3.聖女っ子
娘視点です。
「お母さんは?」
白いおじさん達に囲まれて馬車に乗せられるとドアが閉まる。
振り返るとどこにも母がいない。急に心細くなり左手で右手の指先を握り込み手の震えを隠して、白いヒゲのおじいさんを睨み付ける。
「お母さんはどこ!?」
乱暴に話しかけると目の前に座るおじいさんがにっこりと微笑んで答える。
「聖女様の御母堂様は別の馬車に乗っております。」
「すぐに会える?」
「はい。神殿に着きましたらすぐに。」
嘘かも知れないと思った。この人は信じられない。
プイと横を向く。馬車の窓には分厚いカーテンが窓枠に沿って打ち付けてあり外は見えない。密室特有の圧迫感がある。
このおじいさんは気持ち悪い。さっきからずっと私を見てニヤニヤしている。本当に嫌だ、加齢臭なのか着ている服から独特の臭いがする。あと10分この馬車の中に二人でいたら乗り物酔いする自信がある。
「あの…どこへ…行くの?」
するとにやついていたおじいさんは目をギラギラさせて私を見て返事をした。
「神殿です。聖女様をお迎えする聖域です。ご安心ください。」
さっきから聖女様聖女様うるさくてイライラする。何がしたいんだろう。
「私は聖女様じゃないです。」
「ほう。」
「家に帰して下さい。」
するとおじいさんは困ったような顔をして黙ってしまった。
「むかつく。」
何か解らないけどこの人達がどうしても好きになれなかった。私が引きこもりだからだろうか。人と接することがあまりなかったから解らない。
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神殿と呼ばれる場所に着くとすぐに馬車から降ろされた。急かされるようにして建物の中へ入る。白くて大きな建物は神殿と言うよりも病院の様な見た目だった。四角くて白くてつるんとしている。
中に入ってすぐに白い服のおじさん達に両脇をはさまれる。
「ちょっと!くっつかないでください!」
私が大声で言うとおじさん達は少しだけ離れた。
「まじで嫌なんだけど!」
そう言いながら周りを睨み付ける。それと同時に建物の内部を観察する。
中も白い、そして壁もドアも全てが四角い。
「マ●クラかよ…。」
あの四角いオブジェクトを積んで遊ぶゲームのようだ。
真っ直ぐ進み、途中建物の外へ出て渡り廊下を歩く。廊下は橋になっていて、その下は川のように水が流れていた。再び建物に入るとさっきの建物と全く同じ白い四角が続く。
「病院みたい…。」
誰も返事をしない。
「無視かよ…きっも。」
さっきからおかあさんが見当たらない。もしかして殺されたんじゃないかと不安になってくる。
だんだん我慢ができなくなり、立ち止まり大声で叫ぶ。
「お母さんはどこ!?」
おじさん達がオロオロし始める。するとあのおじいさんが私のそばに来て手を取ろうとする。気持ち悪くてイライラする。
「触らないで!!」
咄嗟に手を振り払い、そう叫んだ瞬間、目の前からおじさん達が消えた。
そして何故か私は小さな部屋にいた。何も無い、アパートの私の部屋よりも狭い、3m四方くらいの柔らかい床と壁の温かい小さな部屋だ。
さっきまでいた白い空間はもっと広かったはずだ。
何が起きたのか全く解らない。
「お母さん!!お母さんどこ!?」
パニック状態で壁を叩くが、柔らかい壁は音すらたてない。
大声で叫んでも誰も返事をしない、音の無い部屋で1人、泣き叫んだ。
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目が覚めるとさっきと同じ部屋にいた。
泣き疲れていつの間にか寝てしまったらしかった。
「お腹空いた…。」
また涙がこみ上げてくる。
「お母さん!!お腹空いた!!」
返事が無い。
「おかぁさん!!!」
力一杯叫ぶと
「にゃあ」
返事があった。
いきなり目の前に真っ白な猫が現れて私の顔をなめた。
緑色の目をした白猫だ。
「お前どこからきたの?」
「にゃ」
「もしかしてお母さん?」
「にゃ?」
違うっぽい。
「なんなんだよ、もう…う~…。」
涙がポロポロこぼれてくる。
「にゃうん」
白猫が尻尾で顔をなでた。
「お腹空いたよう。」
「な~」
「お前も?」
「な」
私は白猫を抱えて目を閉じた。
柔らかくて温かい、少し大きめな白い猫を抱きしめると、ゴロゴロと喉を鳴らす音が身体に響いてくる。
少しずつ気持ちが落ち着いてきて再び私は眠りについた。
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