第32話 ルシファー
「さぁ、こっちだ」
まだ聞きたいことは山ほどあったが、ルシファーが進むように促したため僕たちはルシファーに着いて行く。
青い道の向こうからは強い光が差してきて、僕が思わず目を瞑ると、いつの間にか大きな広間に出ていた。奥には退屈そうにアベルが赤い椅子に座ってくつろいでいる。
横にはマリアが獣に変わった姿の黒い獣が佇んでおり、その隣にはアーデルが鳥かごに入った状態でぐったりしていた。
アベルは僕たちに気が付くと、ニヤリと笑った。
「やっとか!遅かったじゃないか!俺の用意した奴らはどうだった!?創造主……」
「はは、アベル。さっきぶりだね。その様子を見ると僕たちを歓迎してくれてるみたいだね」
「歓迎?ははははは!!!そうだな!!!退屈で仕方なかった……そういやディンザールからの連絡が急に途絶えたが、なにかやったのか?」
「ディンザール?ああ……クマのぬいぐるみに変えておいたよ」
「……っぷっ……ははははは!!!」
ルシファーが答えた途端、アベルは腹を抱えて笑い出す。ひとしきり笑った後、呼吸を整える。
「はー……おもしれえな。あの馬鹿天使は俺の座を狙っていただろう?」
「君を殺したくて仕方なかったみたいだね」
「はははは!!!あいつはな、いつも俺に暗殺を仕向けてきたんだ……その分かりやすさと言ったらありゃしねえ!ま、なぶり殺してやったがな!」
アベルは面白そうに笑ってから、立ち上がる。そのまま目を細めて、ルシファーを見つめる。
「……創造主。お遊びはここまでにしようか?本題に入ろうぜ」
「勿論、いつでもどうぞ」
「……いつもその態度だよなあ……流石天下の創造主様だぜ……てめえの遊び人形として、俺たち人間を作ったら、いずれ反発されることは分かっていたんだろう?何で俺たちを作った?」
「さぁ?退屈だったからじゃないかな」
「……いつもその答えだよな。あんたは……どれだけ反発しても叶わねえんだ……茶番劇がいつまでたっても終わらねえ……マリアは獣として狂ってまであんたに恋焦がれちまった!!!本当馬鹿な……母親だよな」
アベルは軽蔑したように隣に居る黒い獣を見つめる。黒い獣は唸っただけで何も言わない。
アベルは吐き捨てるように続ける。
「馬鹿だ!!!あんたら全員馬鹿だ!!!この腐った獣もそうだ!腐ったカインもそうだ!!!全員狂ってやがる!!!」
「はは、その通りだね」
「……創造主……俺があんたを超えることはできねえことは分かっている。だが……ルシファーならどうだ?俺は……ルシファーなら超えられる!!!」
アベルは僕の方を指差した。アベルの目は怒りに燃えており、僕の方を見てから鼻で笑う。
「熾天使、ルシファー……勝負しようぜ!俺とな!どちらが上かをかけてな!お前が勝てばアーデルは返してやろう。だが……お前が負ければ……お前にはここで死んでもらう。どうだ!?」
「……何?」
「なんだぁ?その態度は……勝負だよ勝負!戦いだ!どうせ馬鹿クロードと戦っても結果は見えている。クロードは何処に行ったのか一向にここにたどり着いてねえみたいだからな。俺と戦えよ!!!天使ルシファー!!!」
アベルは手に光を纏った青い剣を出現させる。そのまま構えると、僕に向かって挑発し続ける。
「勝負しろ!!!断れば、アーデルの命はねえぞ!!!」
「……殆ど脅しじゃねえか……」
「ははは!!!お前とは一度勝負してみたかったんだ。いいか、周りは一切助けに入るなよ?よし、そろそろアーデルを起こしてやろう」
アベルが獣に目配せすると、獣は鳥かごに向かって吠える。アーデルは音で起きたのか、ゆっくりと起き上がる。暫く目をパチパチとさせた後、僕に気が付いて大声で叫んだ。
「……セリオン!?」
「アーデル!!!」
「どうしてセリオンが!?私……どうなったのよ!?ここは何処!?」
「落ち着いてくれ!アーデル!!!僕が必ず助けるから!!!ただジッとしていてくれ……アベル!!!その勝負受けてやるよ!!!」
僕は光の剣を構えて、ルシファーに目線を合わせる。ルシファーは静かに頷いたため、僕はアベルの近くまで歩く。
「アベル……その約束は必ず守ってもらう。お前が闇の道に行く分には構わねえが、アーデルまで巻き込むな!」
「ははは!その方が面白いだろ!?あの馬鹿クロードの腐った顔も見られるしな!!!馬鹿が来るまでの時間稼ぎには丁度いい……一対一の勝負だ。誰もこいつの助けに入るな!入った途端、獣がアーデルを殺すからな!!!いいな!?」
アベルが創造主に向かって叫ぶと、ルシファーは静かに微笑んだ。その態度が気に食わなかったのか、アベルはチッと舌打ちをする。
「いつもそうだよな……ルシファーに対してはいつも信頼を向けやがってよ……こいつが発端だってのに……」
「僕が発端だということは分かっている……」
「ああ、そうかよ!!!前のルシファー様は何処に行ったんやら。前の状態のお前なら戦いなんて仕掛けなかったんだがな……戦っても俺が負けることは分かっていた。だが今は違う。お前は光になっちまったようだ……闇を纏わずには俺には勝てないだろう!!!いくぞ!!!」
アベルは僕に向かって一直線に走って来る。僕は剣を構えてから、直ぐに光の縄を出した。しかしアベルは光の縄を容易に交わして、僕に向かってくる。
「こんな小賢しい技が効くかよ!!!炎の戦いの舞台にしてやろう!!!」
アベルは高らかに笑ってから、四方に炎を出現させる。炎は勢いよく僕に向かって襲い掛かって来たが、僕は強い光をイメージして、光の壁を四方に出現させた。
光の壁は簡単に炎を防ぐ。アベルはヒューと口笛を吹いた。
「中々やるじゃねえか!堂々と剣の勝負にしたほうが面白そうだな!!!」
アベルはその瞬間僕に向かって青い剣を振り下ろしてくる。僕は何とか交わして、剣をアベルに突き刺そうとするが、青い剣で受け止められてしまう。
カキン!と音が鳴り響き、お互いに一歩も譲らない。僕は剣を振り下ろし、光の柱で攻撃をし続けるが、アベルはどの攻撃も防ぎ続けて一向に戦いが終わらない。
戦いの最中にアーデルの悲鳴が響き渡る。
