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3  Impromptu


 空から純白のシスターが落ちてこないかしら

 こんなことを考えていた(妄想していた)お友に絵馬が一言。



 ……飛び降り自殺?






「んー、まり、今日は星科先生のとこ行かないの?」

「……どうしよ」

 そう言って河原を歩く2人。

 他には誰もおらず、カラスが住処である山の方へと帰って行くだけだった。

「どしたの? 昼休み先生の所行ってから調子悪そうだよ」

「……」

 沈黙が流れる中、彩は後ろに人の気配を感じた。

 バッと後ろを向く。そこには……



「や、彩ちゃん。秋兎さんじゃないよー」



「あ……虎太郎さん。こんにちは」

 いかにもお散歩中の、ゆったりオーラを醸し出している美青年が立っていた。

「彩……この方は……?」

「えっと、紹介するね。謎の青年虎太郎(こたろう)さんです!」

「はぁ……」

 彩の冗談のような言い分をつっこめないほどの茉莉花だった。

「彩ちゃん、そちらはお友達ー?」

「はい!」

「あ……私は芙蓉茉莉花です。よろしくお願い致します……」

 茉莉花が右手を差し出す。

「……芙蓉ね。うん、よろしくー」

 虎太郎は特に右手を出そうとも左手を出そうとも、なにもしてこない。

「?」

「あ、ごめんね、まり。虎太郎さん(ちょう)潔癖性なんだ」

「ごめんねー、茉莉花ちゃん」

「いいえ、こちらこそ。突然の無礼、失礼致しました」

「うん、さすがだねー。ねぇ、ちょっち俺と喋ろー? あ、それも頂戴」

 虎太郎は彩の持っていたアメの袋を指さす。

 相変わらず外見とは違って、自由奔放である。

「どうぞ」

 彩は差し出された大きな掌に、キラキラと光る宝石のようなアメ玉を落とした。




「あぁ……その星科先生ってかっこいいんだねぇー。茉莉花ちゃんが一目惚れしちゃうくらいなんだからさぁー」

「は、はいー! 声もカッコイイし、お勉強の教え方も上手ですしあの一見ヤンキーな所も大好きです!」

 なんだか2人でコイバナのようなモノに花を咲かせている。

 といっても、主に茉莉花が延々と語っていて、虎太郎さんが相づちを打つだけなのだけど。

「私の髪くせっ毛だからハネちゃったりするんですけど、ちーちゃんはあのストレートですよ? 前寝ている時にちょっと触っちゃいましたぁー」

「すごいねー」

「見つめる瞳とかていうか背が高くて何かもう神北に入って良かったぁーって思ってます」

「そう。いいね、俺は好きな子に触れたことすらないからなぁー」

「誰ですか?!」

「秘密ー」

 彩はほぼ草むらで寝息を立てていた。

「茉莉花ちゃんは一途で良いねー。でも生徒と先生って大変だよねー」

「あ……大丈夫です! 芙蓉の力で力任せに頑張ります!」

 先程のとまどいを感じたのか、何気に恐ろしいことを言いながら舌をチロッと出す茉莉花。

「いやー、一途すぎると相手までもが見えなくなるよねー」

「はい。漫画でいう殺したいほど好きという気持ちが何となく分かっちゃいますー」

 

 ―……いけないな。


 そう思った彼女はゆっくりと胴体を起こす。

「ん~……今何時~?」

「あ、彩。おはよっ」

「多分酉の刻だと思うよー。彩ちゃん」

「ええぇぇ! えっと……酉の刻って……」

「今でいう午後6時くらいのことね」

「タイムセールスに遅れる!」

「彩は貧乏性ね」

「そこが良いよー、彩ちゃん」

「はうぁう……あ、まり」

「なに? 彩」

「今日、本当に行かなくて良かったの? 先生きっと待っているかもだよ。うちの学校7時まであいてるし……昼何があったの?」

 

 ―……あまりにも悪すぎるならコースから外すぞ。


「うー……あんまり思い出したくないな」


 ―何でそこまで俺のコースにこだわるんだ。


「まりのことだから、きっと致命的なことを言われたんだと思うけど」


 ―しっかり成果を出さなければ、星科先生にも悪いですよ……?


「……クヨクヨしてんのなんか茉莉花じゃないと思う。その一途さで、生徒と先生の壁なんか壊しちゃえば?」

「?!」

 いきなり何か言い出した彩。

「これは親友として言っていますよ」

「彩……」

「愛する人を殺したいだなんて言語道断! まだ気持ちを伝えていないんだったら、今から伝えに行きなさーい!」

「えぇ……で、でも……」

「毎日茉莉花を見ているんだったら、ほぼ男性はイチコロです。

 知らないの? 私がいつも部活が終わって茉莉花を待っている時、終わって一緒に歩いてきた星科先生の顔、ちょっと赤いんだからね」

「そ、そうなの?!」

「“恋は盲目”とはこれかな。完璧お嬢様でも、青春には勝てません!」

「彩」

「ん?」

「それだけの言語力があるんだったらもうちょっといい点取れるよね……」

「言うな」

 そのあと、茉莉花はクスクスと笑いだした。

 彩の二面性(ねっけつ)な性格を見て。

「彩ってやっぱ面白いわね。じゃぁ私、今からちーちゃんにフラれてこようかな」

「あきらめるな!」

「はいはい、じゃあ行ってくるね。バイバイ、虎太郎さんも」

 そして茉莉花は走っていった。来た道を戻って。

 

 

 茉莉花が見えなくなると、今までずっと黙っていた虎太郎が言葉を紡ぐ。

「……すっごい適当なこと言ってなかったー? 君たち」

「虎太郎さんは女心が解らないだけです」

「あれでしょー? 昔君が話してた、もう被害者(・・・・・)を増やさない(・・・・・・)って奴ー」

「まぁ……」

「楽しみだねー、茉莉花ちゃん。どうなったか教えてねー」

「またですか……いいですけど」

「そういや、今日は秋兎さんデテこなかったねー」

「寝てるんじゃないですか?」

 彩と虎太郎の共通点、それは、死んだ祖父が見えることだった。

 特に血縁関係でもない彼が見えるのは、彼の体質だろうか。

「まぁいいです。私はタイムセールスに急ぐので」

「じゃあねー。茉莉花ちゃんによろしくー」

 彩が走り去ると、虎太郎は1人小さく呟いた。



「俺から見れば、あの子の愛も盲目以上に“異常(アブノーマル)”過ぎるけどねー」



 そして、クククッと小笑声が響き渡り、そして何も聞こえなくなった。






長くなりました。

まさか第3部まで行くとは思いませんでした。



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