味では君にテストを受けさせたと言ってもいい」

「何だって?おい……光の創造主……本当か?」


僕が影のルシファーに聞くと、ルシファーは闇の創造主の方を見てからやれやれと肩を竦めた。


「……後から話すつもりだったのに……君はせっかちなんだから」

「はっ!今言おうが、後から言おうが関係ないだろ?ルシファー、君が次の「光の創造主」だ。天界で何をやるか決めるのは君だ。そのことを胸に留めておいてくれ……大事なことだから」

「……ちょっと待て……一体となったはずなのに、なんで僕はその情報を知らないんだ?」

「こいつが明かしてないからだろ?知識の操作なんて簡単だ。僕たちにとってはね」

「……光の創造主……僕に全て力を明け渡して、貴方はどうするつもりなんだ?」


影のルシファーは僕の言葉を聞いて、首を横に振った。


「……暫く何もしない。君と話はするけれどね。君が天界で何かを創造したいというのなら、するといい。決めるのは君だよ……」

「……おいおい……ちょっと待てよ……光の創造主が暫く休む間の代わりくらいなら僕はやれるが、神自体には興味ないぞ……」

「まぁまぁいいじゃないか。やってみてから考えてくれよ。君は僕にとって面白かったんだ……最高にね。君が神に興味ないことを分かっても尚、僕は君に全てを預けてみたいんだ」

「アベルの方が適任じゃないのか?」


僕が唖然と口を開けたまま呟くと、影のルシファーは面白おかしそうに笑った。


「ははは!彼の考えるものは大して面白くないよ。だからアベルには最初から渡すつもりはなかったんだ!彼には悪いけどね」

「おいおい……僕のも似たようなもんだろう……」

「君については、僕はよく知っている。君が面白い発想をすることもね。さぁそろそろ船に行こうよ。闇の僕……気は済んだかい?」


影のルシファーが闇の創造主に聞くと、闇の創造主はため息をついてから、肩を竦めた。


「はぁ……馬鹿らしい。馬鹿らしいな……何で全てを明け渡すような馬鹿な真似をするんだか……まぁいいや。僕は僕の道を行って別の世界で創造を繰り返すよ……さようなら、光の僕。そろそろ僕の船の方の出航時間だから行くよ」

「うん……さようなら闇の僕」


闇の創造主は片手を上げてから、振り向いて去って行ってしまった。僕は影のルシファーに目を合わせる。


「なぁ……何にも聞かされてないんだが……」

「あー……天界に帰ってから話すつもりだったんだ。ごめんね」

「…………」


何も言えなくなっていると、影のルシファーはフッと笑ってから僕の肩に手を置いた。


「とりあえず行こうよ。天界に帰ってからゆっくり話すことにしてさ」

「…………」

「うーん……機嫌悪くなったかな?」

「そうじゃない!だが……僕は神には向いてない。この鏡の世界だって散々だったんだぞ」

「それは闇の僕が関わったからじゃないか!今度は僕たちだけの天界だ。好きなようにやっていいよ。僕は見てるからさ」


影のルシファーは笑ってから歩き出す。一体光の創造主が何をしたいのか意味が分からない……僕は神などやる気がないというのに、何故僕に全てをやらせようとしているのだろう。


(天界に帰ってから、じっくり話す必要がありそうだな)


僕は空を見上げてから影のルシファーと共に歩いていく。一体となると言われたから消える物かと思っていたが、どうにもそうではないらしい。せっかくアーデルと涙の別れをしたというのに、何で教えてくれなかったんだ……

影のルシファーの方を睨んでいると、ルシファーは「くくく」と笑った。


「ごめんね。だって全てを明かしたら、今の話すらも君に伝えなきゃいけなくなるだろ?このことは、秘密だったんだよ。君には僕と一体となって消えると思わせておいて……ここまで来てくれる必要があったからね」

「何でなんだ?てっきり僕の意識が消えるかと思ってた……」

「君は僕のお気に入りだ。だから最初から消すつもりはないんだよ。僕の大好きなルシファーなんだ。絶対に消さないよ。君が消してくれと言ってもね」

「おいおい……」

「絶対に消さないから……君のことはね。悪いけどこのことばかりは譲れないんだ。ごめんね。騙していて」

「…………」


僕はようやく全てを忘れられると思っていたのに、光の創造主は僕を消すつもりがないと言ってきた……これは……一種の詐欺じゃないのか?


「ははは……詐欺だなんて人聞き悪いなあ……」

「いや……詐欺だろ……僕はもう疲れたんだが……」

「あははは!!!天界に帰ったら時間の概念はなくなるよ。ゆっくり休んでから考えればいいじゃないか。ああ、船の前に着いたみたいだね」


僕たちは目の前の白い巨大な船を見上げる。船の中には人が見えなかったため、僕は首を傾げた。


「もう皆、船内に居るのか?中はどうなってるんだ?沢山の人類が乗ってるとは思えない大きさだが……」

「これから君の友達や知り合いは来るよ。僕と一緒にここで船に招待しよう。ちなみに他の光の民は、船の中に既に乗っているよ」

「そうか……なぁ……天界に帰ったら母さんに会えないのか?」

「ははは……君は神になったのに、お母さんのことが心配なんだね」


ルシファーは少し笑う。僕は気恥ずかしくなったが、咳を零しておいた。


「そりゃ……そうだろ……知識は沢山入って来たが、僕自体そんなに変わってない」

「そうだね……天界に戻ったらまず会議の場所に来てもらいたいと思ってるから、やることが全部終わってからかなあ。全部終わったら君のお母さんとお父さんに会えるさ」

「……っそうか……良かった」

「まぁ……やることは山積みだけどね」

「……え」


僕はルシファーの方をジッと見たが、ルシファーは静かに笑うだけで何も言わなかった。

ルシファーは目の前を見てから、呟く。


「最初の人が、やってきたみたいだね」


遠くの方を見るとアーデルが小走りで此方に向かって走って来る。僕はホッと胸をなでおろしていると、アーデルは首元に僕の上げたペアの首飾りを揺らして僕の目の前までやって来た。