「何をやってるの!?一体何なのよ!?どうしてセリオンが戦ってるの!?もうやめて!!!必要ないわ!!!」
「アーデル!!!大丈夫だ!!!必ず助けるから!!!」
「おいおい、悠長に話をしている場合か!?」
アベルは剣を僕の頬すれすれに振り下ろしてくる。アベルの剣は頬に触れてしまい、僕の頬から血がツーっと流れ落ちる。アーデルの大きな悲鳴が再び鳴り響く。アーデルは泣いているようだ。これは……一刻も早く終わらせなければならない。
僕は強い光を心で念じた。それと同時に僕は白い光の衣を纏う。
「終わらせる……さっさとな」
「はははは!!!随分と立派な武装じゃねえか!!!」
「もうやめろ。アベル……クロードに対するやり方が根本的に間違えている。あいつは……アラルド王国の王に捕らわれているようだ」
「馬鹿な堕天使にだろう!?そんなこと最初から分かってんだよ!!!」
アベルは、再び僕に向かって剣を振り下ろしてくる。僕は光の剣をアベルに突き刺そうとしたが、アベルは交わしたため、最も強い光を念じた。僕が出現させた光の柱はアベルを挟むように襲い、アベルは驚いた顔をする。
「何!?ははは……だが、まだまだ!!!」
アベルは上に逃れようとして高く飛び上がる。僕は目を細めて強い光を念じた。
突然マリアが獣化したのとそっくりな、白い獣が僕の隣に出現する。
咄嗟にやった行動だったため獣の出現に驚いたが、獣はアベルに向かって飛び上がりアベルを口に咥えた。
アベルは流石に「うお!?」と言って焦ったが、突然マリアだった黒い獣が僕の獣に反応し、白い獣に向かって体当たりした。
白い獣と黒い獣はアベルを巻き込んで地面に倒れる。アベルは白い獣から吐き出され、地面に転がる。白い獣と黒い獣は突然狂ったように戦いを始めてしまい、僕は呆然と獣たちを見つめる。黒い獣は白い獣に対して敵意をむき出しにして唸った。
「ぐるるるる……」
黒い獣の瞳は赤く光り、白い獣に向かって噛みついた。白い獣は直ぐに黒い獣を振り払い、僕と同じように光の柱を出現させて黒い獣を捕える。黒い獣は光の柱を振り払い、もう一度白い獣に襲い掛かっている。アベルも驚いたのか、獣たちを見て口笛を吹いた。
「ははは!!!何だこれは……おもしれえな!!!」
「何で……獣たちが戦い始めたんだ!?」
「さぁな!!!だが、お前はまだマリア……エバを殺してえんじゃねえか!?まだエバに執着してるから、白い獣はマリアに反応するんだろう」
「……っ僕にもうその気持ちはない!!!」
「はははは!!!どうだか!!!何でこいつらが突然殺し合いを始めたか説明できるか!?できねえだろ!?それが答えなんだよ!!!結局てめえはエバへの執着を捨てきれてねえ!!!その憎しみをな!!!」
アベルは高らかに笑う。僕は答えることができなかった。だが、遠くに居たエルバが大きく叫ぶ。
「もう……セリオンは覚悟を決めたのよ!!!ここで終わらせると!!!やっとね!!!」
「……っエルバ?」
「私はずっと見てきた……守り神としてセリオンを!!!アベル……貴方なんかに分かるわけないじゃない!!!どれだけセリオンが苦しんだか!!!エバは狂った獣よ……でもセリオンは捨てきれなかった……どうしても……」
エルバは緑の鍵を握りしめて、辛そうに首を横に振る。エルバの隣に居たルシファーは優し気に笑ってからエルバの頭に手をのせる。
「エルバ……ありがとう」
「ルシファー様……」
「君はエバのことはあまり好きではないだろう。でもセリオンの気持ちも……理解したんだね」
「うん……一緒に行動してみてやっと分かった……どうしても捨てきれない思いなのよね……それは私も同じ。エバは嫌いよ……でもやっとセリオンの気持ちが分かったわ……そしてセリオンが決めた覚悟も分かったの。だからアベル!!!貴方は何にも知らないんだから、何も言わないで!!!」
エルバはアベルに向かって大きく叫んだが、アベルは冷たい目線でエルバを見つめてから、つまらなそうに欠伸をした。
「つまらねえな……何だ、このガキは……」
「私はエルバよ!」
「エルバ?知らねえな……誰だ?こいつは……創造主が新しく作ったのか?」
アベルはルシファーに目線を合わせたが、ルシファーは目を細めてからニヤリと笑った。
「君にも隠していた存在だ……鍵なんだよ、彼女がね」
「鍵?ははは!!!鍵はエバだろ!!!この狂ったように殺し合いをしている獣のはずだ!」
「エバはもう切り離す存在になってしまった……僕は何度もエバを救おうとした。でも……駄目だった。よく考えてみてくれ。「鍵」を簡単に僕が明かすはずがないだろう。最後だから……たった今、明かしたんだ。彼女は潜んでいた。僕の傍でずっと……」
「どういうことだ?」
アベルは眉を顰めたが、ルシファーはただ笑うだけだった。ルシファーは僕の方を見て、頷く。
「僕は鍵を彼女に渡した。彼女に託した鍵は世界でもある。僕の世界と通じる……唯一の鍵だ。それはエルバが持っている……僕はずっと僕の傍で隠し続けていたんだから……」
「おい、待てよ!!!意味が分からねえ!!!マリアかアーデルが鍵ってなら話が分かるが……」
「アベルには分からないだろう。彼女は僕にとっての鍵だった……だからセリオンの守り神としてつけさせたんだから……何も分からないよ……アベル、君にはね」
「何でそんなちいせえガキが「鍵」なんだ?俺がずっと探していた物は……そのガキが持ってるってのか!?」
「うん。そうだ。でも君もエルバには触れられない……君がエルバから鍵を奪うならば、僕は……世界を消すほどに……君を苦しめるだろう」
「はぁ!?意味が分からねえ!!!」
アベルは大きく肩を竦める。何故エルバが鍵を持っているのだろうか?エルバは緑の鍵を握りしめながら、ルシファーの方を不安そうに見つめる。
「ルシファー様……そんな話、私聞いてないわ……ただ守り神になりなさいって……」
「そうだね……ごめんね。僕が君の記憶を失わせていたから……」
「どうして?」
