第31話 ルシファー
僕とルシファーがだだっ広い草原を歩いていると、ふと最初に言われた言葉を思い出した。
(待てよ……?最初にここは体験するための場所だと言ってなかったか?ルシファーは闇の創造主に僕をあの領域に入れるように頼んだと言っていたよな?変だ……敵対する関係なら、どうして光と闇の創造主二人で話し合ってるんだ?)
僕が考えていてもルシファーが無言のまま進んでいるため、僕は恐る恐る声を掛けてみる。
「なぁ、ルシファー……」
「うん、何だい?」
「最初にこの世界に入る時、「体験するだけだ」って言ってたよな?」
「言ったねえ……」
「……さっきの闇の創造主の夢ってまさか教訓か?喋る知識の本といい、僕がほだされそうになったことといい、エルバの存在といい……まるで「舞台」のように出来すぎてるようにしか思えないんだが」
「エルバだけは本当だよ。あとはまぁ……作り物だね」
「…………」
僕は思わず押し黙ってしまう。ルシファーは僕の方をジッと見てから、ニヤリと笑った。
「どうだい?怖かっただろう?「僕の舞台」は!」
「おい!!!ちょっと待て!!!」
「ははは!!!いやー、やっぱり君って本当純粋だよね。僕がそう設定したんだけどさ、本気で怖かったろう?ちなみに「振り返らずに進んでね」ってことは本当だよ。あれは皆へのメッセージだ。僕たちからのね」
「……光と闇の創造主からのか?」
「まぁ、そうだね。彼とは色々とあったけど、結局本来の勝負を皆が見てくれないんだから、今のところ彼とは休戦中なんだ。実は天界の会議で起こったのは「光と闇の休戦協定」って奴さ。人間達が好んでやるけど、僕たちのはもう……遊びを放棄しちゃった感じだね。結局全て「遊び」には変わりないんだけどさ。「光と闇の取り合い」はまだやってるよ。闇の彼が恐ろしいのも本当だ。だって僕だからね。でも……僕たちの方に集まる人が少ないんだよね」
「結局……「サーカス小屋が問題」なのか……」
僕が項垂れると、ルシファーは緑の目をスッと細めて肩を落とした。
「……鶏と豚をこんがり焼いたらおいしそうだよね」
「…………」
「丸焼きがいいかな?それともバラバラにしちゃうのがいいだろうか?君はどう思う?」
「いや……どっちでもいいんじゃないか……それよりさっきの舞台は本当に怖かった……知識の本といい、本当に闇の創造主に魂ごと喰われるかと思っただろう……」
「まぁあれは、「警告」ってやつだよ。気をつけなよ?君は純粋心を狙われやすい。危なくなったら僕が君を助けには行くけどさ。できるだけ自分で気づいた方が良い。何かを知ろうと思う心の行く末が分かっただろう……失っていた方が良い記憶もあるんだよ。あれは、君にエルバの存在を伝えるためにやっただけなんだけどね」
「エルバは僕の傍に居たのか……全然気づいていなかった」
「彼女も巧妙だからね。君にずっと知られないようにしていたんだ。彼女の存在を知ってくれるだけでいいんだ。彼女は君をずっと思ってるんだから。見えないところでね。大切な子だよ。彼女を昔、君は傷つけようとした……」
「はぁ!?いつだよ!?」
直ぐに聞き返すと、ルシファーの目はジッと僕を見つめたまま、冷静な表情を見せた。
「彼女をいじめただろう。彼女に対して……攻撃しただろう。彼女なんて醜いと君が言ったんだ」
「だからいつだよ!?エルバとは家に行った時が初対面だぞ!」
「もう昔の話だから……これは今の話ではないけれど……でも僕は覚えているよ。彼女に対して攻撃した時のことをね。彼女は攻撃されることも分かった上で君と一緒にいたんだ……君は天界で誰のことも拒絶していた。彼女は君をずっと気にかけていた……心配していたんだよ。だから彼女自身が今回君を守ることを志願してくれたんだ。彼女は、本当は優しいんだよ……でも君は昔彼女を傷つけたんだ」
「……全然覚えてない」
僕が小さく返すと、ルシファーは肩を竦めてからやれやれと首を横に振った。
「そうだろうね。昔の話だし……このことが悪いことだとは言っていない。でも……君に彼女の存在を気づいてほしかったことだけは確かだ。彼女をあまり責めないでやってくれ。彼女はわざと「子供の姿」を纏っているだけだよ。本来の美しさなんて……誰にも分からないんだから……彼女を醜いと決めつけるのだけはやめてくれ……」
「……僕は彼女を醜いと言ったのか?」
「うん……大分昔の話だけどね。彼女は君の相棒だ。それだけは気づいてくれ……君が彼女に蝋燭を灯してくれて本当に嬉しかったんだ……だから僕があそこで現れた。天使の姿を見せてね……最も僕が嬉しかったから……現れたんだ」
エルバの蝋燭に火を灯した時のことは今でも覚えている。エルバは孤独に泣いていた女の子だった。僕は彼女に火を灯したのに、昔彼女を傷つけてしまったのだろうか?
ルシファーは静かに笑う。
「大丈夫。君たちはうまくやっていけるよ。これからもね。僕が君たちを守り続ける……どんな時だって僕が傍に居る。それだけは忘れないで……僕は君たちの友達だ。僕は君たちを無条件で愛している……どれだけのことがあろうと、僕はずっとそばにいるよ」
「覚えていないが、天界でエルバを傷つけたなら、謝らないとな……」
「もう彼女には十分伝わっているよ。セリオン、君の気持ちはね。君は気づいていないかもしれないけど「綺麗な光」なんだよ。闇の僕まで君に興味を示すくらいに……だからただ光に気づいてほしかっただけだ。彼女の光も同時にね……」
「僕はエルバの存在をようやく今、気付いたんだな……」
「そうだ。彼女のことを大切にしてやってくれ。エルバは既に君を無条件に愛しているから……後は君だけだ。君だけが彼女に気づいてくれ。後はもう……分かるだろう?」
「……そうだな。分かった。すまなかった……」
「はは、もう大丈夫だよ。君たちが大変な思いをすることを分かって、僕はこの世界に送ったんだから……そうだ。後は闇の僕のことを、あんまり信用しない方が良いよ。わざと言うけどね」
「休戦協定してるんだろ?」
僕が聞き返すと、ルシファーは肩を竦めてからフッと笑った。
「確かにね。でも闇の僕の狂気は本物だよ」
「闇の創造主の正体は獣の「セリオン」……なんだよな?」
「神聖な獣がセリオンだったけれど、皆セリオンにすら気づかなくなってしまったんだから……これもまた舞台の結末なのかもね。壮大な舞台を僕たちは演じていた……でも皆僕たちに気づかなくなってしまった……ああ、「闇側が知識で釣って、奈落の底に落とす」のは本当だからね。「教訓の舞台」を君に演じてみせた。知識を追い求めればどうなるかが身に染みて分かっただろう」
「夢の中の喋る知識の本は……恐ろしかったな。闇の創造主様が最も恐ろしいが。僕はあれほどの役者を見たことがない」
「はは……そりゃあ結局は「僕」だからね。「1人舞台」ってことが重要だ。ああ、そうだ!この「知識の本」に君が知りたがっていた天界の話が全て書いてあるよ。読んでごらん」
ルシファーは笑顔で僕に分厚い本を突然手渡してくる。僕が首を傾げてから分厚い本を広げてみると、中から沢山のアヒルのおもちゃが飛び出てきた。思わず「うわあ!」と後ろにのけぞってしまう。アヒルのおもちゃ達は鳴き声を上げて子供の声で語り出した。
「ぐわっ!ぐわっ!僕は「知識」だよ!ぐわっ!!!君は真相を知りたいのかい?どうしても知りたいのかい?ぐわっ!!!」
「悪かったよ!!!知らない方がいいこともあるんだろ!?」
「ぐわっ!今のはそういう意味ではないんだ!僕だって聞かれたら答えるしね。でも知識の出所が問題だ!ただそのことに気づいてほしかっただけだ!この世には「ニワトリ言葉」で書かれた本が沢山あるんだ!だから君自身の中から見つけてくれ!外に何かを求めないでくれ!「今までの話すらも捨て去って」「一から僕を見つけてくれ」!全部全部捨ててくれ!この話すらも捨ててくれ!お願いだ、全部捨ててから考えてくれ!君の自由意志で考えてくれ!」
「外に何かを求めると、ろくなことにならないのは確かだな……サーカス小屋が良い例だ」
知識の本の中からはまだまだアヒルのおもちゃが沢山あふれ出てきて、子供の声で騒いでいる。
「お願いだ!捨ててくれ!この話すらも捨ててくれ!!!大丈夫!君なら絶対一から見つけられる!僕のことを見つけられる!君の中に潜ってくれ!この話を「知識」で理解しないで!君の魂で考えてくれ!君なら必ず……必ず僕を見つけられるから!本当は、知識なんていらないんだよ!君の中から見つけられる!必ず見つけられるから!ここまで読んでくれてありがとう!僕からの感謝の言葉だ!この話はそろそろ終わりを迎えるけれど、その後は君が見つけてくれ!この話すらも捨ててくれ!!!全部全部全部捨て去って!君の中から見つけてくれ!ここは「道しるべ」に過ぎない!君だけで見つけて!」
「あー……アヒルたちは誰に言ってるんだ?」
僕がルシファーの方に顔を向けると、ルシファーはフッと悪戯気に笑った。
「僕が伝えたい人にだよ。これで伝わっただろう……行こうか。仲間の皆がどうなっているか知りたいだろ?」
「僕と同じ目にあっているのか?」
「はは……そうだね。皆に「教訓」の舞台を演じてみせている。ここは体験する場所だ……この世界の最初はね、「闇が獣を演じ、光が救世主を演じていた」のは本当だ。でも世界の途中から鶏が入って来たんだ。だから救世主の意味が違う意味になってしまった。馬車で見ただろう?昔、僕はシオンをこの世界に救世主として送った……でもニワトリたちが一斉攻撃を彼にして……彼すらもここに囚われてしまった。その後は結局、人間達に魂に刻ませるように気づかせることしかできなくなってしまった。さっきの「闇の僕からの舞台」のようにね」
「なぁ……僕は天界で闇の創造主に着いてしまったと聞いたが、それは本当か?」
「君の罪の意識の出所が、何処なのかがか気になるんだろう?」
「ああ……それだけは教えてくれないのか?」
ルシファーは僕をジッと見つめてから、静かに微笑んだ。
「僕はヒントを今までに出してるよ。それで大体わかるんじゃないかなあ……」
