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9  Rhapsody


 カラオケって一日中歌うことですよね






 そう、ある日、1人の少年が私達の前に現れた

 夕日が綺麗な河原

 秋の高い空が、ゆっくりと夜の帳を迎えている

 綺麗な黒髪を持つその少年は、名を上月(かみつき)新といった

 少年というよりも、青年という方が正しいような、そんな風貌の男だった

 私はその時まだ13歳で、弟たちもその新という少年が現れたことにきょとんとしていた

 

 君の家、助けてあげようか


 そんな単純な言葉だったが、私はその言葉に目を見開いた

 弟はその少年を無視して膝に載せている1つ年下の妹の髪を撫でている

 妹は相変わらず曇り顔だった

 

 どういうことですか


 私は聞いた

 意味が分からなかったから

 新はニコニコしながら言った


 お金ないんでしょ、君の家 助けてあげても良いよ 

 それに、探したい人もいるんでしょ


 私の胸の鼓動が、ドクンと速くなった

 何故この人は私の家の事情を知っているのだろう

 お金がない

 私の家は借金をしている

 もう、なんかすごいくらい

 お父さんとお母さんが、揃ってどういうことで借金をしたのかは分からない

 まだ子供だったから

 昔は本当に明るい家族で、梓の性格はあんなに歪んでない優しい子だったし

 今はお母さんが借金取りの恐い人達から逃げるためにどっか行っちゃって、お父さんはショックで病気になって寝込んでもう目を覚まさない、きっと、一生

 お金があれば、お母さんが戻ってくるかもしれない

 お父さんも、目が覚めるかもしれない

 そしたら今の梓から昔の梓に戻るかもしれない

 暁の顔は、お日様のような笑顔になるかもしれない

 短時間でそんなことを考えた

 すごいな

 そうだ、お金があれば


 はい、どうぞ 別に返さなくて良いよ

 お金は余るほどあるらしいから


 新は手渡しでお金をくれた

 1万円札が束になっているモノ

 初めて見た

 果たしてこれで全ての借金が返せるのだろうか

 わからない

 わからないけど


 ありがとう ございます


 私は深々と礼をした


 じゃあね


 新はその場から颯爽と立ち去った

 私は手に抱えているいくらあるのかも分からないお金を握りしめ、弟たちに言った


 帰るよ


 梓はゆっくりと立ち、暁も顔を上げて、私の手をかすかな震えを持ちながら握ってきた

 私達は、家路を、ただ、歩いた












 嘘だ

 嘘だ嘘だ

 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ

 そんな

 そんなことはない

 わたしはだれも  ていない

 私のせいじゃない

 だけどあの男が生きているはずはない

 だって

 だって私が

 いや

 だから違う違う

 私は何もやっていない

 かみつ

 き

 あらた

 を

 

 したなんて

 でもあのおとこはいた

 さんねんまえとかわらない

 えがおで

 なんで

 なんで

 なんで

 まさかおとうさんとおかあさんをはめた

 お金を奪ったのは上月新で

 私達を助けたのも上月新で

    たはずの奴も上月新で

 今もなお親友の妹の隣にいたのも上月新で

 





 私が殺したはず(・・・・・・・)の男も上月新で(・・・・・・・)






 あんなに殺したはずなのに

 死んだのに

 なんで生きてるの

 どうして

 ねぇ

 教えてよ

 どうしてアイツは生きてるの

 私達家族から何もかも奪って

 崩壊させて

 歪ませて

 歪ませて

 歪ませて

 歪ませて

 歪ませて

 歪ませて

 歪ませて



 なんでいきてるの?













「だってー彩ちゃんが殺ったのー俺だし」

 そんな声が響き渡る。

 彩はゆっくりと顔を上げた。

 そこには、黒い瞳と髪、端正な顔を持った、青年が立っていた。







「きゃー! ちーちゃん、学校に忘れものしちゃったからついでに会いに来ちゃった!」

 放課後遅くの校舎には、あまり生徒も先生もいない。

 明らかに職員会議を終えた時間に来た茉莉花は、目的の人物に会いに行った。

 星科智紘。

 卒業後に婚礼を控える茉莉花の想い人。

「芙蓉……五月蠅いぞ」

「違うよ、茉莉花、ま・り・かだよ!」

 茉莉花はわざとらしく舌をチロッと出す。

「おまえ……昼間とは全然テンション違うよな……ん、あれは付き添いか?」

「私の妹とその彼氏さんだよ」

 そう言いながら、誰もいなく薄暗いことを良いことに智紘に抱きつく茉莉花。

「お姉ちゃん、まだですか? わぁ、お姉ちゃんの彼氏さん初めて見ました。初めまして、妹の若菜です」

 智紘は、近づいてきた芙蓉妹が丁寧に自己紹介をするので、彼も返事を返した。

 そして、彼はその隣にいる青年を見て、口を開いた。

「……新?」

「お、智紘か。教師になったんだ」

「お2人は知り合いなのですか?」

 芙蓉姉妹は揃って首をかしげる。

「ていうか、高校の同級生」

「ほほー」

 意外な接点にビックリした後、

「ふふ、さぞかし2人でやんちゃなさっていたのでしょうね」

「ちーちゃんは完璧ヤンキーだったぽいねー」

 芙蓉姉妹は揃って2人をからかう。

「……や、あの頃は、3人で色々問題起こしてたな」

「それに真面目に答えてどうするの、智紘」

「ほほぅ、それではもう一方が集まれば、3人揃って……」

 上手い表現法を探す若菜を静かに見つめた智紘は、ゆっくりと口を開いた。

「や、もう3人は揃えない」

「? どういうことですか?」

 さらに揃って首を傾ける2人を見つめながら、新はさらに付け足す。

「もう1人はね、僕の双子の弟なの」

「はぁ、どこかに旅にでも出られてしまったんですか?」

「ううん、3年前に死んじゃった」

 サラッと言う新とは対照的に周囲は固まる。

「あ……すみません、新さん」

「いいよいいよ」

 新は優しく若菜の頭を撫でる。

「ちーちゃん、辛いこと思い出させちゃったね、ごめんね……」

「別に、茉莉花のせいじゃねえ」

「ちーちゃん……」

「それにしても、虎太郎が死んで3年か」

「だね」

「え……虎太郎って」

 何故か、それに異様に敏感に反応したのは茉莉花だった。

「どうした、茉莉花」

 心配そうな顔で、智紘は茉莉花の顔を見る。

「あれ? でも似てるかも……あれ?」

「どうしたの、茉莉花さん」

 新がニコニコ顔で聞く。

「上月……虎太郎……?」

 茉莉花はただ、混乱するだけで、何も喋らなくなった。

 そして、彼女は、走りだした。






 間違えました

 カラオケって

 空オケって書くんですね



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