「必要だったからだよ……君がもう一度セリオンを大切に愛してくれることがね。僕は誰にも奪われないところに鍵を隠したんだから……誰だって小さな少女が鍵を持っているとは思わないだろう。マリアかアーデルなら簡単に予想がついてしまう。僕は絶対に奪われないところに隠したんだ……」
ルシファーは切なそうにエルバを見つめた。アベルは直ぐに話を続ける。
「意味わからねえ!!!なんでそんなガキなんかに鍵を渡しちまったんだよ!!!ガキには、鍵の本来の使い道すらも分からねえじゃねえか!!!その鍵はこの世界を動かす鍵だぞ!!!」
「うん、そうだね。でも彼女なら絶対に守り通してくれることを分かっていたから……最初から彼女の中に鍵を隠したんだ。僕は記憶の鍵の方を持っていて、それを今彼女に託した……鍵を使って扉を開けた時、彼女は全てを知るだろう。自分の本来の姿を……セリオンと一緒にね」
アベルはルシファーの言葉に訳が分からないのか、思い切り舌打ちをして見せた。
「チッ……創造主は馬鹿か!?ガキには鍵の使い方も分からねえよ……俺なら!!!俺なら世界の全てを変えることができる!!!」
「君には奪えないよ。この鍵は……天界に持ち帰ってしまうんだから。永遠に夢の中でこの世界の人々は彷徨い続けるだろう……本来の鍵が、とっくのとうになくなっていることを知らずにね」
「何だって!?その鍵を持ち帰るつもりか!?馬鹿か!?それは神の力だぞ!?ふざけんなよ!!!何で離れるってなら残していかねえんだよ!!!」
「残していくわけないじゃないか。僕はこの世界を愛している。でもこの世界とはお別れなんだ。本来の鍵は永遠に見つからないよ。僕は持ち帰ってしまうからね。僕たちが帰った後、人間達はおもちゃの玉座ばかり見るだろう。でもこの世界で「本当の僕が居た玉座」を見つけてしまう人も必ず居る……そこには何も残ってはないけれど、辛い思いをさせてしまうだろうね……だから僕が……この世界に残っている唯一の思いは、それくらいなんだ」
ルシファーは目を伏せる。アベルは相当苛立ったのか、大きくルシファーを罵倒する。
「……っふざけんなよ!!!俺が何度言ってもその鍵を渡さなかった癖によ!なんでそんなガキに渡しちまってるんだよ!!!」
「彼女は元々「鍵の存在」として作ったから……僕がセリオンの相棒としてね。やっとここまで来たんだ……アベル。君にも邪魔はできないよ」
ルシファーが目を細めると、緑の瞳は淡く光った。アベルはルシファーの気迫にやられたのか、一瞬たじろぐ。
「くそ……くそが!!!何で、俺は……こんなことやっても無意味じゃねえか!鍵がなくなるならよ!!!」
「その通りだ。だから僕は最後に聞くよ。まだ……この世界に残るつもりかい?」
「……っくそ!!!」
アベルは苦々し気に吐き捨てる。よっぽどルシファーの言う「鍵」が欲しかったのだろうか。アベルは悔しそうな表情をする。
「くそ……俺が探していたのは見当違いだったって訳か……こんなことまでやって、馬鹿なカインに気づかせようとまでしてやったってのに……俺は……」
アベルは地面に項垂れてから、床を拳で何度も叩きつける。僕はルシファーの方を見つめる。
「おい!鍵って何なんだ?エルバが何の関係をしてるんだ?」
「いずれ君も分かるよ。何で僕がエルバを君の為に送ったと思う?全ては僕の物語だったからだ……僕の考えた配役なんだよ。全てはね」
「配役……」
「そうだ。配役だ。難しいことは考えないで良い。それぞれの役割を皆演じている。ここは何度も言うけれど「舞台」だよ。君がやっていた通りの「1人舞台」なんだ。重要なことを君は忘れそうになっている」
「……そうだったな……1人舞台。それが基本だった」
「そうだ。ああ、今クロードが到着するようだ。大分ボロボロみたいだけど」
ルシファーが横を見ると、奥からボロボロのクロードと笑顔のカーティス。そしてその後ろからぞろぞろと傷ついた兵士達がふらふらと歩いてくる。
(無事に……ルシファーの道を抜けたのか……いや、“無事”とは言えなさそうだが)
クロードは今にも倒れそうになりながらも必死だ。カーティスはいつものように「ほっほ!」と笑いながら楽しそうに歩いている。兵士たちは絶望したような表情をして、ふらふらと頼りなく歩いている。
ルシファーはクロードの方を見て、楽しそうに笑った。
「ああ、やっぱり大分やられてしまったみたいだね。途中からエルバもいなくなったから、大変だったろう」
「クロードの奴、大分ボロボロみたいだぞ……」
「想定通りだ。さて、これからの展開が楽しみだね」
ルシファーがニッコリ笑うと、クロードは倒れそうになりながら剣を引き抜いた。アベルは冷静に立ち上がり、クロードを見てニヤリと笑みを見せる。
「やっと登場ってわけか!!!馬鹿な兄がな!!!」
「……ルーベン……アーデル嬢を今すぐ離せ!!!」
クロードは振り絞るように声を出してから鳥かごに捕らわれたアーデルを辛そうに見つめる。アーデルは「何であの公爵がここに来てるのよ!?もういいわ!誰でもいいからこの戦いを止めて!!!」と叫んでいる。
アベルは「くくく……」と楽しそうに笑い声を立ててクロードを見つめた。
「今、ルシファーと勝負していたんだ。それが終わってから相手してやるよ!」
「……っそんなことを許すわけにはいかない!大体天使ルシファーとは誰だ!?堕天使の名を何故言う!?」
「……は?こいつだよ。目の前にいるじゃねえか」
アベルは僕に向かって指を差す。クロードは怪訝そうにアベルを見つめてから、首を横に降った。
「……この人はセリオン君だ。アーデル嬢と関わりがあるようだが……大体堕天使の名だ!神話上の……」
「は!?今こいつには白い翼が生えてるだろうが!見えてねえのか!?」
「翼?何も見えないが?それよりも、覚悟はできたか!!!もうお前など弟ではない!!!奴隷組織だと!?ふざけるな!!!この犯罪者め!!!」
クロードはアベルに対して暴言を吐き捨てた。確かに今の僕には真実の姿を現しているため、角が生えて白い翼が生えている。だがクロードには何も見えていないらしい。
(何も変わってないじゃないか……ルシファーの道を潜り抜けてきたのにか!?)