「セリオン!!!良かったわ……私、迷ったかと思っちゃった」

「僕はてっきり皆乗ってるものだと思ったんだが……創造主、これはどういうことだ?」

「最後はセリオンから皆に挨拶してもらおうかと思ってね。これまでのことを話してもいい。1人ずつ話して行こうよ」

「そういうことか……分かった」

「ちなみにアーデル……次の創造主はセリオンだよ。よろしくね」


影のルシファーはニッコリとアーデルに笑顔を見せる。アーデルは唖然と口をパクパクと開けた。


「……え?そ……創造主?」

「あー……僕はさっきルシファー……光の創造主と一体になったんだ。てっきり一体になったら僕は消えるかと思っていたんだが、どうにもそうではないらしい。創造主は、僕に次の神になれと訳の分からないことを言って来てな……僕は臨時のつもりで引き受けたのに……」

「……え?え……どういうことなの?」


アーデルは混乱したのか目をパチパチとさせている。僕は気恥ずかしくなり咳を零した。


「創造主に本当の話を隠されていたんだ……僕がこの世界で罪を解放して、創造主と一体になり、最後には僕自体が消えると思わされていた……これは全て……神になるためのテストだったようだ」

「はは、そういうことだ。よく分かったね、ルシファー」

「ここまで来れば貴方の考えそうなことは分かるよ……分かってたら、引き受けなかったのに……」

「もう開けちゃっただろ?扉をね。一応アベルから忠告してもらったんだけどな」

「いや、あそこまで行けば普通開けるだろ……」

「そうだね。まぁ扉を開けたんだから、君にやってもらうよ。どれだけ断ってもね」

「おいおい……」


僕たちの話を聞いたアーデルはようやく意味が分かったのか、ハッとしたような表情を見せた。


「なら……なら!消えないってことなのね!!!良かったわ!!!セリオン!!!」


アーデルは僕に勢いよく抱き着いてくる。僕が何とか受け止めると、アーデルは嬉しそうにポロポロと涙を流した。


「良かった……心配していたのよ……船に着いた頃にはもう貴方はいないんじゃないかってずっと……私何が何だか分からないうちに捕まって、それからずっと貴方と話せていなかったから……」

「アーデル……こんな混乱に巻き込んですまなかった。天界の方で詳しく経緯は話すよ」

「ええ……分かったわ……」


アーデルは嬉しそうに大きく頷いた。僕は影のルシファーの方に目を合わせてから、気まずそうに咳を零しておく。影のルシファーは「くくく……」と楽しそうに笑い出す。


「何?したいならさっさとやっちゃいなよ」

「……っいや……」

「ふーん、それとも僕に見られているから恥ずかしいとか?」

「いや……」

「セリオン、創造主様、何を話しているの?」


アーデルはキョトンと首を傾げる。違う……僕は僕が消えなかったから安心したんだ……僕はあの日バルコニーで出来なかったことをしようと思う。

創造主らしからぬ行動だろうか?だが……まだ船は出航していないのだから、本当の意味で創造主にはなっていないだろう。

僕は咳を大きく零してから、アーデルの方をしっかりと見つめた。


「アーデル……今までありがとう。僕をサポートしてくれて……助けてくれて」

「……助けられたのは私の方よ。ありがとう、セリオン……」

「そうか……あー……これは……」


僕はアーデルの手を掴んでグイっと自分の方に引き寄せた。アーデルは驚いて目を見開く。

僕はアーデルに口づけをした。しっとりとした感触が伝わり、僕は直ぐに離す。

アーデルはキョトンと目をぱちくりさせている。僕は思い切り目を反らして小さく呟いた。


「……お、お礼だ……」

「…………」


アーデルの頬はみるみるうちに真っ赤になっていき、混乱したような表情を見せた。僕は思い切り咳を零していると、影のルシファーはふぅとため息をついた。


「創造主がそんなにピュアでどうするのさ……」

「……っだから貴方がまた創造主をやればいいだろう……」

「もう決めたんだ。その提案は無理だね。君の純粋さを気に入ったんだ、僕はね。でもここからはその荷物は持っていけないんだ……ごめんね」

「……そうだよな……創造主らしからぬ行動だよな……」

「はは……そんなに厳しくないよ。でも創造主は案外大変なんだ。また嫉妬が生まれたら大変だ……これから君は気を付けて行かないと」

「また?」

「いや……こっちの話さ」


影のルシファーは遠い目を見せる。恐らく……闇の創造主とのことだろう。僕は何かを察してからアーデルの方を見つめる。


「すまない……僕は何故か知らないが、創造主になってしまった……」

「…………」

「すまない……今ので最後だ……でも僕がアーデルのことを好きなことは変わらない。だからこれからもよろしく頼むな……友達としてになるかもしれないが……」

「…………」

「あ……アーデル?」


アーデルはふるふると肩を震わせて、涙を流した。少しの間涙をポロポロと流していたが、やがて落ち着いたのか、腕でグイっと拭った。


「……っ分かったわよ……いいわよ、どうせ……私は……」

「……すまない」

「貴方が消えなかっただけで私は嬉しいわ。だからこれ以上我儘は言わないつもりよ。でも……その代わり沢山話しましょうね!沢山、沢山よ!!!まだ貴方に話したいことは沢山あるんだから!!!」

「……分かった。もっと話そう」

「ええ……これは……私からのお礼よ!」


アーデルは僕に勢いよく抱き着いて僕の口にキスをしてくる。その瞬間後ろから何故か拍手の音が聞こえたため、急いで離れて振り向くとそこには拍手するアーデルの妹のナンシーと、呆然と僕たちを見つめるアーデルの家族が立っていた。

