12.娘
大村がただの一般人に戻ってから数日後、彼は引き続き隔離部屋にて生活を送っていた。
というのも、大村が姿を隠して怪人達と戦っていたことが、マスコミによって世間にばれてしまったのだ。
同時に怪人が元人間であるという情報が広く認知されたこともあり、『怪人も人間、殺すな!』と言った声も聞かれるようになり、デモまで行われるようになったのだ。
そんなわけで、身辺警護の点もあり、現在も仕事に従事するとき以外は主に隔離部屋で過ごし、対特殊生物対策隊本部までは蒲池が車で送迎していた。
もちろん、以前に比べれば外出制限も緩くなり、自由に買い物もできるようにはなったのだが。
「そういえば今日は漫画版『怪人28号』の特装版の販売日だったな。少し本屋でも行くか」
そう言って大村はベッドから起き上がると、鼻歌を歌いながら部屋を出て本屋へ向かった。
大村が本屋で目的の単行本を手に入れ、レジに並んでいると、一人の若い女性に声をかけられた。
「ねえ、あなた大村英光でしょ?」
この手の質問には昔から慣れているため、淡々と返事を返す。
「ああ、そうだが。君は……?」
女性はその質問には答えず、更に質問を投げかける。
「どうして私のお父さんを殺したの?」
「?」
大村は困惑した。
なぜ自分が彼女の父親を殺す必要があるのか、全く理解できなかったからだ。
大村が黙っていると、女性は続けて喋る。
「私は富士、富士明美。富士光太郎の娘よ」
十五分後、二人は喫茶店にいた。
「そうか、君は富士博士の娘か……」
コーヒーを飲みながら大村がそう呟く。
確かに言われてみれば、顔立ちは彼に似ているようにも見えた。
大村は少し離れた席に蒲池が座っているのを確認し、いざという時は確保もいとわない覚悟で身構える。
「さっきの質問に答えて。どうして、私の父を殺したのか」
大村は知っていることを明かせる範囲で慎重に言葉を選びつつ説明した。
彼が怪人を生み出す薬を作っていたこと、そして人を襲うことがあると知ったうえで人のいる場所で人体実験を行っていたことも、そのせいで大村の息子が殺されたこともだ。
彼自身が怪人化できたことなどは明かせない内容だったので黙ってはいたが、それ以外の内容は隊員の独断でも開かせる内容だった。
それを聞いた明美は、ひどくショックを受けたようだった。
「そんな……薬を作ってるのは知ってたけど、まさかお父さんが怪人を造っていたなんて、私、全然知らなかった……」
大村は、そんな彼女にこう語りかける。
「おそらく娘には知られたくなかったんだろう。俺の息子も、俺に話してはくれなかった」
大村はそう言うと、ポケットから折りたたんだ写真を取り出した。
そこには大村と大村の妻、そして幼い男の子が写っていた。
「この子が息子の秀明だ。富士博士に殺された。本人は直接そうは言わなかったが、話した時の口ぶりからするに、おそらく」
「…………」
それを聞いた明美は黙り込む。
大村も黙っていたが、やがて数日前のトンネルでの出来事を思い出し、口を開いた。
「そういえば、富士博士が死んだ後に、彼が会いに来たな」
「え? どういうこと?」
明美は困惑しているが、大村は起きたとおりの出来事を伝えた。
「──で、彼は俺を助けてくれたんだ……どう思う?」
「助けられてる以上、幻覚とは思えない。けど、死体が動くとも思えないし……」
明美は顎に手を当てて考え込んだ。
しばらくして、彼女は何かを決意した表情で大村に向き直った。
その目を見て大村は何を言い出すか察したが、あえて何も言わずに待つ。
すると案の定、彼女は大村に向かってこんなことを言った。
「大村さん、そのトンネルに案内してもらえる? 何か手掛かりがあるかも」
「ああ、俺も生きているのか興味があるし、まだ怪人を造ってるなら止めなきゃならない。付き合おう」
二人は視線を合わせると小さくお互いに頷いた。