僕が唖然と口を開けていると、ルシファーは目をスッと細めた。
「このままだとまた同じことが繰り返されるね……さて、君はどうする?」
「ルシファー、何か手立てはないのか!?」
「君に任せるよ。彼をどうするかはね」
ルシファーは笑ったままだった。僕はアベルの方を見るが、アベルは憎々し気に舌打ちした。
「チッ……やっぱこいつは駄目だな……おい!ルシファー!勝負は一旦お預けだ!俺はこの馬鹿に用がある!おい、馬鹿クロード!!!何度だって殺してみればいい!!!俺は何度だって殺し返してやるよ!!!」
「私はお前の兄だぞ!?いや……もう声は聞こえないんだろうな……お前は最低な犯罪者に成り下がってしまった!!!」
「ふざけんな!!!声が聞こえてねえのはどっちだ!!!馬鹿野郎が!!!!」
アベルはクロードに向かって一直線に走った。クロードもまたアベルに向かって一直線に走る。その間にも白い獣と黒い獣は戦い続けており、どちらも譲らない。
アベルはクロードに向かって剣を振り下ろした。クロードは何とか剣を受け止めるが、ルシファーの道で負傷したのか、大分辛そうだ。
僕は二人に向かって叫ぶ。
「兄弟喧嘩もいい加減にしろよ!!!もうやめろ!!!」
「ルシファーは黙ってろ!!!お前だってマリアに対して気持ちを捨てきれてねえだろうが!!!」
「…………っ」
僕から出現した白い獣は、黒い獣と戦い続けている。黒い獣は……マリアだ。僕の罪の象徴でもある。白い獣は何度も彼女を殺そうとしている。僕は必死に白い獣を消そうとしたが、何故か消えない。
ルシファーの方を見ると、ルシファーはフッと笑った。
「君に任せる。君ならこの状況をどうする?」
「……僕ならか?……僕なら……」
アベルとクロードは今も尚戦い、黒い獣と白い獣の戦いは終わらない……
優先事項はまずはアベルとクロードだ。あの二人を何とかしなければならない。
アベルがクロードを殺しても、クロードがアベルを殺しても結果は同じだ。
二人はまた輪廻の馬車に乗ることになってしまう。僕は目を瞑って少しの間考える。
(……これしかないか)
僕は目を開けて、二人に向かって一直線に向かう。向かう途中でルシファーに声を掛ける。
「強制的に深層心理に二人を入れたい!!!できるか!?」
「うん、今の君なら出来るよ。もう僕と一体になったのだから……」
「分かった!!!おい!!!クロード!アベル!!!」
僕が声を掛けても、二人は聞こえていないのか戦いを続けている。僕は隙だらけの二人を光の縄で縛り上げた。アベルは僕の方を睨みつける。
「おい!!!邪魔すんな!!!」
「こんな戦い無意味なことは分かっているだろう!!!二人には強制的に深層心理に入って貰う!!!僕と一緒にな!!!」
僕が指をパチンと鳴らすと地面に巨大な水たまりが出現する。その瞬間二人の光の縄を解くと、二人は真っ逆さまに水の中に落ちていく。
僕は二人が水の中に入るのを見届けてから、ルシファーの方に振り向いた。
「行ってくるよ」
「うん、行っておいで」
ルシファーはニッコリと笑って手を振って来る。僕は頷いてから二人を入れた水の中へと飛び込んだ…………
***
水の中を進むと、沢山の魚が泳いでいた。僕は色とりどりの魚を見つめてから下に向かって泳ぎ続ける。下の方にはアベルがなんなく泳いでおり、クロードは今にも溺れそうになっている。声を出してみると、普通に声が出るためただの水とは違うらしい。僕は水の中でアベルに声を掛ける。
「アベル!!!僕に協力してくれ!!!クロードに気づかせたいんだろ!?」
「何でお前と協力する必要が?それよりお前、創造主の力を使ったな!!!チッ……もうそこまで来ていやがったってわけか」
「どういう意味だ?」
「その力を使えるのは限られてるんだよ!皆その力を使いたいんだ!なのにお前は……なんなく使いやがった……くそ……俺はどうやっても手に入らなかったのによ……」
アベルは不満そうに舌打ちをする。下の方を見るとクロードは一心不乱にもがきながら何とか泳ごうとしている。僕にとっては水は心地よく感じるが、クロードにとってはそうではないらしい。
僕はもう一度アベルに声を掛ける。
「今はそんなことはいいだろう!?何でそんなに力に執着するんだよ!大体鍵って何なんだ!?初めて聞いたぞ!」
「は?知らねえのか?どれだけお前は馬鹿になっちまったんだ?お前だって求めていた癖によ。鍵はこの世界の最大の宝だよ。創造主は最初に言ったんだ。「この世界のどこかに鍵がある!」ってな。何で皆この世界に執着すると思う?その鍵が欲しいんだ」
「……その鍵は何なんだ?」
「創造主だよ!!!創造主の鍵なんだ!!!まだ誰も見たことがない世界に行ける鍵だ……まさかガキに持たせちまっていたとは誤算だった……何でガキに渡ってるんだ?ふざけんなよ……」
アベルはブツブツと不満を呟き続ける。僕はアベルの言っている意味がよく分からず眉を顰める。
「意味が分からない……創造主の鍵だって?」
「ああ、そうだ!創造主の持つ鍵だ。誰も見たことがねえ扉を開けることが出来るんだ……その鍵を使えばな!そっちが本来のストーリーだよ!皆忘れちまってるけどな」
「本来のストーリーだって?」
「……そうだ。創造主はただではくれなかった。数々の試練を俺たちに与えた。鍵は本来相応しい奴に渡る予定だった。だが……皆相応しくないと創造主は言った。俺たちは抗議したさ!何で誰もふさわしくねえんだってな。創造主は何も言わなかった……その答えなら鏡の世界にある。探せばいいとまで言ってきやがった」
「つまりその鍵を見つけることが、誰もが求めていたことということか?」
「ああ。天界なんてつまらねえよ。何にもねえからな。俺たちは刺激を求めた……創造主は遊びを思いついた。この世界に、誰も見たことがない扉を開ける鍵を隠したんだ。ま、思ったよりもこの世界は狂っちまったけどな。玉座に座り鍵を見つけることが俺の目的だった……だが、もう意味がない。創造主には……どうせ叶わねえんだよ」
アベルは苛立った表情をしてから唇を噛みしめている。
「そうか……お前か……お前が鍵を手にするのか……ルシファー……」
「どういうことだ?」
「聞かされてねえのか!?おい、お前はどれだけ馬鹿になっちまったんだよ!!!鍵は俺たちが求めていたものじゃねえか!誰もが神の目を持ちたかったんだ……神の瞳を」
「……僕は最後にはルシファーと一体になるんだ」
「そのことだよ!!!馬鹿野郎!!!それはつまり神になるってことじゃねえか!!!」
「はぁ?」
僕が眉を顰めると、アベルは眉間に手を当てたまま、首を横に振る。
「お前……馬鹿か。皆が神になりたがってたってのによ……ま、どうせ皆一体だけどな……天使共と、俺たち人間も神の力を求めていたんだ。何で創造主は記憶を失わせたんだ?おかげで馬鹿に話してる気分だ」
「天界はそもそも、分離意識そのものが少ないんじゃないか?」
「ああ、まあ少ねえことはすくねえが、大してこの世界と変わりはしねえよ。何でこんなにこの世界のゲーム参加者が多いと思う?天界がくそつまらねえからだよ!最初は皆こぞってこのゲームに参加したもんだ……誰もが神になって好き勝手したかったんだ……だが誰も神になれねえ……創造主が許可しなかったからな」