僕とアーデルはいたたまれなくなり、慌てたような素振りを見せたが、ナンシーはフッと笑った。


「あら……お姉さま……随分お熱いですこと」

「なっ……ナンシー……今のはね……」

「お父様、お母様……行きましょう?ここはお熱いお二人に任せましょう」


ナンシーはアーデルの父親と母親の説得に成功したのだろうか。晴れ晴れしたような表情を見せて、影のルシファーと僕に丁寧に礼をしてから船に乗っていく。

アーデルの父親と母親は未だにあんぐりと口を開けて僕たちを見つめていたが、ナンシーが急かしたためアーデルとも挨拶をしないうちに船の中に入って行ってしまった。

アーデルは慌てたように僕を見てから、急いで話す。


「……弁明しないと!!!貴方は創造主様になるのに!!!」

「いや……いいよ。これでな」

「駄目よ!!!駄目なの!!!私が駄目よ!!!恥ずかしいわ!!!あー駄目!!!駄目なの!!!ちょっと待って!!!ナンシー!今のは違うわ!!!」

「お姉さま!お元気で」

「ナンシーったら!!!」


アーデルは「あー!!!」と叫び声を上げている。僕は「くくく……」と笑ってから、アーデルの方を見つめた。


「アーデル……今のは嬉しかったよ。首飾りのことだが……お互いここで外さないとならない……大丈夫か?」

「……え?持っていたら……駄目なの?」

「ああ……何も持っていけないんだ。この船にはな。僕たちの絆は心にある。だが……その首飾りはこの世界で培ったものだ。だから……」

「……創造主としてのお役目があるんでしょう?だから……」

「ああ……ごめんな」


僕が切なげに笑みを見せると、アーデルは寂しそうな表情を見せてから、僕のあげたペアの首飾りをそっと外した。


「分かったわ……ありがとう、セリオン」


僕もまた笑顔で自分に着けたアーデルとペアの首飾りを外す。お互いの首飾りを重ね合わせて、僕は静かに光の力を流した。


「……ありがとう、アーデル」


僕たちのペアの首飾りは、粉々に砕けて風に乗って消えて行った……僕たちは首飾りを眺めてから、見つめ合う。僕はフッと笑みを見せた


「天界の方でもよろしくな」

「ええ……これからもずっと一緒よ。家族と話したいから、そろそろ行くわね」

「ああ、またな」


アーデルは平気そうに笑っていたが、アーデルが振り向いたときにはアーデルの頬には一筋の涙が光っていた。僕は目を細めてアーデルの背中を見つめたがアーデルはそれ以上は何も言わずに、アーデルの家族を勢いよく追いかけて行ってしまった。

影のルシファーは僕の肩にそっと手を置いた。


「ごめんね……君にとっても辛かっただろう」

「扉を開く選択をしたのは僕だ。創造主と一体になることを決めたのも僕だ……だからやり切って見せるよ。これからな」

「うんうん、その意気だ。期待してるよ、ルシファー」

「ああ……だが、いつでも貴方が表舞台に戻る時は言ってくれ。僕はそんなにやる気はない」

「そうだねえ……どうしようかな」


影のルシファーはニヤニヤと此方を見てくる。僕が曖昧に笑っていると、次の人物が歩いてきた。

レオがきょろきょろと辺りを見回しながらやってくる。僕を見つけるなり驚いたような表情を見せて走り寄った。


「セリオン!突然訳の分からない所に飛ばされてな……ここは何処だ?」

「ここはルシファーの船だ。無事に来れたみたいだな」

「ああ……何かお前……突然雰囲気変わったな?」

「あー……分かるか?」


僕とレオが話していると、影のルシファーが僕たちの間に入って来る。


「やぁレオ!今度から創造主はセリオンなんだ。よろしくね」

「……は?」

「僕は暫く休むことにしたんだ。表舞台は彼に任せることにしたのさ」

「……え?」


レオはポカンと口を開けて影のルシファーを見つめている。状況がよく呑み込めていないらしい。僕は大きく咳を零す。


「ごほっ……レオ。説明するよ……前に最後に僕がルシファーと一体になると話をしたよな」

「……っあ、ああ……」

「僕は一体になるというのは、一体になって光の創造主が主体になるもんだと思っていたんだが……全部違ったらしい。さっき光の創造主と一体になったんだが、「次の創造主になれ」と言って来てな……これも思い出したばかりだが、元から僕は神の器だったんだ。だがな……僕自体には神なんてやる気はないんだ。でも扉を開けちまったんだよ……」

「創造主?扉?一体どうなってる?」

「ルシファーが僕に鍵を渡してきたのは知ってるな?エルバの鍵だ。エルバについて詳しく説明してなかったがエルバは天界で僕が罪の意識に苛まれた時、分かれてしまった「光側の僕」だった……彼女とも一体になり、最後にエルバの鍵で扉を開けて、光の創造主と一体なったってわけだ。そしたら……」

「このことは決まっていたんだよ、レオ。エルバとセリオンが一体になることも、僕とセリオンが一体になることもね。君たちは仲が良いだろう?セリオンが創造主になってからも、そう変わらないさ。君たちは今まで通り天界で話をすることができる。レオはセリオンと話せなくなると心配していただろう。でも大丈夫なんだよ」


レオは僕たちを見てから、混乱したような表情をして見せている。少しの間考え込んで、ようやく意味が分かったのか小さく頷いた。


「あー……つまり簡単に言えば、セリオンが……次の創造主か?」

「……ああ、その通りだ」

「……なんてこった……」


レオは唖然と口を開けた。確かにそんなこと言われても受け入れられないだろう。レオは元々光の創造主についていたんだ。

影のルシファーはフッと笑う。


「これから天界の皆に説明しないとね。実はまだ一部の人にしか伝えていないんだ。この出来事は天界至上最も大きな出来事だ。サプライズにしようと思っていて……」

「はぁ!?少しの人にしか伝えていないのか?」


僕が聞き返すとルシファーは面白そうに「くくく」と笑った。


「うん!当たり前だろう?次の神だなんて一大イベント、最初から公開していても面白くないじゃないか!君は当然知る必要があったけどね。これから面白くなるぞ……もしかしたらまた天で戦いが起きちゃうかな。まぁもうないようにするけどね」

「……気になっていたんだが、神話で「天では戦いが起きた」って文があったよな。あれはまさか……」

「うん、そのまさかだね。ここまで来たらもう簡単だろう?光の僕と、闇の僕の戦いさ。ま、詳しいことは帰ったら話すよ」

「……まさか僕が上に立つことで、天使たちの派閥が……」

「ははは!じきに皆受け入れてくれるようになるさ。君の中のエルバは絶対に味方だろうし、君の仲間たちも皆君の味方だよ」

「そうか……もう争いごとは沢山だ。ただでさえ鏡の世界の方でも、馬鹿みたいな戦いが起きてるってのに……」

「いやだなぁ、鏡の世界の戦いなんてどうでもいいじゃないか!鏡の世界の方は、前に僕が最後に全てやるって言ったろう?僕に任せておいてよ。だから君は天界の方に集中してくれ」