「はぁ?闇の創造主に着いたからじゃないのか?」
「いいかい。それすらも「舞台」だからね……天界でも結局はこの世界と似たようなことが起きたんだ。実は天使たちは天界が「舞台」であることを忘れてしまったんだ。君の仕事が象徴しているだろう?」
「……1人舞台か?」
「うん、そうだ。この話の一番重要な所だね。君は特に舞台に入り込みやすかった……僕たちは最初は遊びの気持ちだったけれど、君があまりにもはまり込んでしまったから、途中から君を助ける方向に変わったんだ。ここまで迷わせるつもりがなかったことだけは本当だ。天界の知識すらも「舞台」の話に過ぎないんだよ。全ての脚本は僕が持っている。見せてあげよう!」
ルシファーが指をパチンと鳴らすと、分厚い本が再び現れた。ルシファーは天高く本を空に上げて、指をパチンと鳴らした。本はアヒルのおもちゃに変わり、「天界の知識すらも幻だ!!!」とアヒルたちは声を上げながら降ってくる。
僕が呆然と見上げていると、ルシファーは片手を大きく振った。
「バイバイ!天界の知識!!!バイバイ!罪の意識!!!この舞台脚本に名前をつけるとしたら、僕は……『悲劇のパラノイア』と名付けるだろう!それは僕からの言葉だ。この世界は壮大な演劇だった……僕は人々に楽しんで貰いたかっただけだ!楽しめたかい?この舞台脚本を……壮大な舞台を!!!」
「……天界の話すらも……今となっては幻なのか……」
「うん、そうだ。ただそれだけのことなんだ。舞台『悲劇のパラノイア』はそろそろ終わりを告げるだろう……楽しかったよ!この世界!!!さようなら!!!僕はこの世界の題名をここに残して、この世界から去るよ。さぁ、行こう。皆の様子を見たいだろ?」
僕たちは再び歩き出した。後ろを何となく振り向くと、人の姿をした闇の創造主がニッコリ笑って立っている。僕が先ほどの蛇の姿を思い出したじろいでいると、闇の創造主はけたけたと笑って僕に話しかけてきた。
「いいかい。『悲劇のパラノイア』は光の僕がつけた舞台脚本名だからね。僕の場合は逆だ!」
「あー……何だ?」
「そうだねぇ……『喜劇のパラノイア』とでも言おうかな?結局は何もないんだから!さて、そろそろ闇の僕の方は、僕の民の船に向かうよ。君がエバをどうするか……楽しく見させてもらおう。あー楽しみだ。君がどうするか楽しみだ!全て分かっているんだけどね。楽しかったよ、セリオン!ちなみに……君のことをずっと取ってやりたかったのは本当だよ……」
闇の創造主は蛇のように舌を出して、不敵に笑い出す。僕が思わず冷や汗をかいてると、光の創造主は首を横に振った。
「もういいだろう?君もさっきの答えで諦めがついたはずだ。恐ろしいことになるかもしれないとセリオンに「教訓」として教えてくれたのには、一応ありがとうと言っておくよ」
「彼は何処までも純粋だった……惜しいとまだ思うんだよね……魂を取って喰いはしないけれど、セリオンの魂を閉じ込めたいのは本当だ。惜しいなあ……セリオン、本当にこっちに来なくていいの?」
闇の創造主は目を細めて、けたけたと笑っている。僕はぶんぶんと大きく首を横に振って、大きく叫んだ。
「これが全て貴方達の舞台ということは身にしみてわかったから!!!僕で遊ぶのはやめてくれ!!!」
「あはははは!!!本当に君はいつまでも「舞台」から卒業できないよな!!!あー面白い。僕のおもちゃ達……最高に馬鹿らしいけど、愛してるよ。セリオンに関しては惜しかった!折角このゲームに気づいてくれたのに!ああ、惜しいなあ……」
「もういい!やめてくれ!!!僕は光の創造主と一体になる!!!」
「ちぇっ。分かったよ……退屈だと思ったらこっちに来るんだよ?僕は歓迎するから……別の世界の夢の中に閉じ込めてあげよう!ちなみに今度のストーリーはもっと敵が強大な予定だ……結構案はあるんだけどね、少なくとも数千通り以上はあるんだけど、どれがいいかなあ……」
「そっちとは関係ない!僕をもう巻き込まないでくれ!!!」
僕が叫ぶと、闇の創造主は大きくため息をついてからやれやれと肩を竦めた。
「あー退屈だ……次はどんな脚本にしようかなあ……もう決まっているんだけどね。あー退屈だ……」
闇の創造主は「退屈だ」と話しながらようやく去って行ってくれた。僕が息を荒げていると、光の創造主は面白そうに笑う。
「彼は随分と君を気に入ったようだね。壮大な舞台を演じたかいがあったかな……君は身に染みて彼の怖さを分かっただろう。ただ……彼は君の涙を見て執着したようだけど」
「おいおい……」
「まぁ、だから先に光の僕が取っておいたんだけどね。後、あんまり闇の僕は信用しないでくれ。結局休戦しながらも「戦い」はしているんだしさ」
「もう何なんだよ……いや……1つ分かったことがあるな。これが「壮大な舞台」ってことがよく分かった……」
「やっと気づいてくれたか!だから天界の知識すらも幻なんだよ。この世界の操りの首飾りもただの「幻」なんだ。この世界は「僕の書いた脚本」に過ぎないんだから!舞台ステージはそのままで……僕たちは去るだろう。あー先に君を取っておいて良かった。闇の僕が君を気に入ることは分かっていたから」
「…………」
あれほど恐ろしい舞台を体験させておきながら、結局は「1人舞台でした!」と言われると、何も言えなくなる。ご丁寧にこの世界の脚本名まで出して、鏡の創造主と逆の名前「悲劇のパラノイア」にするなど……
後はもう僕がやるべきことをやるだけだろう。この世界に結末をつけなくてはならない。
僕たちは、他の仲間の様子を見るため歩き出した。
***
ルシファーに連れられて少しの間進むと、大きな円卓のテーブルが出てきた。白いテーブルに青いテーブルクロスがかかっており、円卓の周りには沢山の椅子が並べられている。
ルシファーは一番奥の青い椅子に座り、僕に近くに座るように促した。
「座ってくれ」
「……ああ」
僕がルシファーの隣に座ると、ルシファーはニコニコと笑顔で僕の方を見てきた。
「さて、教訓の話はこれくらいにしようか」
「結局神話って……教訓の話だったのか?生命の樹の話は……」
「人間達にとって分かりやすく伝える方法って、結局は「お話」でだからね。物語が一番伝わりやすいんだ。1人舞台で物語を演じていた君ならよく分かっているだろう?例え実話であろうとなかろうと、物語の方が人には伝わりやすいよね」
「……そうだな。結局神話は神様を見つける材料に過ぎないってことか?」
「うん。わざわざ神話を暗号のようにしたのも、それをきっかけに内に入って考えて欲しかったからだ。教訓と君のような天使の話も交えながら、人々の魂に響かせたかったんだよね。勿論神話には「リスク」もあった。人々が固定価値観でいつまでも別の方向ばかり見てしまうことだ」
ルシファーは指をパチンと鳴らした。その瞬間目の前には「神話」と書かれた分厚い本が出てくる。ルシファーは退屈そうに本をペラペラとめくった。
「この本を書きあげるのは、人々にとって大変だっただろう……そしてこれは今も出回っている本だ。君はあんまり見たことがないよね。学校で習ったくらいだろう」
「ああ。村の学校でほんの少し習ったよ。創世記くらいしか知らない」
「創世記はかなりのヒントを込めたからね……後は「最後の審判」の話もかな。結局これは材料にしか過ぎない……逆に悪用する人もいるだろうと思うことは分かった上で、僕はこの本を地上に降ろしたんだ。暗号を解読するうちにエゴが破壊されていく……その気持ちがこもっているよ」
「それにしては……難しすぎないか?抽象的に書かれているよな」
「「暗号」は簡単に解けちゃつまらないじゃないか!世界一大イベントのことを、簡単に読み解いてもらっちゃ面白くないからね。簡単にしすぎると、悪用されてしまう。「知識」として頭に入れてしまい本当に気づいてもらいたいところに気づかずに、おもちゃの玉座の前で迷ってしまう可能性が増える……人間達は知った気になりやすい。それにさっきの君のように「知識」を知ろうとして、闇の者に取られそうになることだってあるんだ」
「それは……身に染みて分かったよ……」
僕が肩を落とすと、ルシファーは「ははは」と楽しそうに笑った。
「まぁいいんだけどね。人間達が最もハマりやすい罠を、創世記に込めたんだから」
「結局……僕は天界で何かをやらかしはしたんだよな?」
「舞台の上でだけどね。君が罪だと思い込んでしまったと言っただろう?結局光と闇の僕たちの遊びに過ぎないんだよ」
「……そうか……どっと疲れてきた……」
「ははは!まだやることが残っているだろう?アーデルとマリアを何とかしないとね」
「ああ、そうだな……アーデルは本当に無事なのか?」
「ここは天界に近い場所だ。時間の概念はないよ。ここから出たら直ぐにアーデルのところに行ける。まずは皆の様子を見てみようか。それぞれに見せられている「教訓の舞台」が見れるよ。さてまずはこの人からだ!」
ルシファーが指をパチンと鳴らすと、空中に景色が映る。明るい飲み屋の空間が映ったため、直ぐに誰の「教訓の舞台」か分かった。
「……飛ばしてくれ」
「えっ、せっかくだから見ておこうよ」
「見なくてもいい!どうせ……」
突然目の前にどどーんと、沢山の女の後ろ姿が見える。女たちは赤いドレスを着て、音楽に合わせて腰をふりふりと振っている。どんどん目の前に立派な尻が近づいてきて、遠くからエダンの声が響き割った。
「最高だ―!!!お嬢さん!!!俺と一夜を過ごしましょう!!!」
エダンは女の尻に向かって突撃していく。しかし女の尻をエダンが掴もうとすると女は煙になって掻き消えていく。エダンは絶望したような顔をして辺りを必死に探し出す。
「お嬢さん!?またも尻を掴めないのですか!?お嬢さん!!!俺のご立派はいつでも準備万端ですよ!!!どうして掴めないのですか!?お嬢さーん!!!」
「いいから飛ばせって」
「まぁまぁ。もう少し見ておこうよ」
「エダンと女の尻をじっくり見ていてどうする!今は深刻な事態なんだぞ!」