「つまり皆は神になりたいと?はっ、僕はそんなものには興味ない」
「はぁ!?どの口が言ってんだ。お前だって最初は執着してたくせによ。結局事の発端ルシファー様が勝つって訳かよ……してやられた気分だ……ならこの世界に執着する意味なんてねえじゃねえかよ!!!くそが!!!」
アベルは苦々し気に強く吐き捨てる。そうこうしている内に、水中の下の方から光が見えてきた。下に向かって泳ぐとだだっ広い白い世界に出る。アベルはまだブツブツと何か言っておりクロードに至っては白い世界で地面に倒れたまま、「ごほっごほっ!」と苦しそうに咳をし続けている。
僕とアベルは向かい合い、クロードが倒れているのは気にせずに話し続けた。
「アベル……僕は鍵になんて興味がない。ただ帰ろうと思ってるんだ」
「だから……いや、今のお前には何を言っても無駄か……どれだけ重要なことを任せられちまったと思ってるんだお前は……」
「……意味が分からない」
「……次の神……それがお前だ……」
アベルはポツリと呟いた。僕はアベルの言葉を聞き間違えたかと思い、もう一度復唱する。
「次の神?何を言ってるんだ?」
「お前は神の最も近くに行っちまった……神と一体になるってことは、お前が次の神ってことだ……馬鹿野郎……」
「待て、本来は皆一体だったはずだ……そんな鍵、一体何の意味が……」
「あるんだよ!!!意味がな!!!お前馬鹿だろ……何でこんな馬鹿に鍵を……俺の方が頭も良い……どんなこともできるってのに……何でこんな馬鹿になっちまったルシファーに……くそ……」
「僕は神にはならない。神の元に帰るだけだ」
僕がもう一度言っても、アベルはブツブツと呟き続けるだけだった。倒れていたクロードがやっと起き上がり、白い世界を呆然と見つめている。
「ここは……何処だ?」
「クロード……やっと起きたか」
僕が声を掛けると、クロードはふらつきながらやっと答えてくる。
「……ごほっ……私に何をした……ここは何処だ……」
「落ち着けよ……僕はお前を強制的に深層心理に入れた。クロードにはテストを受けて貰う」
「テストだと?」
「ああ……アベル。協力してくれるな?」
僕がアベルに向かって声を掛けると、アベルはチッと舌打ちをしてから僕をギロリと睨みつけてくる。
「鍵がなくなるのなら、こんな世界……何の意味もねえ……仕方ねえ、協力してやるよ。ルシファー……お前にな。どうせここは神のおもちゃ箱だ。茶番劇を俺たちはやっていた。くそ……こればかりは誤算だったぜ……最初から主人公すらも決められていたってのか……」
「主人公?そういえば……創造主も僕が主人公だと言っていたな……」
「はぁ!?やっぱりそうか……チッ、あの野郎……最初から誰に鍵を渡すか決めていたってのか!わざわざ「堕天使」とこれ見よがしにこいつのことを神話に書きやがって……創造主のやりそうなことだ……」
「鍵については知らないが、協力してくれるんだな、ありがとう」
「くそ……これっきりだぞ。鍵がない世界に用はねえ。俺も帰ることを決めた。仕方ねえから馬鹿クロードを一発殴ってやるよ」
アベルはニヤリと笑って拳を構える。僕は慌てて、首を横に振った。
「ちょっと待て!それじゃあ意味がない!クロードにはテストを受けさせる。これから簡単なストーリーを作ろう……僕が得意な舞台でな」
「チッこの馬鹿には拳で十分だろ」
「クロードには逆効果だ。まぁ、僕も殴れるもんなら殴りたいと思ってるがな」
僕とアベルがクロードを睨むと、クロードは荒く呼吸をしながら眉を顰めた。
「一体何を話している?私に何をした!?まさか貴様ら……組んでいたのか?」
「そうだ、舞台だ……クロード公爵……貴方には舞台に入って頂きます……」
僕は目を細めてから、笑みを見せる。クロードは「は?」と声を上げたが、僕は丁寧に礼をしてから両手を広げる。
「何、簡単ですよ。貴方には物語の中に入って頂きます。テーマは「偽善者を見破れ!」たったそれだけです……この国が舞台です……貴方が最も愛する国が……」
「貴様、何を言っている!?」
「もう了承の返事を聞いている暇はありません……戦いの合図は近い……僕は急いで貴方を救い出さなければいけません。3、2、1……」
僕がカウントしてから指をパチンと鳴らすと、周りの舞台は教会に姿を変えた。教会の鐘の音が響き渡り、辺りは人々が沢山居て、歓声に包まれている。クロードは唖然と口を開けた。
「何だ……一体ここは何処だ……」
「簡単な舞台です。一番の敵を見破って下さい……それが貴方に課せられた課題です」
「課題だと?ふざけるのも大概にしたまえ……私はルーベンを……」
「……っ今課せられてんのはあんたのことなんだよ!!!ちゃんと前を見ろよ!!!」
僕が叫ぶと、クロードはびくりと肩を揺らした。アベルは僕の発言に「ヒュー」と口笛を吹く。
「中々やるじゃねえか。今の気迫は凄かったぞ……はははは!!!」
「……クロード公爵……しっかり前を見て下さい……貴方にはここが何処に見えますか?」
「教会だ……神聖な」
クロードが渋々答えると、教会からはアラルド王国の王が現れる。周りには白い服を着た男と女を連れており、どの人も深々と帽子を被っている。
アラルド王国の王を見たクロードは、びくりと身体を揺らした。
「陛下……どうしてここに……」
「皆の者!!!真の愛の国に生まれて誇らしく思いなさい……さぁ、王妃よ……此方に……」
アラルド王国の王は、自分の元に王妃と呼んだ女性を引き寄せる。女性は白い衣装に身を包んでおり、ニッコリと微笑んだ。
「皆さん……この国は愛によってできています……愛を持って人に接し、愛で人を救い続けて下さい……そうすれば貴方達は必ず救われます。神は貴方達をいつでも見守っております……さぁお祈りを致しましょう……」
王妃と呼ばれた女性が言った途端に、周りの人々は涙を流しながら項垂れる。それと同時に、一人の別の女性が白い衣装を着たまま、優し気に微笑んだ。
「さぁ皆さん、どうぞ此方へ……私が皆さんに「愛の抱擁とキス」を貴方達に致しましょう……愛のエネルギーを貴方達に送ります……そうすれば貴方達は「愛」に目覚め、神の愛を知るでしょう……」
「ああ、天の母上よ!!!」
周りは狂ったように目の色を変えて、その女性に向かって走っていく。人々の表情は全員可笑しくなっており、よだれを垂らしていた。女性は不敵に笑みを見せて、一人一人に丁寧に抱擁していく……誰もその不敵な笑みに気づかない……
アラルド王国の王はニッコリと笑って、女性に話しかける。
「国民代表の素敵な「天の母」ですね」
「……陛下、有難きお言葉……」
「これからも精進しなさい……私の元で」
「はい……陛下にずっと着いて行きます……」
今度は女性が目の色を変えて、アラルド王国の王を見つめた。アラルド王国の王は両手を広げて、微笑む。
「さぁ皆さん!抱擁が終わりましたら、寄付の時間です!この世界には貧しい人々が沢山おります!皆さんの力で世界を救いましょう!貴方の金貨一枚が、貧しい人々を救うのです!さぁ寄付箱はここに用意しました!!!さぁ、ここです!!!」