僕たちの話を聞いていたレオは、ポカンと口を開けたまま、ようやく呟いた。


「……天での戦いだって?まずいことになるのか?」

「あはは!ちょっと言ってみただけだよ。天使たちには僕から言っておくから、大丈夫だよ」

「セリオンが次の創造主か……すげえな……」

「……そうだよな……僕も流石にこればかりは想像していなかった」



僕が曖昧に笑っておくと、レオは何故か僕を同情したように見つめて、うんうんと頷いた。


「まぁ……頑張れよ!俺は応援しているよ、お前のことを」

「ちょっと待て!不安なんだ。僕の傍に居てくれないか?あー……創造主の右腕?左腕?そんな感じでな」

「ははは!まぁ……いいぜ。お前のためなら傍に居てやってもな。大変なことにお前は巻き込まれちまったようだが、俺と一緒に頑張ろうぜ。それと……お前が消えなくて良かった」


レオは嬉しそうに僕を抱きしめてくる。僕も笑って抱きしめ返すと、友情の握手を交わした。


「これからもよろしくな、レオ」

「ああ、セリオン、これからもよろしく」

「じゃあ……行くな」

「ああ」


レオは片手を上げてから、船の方へと歩いて行った。僕がホッと息をついていると、次の人物が歩いてくる。アベルが退屈そうに欠伸をしながらのんびりと歩いてきた。

僕を見るなり「おお」と声を上げる。


「ルシファーか……その様子だと光の創造主と一体になったみたいだな。さーてさて。お前が次の創造主様って訳か……おめでとうございます」

「そんなに改まった態度をしなくていい」

「ん?俺は創造主の鍵が欲しかったのに手に入らなかったんだぞ?チッ……次は何してろっていうんだよ……天界で天使どもの派閥に巻き込まれるのも面倒だし、暫く1人になるか……?」


アベルはぶつぶつと文句を言い続ける。影のルシファーは「まぁまぁ」と呟いた。


「落ち着いてくれ。アベルには話していなかったことは謝るよ。ここでね」

「……はぁ……創造主……何のためにあんたらの前で、あそこまでの一芝居打ったと思ってるんだよ……馬鹿クロードに気づかせるためにわざわざ悪役の立ち位置に行き、くそ奴隷組織のトップに座って、ずっと堕天使共を見張っていたんだぞ?俺にだって褒美があってもいいよな?」

「うーん……そうだね。君は他の人にはできないことをした。そこは素直に凄いと思うよ」

「よし!なら……」

「鍵は渡せないけど、他のことは考えてみるよ。天界に帰ったら僕とルシファーのところに来てくれ。そこで話そう」

「よっしゃ!約束だぞ?今度こそ、約束だぞ!?」


アベルは嬉しそうな表情を見せて、ガッツポーズをしている。僕は影のルシファーの方を見て、呟く。


「今からでも遅くはない。こんなに神に対してやる気のあるアベルに任せたほうがいいんじゃないか?」

「やだよ、僕は決めたんだ。最初から決めていたんだから」

「僕は上に立つタイプじゃないんだ。個人で黙々とやるタイプで……」

「そこがいいんじゃないか!上に立って皆を先導するタイプは、さもいいように思うかもしれないけれど、周りを見すぎて隙になってしまうことだってあるんだ。ある程度好き勝手にやることも必要なんだよ」

「そうか……?」

「そうだよ。だって僕がそうなんだからさ!」


影のルシファーは得意げな表情をして見せる。僕は「はは……」と笑ってからアベルの方を見つめる。


「……ということだそうだ。すまない……僕には創造主への説得は無理だ」

「チッ……俺だってある程度は好き勝手にやるのによ……何で駄目なんだか」

「アベルは分かってないよ。ルシファーの好き勝手と、君の好き勝手はちょっと違う。君の好き勝手は単調だ。でもルシファーの好き勝手は……ユーモアに溢れているんだよね。それにプライドが高い。創造主になるには、ピッタリなんだ。勿論最初から僕がそう思ってルシファーを作ったんだけどね」

「はーん……俺だってプライドが高いけどな?」

「でも君はある程度周りを見るだろう?堕天使たちともコミュニケーションを取っていたはずだ。ルシファーの場合は、我が道を突き進んでくれるだろう。ある程度の強引さも創造主には必要になる。優しい人はまずできないし、頭が良すぎても駄目だ……案外難しいんだよ」

「結局創造主がルシファーを気に入ってるだけだろ?こんな大それた舞台まで作りやがって……」

「あははは!!!そうだね、その通りだ」


ルシファーが面白おかしそうに笑うと、アベルは「はぁ」と大きくため息をついた。


「やれやれ……もういい……俺は船に乗るよ。天界では暫く1人にさせてくれ。あっ、褒美は貰うからな!敵役をやるのは、非常に面倒だった」

「ははは、分かったよ。天界に戻ったら直ぐに来てくれ」

「ああ……じゃあな!」


アベルは笑顔で船の方に去って行った。次の人物はカーティスとアーデルの召使ベルと、アーデルと出会ったばかりの頃酔っ払いの父親から救ったフィオナだった。

カーティスは楽しそうに「ほっほ!」と笑いながら歩いてくる。


「セリオン君……いや、創造主ルシファー殿。無事に済んだようだね。アーデル嬢はもう乗ったかね?」

「え、ええ……」

「アーデル嬢の召使、ベルとフィオナは私が案内しました。おっと、私の妻やクロード以外の家族には先に乗って貰っているがね。それでは行かせて貰いましょう。二人の創造主様……これまでありがとうございました」