「だから舞台だって言っただろう?君は直ぐに舞台に入るからなあ……」
ルシファーはフッと笑ってから、空中の光景を見る。エダンの嘆きの顔が見えた後に、奥には明らかに闇の創造主が赤い椅子に座っていて、大きくため息をついている。
「あー退屈だ……なんでこいつの対応までしなきゃならないんだ……あー退屈だ……こんなのひっかけても楽しくないじゃないか……あー退屈だ」
「闇の創造主もああ言ってるぞ……」
「唯一何も効かない相手だからねえ……あっ飲み屋に客が入ってきたようだね」
飲み屋の光景はまだ続き、奥から沢山の黒い服を着た男達が入って来る。エダンに向かって必死に罵倒しはじめる。
「おい!!!このくそ野郎!!!邪魔なんだよ!そこどけよ!」
「えっエダン様は最高にハンサムだと?ははは!!!嬉しいぞ!!!」
「お前は醜いんだよ!!!よくそんな顔でこの店に来れたな!!!」
「そこまで……そこまで俺を褒めてくれるとは!!!一緒に飲まないか!?今女の尻を追いかけているんだが、どうにもこうにも掴めなくてな……協力して掴もうぜ!!!」
「…………」
ついに黒い服の男達は黙ってしまって、闇の創造主に助けを求めるように視線を送っている。闇の創造主はため息をついてから此方に目線を向けて話しかけてきた。
「光の僕。この光景は必要ないだろ?結果なんて誰が見ても分かるだろう」
「ははは!でも楽しいだろう?」
「唯一光の僕に対して、訳が分からないところだな……これほどまでにつまらない男を作るとは……楽しくないじゃないか!闇を光に変えてしまうなんて」
「僕にとっては最高だけどな?ある意味では単調だけどね」
「はぁ……退屈だ……ああ、また筋肉か……」
闇の創造主がエダンの方向を見ると、何故か女たちの前で上半身裸になり、女にアピールし始める。
「どうですか!お嬢さん!!!俺のこの筋肉を見て下さい!尻を振るのもいいですが、俺は何故か貴方の尻を掴めないようです!貴方達から俺にやって来てほしいのです!!!」
「いやよー!エダンさん!」
「おおっどうしてですか!?ああ、分かりました!!!俺のご立派を見たいんですね!!!さーて!!!行きますよ!!!」
エダンは満面の笑みでズボンを脱ぎ始めて、パンツに手をかけたところで、僕が大きく叫んだ。
「もういい!!!次だ次行け!!!」
「え、今から面白いのに?」
「面白いわけあるか!!!次だ次!!!」
「……はぁ、分かったよ」
エダンの全てがさらけ出しそうになる瞬間、ルシファーが指をパチンと鳴らしてくれたため、ようやくエダンの光景は消えた。
僕はため息を大きくついてから、首を横に振る。
「エダンのなんて、見なくても分かるだろ……」
「ちょっと真面目になりすぎていたから、崩すのには丁度いいかなあって」
「まぁ、確かにそうだな。あいつは見た瞬間に全てが崩れ去るよ」
「ははは!最強だろ?さて、フレデリカは君が救ってくれたから教訓の舞台はさせていない。ジャックは今クリアしてくれたから、最後にはレオを見ようか」
「ジャックはクリアしたのか?」
「うん。彼にとって辛い舞台だったけどね……村の出来事を舞台に彼に見せたんだ」
「もしかして……ジャックが村の皆から「お前は弱い」と言われたことか?」
村でジャックが女にモテていたのに、村に来た野蛮な男から逃げた瞬間、村の皆から馬鹿にされたことを思い出して言うと、ルシファーは切なげに笑った。
「うん……彼は自分が弱いと思う気持ちを背負ってしまった。自分は女性も守れない弱い男だと思ってしまった……ジャックも一時期は闇の舞台に取り込まれた。村の皆から責められ続けられてしまった……でもそこに、君が来た」
「……僕が?」
「そうだよ。君が故郷の村に帰ったんだ。君は気づかないうちに彼の光の道しるべとして、彼を導いたんだ。彼はエダンのことも慕っているけれど本当は君とも、もっと仲良くなりたいと思ってるんだよ。君が彼の光になったんだ。だからありがとう」
「いや……僕は何もやっていない。どっちかというと導いたのはエダンの方だろ」
僕が直ぐに答えると、ルシファーはフッと笑みを見せた。
「君はジャックに教えたじゃないか。村の外に出ると色んな危険な事があるよって。気づかない内に彼の価値観を壊していったんだよ。ジャックは君のことがずっと羨ましかったんだ。君は1人で村から出て行ったからね」
「まぁあの時は……僕も必死だったからな」
「そうだね。ジャックは村を出る勇気が持てなかったことに、ずっと……自信をなくしていたんだ。自分が悪いと思い込んでしまった。君が先に村を出て先頭として歩くことで、道を示したんだよ。エダンにもだけど、彼は君のことを思っているよ。君はあまりジャックとは話していないけれどね」
「そうだったのか……」
「うん。その気持ちだけ気づいてくれたら良かったんだ。君はレオの方に気にかけているようだったから」
確かに……ジャックとはあまり話していなかった。村に居た時にジャックが女にモテていたから何となく嫌だったし、その気持ちは未だに引きずったままだったのかもしれない。だが今となってはそれすらも幻だ。
「そうだな……僕はジャックのことをまだ何処か、避けていたのかもしれない。もう少しジャックと話せる機会があったら良かったな……」
「気づいてくれたなら、それでいいんだよ。さぁ次はレオの教訓の舞台を見ようか」
「レオか……母親関係か?」
「そうだね……彼はずっと彼女のことを背負い続けているから……闇の僕は母親のふりをして彼を誘ってくるだろう。彼が求めているのは……自分を優しく包んでくれる母親なんだ……」
「…………」
何も言えなかった。僕も同じだからだ。母さんが死んで、死ぬほど辛い思いをしたから良く分かる。だがレオに起きたことはもっと辛いことなのだろう。母親から捨てられるなど、僕にとっては考えられない。ルシファーは目を細める。
「レオの課題は「母親」だ……レオの母は彼を捨てた。彼を見なかった……最後の最後まで……彼の役割に気づかなかったんだ」
「役割?」
「そうだよ。彼は光の役割として家族の元に行ったんだ。なのに母親はレオを否定した。お前など光の役割ではないと否定し続けた……社会に押し込めようとした。彼が本当は……彼こそが……」
「彼こそが?」
「彼女が唯一気づくことが出来る、光だったんだよ……さぁ……見てみようか。レオの悲しみは母親から来るものだ。最後に彼女との繋がりを断つんだ……もうそれしか方法が残されていない」
「まさか母親とレオを引き離すのか?」
「仕方ないんだ……今回が最後のチャンスだったから……彼女はまたレオの方を見なかった。これで最後だ……彼女とレオの繋がりは……」
ルシファーは目を伏せてから、指をパチンと鳴らした。空中には暗い部屋に立っているレオの光景が映る。レオは辺りを見回しながら焦ったように声を出した。
「ここは……何処だ!?おい、今まで居た闇の創造主は何処に行った?」
レオは沢山の椅子が並んでいる場所で辺りを見回した。白い衣装がどの椅子にも掛けられている。レオは白い衣装を手に取ってから首を傾げる。
「……これは?」
「それは貴方の為の衣装よ、レオ」
前に見たレオの母親が奥から笑みを浮かべて歩いてくる。レオは目を見開いてから、後ずさった。
「母さん……何でここに……」
「あら、レオ……貴方を迎えに来たのよ。男の人の元に行ってごめんなさい……私ようやく分かったのよ……貴方を見てあげるべきだったわね……さぁ、その衣装に身を包んで……行きましょう?彼が待っているわ」
「彼って誰だよ!?」
「私にとって、とても大切な人よ……彼は皆の導き手……私たちを真の愛に包みこみ、愛の全てを教えてくれるのよ……彼は沢山の人々を真の愛で救ってくれたわ……私も救われたの……白い衣装は彼と共に居る証……さぁ身を包みなさい。私は愛にようやく気付いたのだから」
レオの母親はニコニコと笑って白い衣装をレオに手渡した。レオは呆然と受け取りはしたが、眉を顰める。
「何か……怪しくないか?まさかサーカス小屋じゃないよな?」
「あら……サーカス小屋ってなあに?」
「サーカス小屋はな……胡散臭い言葉ばかり言うんだ。「真の愛」だのなんだの言って、人々を牢獄に閉じ込める場所だ!!!この世は愛で出来ているとか、馬鹿みてえなことしか言わねえんだ。母さんまさかそこに行ったんじゃないよな!?」
「いいえ。私は正しい場所に行ったのよ。貴方も行けば分かるわ……仕方ないわね……一度見学しに来なさい。まだ衣装に身を包まなくていいから、行ってから考えなさい」
「…………」
レオは不審そうな表情はしたが、渋々母親の後に着いて行く。
進んでいくと段々と人通りが多くなり、歓声が鳴り響き始めた。広がる光景を見て驚愕する。
沢山の椅子が立ち並び、人々が恍惚とした表情で座っている。奥には大きな台があり白い布がかけられていて、教壇にかけられた布には「愛」と大きく書かれている。
白い衣装を着た男が笑顔で教壇の前に立っており、何故か男の傍にはクロードが恍惚とした表情で立っていた。
僕は思わず呟く。
「何でクロードがあそこにいるんだよ!?サーカス小屋は廃墟に見えてたはずだ!」
「ここはサーカス小屋よりも特殊な場所だよ……正義感で出来上がった場所だ……真の愛と人々に愛情を持って接すること……それが彼らの信義だよ。寄付活動をして貧しい人々を救い続ける……クロードもまた……捕らわれてしまった」
「アベルはそれを救おうとしているのか!?」
「うん……クロードは天使に狙われてしまったから……天界でね。アベルはずっと必死にクロードに呼びかけ続けていた。でも駄目だった……だからアベルにとってもこれは最後の賭けなんだよ」
「天界で……一体何が起きたんだ……」
「迷ってしまった天使たちの仕業だよ。クロードはいつしか神の声が聞こえなくなってしまった……光と闇の僕からの声も聞こえない。彼は天使たちが作り出した「仮初めの愛」に捕らわれてしまった……一部の天使は僕たちのやり方に反発したからね……彼らなりに閉じ込める方法を思いついたんだろう……」