アラルド王国の王が寄付箱に手を向けると、周りの人々は狂ったように金貨袋を持ち上げて寄付箱へと一直線に走っていく。「俺だ!俺が世界を救う!」「私よ!私が金貨を捧げることで救われるのよ!」と人々の発言は明らかに可笑しい。
再び教会の鐘は鳴る……一回、二回……三回と……三回めでアラルド王国の王は空を見上げた。
「ああ、神のお告げです……神のお告げが来ました……」
「おお!!!神のお告げでございますか!!!」
人々は神のお告げを聞こうと一心不乱に王の言葉に耳を傾ける。王はニッコリと笑みを見せた。
「神はこう告げております……貴方達は良い行いをしています……このまま人々のために良い行いを続けることで天国へ必ず行けると……我々の行いが報われましたね。貴方達は必ず天国に行けるでしょう」
「おお!!!有難き幸せ!!!」
人々は伏せながら、涙を流し続けている。横に居たアベルは「けっ!よく作ったなこの舞台を」と眉を顰めており、クロードは腕を組んでから首を横に振っている。
「何だこれは……陛下が何故ここに居る?そもそもここは何処だ?」
「……見破れましたか?敵の正体を」
「敵?ここには陛下と王妃様と民衆の方々しかいないだろう。それに皆良い行いをしているようだ。貧しい人々を救い、愛の抱擁を行い、愛によって神に仕える……敵など居ないが?」
「…………」
僕が何も言えないままで居ると、クロードは首を横に傾げる。アベルは大きく舌打ちをしてから、「仕方ねえ」と呟いた。
「俺が一芝居打ってやるよ!!!俺もこんな腐った舞台はこりごりだ……おい、クロード!!!そこでしっかり見ていろ!!!こいつらの本性をな!!!」
「何?ルーベン!何をする!?」
止める暇もなくアベルは青い剣を携えて、人々に切りかかり始めた。舞台は悲鳴と共に混乱に包まれる。アベルが民衆の1人の男に切りかかった途端、男はブリキの人形に変わってしまった。民衆たちは悲鳴を大きく上げる。
「きゃああああ!!!殺人者よ!!!」
「犯罪者だ!!!捕らえろ!!!」
周りの兵士たちがアベルの方に走って来たが、アベルはそれでも構わずに民衆の人々を次々と切り付けていく。その度に民衆たちは「ブリキの人形」に変わっていく……
クロードは唖然と口を開けて、アベルを止めようとする。
「ルーベン!!!何をやってるんだ!!!」
「馬鹿野郎!目を開けてしっかり見てみろ!!!こいつら全員人形だ!!!」
アベルは強く吐き捨てると、アベルを捕えようとした兵士達もなぎ倒していく。兵士たちはただの兵士の姿をしたおもちゃに変わっていく……
クロードは人形に変わっていることに気づいていないのか、剣を引き抜いて再びアベルに切りかかった。アベルはクロードを簡単に吹き飛ばす。
「ぐあっ!!!……っルーベン!!!やめろ!!!ここに私の味方はいないのか……」
「くそ兄め!!!目を覚ませよ!!!いい加減にな!!!」
アベルはクロードを吹き飛ばした後、天の母と呼ばれた女性に剣で切りかかろうとする。天の母と呼ばれた女性は大きく悲鳴を上げたかと思うと、次の瞬間には目を細めてニッと笑った。
「あーあ……面白くなりそうだったのに」
天の母はぐにゃりと姿を変えて、蛇の姿に変わっていく……僕は唖然と蛇を見つめて、アベルは流石に立ち止まって蛇を見つめた。
「……っ何!?闇の創造主……まさか……」
「あはははは!!!そうだよ!!!あー面白い。人間共は最高に馬鹿で面白い……こんな馬鹿な罠にも気づかないんだから!!!あはははは!!!」
蛇は狂ったように笑い出して、姿を蛇から闇の創造主の姿に変える。アラルド王国の王と王妃は呆然と口を開けて闇の創造主を見つめていたが、闇の創造主は退屈そうに欠伸をしながら指をパチンと鳴らした。
その瞬間、アラルド王国の王と王妃もブリキの人形に変わってしまった。
闇の創造主はブリキの人形を見つめながら、「あーあ」と呟く。
「つまらないんだよね……何をしてもつまらないんだ。何が天の母だよ。途中から僕が天の母に乗り替わったことにも気づかない……馬鹿な堕天使たちだ」
「おい、闇の創造主……あんたが天の母をやっていたのか!?」
アベルも流石に予想していなかったらしい。僕はしっかりと闇の創造主を見据えて闇の創造主に向かって歩き出す。
「闇の創造主……貴方がやっていたのか……」
「え?やだな、こんな馬鹿な組織と一緒にしないでくれ!つまらないから、天の母に乗り替わっていただけだよ。元はこの女は王に崇拝していたんだ。だから心に隙だらけだったんだよね。退屈だから天の母をやってみたけれど、やっぱりつまらないんだ……」
「そういうことか……おい、クロード!見たか!?あれが真の正体だ!!!」
倒れたクロードに言っても、クロードは目をパチパチとさせて何が起こったか気づかないらしい。闇の創造主は興味なさそうにクロードを見下ろす。
「一番つまらないよねえ……こんな簡単な罠に引っかかるんだから……カインもここまで成り下がったか……エバもカインも本当につまらなくなったよね。最初の頃はまだ良かったのにさ」
「貴方は誰だ……」
クロードは目を見開きながら、闇の創造主を見つめる。創造主はニンマリと笑みを見せて、クロードの前で楽しそうに屈んだ。
「さてね!?誰でしょう?当ててみたらどうだい?」
「……悪魔か!?悪魔がアラルド王国に……」
「あはははは!!!そうだね、僕は悪魔だ!!!でも……神でもある……正義感だらけの君には予想外だっただろう?まさか神も「悪魔役」をしていたなんてさ!でもそこらの堕天使共と一緒にしないでくれよ?僕に会えることは「光栄」なことなんだ!僕は神聖な悪魔だ……神聖な獣なんだ……」
闇の創造主は不敵な笑みを見せて、クロードの目の前で手を振る。クロードは肩を震わせながら闇の創造主に目を合わせる。
「……そんな……私は神の元で信仰していたのに……いや、違う。これは悪魔の罠か!そうか!そうだな!主よ……今こそ貴方のお役に立って見せます!!!」
クロードは何とか立ち上がると、何と闇の創造主に向かって落ちていた兵士の剣を拾ってから剣を振り下ろす。闇の創造主は目をスッと細めた。
「あー君って本当につまらない……消しちゃおうかな」
「……っ待て!!!」
闇の創造主が指を鳴らそうとしたため、僕は慌てて創造主を止める。創造主はクロードを軽く振り払ってから、僕の方を冷酷な瞳で見つめる。
「何?消しちゃっていいだろ。こんなつまらない男」
「……僕が何とかする……だから、消すのはやめてくれ」
「はぁ……君って甘いよね……まぁそんな所も、君の綺麗な部分なんだけどさ」
闇の創造主は再び僕を見つめてニンマリと笑ってきたため、背中に蛇がうねるような悪寒が走ったが僕は慌てて振り払い、闇の創造主にもう一度話しかける。
「一旦待ってくれ……僕もクロードの頑固さは分かっている……だから無理やり深層心理に入れたんだ……」
「ふーん、そこまでする価値がこの男にある?」
「……ああ。確かに馬鹿な公爵かもしれないが、ある意味では純粋だ……光の創造主はきっと気に入ってるだろう。だからこそ光の創造主の道に招待したんだ……」