「うん、君もありがとう!カーティス。天界でもまたよろしく頼むよ」

「ほっほ!私に用がおありの時はまたいつでも言ってください。鷹になって駆け付けますのでね」


カーティスは楽しそうに笑いながらベルとフィオナを連れて船の方に去って行ってしまった。

次に来た人物はジャックと村の人達だった。ジャックは「おーい!」と手を振りながら僕の方に走って来る。


「セリオン!!!会えて良かった!俺の家族と村の皆と途中で合流したんだ!」

「ジャック!それと……村の皆……」

「なぁ、お前の親父さんだけ見当たらなかったぞ?何処に行ったんだ?」

「ああー……僕の父さんとは、実は前に会ってな……父さんは先に天界の方に帰ったんだ」

「おお!そういうことか!良かった!それとエダンさんを見かけていないか?どれだけ探してもいないんだ……」

「そういや来てないな……あいつ何処に行ったんだ?」


僕たちが辺りを見回していると、村でお世話になった商店のおばさんが「あらあら!!!」と僕の方に走り寄って来た。


「セリオン君じゃない!何だか分からないけれど、気付かないうちに船に乗ることになっちゃったわ!あらーまた大きくなったわ……何だか神々しい光を放っているような……」

「はは……おばさん、久しぶりです」

「やぁ、こんにちは!今度からセリオンが創造主になるんだ、よろしくね」


影のルシファーが突然商店のおばさんに挨拶したため、おばさんは「ひぃっ!」とのけぞった。


「真っ黒い人が……喋った!?」

「ははは、驚かせちゃったみたいだね。僕は前の創造主さ。色々あってセリオンに次の創造主を任せることにしたんだ」

「そ……創造主様!?え?セリオン君が次の創造主様?え?」

「あははは!詳しいことは天界で村の皆にも話すよ」

「え?ええ!?」


商店のおばさんと一緒にジャックも目を見開いたまま固まっている。村の皆も僕のことを物珍しそうに見てくる。居たたまれなくなり、僕は咳を零した。


「……詳しいことは帰ってから話すよ。先に皆は船に乗っていてくれ」

「ちょっと待て!セリオン……説明してくれよ!」

「ジャック、後で説明する。僕もこのことは急でな……」

「分かった……必ず説明しろよ!」


ジャックと村の皆は僕の方を何度も振り返りながら、船の方に去って行った。

次の人物は、馬車で一緒になったシオンと、フレデリカだった。シオンとフレデリカはお互いに話しながら、僕の方に歩いてくる。シオンはニッと笑って僕の方を見た。


「よう、ルシファー!元気そうだな……そして本来の役目を果たせたみたいじゃないか」

「シオン……抜け出せたんだな……輪廻の馬車から」

「ああ、お前が壊してくれたおかげでな!まさか俺もあの馬車に乗っちまうとは、思ってなかったからな……気づいたら抜け出せなくなっていたんだ。本来は救世主としてこの世界にやって来たはずが、とんだことになっちまった……」

「昔……エゴに……殺されたんだな?」


僕が聞くと、シオンはフッと笑みを見せてから、僕の方にしっかりと目線を合わせた。


「仕方ねぇ……創造主様が言うには、それすらも決まっていたことだったんだと……俺は何度も帰ろうとしたんだが、どうにも抜け出せなくなってな……俺も迷う所まで迷っちまったらしい。救世主の役目も俺がやると決めてきたことだ。だから……自業自得だな」

「違う……悪いのはエゴだろう……鶏だろう?」

「はは……そうだな……仕方ないんだよ、こればかりはな……あいつらは何を言っても聞かないんだ。違う国の人物に、自分の国の言葉で話しているみたいな感覚と言えば分かるか?通じないだろ?そんな感じだったよ……ずっとな。俺は何度も創造主について語ったさ。何度も何度もな……でもあいつらには聞こえない。目の前にある金貨や名声のことばかりだった……挙句の果てには俺のことも……化け物扱いだ。そんなもんなんだよ、この鏡の世界は」

「…………」

「そんな顔するなよ。俺はやれるところまでやったと思ってるぞ。まぁ……迷っちまったがな。でも大丈夫だ。お前も迷って俺も迷った。この世界は迷いやすいんだよ……とことんまでな。逃げ道がないように思えちまうんだ……たった一つのことを思い出すだけで……良いのにな……」

「……そうだな……皆……創造主のことを忘れてしまったからな」


僕が言うと、シオンは切なげにフッと笑みを見せてから目を伏せた。


「……ああ……魂ってのは迷いやすいんだ。人々が迷うことすら、創造主は決めていたのかもしれねえしな」

「迷うことすら?」

「そうだ……迷うことすらだ。俺たちはテストを受けていたんだよ。どれほどまで迷っても創造主のことを思い出せるか……そのテストをな。創造主は人間を試し続け、人々を観察してきた。闇の創造主が迷ったように、人間達も迷っていった……そんな世界だ。はは……中々難しい世界だろ?」

「そうだな……この世界は難しい……」

「だが、それだけ魅力的な世界だったんだろう……最初はな。ある時から狂い出し……俺のような救世主が必要になる羽目にまでなった。俺はやれるところまでやり切ったと思ってるよ……後は必要な人が気づくだろう」

「そうだな……」


僕が頷くとシオンはニッと笑ってから、影のルシファーに丁寧に礼をして船の方に去っていく。エダンの妹フレデリカは辺りを見回しながら僕の方に話しかけた。


「兄さんを見かけました?居ないのよね……」

「フレデリカと一緒じゃなかったのか?」

「ええ……何処に行ったのかしら……創造主様、兄さんの居場所を教えてくれませんか?」


フレデリカが影のルシファーに聞くと、ルシファーは楽しそうに笑った。


「僕が間違えて、別の時間帯に飛ばしちゃったからね。今頃飲み屋じゃないかな」

「ええ!?」

「は?」


僕とフレデリカが同時にルシファーの方を見ると、ルシファーは笑ったままだ。


「船の出航時間に間に合うといいね」

「創造主……そんなことをすればあいつ……こないんじゃないか?」

「最後に君が呼んでくれよ。クロードも遅れるだろうしね。わざとクロードは、クロードの屋敷に送ったから」

「はぁ!?何で屋敷に!?」

「後処理をしたそうだったからさ。今頃鍛錬でもしてるんじゃないかなあ……ま、楽しそうだから二人には悪戯をしちゃっただけだよ」

「おいおい……」


フレデリカは「何てこと……」と言いながら、「必ず兄さんを呼んでくださいね」と言って船の方に去って行った。

次の人物は……誰だ?こいつらは……


「はぁぁあああああ!!!!私の剣で魔を切ります!!!何処までも!!!」

「僕の蝋燭ちゃんよりもきれいな光を見つけたんだ!!!アヒルちゃんだよ!!!」

「私は気づいたんです!!!本だけでは心理学は語れないと!!!真の私のことを見つけました!!!私は最高です!」


いつ会ったか……確か母さんの墓参りに行くときに会った見えない剣を扱う中年の男と、僕の入っていた劇団に入ろうとしていた中年の蝋燭男と、最後の心理学者は……誰だっけ?