光景を見続けていると、レオは動揺した表情を見せている。レオの母親は涙を流して、白い衣装を着た男を仰いだ。
「ああ、素晴らしいお方よ!あのお方こそ……救世主なの!人々にとって大切な愛を伝え、貧しい人々を慈悲深く救ってくださるわ……私たちのような平民にも愛を下さるの……やっと真の愛を見つけたのよ!!!」
「母さん……明らかに狂ってるじゃないか!!!何だよここは!!!」
レオが叫んだが、その声は椅子に座っている民衆たちの歓声にかき消されてしまう。女の声が響き渡る。
「あのお方こそアラルド王国の真の王よ!!!ああ、素晴らしい王様!!!私たちの王よ!!!」
「皆の者……静まりたまえ」
王と呼ばれた男は笑顔で手を前に出すと、全員項垂れた。傍に居るクロードも地面に突っ伏すようにひれ伏す。その瞬間、ルシファーは目を細めた。
「知っているかい?君はアラルド王国の王様の姿を見たことがないだろう。彼がこの国の王様だよ」
「何だって!?顔までは知らなかった……」
「彼がこの国の頂点だ。そして……迷った天使でもある。もう僕の言葉は聞こえもしない。天使とも呼ぶことができなくなってしまった、魂の生命体だ。わざと闇の僕はレオの母親の姿を纏って、アラルド王国の本拠地に行っている。レオが気づくことが出来れば、試練はクリアだ」
母親は恍惚とした表情をして歓声を上げている。アラルド王国の王は、笑顔で両手を広げた。
「さぁ、真の愛によって目覚めましょう!!!我々は愛の国に住んでいるのだから!私たちは愛と慈善によって救われる!皆の者立ちなさい!これから寄付金を頂きます。頂いた金貨は、貧しい人々のために寄付されます!!!安心してください!愛によって世界は救われるでしょう!」
王が言った瞬間、人々は血眼になって金貨の入った袋を持ち上げて、寄付金箱に一直線に走っていく。クロードは恍惚とした表情で王を見つめて叫んだ。
「ああ、王よ!!!貴方様こそ真の正義でございます!!!」
「ははは、クロード公爵。君はこの国のためによく働いてくれたね。さぁ私の元に来なさい……」
「はっ……有難きお言葉……」
クロードは泣きながら、白い服を着た王様に抱きしめられている。白い服を着た王は「安心しなさい、ここに居れば安全です」と何度も囁いている。
レオは青ざめた表情をして呟いた。
「何だよ……この狂った光景は……」
「あら、レオ……素晴らしい光景でしょう?さぁ、私たちは愛によって救われるわ。貴方も白い衣装に身を包みなさい……愛しているわレオ……」
レオの母親はレオを優しく抱きしめる。レオはとても辛そうな表情をしてから、母親を突き飛ばした。
「違う……お前は……母さんじゃない」
「どうして?私は貴方の母さんよ。貴方を愛しているわ」
「母さんは……母さんは俺に優しくはしない。もうその事実は……ルシファーに導かれて深層心理に入った時によく分かっている……お前は違う。どうせ悪魔だろう?」
「違うわ!私は本当に改心したのよ!さぁこの白い衣装に身を包みなさい……全て救われるわ……貴方を愛している。心の底から愛しているわ!!!」
レオの母親は必死に叫んだが、レオは悔しそうに唇を噛んでから、首を横に振った。
「違う……違うんだよ……そんな母さんを見たいわけじゃなかった……俺はずっと母さんを救いたかったんだ……だから貴方のもとにやってきた」
「レオ……だから私は……」
「違うんだよ!!!お前は母さんじゃない!!!見くびるなよ!!!俺には分かるんだよ!何度も何度も母さんに無視されてきた!いや……お前が母さんであろうとなかろうと、俺たちの関係はここで終わりだ……その持ってる衣装をよこせよ!!!」
レオは母親から白い衣装をひったくった。レオはその瞬間白い衣装をビリビリに引き裂いた。服は薄い布で出来ていたらしく、簡単にバラバラになっていく。レオの母親は悲鳴を上げる。
「きゃあああ!!!なんてことを貴方はしてくれたの!!!それは……それは!!!」
「何だってんだよ!こんな衣装……狂ってやがる!!!俺はもう二度とこんな衣装に身を包んでたまるか!!!何が神聖だ!!!何が愛だ!!!ふざけんじゃねえぞ!見くびんじゃねえぞ!!!俺は俺でしかねえ!!!もう二度とこの衣装には身を包まねえ!!!お前とはここで終わりだ!!!闇の創造主!!!」
レオが叫んだ瞬間、母親はぐにゃりと曲がって、いつもの闇の創造主の姿を見せた。
闇の創造主は不敵な笑みを見せる。
「あーあ。気づかれちゃったか」
「直ぐに分かる……俺はお前に知識で釣られたことがあるんだ……俺が生まれるよりもずっと前の昔にな」
「ははは!ようやく思い出したかレオ!!!大昔、君は神の知識を求めていたね。だから僕がこっそりと教えてあげたんだ……君は禁断の本を開いた……それは僕からの罠だった……」
「そうだ覚えている……あの時のことは……俺は大昔、この国のくそったれな王座に居た。俺は毎日暇だった……つまらなかったんだ。この世界が作られたものだって直ぐに分かった。だから俺は独自で神を探し始めた。だけどな……最後にはてめえが居たんだよ!!!」
レオは怒りの表情で闇の創造主に罵倒する。闇の創造主は蛇のような舌を見せて、くすくすと笑った。
「だから警告したのに……僕は君が知ろうとする前にちゃんと警告していたんだよ?なのに君はまんまと僕にのったんだ。あー面白かった。君は綺麗だったから墜としたかったんだよね」
「ふざけんなよ!!!ふざけんじゃねえ!!!俺が……俺がてめえのせいでどれだけ迷ったか!!!何でてめえが創造主の名を名乗ってんだよ!全然違うじゃねえか!!!お前なんて創造主じゃねえ!!!」
「そろそろ認めなよ。僕だって創造主だ。僕は遊びを求めていた……刺激を求めていた……セリオンの次に僕が目をつけたのは君だった……だからこそ、セリオンは君のことをとても心配してくれてるんだよ。だってまんまと同じ罠に引っかかったんだから!!!君は僕を選んだんだ!!!僕が天界の知識を教えると言ったら、簡単に光の僕を裏切ったんだよ!!!あはははは!!!あー面白い!!!」
「……っくそ……ふざけんなよ!!!この野郎!!!」
レオは創造主を殴ろうとする。だが創造主は簡単にレオの拳を交わしてしまい、その瞬間蛇の姿に変わる。蛇は辺りを回り、楽しそうに笑い出す。
「面白い!君は本当に面白かった!この国の玉座に着く人は、皆お人形のように言うことを聞く奴しかいなかったからな!君の行いで、最終的にこの国は馬鹿な天使に乗っ取られてしまった!君が僕に勝てば、この国は神聖なままで居られただろうに!あー君はやってしまったね!」
「そもそもてめえが、俺を知識で釣ったんだろう!?てめえの責任だ!!!」
「でも僕はちゃんと忠告したよ?最初に必ず忠告するんだ。優しい僕だからね。「本当に大丈夫?君は変わってしまうかもしれないよ?」その言葉を聞いても君の目は欲に満ちていた……何かを知りたいと思う心に急かされた。そんな欲深い奴、王にふさわしくないじゃないか!だから僕は墜としてやった!真っ逆さまに!!!君から神聖な子の名前を取ったんだ!」
「……っくそが……くそったれ野郎が……」
レオは悔しそうに地面に拳を打ち続ける。蛇は楽しそうにレオの周りを回っている。
僕は何も言えなくなり、呆然と呟くことしかできない。
「レオは……僕と同じ罠にはまったのか……」
「そうだ……君と同じ罪を背負ってしまった……罪を背負ったと思い、迷ってしまった。彼は昔この国の王だった。この国は元々は神聖な国だった。でもレオが堕ちた途端、ひっくり返ってしまった……闇の僕のテリトリーに変えられてしまった……その後は好き放題さ……僕が降りることが出来ないほどにまでなってしまった。だから最後に君が来たんだ……全てに決着をつけるために」
「そうだったのか……アラルド王国がそこまでの事態になっていたとは……」
「知らなかったよね……でも全部……僕の責任なんだよ……ごめんね……」
「…………」
何も言えなかった。レオは昔この国の王だったのか……レオまでも闇の創造主に知識で釣られたなんて驚きでしかない。たったさっき僕もまた知識を知ろうとして、まんまとやられそうになったからその気持ちはよく分かる。
レオは……レオはどれほど辛かっただろうか。
レオは泣きながら大きく叫んだ。
「くそが……くそったれ野郎!!!何で今まで思い出せてなかったんだ……俺は……俺は光の創造主を裏切っちまった!!!光の創造主が見えなくなるほどに迷っちまった!!!何で……何でこんなことが起きたんだよ!!!」
「あははは!!!それは僕が仕掛けたからね!だってこれはゲームなんだから!障害がないとつまらないだろう?君はとても綺麗だったから!綺麗な魂ほど墜としたい……閉じ込めたい……永遠に僕の物にしたいんだよ……」
「ふざけんなよ!!!何だってんだよ!!!これが本当に「1人舞台」だったなんて信じられっかよ!!!俺は……俺は!!!」
「なら僕を殺してみるかい?それで君がスッキリするなら」
蛇は再び闇の創造主の姿に変えて、レオに小型のナイフを渡す。レオはそれを震えながら受け取って、唇を噛みしめた。レオはナイフを見てから、ポロポロと涙を流した。
「……もう……もう俺を巻き込むのはやめてくれ……これで終わりにしたいんだよ……」
「僕を殺せばいいじゃないか!ほら、目の前に居るよ!それで君の気は済むだろう。僕と繋がりが解けるだろう!僕との関係は「呪い」のようになってしまったんだから!」
「……違う。そんなことで解けるはずがないじゃねえか。これも罠だということは分かっている。俺はもう二度と間違いを犯しはしない!!!いや……間違いも正解もない!!!この世界にはな!!!」
レオは小型ナイフを放り投げると闇の創造主に向かって、強く吐き捨てる。
「てめえとはここでお別れだ!俺は光の創造主に着くと決めた!何があっても!この世界には間違いも正解もなかった!全部……全部全部!!!幻なんだよ!何が良くて、何が悪いかなんて誰にも決められねえ!神にすらもな!!!」
「僕の方に来れば、君をまた王にしてあげるよ?」