「そこまでの価値があるとは思えないけどな?何度消そうとしたことか……でもその度に光の僕が止めるんだよね」
闇の創造主は肩を竦めると、倒れたクロードを冷静に見下ろした。
「まぁ、いいや。僕はこんな男いらないし、セリオンの好きにするといいよ。そんなことより、まだこっちに来るなら言ってくれ。いつでも君なら歓迎するから」
「何度も断ってるだろう!」
「はは、分かってるよ。君から世界が取れたことはね。ま、言ってみただけさ。それじゃあ、バイバイ」
闇の創造主は笑いながら煙になって消えて行った。クロードは呆然と虚空を見つめながら、辺りを見渡す。
「何で……人々が人形になっているんだ?」
「チッ……やっと気づいたかよ、馬鹿が……」
アベルは吐き捨てるが、クロードはふらふらと立ち上がりながら、ブリキの人形たちを見つめる。そのままふらふらとアラルド王国の王の元に行くとブリキの人形になった王を見て、膝から崩れ落ちた。
「ああ……陛下よ……なんてことだ……何というお姿に……あの悪魔によって姿を変えられてしまったのですか……」
「……今のは訂正だ。全く気付いてねえわ」
アベルは流石に大きくため息をついている。僕も半笑いになってから、クロードの目の前まで歩く。
「クロード……本当に馬鹿だな……そこまで来ると、エダンよりも馬鹿だぞ……」
「……っ君は……本当に何者なんだ……」
クロードは僕の方を見つめて、肩を震わせている。僕はフッと笑みを見せて丁寧に礼をした。
「僕は天使ルシファーです。誰もが堕天使と呼んだ、あの有名なね」
「何!?まさか本当に……そうか……これは堕天使の仕業だったって訳か!?君は実に巧妙に私を罠にはめ……」
「……もうつまらないですよ、クロード」
僕が冷たい目で見下ろすと、クロードは肩をびくりと震わせた。僕はクロードの前で屈んで肩に手を置く。
「いい加減にしろよ……今までの光景を見てまだ気づかないのか?」
「何を……」
「この国は「偽善」で出来上がっている……あんたは公爵だから王に近かったろうな。だから王に対して崇拝していたんだろ?あの「ブリキの人形」にな」
「…………」
「いい加減、目を見開いて見てみろ。よく見ろ!あの教会の裏を!!!あれはただの舞台のセットなんだよ!!!」
クロードは僕の言葉で慌てて教会の後ろに行った。クロードは後ろを見てから「何てことだ……」と呆然と声を上げる。教会は外側だけ綺麗に作って、後ろなど何も出来ていなかったのだ。ただの舞台のセットのように……外だけは巧妙に作られているだけだ。
クロードは舞台裏を見た途端、膝から崩れ落ちる。
「……そんな……ああ、そういうことか……ここはハリボテだ……」
「そうだ……仕方ない、お前のために僕が簡単な舞台をしてやるよ」
僕は指をパチンと鳴らして、一瞬で教会のセットから舞台のステージへと景色を変えた。クロードとアベルは観客席に座らせる。
アベルは退屈そうに伸びをしたが、クロードは呆然と舞台の上に立っている僕を見つめる。
僕は舞台上で丁寧に礼をしてみせた。
「ようこそ、神の舞台へ……今まさに僕が立っているところは……「世界」です」
僕は目を細めてからクロードを見下ろす。久しぶりの舞台だ。即席の舞台だが、クロードに伝える方法はこれしかないだろう。
「天界の世界での始まりは、神でした……神は「相対の世界」を創ることにしました……最初の神の思い付きは、自分と正反対の存在を創ることでした……「鏡の創造主」の誕生です」
指をパチンと鳴らして、僕はもう一人の黒い衣を纏った僕を横に登場させた。
「この通り!神は「光の創造主」と「闇の創造主」に分かれました……神の思い付きは絶対でした。神は自らを「救世主役」と「悪魔役」に分けました……それが天界での出来事です。しかし……最初は舞台だったはずが、天界では様々なことがありました……「鏡の世界」が独自に生まれて、この世界となりました。人々は最初は違ったのだと思います。しかし……いつしか神の声が聞こえなくなりました」
僕は指を鳴らしてからもう一人の僕を消して、目の前にゼンマイ仕掛けの人形たちを沢山並べる。クロードは人形を見つめて呆然と口を開けた。
「……これが今の人間たちです。この世界を「敢えて人間だけにした」と神は語りました……つまり、人間以外の種族なんて元から沢山いたのです……ただ人間の皮を被っているだけです。この世界には天使だろうが、神獣だろうが、勿論貴方達のように人間も存在します」
僕は舞台のステージを回り続ける。その振動で軽い人形たちは簡単に倒れていく。僕は人形の1つを取ってから、わざとぐしゃりと握りつぶした。人形は粉々に壊れていく。
「これが神の技です。僕たちは神のおもちゃでした。神には、このように簡単にこの世界の人間など壊せてしまいます。天界では光の創造主と闇の創造主の会議が行われました。「この世界をどうするか」を話し合ったのです。この世界は狂ってしまったから……馬鹿な集団が登場したからです」
それと同時に僕は沢山のニワトリ達を出現させる。鶏達は「コケ―!」と僕の足元を走り回った。鶏の中には仮面を被ったものも混ぜた。
「そう、この存在です。鶏は「エゴ」を象徴しています。ここで鶏を支配するものは……黒い煙です」
僕は黒い煙を出現させる。黒い煙はニワトリ達の頭上に渦巻き、綺麗に覆っていた。
「……こんな煙など幻に過ぎません。しかしエゴは、神のことも忘れておもちゃ箱の中で神の玉座を求めました……幸せを外に探し続けて、きっと神の力が手に入ると縋り続けました……神はそれらすべてを見ていました。闇の創造主はただ観察し……光の創造主は呼びかけ続けました。しかし……光の創造主が送った、唯一の救世主「シオン」は殺されました」
僕は救世主として、シオンを登場させる。シオンは白い衣を羽織っていたが、鶏達はシオンを見るなり、一斉攻撃をしかけはじめる。シオンは粉々になって消えていく……
僕は拳を握りしめてから、クロードを見下ろす。
「これがニワトリ達の本性です……神の怒りはどれほどのものだったでしょうか……神の悲しみはどれほどのものだったのでしょうか……しかし、シオンの存在すらもニワトリ達は利用し、自分にとって良いように解釈したり、残した神話すらも利用するようになりました……誰も神の存在に気づきません。例え違和感に気づいたとしても、闇の創造主が罠にはめていたこともあったようですが……基本的に殆どの人々は気づきませんでした」
指をパチンと鳴らして、僕はニワトリ達を消した。僕は一呼吸を置いてから、話し続ける。
「積み木の玉座を堕天使や人間は追い求め続け、肝心の神の方向を見ずに狂ってしまったこの世界……これが今の世界となりました……幻のエゴを大事に抱きしめ続けて、幻の正義感を貴方は大事に抱きしめ続けています」
「……私がエゴを……」
「そうです。この世界に居る以上、誰でもエゴは持ちます。しかし貴方の持つ「正義感」は……所詮堕天使が造り上げた価値観に過ぎないのです。今の舞台を見たでしょう?天の母は闇の創造主に途中で成り代わったようですが、アラルド王国の王など「ブリキの人形」なのです。今ある事実を見つめて、冷静に判断してみてください……」