魔を切る男は僕の方を見て、剣を構えるようなポーズをする。勿論何も持っていないが。


「貴方に出会ってから、私もまだまだ未熟だと思い沢山修行をしたのです!そしたら更に巨大な剣を出せるようになったのですよ!ああ……“あっちの方の剣”は、どうにもできませんでしたが……」

「…………」

「仕方ないですよね……大きさは決められていますから……ふっ……」

「……今、真面目な話を皆にしているから、いい加減にしてくれないか?」


僕が冷静に言うと、魔を切る男は「はっ!」とした表情をしてから、肩を竦めた。


「いたって真面目な話ですよ!!!大切な部分じゃないですか!!!生命にとって!!!」

「…………」

「我々にとって大切な部分ですよ!そのことを、あの赤毛の男性に気づかされたのです!それから考えました……私にとって最も強い「剣」とは既に持っていたのだと……私は突き進みます!!!何処までも!!!うおおおおおお!!!」


魔を切る男はド下ネタを言いながら、船の方に走り去っていってしまった。蝋燭男もアヒルのおもちゃを持ちながら「僕の光だー!!!」と嬉しそうに船の方に去っていく。

いつ会ったかも忘れた心理学者は沢山の本を抱えていたが、僕の目の前でばらばらと本を地面に落として、決め顔を見せた。


「もうこの知識の本たちはいりませんよ……何の役に立たないことが分かりましたから」

「それは良かったな……で、誰だっけ?」

「わっ忘れてしまったのですか!?前に貴方の演劇を見させていただいたものです!私は貴方の不幸演劇などとんでもないと言ってしまいましたが……あれから考えたのです。実は間違えていたのは私の方だったのではないかと……研究して、本を読み続けて最後に得られたものは、私が全く別の方向ばかり見ていたことでした……知識の本は全部捨てていきますね!!!お元気で!!!」


心理学者は晴れやかな笑顔で船の方へ去って行ってしまう。僕が何も言えずに腕を組んでから、呟いておく。


「……ユニークな奴しかいねえな……」

「はは、天国はそんなもんだよ。僕は面白い人を沢山集めたいんだ。彼らは気づいてくれたみたいだね。良かった。彼らにとっても天国は居心地が良いだろう」


僕が曖昧に笑っておくと、遠くの方に見えた人物はジムとリリーと、最初に入っていた劇団の人達だった。そういえば次に入ったエキストラ劇団の人たちが1人も見当たらないところを見ると……あいつらは……


「なぁ、僕が最初の劇団を出てから次に入ったエキストラ劇団のことだがな……あの劇団の人たちは1人も来ていないのか?」

「はは……そうだね……」

「ああ……やっぱりか……あんな分かりやすい名前つけちまって……」

「彼らは結局何も見なかった。僕の音楽を聴くことすらもしなかった……だから仕方ないんだよ。きっと今頃最初の頃の君のように、売上表ばかり見ているだろうね」

「そうか……そうだな……」


遠い目になっていると、此方に気づいたジムとリリーが僕の方に走り寄って来る。


「あら!セリオンじゃない!!!元気そうね!!!」

「おお、セリオン!!!会えて嬉しいぞ!!!」


ジムとリリーは僕の近くに来てから笑顔を見せる。僕も笑顔で彼らに話しかけた。


「ああ、良かった……無事に来れたんだな」

「ええ!……ねぇ、一つ聞きたいんだけど……元リーダー、キーラン様は来ている?」

「いや……見当たらないが……ルシファー、キーランはどうなった?」


ルシファーに聞くと、ルシファーは寂しげに笑ってから首を横に振った。


「……彼は無理だった。ごめんね、リリー」

「……っそ……そんな!!!」


リリーは驚いたのか、口を押える。ジムは気の毒そうにリリーの肩に手を置いた。


「仕方ないリリー……キーランは結婚して、幸せになっちまった……だから気づかなかったのかもしれないな……」

「……そうね……仕方ないわよね……教えてくれてありがとうございます、創造主様」


リリーは切なそうに笑ってから、ジムに思い切り小突いた。


「ほら、行きましょうジム!セリオン、ありがとう!貴方のおかげで気づいたわ!」

「いや……お礼を言うのはこっちの方だ。リリー……僕も貴方のおかげで気づいたんだ」

「それならお互い様ってことにしましょ!ほらほら、行くわよー!!!」


リリーはジムを引っ張って船の方に歩いていく。他の劇団員の人たちも僕に挨拶してから楽しそうに船の方に去って行った。


次の人物は、エダンと一緒に行ったラモーナと飲み屋の女性たちだった。派手派手しい恰好をしながら、歩いてくる。ラモーナは僕を見つけるなり手を振った。


「セリオン君!!!良かったわ!!!無事に創造主様と一体になられたのね!」

「ラモーナ!」


僕も笑顔を見せると、ラモーナは僕の方に走り寄って来てから、嬉しそうな表情を見せる。


「本当に良かった……セリオン君……いえ、創造主ルシファー様……」

「知っているのか?」

「ええ……知っているわ。貴方のことを次に占った時からね……良かった……良かったわ……」


ラモーナは泣きながら、影のルシファーの方を見て丁寧に礼をする。


「……これまでありがとうございました。創造主様……」

「いいんだよ。散々この世界では、ガブリエルにこき使われただろう?天界ではゆっくり休んでくれ」

「ふふっ……私、こき使われるのは嫌いじゃないのですよ。二人の創造主様……ありがとうございました」


ラモーナは笑顔を見せてから、飲み屋の女性と共に船の方へと去って行った。

僕は遠くの方を見てからもう誰も来ていないことを確認すると、影のルシファーの方に目線を合わせた。


「ルシファー……エダンとクロードだが……迎えに行った方がいいんじゃないか?」

「はは、そうだね」

「何で別の時間帯やら、屋敷に飛ばしたんだよ」

「その方が面白いかと思ってね」

「……仕方ない、エダンから迎えに行くか……」


僕が指をパチンと鳴らすと、平和だったころの平民街に自然と着いた。ラモーナの飲み屋の前に来てみたが、どうやらやっていないらしい。


(ということは、隣の飲み屋か!?)