「本当に俺がそんな腐った地位を欲しいと思うか?俺には何にもねえ!地位も名声も金も家族も!何もねえんだ!俺はセリオンと共に光の創造主の元に帰るんだ!!!てめえと交わした血の契約はここで終わりだ!!!」
レオが大きく叫んだ瞬間、辺りには強い光が放たれる。闇の創造主はレオを見てから、静かに呟いた。
「レオ……楽しかったよ……さようなら。ああ、綺麗な魂よ……君と交わした契約はここで終わりにしよう」
闇の創造主が赤い宝石を持ち上げると、レオは闇の創造主から赤い宝石を奪い取り、宝石を地面に叩きつけて足で踏み潰した。赤い宝石は簡単に粉々になり、割れていく……
その瞬間、レオの居た世界は割れて空中の光景が消え去った。
突然レオが僕の横に現れて、ポロポロと涙を流していた。
「……やっと終わった……やっとあいつと決着をつけることができた……」
「レオ……」
「セリオン……これで良かったんだよな?俺はこれで良かったんだよな……」
「ああ……大丈夫だ。僕たちと一緒に帰ろう」
僕は椅子から立ち上がり、涙を流したレオを抱きしめた。僕も自然と涙が出てしまい、レオの背中を何度か静かに叩く。
そうか……僕たちは……同じ罪を背負ってしまった仲だったのか。
レオは大昔のアラルド王国の王であり、光の創造主を裏切ることで、アラルド王国を闇の創造主のテリトリーに変えてしまった張本人だった。
僕もまた天使として光の創造主を裏切り、罪で出来たこの世界を創ってしまった……
ルシファーは僕たちの方に近づいてきて、僕たちを優しく抱きしめた。
「ごめんね……ずっと言えなかったんだ……闇の僕の仕業であることを……君たちには辛い思いをさせてしまった……ごめんね……」
「……いや、もういいんだ」
「でも僕が憎くはないのかい?」
ルシファーは神妙な表情をして、僕の方を見つめる。僕は辛かったが唇を噛みしめてから呟いた。
「もういいんだ……貴方の愛は分かっている。この世界がこれほどまでにエゴで狂っても残そうとした決断も分かっている……この世界が1人舞台だったことには色々と言いたいことはあるさ……でも、もういいんだ……僕たちは、結局は同じで一つなんだから……」
「…………」
ルシファーは俯いてしまった。僕はレオから離れて、ルシファーを抱きしめた。
「ルシファー、迷ってしまったのは僕の責任でもある。僕がエバを愛したことが原因だった……貴方の方向を見ずに、エバの方向を見てしまったんだ」
「でも僕はそれすらも分かっていたんだよ……」
「分かっているさ。これが全て貴方の舞台だってことは……分かった上で言ってるんだ。貴方はエバを美しい物として作った。彼女のことに僕が惹かれることを分かった上で……僕を試したんだろう?」
「…………」
ルシファーはフッと笑みを見せてから、少し離れて僕の方を見て笑った。ルシファーは僕の手を取る。
「……ごめんね。君は大切な天使だったから……でも君は僕たちの遊びに巻き込まれてしまったんだよ。怒ってないのかい?」
「確かに色々と言いたいことはあるが……もういいよ。貴方が僕で遊んでいたことにも気づいている」
「これすらも遊びだったとしてもかい?」
「……まさか僕を試しているのか?」
僕がルシファーの方を見ると、ルシファーは「いいや」と言ってから首を横に振る。
「違うんだ……全部舞台に過ぎないから……この事実は多くの人には公開しない方がいいと思っている」
「そうだな。それはよく分かったよ。これすらも遊びだったとしても……もういいんだよ。貴方と共に一緒に居られれば……それでいい。僕は貴方を愛しているよ……心の底からな……」
「…………ありがとう」
ルシファーは僕の方に近づいてきて、僕をもう一度抱きしめてきた。僕はずっとルシファーにこの言葉を伝えたかったのではないだろうか。やっと今伝えられたような気がする。
この世界は1人舞台だった。全てを分かった上で僕は言うだろう。
「創造主のことを愛している」と……
創造主と話すうちに、分かったことがあった。
創造主すらも迷っていた。このエゴだらけの世界に何度も救いの手を差し伸べようとした。最終的には光の創造主にも闇の創造主にも気づかないところにまで、人々はエゴの生活に堕ちてしまった。
救世主としてシオンを送っても、エゴに殺され……創造主が感じた思いはどれほどのものだっただろうか。
それでもこの世界は消えずに残っていた。光の創造主が守っていてくれたのだろう……
僕たちは神に気づかないところにまで、堕ちてしまった。
これまでに僕は神の愛に触れて、僕自身も考えてきた。
人類全ては本当は……神様を求めているのだろう。他人ではなく、創造主を求めているんだ。
―――僕は最後にこの場所で伝えよう。僕たちにはもう何もない……ただ一緒に帰ろう……何もいらない。ただ一緒に帰ろう……僕は最後にエバとの繋がりを断つだろう。その後に、船の前で光の民を光の創造主と共に待っている。
ルシファーに目線を合わせると、ルシファーは静かに笑った。
「僕たちはこの世界から離れる時には1つになるけれど……こうして君と話せて楽しかったよ」
「ああ、楽しかった……光の創造主様」
「ははは、様付けなんてしなくていいんだよ。僕たちは友達なんだから」
「貴方の場合はそうだったな……ありがとう、僕の友達」
「……うん、ありがとう。セリオン。僕の大切な友達……」
僕もルシファーに笑みを見せた。ルシファーはレオにも目線を合わせて、同じことを言う。
「レオ……ごめんね……闇の僕が昔の時代君が王様だったころ、君に目をつけてしまったことも……分かっていたんだ……」
「今更、いいよ……俺はもう全部分かったから……」
「僕を憎んでいるだろう?」
「……これ以上試すようなことはやめてくれ。俺は全部分かったんだよ……もう分かったんだ……幻だってことには……そして俺も……貴方を愛している」
ルシファーはフッと笑みを見せた。天使の羽を広げてから、僕とレオの額に手を当てる。
「ありがとう……本当に……大好きだよ」
僕たちの額からは、七色に輝く宝石が取り出された。僕たちは驚いて宝石を見つめる。
僕は宝石を覗き込んでから呟く。
「それは何だ?宝石が何で僕の額に?」
「これは、この世界と深く結びついてるものだ。それを君たちから取った」
「何だって?それを取るとどうなるんだ?」
「もう二度と……君たちはこの世界には戻っては来れなくなる。鏡の世界との結びつきが完全に取れたんだよ……セリオン。最後にエバとの繋がりを断とう。君がやることはもうそれくらいしか残されていない……あ、クロードのこともあるけどね」
「分かった……宝石がこの世界との結びつきだったなんてな……」
「君は最後にこの世界にやってくることにしたから、その時僕が額に入れたんだ。もう必要ないよ。この宝石はね」
ルシファーが二つの七色の宝石を掲げると、宝石は粉々に崩れ落ちていった。ルシファーの手には何も残らずに、地面には粉々になった宝石の欠片だけが残った。
「この宝石は世界でもあった……さようなら……ありがとう……」
「宝石は世界の象徴でもあるのか?」
「うん。七色に輝く宝石は「世界」だ……僕もまた、最後にこの宝石と別れるだろう。君たちからは先に取っておいたけれどね」
「そうか……エバとのことは僕に任せてくれ……僕はもう決意できたよ」
「ありがとう……ああ、そろそろ皆が戻って来たみたいだね」
横を見ると、遠くからジャックが疲れたような顔をして歩いて来て、その後ろにはフレデリカが首を傾げながら歩いて来る。エダンは遥か遠くから「お嬢さんー!!!何処ですかー!!!」と馬鹿でかい声を出しながら、此方にやって来るのが見えた。
僕はため息をついてから、エダンを見つめる。
「エダンは相変わらずだな……」
「はは、それが彼のいいところなんじゃないか!」
三人共僕たちの方にやってきてから、ルシファーはエダンとジャックとフレデリカの目の前に立つ。
「皆、どうだった?」
「尻が……尻が掴めなかったぞ!?お嬢さんはこっちの方向に行ったよな!?」
「はは……君の掴みたかった尻は幻だよ」
「何だって!?あの最高な尻が幻だったのか……おっ?全部服を脱いだはずが、何で俺は服を着てるんだ?」
「闇の僕が耐え切れなかったんだろうね……闇の僕の価値観で美しくないものが、闇の僕は嫌いだから……」
「おっ俺がハンサムすぎて服を着せただと!?おお!良かったぞ!!!」
エダンは勝手に解釈して、はしゃいでいる。ルシファーは次にジャックの方を見て、微笑む。
「ジャック……おかえり」
「さっきの村の光景は一体どういうことだったんっすか!?セリオンがやってきて、敵をなぎ倒してくれたっすが……」
ジャックは首を傾げながら呟いたため、僕はジャックの言葉に直ぐに問いかける。
「何だって?僕が」
「故郷の村に居たらセリオンがやってきたんだ!怖そうな敵を全員なぎ倒していったから驚いた!俺を助けてくれたんだよな!?」
「僕はそんなことはしていないが?」
「でも確かに居たぞ?」
「どういうことだ?ルシファー」
僕が横に居るルシファーを見つめると、ルシファーは悪戯気に笑った。
「ジャックには助けが必要だからね。君を送ったんだよ」
「はぁ?僕を?僕はその頃、闇の創造主に試されていたが……」
「君は何も知らないだろうけれど、君はジャックを救ってくれた。ありがとう、セリオン」
「何だか分からないが……ルシファーがそう言うならそうなんだろうな」
僕がフッと笑うと、ジャックは僕に対して尊敬の眼差しを送って来る。横に居るフレデリカは首を傾げた。
「創造主様……皆に何かあったの?私はただのんびりと草原を歩いていたら、ここに来たわ」
「君にはもう試練は必要ないんだ……今までありがとう。馬車はとても辛かっただろう……」
「いえ、私は……創造主のためならば何でもするわ」
「ありがとう……さて、三人からも世界を取るよ」
ルシファーは微笑んで、ジャックの額から七色の宝石を取り、フレデリカの額から七色の宝石を取り、最後にエダンの額から七色の宝石を取った。
