4 Nocturne
今日雪がいきなりたくさん降ってきて大ピンチでした。
早く秋になればいいのに。
これから、2学年数学の振り分けテストを行います。
簡単な、というか1年の時の復習みたいなものですので。
―あの、星科先生のコースはどこですか?
これによって、期末試験が終わるごとに、たびたびコース分けをしていきます。
今回のテストの点数により、見合ったコース分けをされるのです。
まるでどこかの今年アニメ化したラノベの物語みたいですね。珍しい試験方法を行っていた馬鹿さんたちのラブ米だった気がします。
―……Cだが。
はい、テスト結果が帰ってきましたヨー。
皆様お疲れ様でした。
―まり、どうだったー?
―簡単だった、かっこわらい☆
―声に出して言ってんじゃありませーん。
良い点を取ればコースはちゃんと上がりますよ。
頑張りましょう。
―俺がCコース担当の星科だ。
―先生、分からない所があるので、今日も、放課後聞きに行っても良いですか……―?
「失礼します! 星科先生、いらっしゃいますか?!」
茉莉花は、息を切らし、職員室へと駆け込んだ。
「あらあら芙蓉さん、どうしたの? 大丈夫?」
出迎えてくれたのは、花澤先生だった。
「あ……今日も数学を教わろうと思って……」
「頑張るのは良い事だと思うわ。でも、もう遅いわよ?」
「今日中に、どうしても分からなければいけないのでっ」
「でも成果が出ないんでしょう? だったら……」
「好きなんです」
「え……?」
花澤先生の言葉を遮り、茉莉花は言った。
「数学が、大好きなんです! ですから、もっと好きになるために、星科先生に教わってきたいと思います!」
職員室にいないのなら。
「ふ、芙蓉さん?!」
「失礼いたしました!」
茉莉花は走った。
いつもの、放課後の、あの素敵な時間が、奏でられる場所へと……―。
「遅ぇよ」
「す、すみません……! 失礼いたします、芙蓉茉莉花、星科先生にお勉強を教わりに来ましたっ」
「おう。今日は、何を教えて欲しいんだ?」
「は、はい!」
茉莉花は、とたとたと星科の真横へ向かうと、笑顔でその言葉を、薄いリップで彩られた唇から発した。
「私、ちーちゃんのことが……―」
「―……ということで、まりが卒業したら、ということらしいです」
「相変わらず彩ちゃんの言うことは皆本当になるねー。天佑天禄冥利に尽きる、勿怪の幸いだねー」
「何言ってるかさっぱりです。まるで弟と喋っているみたいなんですが」
「弟さん、いくつなのー?」
「同い年です。双子です」
「へぇー、一緒に帰らないんだー」
「違う学校ですので」
「ほうほう。良かったねー、茉莉花ちゃん。でも卒業するまでの2年間大丈夫かなー」
「大丈夫です。私がついてますから。今日も数学を教えてもらっているらしいですよ、虎太郎さん」
彩は虎太郎の方に視線を向けた。
いつものように、あどけない表情だった。
「あ」
虎太郎は彩を通り越して何かを見つめている。
「あ、お祖父ちゃん!」
「彩さんに虎太郎さん。お久しぶりです」
そこへ、いつものように黒いコートの20代前半にしか見えない祖父が、ぼぉ……と姿を現した。
まるで良い子な梓の10年後Ver.みたいな。
「どうもっすー、秋兎さん。お変わりないですねー」
「おうおう、彩さんは可愛いですなぁー。若い頃の蒼にそっくりだ」
「どなたー?」
「お祖母ちゃんです」
「どうです? 彩さんは恋してますか?」
「ええぇぇぇぇぃやぃやいや!! してませんていうかしません!」
顔を赤くし、かなり動揺している彩を見ながらからかう虎太郎と秋兎。
「すっごくいいのに」
「青春はー大切だよー彩ちゃーん」
「いいんです!」
「ま、彩さん」
秋兎はあかね色の空を見上げ、言った。
「愛が全てじゃないしね。彩さん、夢は?」
「ありません」
「まー、夢なんて持たない方が現実をよく分かっているって証拠だよねー」
「夢くらい持たせてください! 虎太郎さん!」
そんな他愛のない話をしている3人。
急に秋兎がすぅ……と透きとおり始める。
「お祖父ちゃん?」
「眠くなったので帰ります」
「あははー、秋兎さん超マイペースぅー」
「じゃあね」
祖父はもう見えなくなった。
「おねえちゃーん!」
結局虎太郎さんと色々語っていたら、妹達が帰り道にここを通る時間になっていた。
「お、暁に梓。そか、もうこんな時間か」
「何してんだよ、姉貴。こんな河原で」
「あぁ、この虎太郎さんと……あれ?」
先程彼のいた方を向くと、虎太郎はもう居なかった。
相変わらず気配を感じ取れない人だ。
ただ単に私が鈍感なだけなのかもですけど。
「誰? 虎太郎って」
「な、なんでもないよ、梓」
「怪しいなぁー」
いつも以上に顔の笑みが歪む梓。
「お姉ちゃん、今日の夕ご飯なぁーにー?」
「うん、可愛いよ、暁。帰るよ、梓ー」
「黙殺? 看過? 過失を見逃す? それとも眼中に置いてない? 姉貴は今日も相変わらず無慈悲だな。僕を邪慳に扱うとは非情きまわりない」
「はいはい、夕日に向かって歩いて帰ろう」
そして、その日も彩の携帯には茉莉花からのお礼メールが殺到したのであったのである。
梓の台詞を考えるのが凄い楽しいことがわかった16の夜。