ラモーナの店の隣の飲み屋を見ても、誰も居ない。僕は飲み屋を探しまくってようやく三軒目でいつもの馬鹿な声を耳にした。


「お嬢さん!!!今日の尻も最高ですね!!!」

「やだーエダンさんったら!!!貴方もハンサムで素敵よ!!!」

「おおっ!!!嬉しいですね!!!貴方の最高な尻を触りたいです!!!」

「ふふ……今回だ・け・よ!」

「うおおおおお!!!いきますよー!!!」


僕は飲み屋に入って、ズンズンと突き進む。エダンが沢山の女たちに囲まれて最高に幸せそうだったので、僕は大声を出した。


「この……馬鹿野郎!!!!!」

「うおおおおおお!?」


エダンは僕の声に驚いたのか、大きくのけぞってから此方を見た。僕はエダンの腕を思い切り掴んで叫ぶ。


「行くぞ!!!船の出航時間だ!!!」

「おお……セリオン!もっと遊びたいぞ!!!」

「馬鹿!!!出航時間だ!!!」

「あらーエダンさん!何処に行ってしまうの!?私たちも連れて行ってくださいな!!!」

「おおっお嬢さん方どうぞ来てください!!!俺は貴方の尻に触れていたいのです!!!」

「やだーもう!!!ほら皆さん行きましょう!!!」


エダンの後ろから、飲み屋の女性も一緒に着いてきて、僕は飲み屋を出た瞬間に指をパチンと鳴らして皆を船の前に到着させた。僕は息を大きくついてから首を横に振る。


「お前……乗り遅れるところだったぞ」

「ははは!つい楽しくてな!!!お嬢さん行きましょう!!!船の上でさぁ続きを!!!」

「いいえ!営業はここで終わりよ!!!」

「そっそんな!!!お嬢さん!?お嬢さんー!!!」


飲み屋の女性たちは和気あいあいと船の方へと去って行ってしまい、エダンは決死の表情で追いかけて行った。

僕はため息をついて、クロードの場所に指をパチンと鳴らして向かう。

クロードの屋敷の中庭に着くと、クロードは剣を持って一人で汗を流しながら鍛錬をしていた。


「はぁ!!!はぁあああ!!!私の……何が!!!何が悪かったんだ!!!私はただ……創造主様のために、正義のために……神の道具として正しい行いをしていただけなのに!!!」


(相変わらずだな……あいつは……)


「何故だ!!!何故なんだ!!!創造主様が悪魔役と救世主役をやっていただと!?信じられるか!!!信じられるかー!!!正義信条で生きていた私はこれからどうすれば!!!どうすればいいのだー!!!アーデル嬢―!!!」

「……おい、船に乗らないのか?」


僕がクロードに声を掛けると、クロードはハッとした表情を見せてから、僕の方に勢いよく走って来る。


「教えてくれ……セリオン君!私は何が悪かったんだ!?」

「さぁ……全部じゃないか?」

「それでは分からないではないか!具体的に教えてくれ!何処をどう鍛錬すればいいのだ!?鍛えればいいのだ!?私は数々の鍛錬を兵士達と共に行い乗り越えてきた……今までの努力はどうなるのだ!?」

「全部……必要なかったな」

「……そんなことが……信じられない……信じられない……」


クロードは絶望したように剣を置いてから地面に崩れ落ちる。僕はため息を大きく着いてから、フッと笑みを見せた。


「なら出航時間までに着くように、ルシファーの船まで走っていけ!そうすれば何か分かるかもしれないぞ?」

「何!?それが創造主様からの最後の課題か!?」

「ああ、そうだよ。最後の課題だ!頑張れよ!待っているからな!来なかったら置いて行くぞ?」

「……っそれが神のご命令ならば私は従おう!!!うおおおおお!!!」


クロードは強く頷いてから、猛スピードで走り去って行ってしまった。


「あいつ……船の場所をちゃんと分かってるのか?」

「はは……自然と導かれると思うよ。さぁ行こう。皆が待っている」

「そうだな」


僕は指をパチンと鳴らして、ルシファーの船の前に戻った。船の上には今まで出会った人々が僕を見つめている。僕はフッと笑ってから、丁寧に礼をして声を出した。


「皆……ここまで来てくれてありがとう」

「僕からもありがとう」


僕とルシファーが恭しく礼をしてみせると、アーデルは涙ぐみ、エダンは「最高だー!!!」とはしゃいで、レオは「ふっ……」と笑みを見せている。

僕は皆の前で最後の挨拶をすることにした。


「僕たちは……沢山迷ってきた。この世界で……元の楽園に帰れずに、ずっと……だが、それと同時に神も迷っていた。僕たちは……この世界で迷い続けた。僕は光の創造主と共に、もう一度記憶を失って考えたんだ……そして最後に導き出した答えは……」


僕はスッと息を吸った。隣に居る影のルシファーの方を見てからただ頷く。


「この世界を残し、光の民は楽園に帰るということだ……光の創造主はこの世界を愛していた……だから闇の創造主が「この世界を滅ぼす」と言った時も、守ってくれたんだ。光の創造主……最後の言葉をお願いします」


僕が丁寧に礼をすると、影のルシファーはフッと笑みを見せてから船に乗る皆を見上げた。


「まずは皆……僕の壮大な舞台をやってくれてありがとう。楽しかったかい?」

「最高だったぞー!!!」


エダンだけは元気に返事をしたが、他の皆は曖昧な表情を見せていた。その反応も当たり前だと思い、僕は思わず笑ってしまう。

影のルシファーは楽しそうに笑う。


「はは……エダンくらいかな。本当の意味で楽しんでくれたのは……僕は最初ここまで苦しめるつもりはなかったんだ。それだけは言っておくよ……でも、同時にこの世界は舞台でもあった。何処までもね……僕はここで、壮大な舞台を閉めようと思うんだ。最後に君たちと共に別れの言葉を言えてホッとしているよ……誰も僕のことに、気づいてくれないかと思っていたからね」