ルシファーが三つの宝石を掲げると、宝石は粉々に崩れ落ちていく。
ルシファーは粉々になった世界を見つめて、小さく呟いた。
「ありがとう。この世界……もう闇の僕にも手は出せないだろう。それとエルバ、おいで」
「えっルシファー様!?どうしたの!?」
突然僕の影から子供のエルバが再び現れると、ルシファーはニッコリと笑ってエルバの頭を撫でた。
「エルバもありがとう。君からも世界を取るよ」
「私からも?」
「うん、そうだ……今までありがとう。今までセリオンを導いてくれてありがとう。皆で一緒に帰ろう」
「私こそありがとう!ルシファー様!大好きよ!!!」
ルシファーはエルバの額から七色の宝石を取った。ルシファーは七色の宝石を掲げて、自分の胸に持っていく。七色の宝石は大きく光り輝いたかと思うと、粉々に崩れ落ちた。
ルシファーは息を吸ってから、小さく呟く。
「これで……終わりだ。君たち全員が、この世界との繋がりは無くなった。最後に皆で一緒に帰るよ……後は僕だけだ……」
ルシファーは寂しそうに、自身の額に手を当てた。七色の宝石が現れて、ルシファーは目を細めて宝石を見つめる。
「最後に……最後に僕から世界は取れるだろう。今はまだその時じゃないけれどね……」
「最後に、世界を手放すのか?」
「うん、そうだ……これは最後に手放す物だ……僕の大切な世界を今はまだ胸にしまっておくよ」
ルシファーの持つ七色の宝石は、ルシファーの胸に光りながら吸い込まれて行く。ルシファーは愛おしそうに自身の胸に手を当てて、涙を流した。
「今はまだ……後もう少しだけ……ここに居てくれ……」
「ルシファー……」
「さて、君たちも闇の僕からの試練で少し疲れただろう。少し休まないかい?最後の会議を開こうよ」
ルシファーが席に座ることを促したため、僕たちは円卓のテーブルの椅子にそれぞれ座っていく。僕がルシファーの隣に座ると、エルバが僕の隣に座って来た。
ニヤニヤ笑いながらエルバが僕を見てきたため、僕はエルバを見下ろす。
「エルバ、何だ?」
「セリオンも変わったよね。最初の頃とは大違い!成長したね」
「……どういう意味だよ?」
「私はずっと見守って来たよ。守り神としてね。天界では私は、ルシファー様と貴方のことを愛していたし、その思いだけでこの世界にやってきたの。大変だったけれど今は……貴方に着いてきて良かったと思っているわ。貴方はとても狂暴だったけれど、私にとっては大好きな相棒よ」
「相棒……そうだったのか……」
「貴方は覚えてないかもしれないけれど、天界では大変だったんだから!貴方は天界ではとても狂暴で、誰も貴方に近づけなかったのよ」
「そうなのか?」
僕が直ぐに聞き返すと、エルバは大きく伸びをしてから笑い声を上げた。
「うん!大変だったの!ルシファー様に言われて私はセリオンに会いに行ったんだけれど、セリオンは私のことも拒絶していたわ。アーデルはセリオンを見て涙ぐむだけだったし、貴方は誰も近づけないほどの獣になっていた……私は貴方と鬼ごっこをしたのよ!何度も何度もね!やっと貴方が私を追ってくるようになって、私は逆に追いかけて……何度も遊んだわ。あの頃が懐かしいね」
「全く覚えてないが……アーデルも居たのか?」
「本当は貴方のパートナーはアーデルよ。でもアーデルにすらどうしようもないほどになっていたから……私が貴方の元に行ったの。私はいわば「最終手段」ね。ルシファー様は笑って「奥の手だよ」って言ってたわ。まんまと貴方は私に怒った!あー面白かった!」
「怒っただって?」
「天界で私たちは喧嘩ばっかだったわ……「こんなガキ信じられねえ」とかプライドの高い貴方はよく言っていた。でも私の方が上だったから貴方は私を傷つけられなかったのよ!ま、言葉では散々傷つけてきたけれどね。でも私は貴方との関係を気に入っていた。貴方が大好きだった。最初はルシファー様に言われたからだったけれど、次第に貴方を気に入った。最後にこの世界に私と貴方で一緒に来ることにしたのよ。貴方は私に諦め半分、期待半分って感じね。天界でも私たちは喧嘩ばかりするから、位の高い天使たちによく怒られてたわ……「天使ルシファー」は一番位の高い天使だから天使には言われなかったけれど、何故か貴方よりも上のはずの私に罵倒が来るのよね……」
エルバは大きくため息をついた。席についたルシファーは楽し気に笑う。
「あの日々は凄かったよね。君たちの喧嘩は「天界名物」だった。皆が楽しみにするくらいにね」
「ええ……ルシファー様……そんなに見られていたの!?」
「うん、そうだよ。天使たちが君に怒鳴ったから、後でこっそりと天使には怒っておいたよ」
「へへ……嬉しいな」
エルバは照れたように頭を掻いている。エルバはルシファーにとってどういう存在なんだろうか。ただの子供にしか見えないが、一瞬だけ大人の姿になったところを見ると子供ではないのかもしれない。
ルシファーは僕の方を見て、フッと笑みを見せる。
「気になるかい?僕とエルバの関係が」
「それは気になるな……」
「ある意味では僕とエルバは親子みたいなもんだね。繋がりの深いね。皆僕の子供だけれど……エルバは君の為に特別に作った存在だ。守り神でもあり、君と仲良くなってくれればいいなって思いを込めたんだ」
「僕が子供のエルバと、仲良くだって?」
「うん、そうだよ。君は天界では誰のことも拒絶していて、大変だったんだ。僕は君の為にできることがないか考えた……だから特別にエルバを作った。君の大切な友達になるように……繋がりの深い「相棒」になるようにね」
「僕の友達を専用に作ったってことか?何でそこまで……」
「君を心配していたからだ。全員を愛しているけれど、君は僕に近い天使だから親としては気になるよね」
ルシファーは静かに笑っていたが、僕を愛おしそうに見つめていた。僕はそこまでルシファーに気にかけられていたのか。エルバは「あはは!」と笑い出す。
「それほどセリオンは愛されているってことよ。貴方は誰のことも拒絶していたけれど、皆貴方のことが大好きよ。そのことに早く気づいた方が良いわ。闇の創造主さえ貴方を狙っているし……貴方のことは私が守るけれどね」
「そうか……ありがとうと言えばいいのか?」
「貴方が知らないうちに、私はずっと貴方を守って来たのよ?もっとお礼を言ってくれてもいいんじゃない?」
「分かった……ありがとう、エルバ……」
僕が言うと、エルバは満足そうに笑った。ルシファーは僕たちの方を見てニッコリと笑う。
「君たちが仲直りできて良かった……心配していたからね」
「ええ!?ルシファー様、そんなに心配していたの?」
「うん、そうだよエルバ……僕は思ったよりも、君たちのことを心配していたんだ。二人のことをね。君たちはお互い譲らないだろうと思っていたから」
「そうなんだ……でもこれで良かったよね?」
「はは、そうだね……君たちは元通りさ。さて、本題に入ろうか。最後の場面に入る前にね」
ルシファーが目を細めてニッコリと笑ったため、エダン以外全員が姿勢を正す。
ルシファーはスッと息を吸った。
「最後の場面はとても重要だ。だから気をつけなければいけないことを皆に話しておこうと思う。準備はいいかい?」
全員が一斉に頷いたため、ルシファーはホッと息をついた。ルシファーが指をパチンと鳴らすと、突然皆の目の前に服のボタンが現れる。僕は「はぁ?」と呟いてからボタンを見つめた。
「服のボタン?何だこれは?どういう意味だ?」
「僕からのお守りだよ。ここからはついに君はマリアとの呪いを解く作業に入る。君はマリアに呑まれそうになるかもしれない。でも大丈夫……皆繋がっているから……それぞれのボタンの色を見てごらん……」
僕のボタンの色は赤で、ルシファーは青のボタン、エルバは緑のボタン、ジャックは紫のボタン、フレデリカはオレンジのボタン、エダンは白のボタン、レオは黄色のボタンだった。
ルシファーはそれぞれのボタンを眺めてから、真剣な表情でつぶやく。
「それは合図の色だ。絶対に覚えておいて……順番を言うよ。赤、青、緑、紫、オレンジ、白、黄色だ」
「それは何だ?」
「戦いの合図だよ。僕は必ず皆にその色を伝えるから……僕からの合図が来たら、皆でそのボタンを上に投げるんだ。後は鷹が捕まえてくれる……これは順番が大切だ。まずはセリオンが投げてくれ、その次は僕が投げる、その次はエルバ、ジャック、フレデリカ、エダン、最後にレオだよ。いいね?」
「全く意味が分からない……たかが服のボタンに何の意味があるんだ……」
「いずれ分かるよ。戦いが起きたらね……これから大きな戦いが起こる。神の民たちは巻き込まれるかもしれない。でも大丈夫。色を思い出して……僕が必ず皆を導くから……絶対に君たちを守り通す。色の通りに進むんだ……順番を間違えないで……必ず書き留めておいて」
「ああ、分かった……羊皮紙とペンはあるか?」
「直ぐに出すよ。必ず書き留めておいて……紙をお守りのように持っておいてね。大きな戦いが起きたら皆で逃げる。その色の通りに進むんだ。僕は色を大きく照らすから……このことを知っている人がいるならば、隣の人と手を繋いで。一緒に進むんだ。もう一度言うよ。
赤、青、緑、紫、オレンジ、白、黄色だ。必ず覚えておいて」
ルシファーは指をパチンと鳴らして、羊皮紙と羽ペンを出してくれる。僕たち全員は必死に書き留めた。ルシファーは皆が書き終わるのを見てから、ホッと息をつく。
「神の民たちだけが知れる暗号だ……色の通りに進んでくれ。その時が来たら分かるから……僕は大きな合図を君たちに見せる。色の通りに進んでね。7つの色だよ。7つめを通り抜けたら僕がいるから……その後、船に乗って帰ろう」
「……この色が、船に乗るための合図なのか……」
「うん。これで最後だ……皆で突き進むんだ。大丈夫。間違えることはないよ。紙をいつでも持っていてね。色を忘れそうになっても、僕が必ず分かりやすい目印をつけておくから、大丈夫だけれど……その色は一番の目印になる」
「分かった。必ず覚えておくよ……」
