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6.私は性格が悪い

ちょっと重い話になります。



恐ろしく眠りが浅かった。

「頭痛い…。」

うちの前をトラックが通過しても目が覚めなかった私が、風の音で起きる位には緊張しているらしい。人生で一番の浅い眠りを経験した後、ゆっくりとベッドから降りて自分の荷物を確認する。

盗まれることは無いと思いたいが、この中にある物は命綱だ。失ってはならない。


着替えが紙製の使い捨てパンツしか無いので昨晩手洗いして干して置いた下着をはく。ノーパンで寝るのは少々不安だったが耐えた。

顔を洗ってハミガキセットを出して歯を磨く。この世界にも水道はあった。原理は似たようなものだろうが日本と違って水圧がめっぽう低い。ちょろちょろしか出ない。


今日はこの世界について調べようと思う。

私には情報が足りないからだ。

しかしながらヒューゴをはじめとした人間、特に『男』は信用できない。だから図書館なり学校なり自分の足で調べて回ろうと決めた。





「ちょっ!まっ!!お待ち下さい!!どちらへ行かれるおつもりですか!!」

駐屯所の門兵が慌てて追いかけて来た。会釈して通り過ぎてみようと試してみたが、やはり呼び止められてしまった。


「あのですね。ちょっと街の散策など。」

「今護衛をつけますから!1人で歩かないで下さい!」

私に直接触れずに通せんぼする兵士。必死だ。

かわいそうなのでヒューゴを待つことにした。あいつは信用ならないが腕は確かっぽいので連れて行くしか無いのだろう。


「あんたさあ、何逃げようとしてんの?」

やって来たヒューゴはあきれ顔だ。

「護衛は女性を希望します。」

「今更?」

「あんたは誘拐犯の臭いがする。」

「やめて?!俺真面目に働いてるのよ?職場の信用潰す気?」


この男は苦手だ。


ヒューゴが相手だと会話がポンポン弾む。相性が良いのか合わせるのが上手いのかと聞かれたら後者だと思う。この男はコミュニケーション能力が高いのだ。



別れた夫を思い出す。




******************************




夫は口が上手くて外面が良く、人付き合いの苦手な私をフォローしてくれる面白い人だった。

食器を洗うことも厭わず、家事も手伝ってくれた。本当にできすぎな位ちゃんとした人だった。だけど、



沙羅が産まれてから少しして、沙羅の発達に問題が見付かった。


「私、仕事辞めようと思う。」

沙羅を支えたい。この子の未来を、幸せな将来を掴めるようにしてあげたい。母親なら当たり前の感情だ。だが夫の考えは違った。


「働け。仕事は続けろ。子どもは大丈夫だ。問題無い。」

何を根拠にそんなことが言えるのか。


「楽しやがって、俺は働いているんだ、お前も働いて金を稼げ。」


それからは何もかもが変わった。

いつも不機嫌で話しかけても無視される。

子どもの事を相談すると露骨に嫌がり避けられるようになった。

最低限の援助はしてくれるが、子どもにかかるお金は一切くれなくなり、私の貯金を切り崩して暮らす様になった。


周りに相談しても誰も理解してくれなかった。


「良い旦那さんで良かったわね。」


日頃の行いの報いだろうか、私の言葉は只のワガママな愚痴としか聞いてもらえなかった。

私よりも好かれる人を身方につければ私も人から好かれると勘違いしていたのだ。


ある日、沙羅が怒鳴られて怯え泣きじゃくる姿を見て心を決めた。

荷物を少しずつまとめて、夜逃げのように家を出た。

もちろん慰謝料はもらえない。そんな物いらなかった。


沙羅さえいてくれれば頑張れる。


そうやって生きてきた。

だから男は信用できない。




******************************




馬車の中、向かいの席に座って外を眺めているヒューゴの顔をじっと見つめ、リュックの紐を握りしめる。

深く息をすってゆっくりと吐き出す。顎を引きポケットの中を確認し、

覚悟を決めて声をかける。


「それで、どこへ行くつもり?」

細い目を見開きヒューゴがこちらを向く。

「どこって図書館。」

「あらそう。てっきり隣国に連れて行かれると思ってたから、この辺りで降ろしてもらおうと思ってたのに。」

「ちょっと待って、なんでそう思っちゃうの?!」

「あんたが嘘つきだからよ。」

「ええええ。」


ヘラヘラと笑うヒューゴの手を取りそっとこちらに引き寄せる。ヒューゴはニヤニヤしたまま上半身だけこちらに近付く。鼻と鼻が付きそうな距離まで来た所で脇腹にスタンガンを当てた。


「がっ!」


前のめりに倒れ込む。もう一度、今度は首筋に当てるとヒューゴはびくりと動いてそのまま崩れ落ちた。


「荒縄とか無理。」

そう言いながらビニール紐でヒューゴの首をぐるぐる巻きにしてアシストグリップにくくりつける。軍用だからだろうか、馬車にもコレあるんだなと感心する。

あまり短いと首が絞まって危険だと思い、少し余裕を持たせたら首輪にリードが着いてるみたいになった。

ついでに両手の親指も後ろ手に2つ繋げて縛り上げる。

私は鼻息荒く馬車の座席に座り直した。




「おい、何だこれは。」

意外に早く意識が戻ったヒューゴがキレ気味だ。


「犬みたいね。」

「お前がやったんだろうが!!」

「落ち着きましょうよ。」

「なんで?!」

「男は全て信用ならない!」

「馬鹿だろ!?お前!」


ヒューゴは「俺は護衛だぞ!」とか「なんで護衛を縛るんだよ。」とか良いながらモゾモゾと動き、両腕の中にお尻と足を順に通すとするんと抜いてしまった。

「縛り方がぬるい。」

と言ってビニール紐を食いちぎるとペッと吐き出して両手をフルフルと軽く振った。

それから小さいナイフをどこかから取り出して首の紐も切った。


「この紐便利だな、くれよ。」

「嫌よ。」

「なんでだよ。」

「ゴミ捨てる時に使うからよ。」

「俺はゴミかよ!?」


やはりこの男はコミュニケーション能力が高い。危険だと思った。



読んでくれてありがとござます。

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