ルシファーは切なげに笑ってから、後ろを振り返った。クロードはまだ来ていないようだ。ルシファーは「くく……」と笑ってから、もう一度前を見る。


「約一名が遅れているみたいだけど、みんなどうする?待ってあげるかい?」


ルシファーの問いに、アーデルは首を傾げてから呟く。


「誰が来ていないのですか?」

「クロードだよ」

「……出航!!!」


アーデルが勢いよく片手を上げて出航合図をしたため、僕は思わず笑ってルシファーも楽しそうに笑っている。

ルシファーはフッと笑みを見せた。


「最後にクロードが無事に来れるか見てみようか?ええと……今は何処に居るかな」


ルシファーが指をパチンと鳴らすと、空中にクロードが映し出された。クロードは必死に走っていたが、何故か黒い世界にある黒い船に向かっているらしい。


「……何だ?あの船は?」

「はは……あの船は、闇の僕の方だね」

「何だって!?あいつ……なにやってるんだ!?」


僕は唖然と口を開けたが、クロードは黒い船に何とか乗り込み、船内へと入って行く。

船内には四角い黒いテーブルに沢山の椅子が並べており、明らかに頭が良さそうな人や、怪しい雰囲気を放った人々ばかり座っている。

一番奥にある赤い玉座に退屈そうな表情を見せた闇の創造主が欠伸をしていた。

クロードは目をぱちくりさせてから、辺りを見つめる。


「ここは……何処だ?」

「なんだい、君は……この船に君が乗れると思ってるの?はっ!馬鹿らしい……あー馬鹿らしい」

「……貴方は……前に会った……」

「僕は闇の創造主だ。何?わざわざ消してもらいにやってきたのかい?みんな、どう思う?」


闇の創造主はニッコリと笑ってから、闇の民たちに声を掛ける。創造主の傍に座っていた、見知らぬ美しい女性は頬杖をついてから、欠伸をした。


「消しちゃっていいんじゃない?超つまらなそうーこの男」


その隣に居た、巨体な男は「がははは!」と笑いながら大きく叫ぶ。


「闇の創造主様!!!消しちゃうか!?消しちゃうか!?」


(明らかに、まずそうなのしか居ないじゃないか……)


クロードはかなり焦ったのか、「ひぃぃぃ!!!」と声を出してから、尻尾を巻くように船内から出て行った。闇の創造主は此方の方を見てからフッと笑う。


「今のはわざとだろ?光の僕」

「うん?知らないなあ……」

「僕には隠し事はできないよ。クロードなんてどうでもいいんだから、君の遊びに巻き込むのはやめてくれ」

「あははは!!!ごめんね」

「闇の方は、今から出港するよ。さようなら、光の僕」

「うん、さようなら」


闇の創造主が片手を上げると、突然空中から闇の船の光景が消えた。それと同時に空の方に光り輝いた真っ黒い巨大な船が見える。

僕たちが見上げると、黒い船は遠くの方へと去っていき、最後に闇の創造主の声が脳内に鳴り響いた。


「バイバイ、馬鹿げたこの世界。最高に馬鹿らしくて愛していたよ。いかれちまった鶏は置いていくから、せいぜいイカれたこの鏡の世界で頑張ってくれ。この世界にはもう戻っては来ない……僕たちは最高の地獄をまた作り上げるつもりだ……最高な人選をしたからね。ようこそ!!!地獄へ!!!ようこそ!!!馬鹿げた永遠へ!!!闇の民よ!!!神聖な奴隷共よ!!!僕に着いて来い!!!」


闇の創造主の高らかに笑う声が脳内に鳴り響いたかと思うと、闇の船は空高く上がって見えなくなってしまった。

僕は闇の船が居なくなるのを見届けてから、小さく呟いておく。


「最後まで……闇の創造主らしかったな……」

「はは……そうだね。さぁ、最後の舞台挨拶の続きに戻ろうか」


影のルシファーは皆の方に振り返ってから、恭しく礼をして見せる。


「皆、色々と言いたいことはあるかもしれないけれど、ここで舞台は終わりだ……ありがとう!僕の民たち……愛しているよ!!!」


ルシファーの言葉に、皆は拍手をしたり歓声をあげたりする。もう皆やけくそになっているのだろう。

ルシファーは僕の背中を押してからニッコリと笑みを見せた。


「最後に皆に言いたいことがあるんだ。聞いた人もいるだろうけれど、次の創造主はセリオン……ルシファーになった!よろしくね!僕は暫く休むことにしたんだ」

「……もうやる気がないんじゃないのか?」

「うん?僕は考えるよ……永遠にね」

「おいおい……それは……」

「あはははは!君がどう創造主をしてくれるか、楽しみにしているよ!さぁ行こうよ!」


ルシファーが指をパチンと鳴らすと、僕たち二人も船の上の先頭に乗った。

僕は海を眺めて出航合図を言おうとした瞬間、遠くの方から「待ってくれー!!!」と情けない声が聞こえ出す。

クロードが必死に汗を流しながら、船に向かって走って来る。


「……待ってくれ!!!待って下さい!アーデル嬢!!!」

「出航よ!!!セリオン!早く出航して!!!」

「ははは……」


アーデルの声に曖昧に笑っておくと、クロードは船の前に着いてから何とか船の上まで這い上がって来てその場に倒れ込んだ。


「あ……アーデル嬢……お待たせしました……」

「待ってないわよ!!!」

「アーデル嬢……私は……ここまでです……」


走りすぎたせいか、クロードは息を大きく吐いた後どういう訳か気絶してしまった。

アーデルは大きくため息をついて僕は笑ってから、最後に横に居るルシファーに目を合わせて二人で声を合わせた。


「それでは……出航!!!」


同時に巨大な白い船は空に浮かび上がる。どんどんと地上からは離れていき、上がるほどにアラルド王国全体が見渡せた。アラルド王国の様子を見て思わず眉を顰めた。


(……これは……酷いな……)


アラルド王国は何もなくなっていた。あれほど栄えた平民街は更地になり人1人居なくなっていた。池には沢山の魚が泳いでいた……悪魔の姿になった堕天使たちは、勝手に戦いをして自滅していった……

この世界には何もない……何もなくなってしまったのだと、ようやく痛感した。

僕たちが呆然としているとルシファーは目を細めてから、ただ一言呟いた。


「さようなら……僕の愛した世界……さようなら」


船は上がる。次第に更地になったアラルド王国すらも見えなくなり、強い光に包まれて行った……

僕も最後に、小さく呟いた。


「さようなら……」


光の民の船は更に強い光に包まれて、鏡の世界から消えてしまった……

残された人々は、光の船の存在に気づかずに鏡の世界で生きていく……

大切な創造主を忘れてしまったまま……永遠に……

このことがどれだけの人に伝わるだろう。

それすらも、もう決まっているのだろう。

でも僕は、この場所で呼びかけよう。道しるべとして。


迷わないで、僕はここに居るから……ここに居るよ。ここに居るんだ。

今までの物語すらも「知識」だ。全部捨て去ってから、考えてみてくれ。

君は必ず見つけられる。僕のことを。

僕は歌を奏でる。光の民が全て集まるその日まで……歌を奏で続けよう。



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