「ありがとう。はぁ……やっと君たちにその色を伝えられた……良かった」
ルシファーは息をつきながら安心したように肩を降ろす。僕はルシファーの方を見つめる。
「そんなに重要な色だったのか?」
「下手したら迷ってしまうからね……天使たちにその色を持たせて導くことにしたんだ。まぁその時が来たら分かるよ。大きな戦いが起きた後、必ず僕が見せるから……頼んだよ、皆」
僕は頷いてから、紙に書いた色を見つめる。もう一度文字を指でなぞってからルシファーの方を見つめる。
「これで合っているんだな?大丈夫だな?」
「うん。大丈夫だ。必ず分かりやすい目印で君たちを導くから……君が呪いを解いた途端、大きな戦いが起こるよ。それと一緒に僕たちは色を辿って逃げるんだ。天使にも君たちのことは言っておいたから、絶対大丈夫」
「分かった……必ずその目印の通りに進むよ。アラルド王国は……戦いに巻き込まれるんだな……」
「そうだね……これから起こる。大きな戦争が……沢山の人が死ぬだろう……だから神の民たちは逃げることしかできないんだ……君が呪いを解いた途端、突然周りは狂ったようになるだろう。狂ってしまった人には声が届かないから……君は知っている人だけを連れて逃げるんだ」
「また戦いが起きるのか……ずっと平和が続いていたのにな……」
「そうだね……悲しいことに、起きてしまう。平和はあまり続かないよね……僕は完全に玉座を放棄することにしたから……戦争は止められなかった……戦いの内に逃げるから、誰も神の民が消えてしまったことに気づかないんだよ……」
ルシファーは目を伏せてから、辛そうな表情をする。僕は目の前のボタンを見つめながら、ルシファーを見る。
「このボタンは何を表すんだ?」
「その時が来たら分かる。ただ上に投げてくれ。それでいいんだ。さっきの光景を見ただろう?クロードはアラルド王国の王様に捕まっていたね。戦争が起きる理由は……王様と君が対峙するからなんだ」
「はぁ!?僕が!?」
「そうだ。王様は君の行動に怒り狂うだろう。呪いを解くということは、そういう意味なんだ。でも王様と真正面から対峙する必要はない。ただ少しいじめておけばいいよ。だからクロードだけは連れて行こう」
「……アラルド王国の王様と対決するなんて聞いてないぞ……」
「早いうちに言うと、君が身構えてしまうかと思って……まず君がすることは、クロードを助け出すんだ。その後、マリアと君の呪いを解く……王様は必ず怒り狂うけど、放っておいて逃げよう。必ずしも倒す必要はない……後は彼らで勝手に自滅してくれる」
「しれっと恐ろしいこと言うな……」
僕が曖昧に笑っていると、ルシファーはフッと笑みを見せた。
「一々僕たちが手を下す必要もないんだよ。敵はそれほど何も見えなくなってしまっているからね……」
「そうか……分かったよ。戦いで沢山死ぬ人も……増えるだろうな……」
「そうだね……どうしようもなかったんだ……」
ルシファーは目を伏せる。僕は少し黙ってから、もう一度紙を見つめて色の順番を言う。
「もう一度聞くが、赤、青、緑、紫、オレンジ、白、黄色であってるんだよな?」
「はは……羊皮紙に書いただろう」
「いや、そうだな……念のためだ。これは相当重要な色なんだろう?」
「そうだね。必ず覚えておいて欲しい。まぁ気が済むまで確認するといいさ」
「ああ、分かったよ……ルシファーは、あまりこういうことは言わないだろう。だから気になってな……」
「今は最終局面だからね。普段やらないこともやってるんだ。色さえ覚えておいてくれれば大丈夫。その時になったら分かるよ。これから7つの出来事が起こる。それと色が関係している。それがヒントかな……暗号だったから分かりづらかっただろう?」
「ああ、正直言って解けてないな……」
「はは、大丈夫。必ず解けるさ。僕からもヒントを出すから安心してくれ。突然こんなことを言えば動揺することを分かった上で、僕は言った。船に乗るタイミングは決まっている。7つめのことが起きた後のタイミングだ。その時が来たら必ず君たちを案内するから……その時まで待っていてくれ」
「分かった。とりあえず色だけは覚えておくよ。呪いを解いた後必要になるみたいだからな」
「うん。色を思い浮かべながら連想していってみてくれ。これもヒントだよ」
僕はもう一度羊皮紙を眺めながら、連想していく。何かを連想すれと言っても思いつかない……果物だろうか?お菓子だろうか?ルシファーは僕の方を見てフッと笑った。
「はは、食べ物か。面白いね」
「もう少しヒントはないのか?」
「うーん……考えてみてくれ。いい線まで言ったら僕が教えるよ」
「はぁ……分かった」
「もう少し考えてみたら分かるさ。赤の出来事はあと少ししたら起こるからね」
「そうか……分かった。難しいな……」
羊皮紙をジッと見つめていると、エルバが僕の羊皮紙を覗き込んできた。エルバは「うーん」と首を傾げる。
「セリオン、解けそう?」
「いや、全く……暗号なんだろう?」
「そうみたいだね……私もさっぱり!頭に関しては私馬鹿なのよねえ……」
「そうだろうな。ルシファーの問いかける暗号は、頭の柔らかさも必要だからな……後固定概念から抜け出さなきゃならない。皆も何か意見があったら言ってくれ」
皆を見渡すが、皆は首を傾げながら何も答えない。エダンに至っては「尻の種類か?」と訳の分からないことを言っている。
エルバは僕の言葉に怒ったのか、ぷいと首を横に反らした。
「そうだろうなって何よ!いいよ、どうせ馬鹿だし……」
「いや……自分でも分かってるだろう。馬鹿だってことは」
「貴方もそう変わらないじゃない!相変わらずだよね!」
「そうか?僕は相変わらずなのか?天界でのことは覚えていないんだ……」
「思い出すよ、きっとね!私も忘れさせられていて、思い出したばっかりだしね」
「なるほどな……」
僕が頷いていると、突然エルバは僕の瞳をジッと見てきた。僕がたじろいでいると、エルバは真剣な表情になる。
「クロードこともあるけれど、貴方にとって一番大変なことはマリアのことよ。全ての思いを彼女から切り離さなきゃいけない……できそう?」
「……ここまで来たらやるしかないんだろう」
「そうね……私、心配だったの。貴方はエバに対して今はどう思ってるの?」
「そうだな……今はもう切り離すしかない物だと思っている。僕は最初天界で、彼女を救おうとしたんだろう。だが、彼女は結局闇の物となった。彼女に何かをするとしても……これが最後だ。もう……彼女に未練はないよ」
「本当に?大丈夫?」
「心配性だな……」
僕がフッと笑みを見せると、エルバはジッと見つめたまま、目を伏せる。
「心配なのは当たり前でしょう?貴方はずっと不安定だったわ……ずっと私は傍で心配していた。彼女との呪いが解けたら、貴方は記憶を取り戻すでしょうね……私のことも思い出すでしょう。私はずっと傍に居る。それだけは忘れないで」
「ああ……覚えてないが、君には随分世話になったような気がする。ありがとう」
「ええ。これでやっと仲直り。良かったわ……天界でのことを引きずりたくなかったの。私は貴方の親でもあり、貴方の友達でもあるのよ。大好きよ、セリオン」
「……ああ。僕もだ。ありがとう」
エルバと何があったのかは思い出せない。だが、彼女はずっと傍で僕を見ていてくれたのだろう。僕の守り神として……ずっと傍で……僕がどれだけ不安定なっても、彼女は傍に居た。時には僕のせいで感情に巻き込まれそうになったこともあるかもしれない。
僕とエルバは二人だが、一人でもあった。彼女は僕の傍で影として潜んでいてくれた。
くだらないことで喧嘩もした。僕はエルバを傷つけることを言ったりもした。
これすらも舞台でも……僕たちはやっと仲直りを果たすことが出来た。
エルバは僕の手を取って、ニッコリ笑った。
「セリオン!やっと最終局面よ!頑張りましょう!私も一緒に手伝うわ!」
「ああ。頑張ろう、エルバ」
僕は彼女の手を取り、そのまま抱きしめ合った。ルシファーが僕たちの方を見て、優し気に微笑む。
「君たちが元通りになって良かった。本当にね」
「そんなに僕たちは酷かったのか?」
「はは……天界の時はもっと大変だったよ……だから君たちを最後にここに送ったんだから。ここでしか仲直りできないと思ってね」
「そうか……結果的には仲直りできたってわけか」
「そうだね。そろそろ出発するけれど、皆最後に何か言っておきたいことはあるかい?ここからはもう戻れない。セリオンがアーデルを助けて、クロードを取り戻し、呪いを解いたら全てが始まる……戦いがね」
「ついに7つの最初の色、赤の舞台が始まるって訳か……」
「うん。僕はずっと君たちの傍に居る。迷いそうになったら色を思い出してね。大丈夫。乗り越えられるさ……絶対にね」
「ああ。7つの色を全て通れば、貴方の元にいけるんだな?」
「最後にヒントを見せるよ。君たちがボタンを投げて、色を通る過程でね。皆何か言いたいことはあるかい?レオは大丈夫?君は記憶を思い出したばかりだろう」
ルシファーがレオに声を掛けると、レオはルシファーの方を見てから首を横に振った。
「いや……いい。あまり思い出したくなかった記憶だ……俺の前世のことは」
レオは辛そうに目を伏せる。僕はレオの方を見て、声を掛ける。
「……辛い記憶だったんだな」
「ああ……俺は昔、この国の王だった。アラルド王国はな、昔神聖な国とされていたんだ。歴代の王が居て、神話に従っていた国だった。だがな、俺はある日思ったんだよ。何で皆人形のように「神話」に従って生きてるのかってな。俺は徹底的に調べた。書物を漁ったんだ……でも、何も見つからなかった。神話ってのが本当に正しいのかどうかなんて根拠も何もないだろう?俺がいつものように書物を調べて、眠ったある日のことだった……闇の創造主と会ったのは」
レオは僕の方をジッと見つめてくる。レオは静かに首を横に振った。
