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7.君の名は

よろしくお願いします。




「なあ、あんた。名前なんてえの?」

私は少し驚いた。この男に名前を聞かれるとは思っていなかったからだ。

人は長く付き合おうと思わない相手に名前は聞かない。

ほとんどの会話は、「あなた」、「君」、「You」で事足りる。名を名乗り合うのは相手ともっと知り合いたいと伝えているのと同じだと私は思っている。だから


「無い。」

「ナイ?変わった名前だな。」

「ええ、良く言われる。」

必要ないのだ。

ヒューゴの細い目が真っすぐこちらを射貫く。

「で、本当の名前は?」

「教えない。」

「じゃあなんて呼べば良い?」

「ナイで良い。」

「あ、そ。」

男はふんと鼻息をひとつ。


「じゃあその名前で国に登録申請するからな。

聖女がお母ちゃん探して『ナイ』なんて名前の女は母ちゃんじゃないって言われても俺は責任取らないからな。」

「うっ…。」

「さっきの仕返しぃ。」

「くっ。」

無駄にフィジカルな争いの直後、馬車は図書館に着いた。




「で、何が知りたいの?」

イヤミな程大股で隣を歩くヒューゴが聞いてきた。

「歴代聖女の記録。過去連れてこられた聖女の召還時の平均年齢と召還後の扱いとその後。元いた世界に帰った人はいたのかとか、事件に巻き込まれた人がいたかとか、色々。」

このままじゃ沙羅が危ない。私が助けに行くまで無事に過ごせるのかだけでも知りたい。

ヒューゴは片手で自分のアゴを掴んで少し考える素振りをしてから私の耳に顔を近づけてきた。


「それならここじゃダメだ。」

ダメなのか。

「じゃあ誰に聞けばいいのよ。」

「王族だ。」

「王族?」

「ああ。聖女に関する情報は全て秘匿されている。知っているのは王族と歴代の聖強院のトップだけだ。」


また聖強院か。あそこは好きになれない。こっちに来てからどこも好きになれていないが。

いや、ちょっと待って。


「神殿は?」

「神殿は除外されてる。」

「なんで?」

「それは、今ここで話せない。外に出よう。

そして飯を食おう。俺は起きてからまだ何も食ってない。」


仕方ないので外へ出た。




*******************************




昨日街中の人からハブられた思い出の噴水広場に私とヒューゴはやって来た。

道行く人間共全てが敵に見える。

私に魔法が使えたらきっと噴水をどっかん破壊していた事だろう。

思わずあの有名なセリフがこぼれ落ちる。


「3分間だけ待ってやる…。」

「え?」

ヒューゴは屋台に食べ物を走って買いに行った。


彼の背を見送りつつ、なんとはなしに周囲を見ると、今日も絶賛ハブられているようだった。誰も私と目を合わせない。

いたたまれなくなり下を向いて芝生を踏み踏みしながら大きな木のところまで歩く。

木に寄りかかるとポケットに両手を入れて靴の爪先を見つめ、小さくため息をつく。弱気になっちゃいけないと解っているが、正直辛いものがあった。


ヒューゴはまだだろうかと考えていると、ふと目の前に影がさす。顔を上げると昨日私が怒鳴りつけた院兵の男が立っていた。



「見つけた。」

えらく嬉しそうだ。M男だったのか。

怒られるのが好きなタイプなのかもと思う。日本でも管理職のオヤジの方が注意されると喜んでたなとぼんやり思い出しながら見上げると、


「昨日はすまなかった。」

いきなり頭を下げられた。


「はあ。もう良いです。自分でなんとかすると決めたんで。」

「えっ、いや、それは…。」

しょんぼりしている。ずいぶんと大きい人だ。昨日会った時も大柄な人だと思ったが、目の前に立たれるとプロレスラーかと思う程大きい。そして思いの外イケメンだ。真っ赤な髪と金色の目がキラキラしていて大型の猫科の猛獣のような人だった。

彼は何度も謝ってくれた。それと昨日からずっと私を探していたとも教えてくれた。


「いきなり出て行ったと聞いた時は慌てた。すぐに見付かると思っていたのだが、この場所を最後に姿を消したと聞かされて。

今日は朝からここであなたを探していた。」


どうやら大騒ぎだったらしい。聖女のおまけとは言え異世界人だ。それなりに価値が有ると思ってもらえたのなら助かる。

彼は恭しく礼をすると、改めて自己紹介をしてくれた。

彼はシム王国 聖強院駐屯師団長で名前をアレッサンドロ・ビコーと言った。まさか聖強院で一番えらい人だったとは、知らなかったとはいえ驚いた。

ついでにこの国の名前を今知った。


「すまないが私と一緒に聖強院までご同行願いたい。

我々はあなたを保護する義務がある。」


私も保護対象だったのか、それとも新たに保護対象になったのか聞きたいところだ。

行くべきか断るべきか悩んでいると、昨日はどこにいたのかと聞かれたので、現在国境警備隊の市街地駐屯所に世話になっていると告げる。

それから昨日、誘拐されそうになった事と、その時助けてもらった人を介して駐屯所で保護されたこと等説明していると、ヒューゴが走って戻って来るのが見えた。


「おおお!ビコー団長じゃん!すげえ!本物だ!」

彼は有名人らしかった。




結局私は聖強院へ向かうことにした。

歴代聖女の情報が知りたいからだ。あと、神殿に行って聖女と会う方法があればそれも知りたかった。


再び国境警備隊の馬車に乗り、外敵では無く私を警戒する護衛のヒューゴと共に聖強院へ向かう。

ここから聖強院までは歩いていける距離なので断ろうとしたが、ヒューゴ曰く

「ビコー団長と一緒にパレードしとけば周りが納得する。」

らしいので、私を無視した奴らに笑顔を振りまきながら、これ見よがしに馬車で移動してやった。




ここまで読んでくださった方への感謝で胸がいっぱいです。

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