クロードが肩を震わせたが、僕はそれでも話を続ける。
「クロード……お前の正義の価値観は幻だ。神とは関係ないんだよ……光の創造主はただ神自身に気づいてほしいだけだ。もうこの舞台は終わらせることに決めたからな」
「舞台を終わらせるだと!?」
「ああ、そうだ。この世界の人々は、これから三つの分岐点に分かれる。「光の創造主と共にこの世界から離れて、楽園に帰る人々」と「闇の創造主と共にこの世界から離れて、別の世界で創造する者」……そして「狂ったままニワトリとしてこの世界に取り残される人々」だ」
僕は舞台を上から下に横に三つに分けて空中に線を引く。
一番上には光の創造主が船の前で待っている光景を映す。
真ん中には闇の創造主が立っており、退屈そうに欠伸をしている姿を映した。
そして一番下には……鶏達が「コケ―!」と鳴きながら地面を歩いており、水中で泳いでいる魚の光景を映した。
クロードは呆然と舞台を見つめて、唇を震わせている。
僕は全ての光景を消してから、もう一度クロードに目線を合わせた。
「いいか、クロード……いい加減気づけよ……この世界はお前が思っているよりもまずい状態になってるんだ……鶏達がしている行動がなんだと思う?「偽の神の体験」をわざとさせて、この世界に閉じ込めようとしてるんだぞ。この世界はただのおもちゃ箱なのにな」
「…………っ」
「鶏達はな、「この世界はこれから良くなります!」といった馬鹿みたいなことしか言わないんだ……肝心の光の創造主は元の場所に光の民を連れて帰り、闇の創造主も闇の民を連れてこの世界からは離れるのに、鶏達はこの世界に限定して閉じ込めようとしている。この世界にわざと執着させてな。良い体験をさせるんだ……良い思いをさせるんだ……そうして人々を閉じ込めようとしている。馬鹿な偽善者になってな」
クロードは僕の舞台を見たまま、呆然とその場を立ち上がった。そのまま頭を抱える。
「私は……私はエゴにやられてしまっていたのか!?しかし……正義感こそが、神に繋がると……」
「クロード、全部ここは舞台で幻なんだよ、本当はな。だが、エゴはそのことすらも逆利用する。「どうせ何にもないんだから、この世界をもっとよりよくしましょう!」とかな」
「……そんな……そんなことがあり得るのか!?光の創造主と闇の創造主?神すらも悪魔だった?そんなことが……あり得ない……そんなことはあり得ない……」
「舞台は終わるんだよ……ここでな。鶏達をこの世界に残したままにすることにしたのは、最後の「神の愛」だ……お前は僕にとっては鶏には見えない。だから気づいてほしくてこの舞台をやったんだ……」
「私は……私は……」
クロードは目を見開きながら崩れ落ちた。僕はアベルの方を見てから、指をパチンと鳴らして舞台を消して元の白い世界に光景を変える。
地面に崩れ落ちたクロードの元まで歩くと、僕は見下ろした。
「クロード……アベルはずっとお前を気づかせようとしていたんだよ……わざとエゴだらけの奴隷組織に入ってな……」
「何だと?」
「アベル……クロードに話があるんじゃないか?」
僕がアベルに顔を向けても、アベルは眉を顰めたまま、強く吐き捨てるだけだ。
「はっ!今更遅せえよ。もう俺にとってはどうでもいい」
「ルーベン……何故お前は奴隷組織に……そんな方法をしなくても良かっただろう……」
「奴隷組織の上に立つことに俺がしたのは、その方が奴隷組織を管理する堕天使共を見張りやすかったからだ。創造主が隠した「鍵」を見つけたかったからな。だからこの世界に執着した。だが創造主はさっき言ったんだ……結局鍵はルシファーの物だ。俺はこのゲームの全てを分かっていたってのに、俺すらも創造主に踊らされていたって訳だ……」
アベルは乾いた笑い声を立てる。クロードは呆然とアベルを見上げていて、呟く。
「私は……私はこれからどうすれば……」
「は?何もしなくていいんじゃないか?ただ帰るだけだよ。ああ、だが一つ切り離しておかなきゃならねえもんがあるな」
アベルはニッと笑って、青い剣を構える。アベルはスッと目を細めてから、クロードを青い剣で勢いよく切った。
クロードは傷つかず、クロードの背中から先ほどの天の母が現れてけたたましい悲鳴を上げてからアベルの剣によって、黒い煙になって消えていく……
クロードは呆然と煙として消えていった天の母を見つめて、呟いた。
「ああ……そんな……私は……」
「これで良しと……おい、ルシファー終わったぞ」
「こじらせていた割には、あっさりだったな」
「こじらせていたのは、こいつだろ?この馬鹿な兄の方だ。この世界は舞台だってのに、そんな初歩的なことすらも忘れちまったな……馬鹿な兄だよ。母親の方もだがな」
「エバのことだよな?エバに対しては……どう思ってるんだ?」
僕が聞くと、アベルは「はっ!」と鼻で笑ってから肩を竦めた。
「さぁ?もうどうでもいい。あの馬鹿な母親は「鍵」ではなかったからな。よく考えるべきだったな俺も……あの女はただの獣になっちまった……闇の創造主に対して、馬鹿みてえに地面に這いつくばって縋り続けるな……闇の創造主は何処かで気分が良いんだろうよ。あの女を人形にしながら、上からニヤニヤと見ているんだろう」
「…………」
「結局鍵は見つからなかったか……折角ここまでゲームをやり続けていたってのに、無駄骨かよ……俺は何をしていたんだ今まで……馬鹿な母親を見て、馬鹿な兄を見続けて……もううんざりだ、こんな世界は」
アベルはため息をつく。僕はアベルの心境を察して、頷いた。
「そうか……結局僕たちは、創造主たちのおもちゃだからな……」
「はは……そうだな……何をしても、それ以上にはなれねえ存在なんだな……散々やらせておいて最後がこれかよ……この事実を民衆共が知ったら、創造主にブーイングが殺到するだろうな」
「それは闇の創造主自身が言っていた。光の創造主は「この事実はあまり人々に知らせない方がいい」とまで言っていた……だからこの事実は、知る人だけ知るんだろうな」
「そうか……俺はこんな世界もうどうでもいい。人々がどうなろうとな。ま、この馬鹿のことだけは、気に食わなかったから最後の花向けをしてやったが」
アベルは肩を竦めてから、唖然と口を開けたままのクロードを冷静に見下ろしている。僕はため息をついてから、クロードに向かって手を差し伸べる。
「クロード……もう行くぞ……これから僕は最後にやることがある。見届けてくれ」
「……ああ、主よ……」
「おい、クロード……」
「仕方ねえ、一発ぶん殴るか!!!」
アベルはニッと笑ってから、崩れ落ちたままのクロードに一発殴りかかった。クロードは地面に簡単に転がり、ゆっくりと起き上がってから目をパチパチとさせる。
「いっちょあがりって奴だな!ははははは!」
「おいおい……」
僕はもう一度倒れたクロードの方に行ってから、クロードに手を差し伸べた。
「ほら、行こう。光の創造主と一緒に帰るぞ」
「……ああ……」
クロードはようやく僕の差し伸べた手を取った。
その瞬間、白い世界は強い光に包まれて消えていった