「夢で光を纏った「創造主」を名乗る奴が現れた。そいつは言ったんだ。『君はこの国の王にしては、珍しい人物だ。僕は君を気に入った。全ての天界の知識を授けよう。だが……その代わりに契約をしてもらう。僕に一生仕える契約をね』ってな……その時は断ったんだ。明らかに怪しいからな。だけどそれから……毎晩毎晩そいつが現れるようになって……書物を探し求めても手に入らなかった知識が手に入るかもしれねえって思っちまった。思った途端にまた奴は本を差し出してきたんだ……」
レオは机を拳で叩いた。青いテーブルクロスがその反動でずれ、レオは唇を噛みしめる。
「創造主と名乗った奴は俺に「知識の本」を差し出してきた。『この本が欲しくはないのかい?君に教えてあげるよ。僕と契約してくれればね』と。俺は……俺は本を取っちまった!そいつに赤い宝石を見せられて、笑われたよ……『これでこの国は僕の物だ!!!』ってな。知識の本を開いたら中身は何だったと思う?真っ白だったんだよ!何も書かれていなかった!創造主と名乗って来た悪魔に俺は言ったんだ『ふざけんな!』ってな。悪魔は笑うだけだった。『だってそれこそが真理なんだよ!』と言って蛇になって消えていったんだ!」
レオは悔しそうに涙を流す。レオは僕の方を見てから、フッと笑った。
「その時にな……お前が俺の元にやってきたんだ。『私は天使ルシファーだ。夢に現れた創造主の正体は闇の創造主だ……』と言ってきた。俺はお前に縋ったさ……でもお前は辛そうに首を横に振って何も言わなかった……俺は悟ったんだ……こいつも俺と同じような被害者だってことを」
「…………」
「お前は覚えていないかもしれないが、俺はお前とその時話したんだ……俺はお前と友人になった。だからお前と最初にこの世界で会った時、お前のことが気になっちまったんだろうな……」
「そうだったのか……だから僕も妙にお前のことが気になったんだな」
レオは僕の方を見たまま、僕を辛そうに見てくる。僕も視線を合わせると、すまなそうな表情をした。
「俺は究極まで迷っちまったんだな……お前を殺そうとまでしたんだから……本当にすまなかった」
「そのことはもういいんだ。お前が……戻って来てくれたなら」
「そうか……やっぱりお前は優しいよな。昔と変わってないよ」
レオはようやく表情を崩し、僕に向かってフッと笑みを見せた。僕も笑顔を返していると、ルシファーは頷いた。
「レオは記憶を取り戻したことだし、後はセリオン。君だね」
「結局僕は何も思い出せてないままだな」
「はは、わざと僕が思い出させてないからね。君にとってはそれが一番の鍵になるのだから」
「鍵?」
「うん。君がこの世界を創造したことには変わりないんだ。君はこの世界の鍵だ……最後に思い出すだろう。君の記憶をね。呪いによって君は記憶を失っているとも言える」
「呪いが僕の記憶を失わせているのか?」
「君は獣の名を被ってきたことを覚えているかい?どうして君はわざわざ獣の名を被って来たと思う?」
ルシファーはスッと目を細める。僕は確かに闇の創造主の名前である「セリオン」を被って来た。それは闇の創造主の正体を見破るためのものだと知った。だが……まだ裏があるのだろうか?
「まだこの名前には意味があるのか?」
「君は獣を受け入れてこの世界にやってきた……丁度君の背中に獣を忍ばせてね。さて、何故そんなことを君はしてきたのだろう?」
「僕が……この獣を作ったから?いやまて……セリオンは闇の創造主の正体だったはずだ」
「そうだね。セリオンとは闇の僕だ。でも獣は確かに君の中にも存在する。そしてマリア……つまりエバは四本の角を持つ獣になってしまった……さて君自体は何だろう?」
「……僕は……天使ルシファーだろう?」
ルシファーに目線を合わせると、ルシファーは楽しそうに笑って頷いた。
「うん、そうだ。君は天使ルシファーだよ。でも何で獣を受け入れたんだろうね?」
「……分からない……思い出せない……」
「かなりの核に君は近づいている。僕の近くに……最も近くに……それこそが鍵であり、天使ルシファーの物語なのだから……この世界は、君のために用意された舞台と言っても過言ではない」
「……待て。創造主がこの世界を創ったんだろう?」
「うん、そうだ!大きく言えばね。僕が全て決めている。僕は全て分かっている……後は君だ。君が思い出せばいいんだ。君はついに核の場所に突入した……僕の最も近くに……神の最も近くに!」
ルシファーは突然立ち上がって両手を広げた。白い翼を大きく広げて、嬉しそうに笑う。
「セリオン!君はようやくここまで到達したんだ!ああ、初めてだ……ここまで来てくれたのは!」
「何だって?」
「僕は嬉しくてたまらない。君とは一体になるけれど、やっとここまで……来てくれた……僕が最も望んでいたことは、君だ。君自身でもあるんだ……闇の僕が君を望むように、光の僕も君を望んでいる。さて君は何だろう?」
「僕は……僕だろう?」
「はは、そうだね。さぁここまで話したことだし、そろそろ二人を助けて、呪いを解く作業に入ろうか」
「ちょっと待て!何か気になるじゃないか!」
僕がルシファーに声を掛けると、ルシファーは目を細めて本当に嬉しそうに笑みを見せている。
「やっとだよ……舞台は長かったね……この世界について会議されたと言ったね?この世界から離れることにしたのは、君の物語がここで終わることを決めていたからなんだ。この世界を愛している。僕はずっと……だけど何故このタイミングで光の僕も闇の僕も離れることにしたのか、気にならなかったかい?」
「それは……エゴが膨らみに膨らんだからだろう?」
「はは、それもあるね。でもこの物語は君のために作られたのだから、もう僕にとっては必要なくなったとも言えるんだ。勿論世界を愛しているけれどね。君がようやくここまで来てくれたんだから……僕はどれだけ待ち望んだだろう。天界では成し遂げられなかった……だから君をここに送った」
「僕の罪を晴らすためじゃなかったのか?一体僕は何なんだ?」
僕が焦って聞くと、ルシファーは楽しそうに笑い声を立てたまま、目を細めた。
「君こそが物語の鍵だ……エバと君の物語こそが……物語の鍵だ……君はこの舞台の主人公であり、僕が決めた主人公だった」
「僕が主人公?」
「うん。君は主人公だ。最初からそのつもりだったんだよ、この舞台はね。勿論世界全ての人が主人公とも言える。だけど君は……特別だ。光と闇の僕にとって。天使ルシファーは特別だった……」
「天使ルシファーこそが、物語の鍵だったのか?」
「……そうだ。君とエバが物語の鍵だった。だが、エバは……迷ってしまった。光の僕が届かない所にまで、闇の僕に向かって深く深く……エバは物語を放棄したとも言える。獣に身を任せてしまった……だが君は違った。君のプライドの高さは、一番だった。光の僕は君を愛し、闇の僕は君を試し続けた……全ては僕の最も近くに来て欲しかったから……」
ルシファーは指をパチンと鳴らすと、銀の鍵を手に出現させた。銀の鍵には緑色の宝石が埋め込まれており、鍵は何故かエルバに向けられる。エルバが驚いてルシファーを見つめると、ルシファーは楽しそうに笑った。
「これは……最大のヒントだ。僕からのね。鍵はエルバが持っている。探すといい……」
「はぁ!?」
「鍵はエルバだ。そして君でもある。君とエルバは二人で一つの鍵なんだよ……天使ルシファーの物語はそろそろ終わりを迎えるだろう。君はエルバの関係について、気になっていただろう?」
「ああ。僕たちは相棒なんだろう?」
「うん、そうだ。君とエルバは相棒だよ。僕が考えたね。僕は、アーデルは君のサポート役として君の為に送ったんだ。だから本当の鍵はエルバが持っている。エルバの中から見つけられる……エルバという子供が何を持ってるか気にならないかい?」
「それは……気になるな。僕はエルバのことを思い出せていない」
「エルバも同じだよ。完全には思い出せていないんだ。僕は敢えてこの鍵をエルバに託すだろう。緑の鍵を……エルバにね」
エルバはルシファーから緑の宝石が埋め込まれた宝石を受け取った。エルバは不安そうにルシファーを見つめる。
「ルシファー様……これは何?」
「君の記憶の鍵だよ。僕は今それを君に託したんだ」
「記憶の鍵?」
「うん、それは僕が持っていたんだよ……今までね。後はセリオンと開けると良い。君とセリオンの仲が戻ってからじゃないと、この鍵は開けられなかった……」
「うーん、大丈夫かな?」
「はは、僕はたった今許可したんだよ。見てごらん。呪いを解いてからその緑の鍵を使って、僕の世界の、青い扉を開けて……セリオンと一緒にね」
「『世界は真っ白だった!」という落ちじゃないよね?」
「あははは!まぁ全て舞台の上だけどね。君は記憶について気になっているんだろう?」
ルシファーは嬉しそうにエルバを見つめて、エルバの頭を撫でている。エルバは緑の鍵を見つめてから、頷いた。
「分かった……呪いを解いたら、扉を開けてみるね。真っ白かな?」
「はは……知識の本の場合は真っ白だろうね。さて僕の扉の向こうには何が待っているだろう?気になるね」
「ルシファー様は全て分かっているんでしょう?」
「勿論だ」
「闇の創造主が居るとかじゃないよね……?」
「はは、ちょっと闇の僕を使って、君を脅かしすぎたかな。まぁそんなに警戒すると言うことは、あれは良い教訓になったみたいだね。これは最後に僕からのプレゼントだよ、エルバ。セリオンを導いてくれてありがとう。僕からのお礼だ」
「ルシファー様からのお礼?」
「うん、そうだよ。純粋な気持ちだ。君を騙そうとは思ってないから安心してくれ。大切なエルバへの贈り物だよ」
「へへ……嬉しいな。ありがとう!」
エルバはニッコリと笑って緑の鍵を大切そうに抱きしめた。僕はルシファーとエルバを眺めてから、首を傾げる。
「何で扉を開けるのに僕も必要なんだ?エルバと二人で一つの鍵だって?」
「うん。僕からの思いがこもっているよ。さぁそろそろ皆行こうよ。アベルの元にね。皆、準備はいいかい?」
ルシファーはニッコリと笑って皆を見つめる。全員が頷いたため、ルシファーは立ち上がって指をパチンと鳴らす。どういう訳か周りの景色は青い一本の道へと変わった。




