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2.聖女降臨 

読んで頂きありがとうございます。



さて、今私は見知らぬ街の知らない通りに1人立っている。


「まあこうなるわよね。」


そう独りごちてからとぼとぼと歩き出す。ここがどこなのかも解らず、どこへ行けば良いのかも解らないまま、真っ直ぐ続く石畳を今出てきた門を背に前に進む。


「せめて自転車か車持って出てくれば良かったわ。」


愚痴も出る。

幸いにして銀色のリュックはそのまま背に担いでいるので一週間分の食料は確保してある。現金は…こちらでは使えるかどうか解らないがおそらく無理だろう。飲み水はペットボトルが2本。ちびちび飲むしかない。

僅かばかりの諦観を胸に小さくため息をついて一歩一歩前に進む。歩かないと、とにかく何かしないと心が潰れそうだった。立ち止まったら泣き崩れそうだった。



*****************************



あの後、娘だけが連れて行かれた。

大切に大切に、さながら宝物を運ぶかのようにエスコートされてゆく娘の後ろ姿を見送ると、誰もいなくなった空間で私は自分が置いて行かれた事に気付いた。

せめて誰か1人でも優しい人がいたら相談もできたのだけど、誰も声をかけてくれなかったので気付くのが遅れた。

慌てて彼らの後に続こうと外へ出るとすでに誰もいなかった。


部屋は長い廊下に面していたため彼らが右へ行ったか左へ行ったか解らない。とりあえず左に行ってみた。。

突き当たりのドアを開けて隙間から外を覗くと広い庭らしき場所に出る。

外に出て少し進み左右を確認するが誰もいない。

仕方なく反対側の通路に戻ろうと振り返ると、あったはずの扉が消えていた。扉があったはずの場所には壁しかない、それも石の。開けられる気もしないし、叩いたら手が痛くなりそうだ。


「困ったわ。」

仕方なく壁沿いに歩いて入口を探してみる。ずいぶんと大きな建物らしい。子どもが通っていた小学校の校舎より大きいだろうか。

少し歩くと建物の角らしき場所まで到達したのでそっとのぞき込んでみた。


「人がいるわね。」

角を曲がってすぐの場所には建物の裏口らしき通用口があった。幾つかの大きな木箱が積んである先には、轍の残る幅の広い石畳が見える。

その先に数人の男女が何か話し込んでいるのが見えた。

先程の色白中年老人軍団と違い、髪の色も少しばかり濃い色味で服装も普通だ。普通と言っても

「なんだかアニメの世界みたいよね。」

子どもの頃見た気がするアニメの、(山の上で一人暮らしをする偏屈なおじいさんと、彼に引き取られた子ヤギを連れてスキップしながら歌う少女)の世界感満載の服装をした人達がいた。


「ここで話しかけたら怪しまれるかしら。」

木箱の影に隠れながら彼らの近くまで移動してみる。声が聞こえる距離まで近付いて、しゃがんだまま彼らの話を盗み聞きしてみることにした。


「さっきの馬車みたか?」

「ああ、驚いたよ。大司教様の馬車に『聖女様』が乗られていたんだそうだ。」

「え?!」

「聖女様?!本当に降臨されたの?!」

「ああ、俺は遠くから、馬車しか見えなかったけどな。」

「俺も見たかったな。聖女様かあ。」


どうやら娘はすでにここを出た後らしかった。少なくとも私より無事ではあるだろう。それよりもあのおじいさんが大司教様と呼ばれていたとは。キモイと言われたのなんて人生初だろうなと少し同情する。


「とりあえず娘のいる場所へ行かないと。」

よいしょと立ち上がり、聖女ネタで盛り上がる集団のいる場所へと向かう。


「ちょっと、すみません。お聞きしたい事があるのですが。」

極力落ち着いた声音で話しかけてみる。

が、彼らは私を見ると一斉に目を見開き、唖然としたまま固まる。

「あのう…先程みなさんがお話ししていた聖女様なんですけど、どこへ連れて行かれたか解ります?」

未だ固まる集団の中から一人の男性がぎこちない動きで私に返事をした。

「あんた…どこから入ってきた?」

「この建物の中からです。」

「はい?」

「聖女様?と一緒にここに連れてこられたのですけど、私だけ置いて行かれたみたいで…。ここはどこですか?」

集団がざわざわし始める。

「俺、ちょっと院兵に聞いてくる!」

慌てて一人の若い男性が『院兵』なる人の元へと走り去る。それを見送った後、再び彼らの方を向く。

「ここはどこですか?」



*******************************



「すまなかったな。」

私の前に座る兵士らしき男性が頭を下げた。


「何に対する謝罪ですか?ここへ誘拐されたことですか?それとも私だけ放棄されたことでしょうか?」

男は太い眉毛を八の字に下げてこちらを見る。

私は別段怒っていないが不機嫌さを装って毅然とした態度で臨む。なめられない為の社会人の常識だ。そう決して怒ってなどいない。


「両方だ。」

男が茶を一口、口に含むと喉仏が大きく上下する。

いかにも兵士然とした厳つい大男は続ける。


「聖女召還は突然始まった。対応に追われるうちに神殿が聖女を迎え連れて行ってしまった為、あなたへの応対が遅れた。」

「何を言っているのか解りません。聖女召還とは何でしょう?」

意味が解らない。あほらしくて笑う気にもなれなかった。男は困り顔のまま説明をしてくれた。




結論から言うと私と娘は「異世界に連れてこられた」らしい。

この世界は地球ではなかった。まあ服装やら「聖女」とやらの日本とは違う物を見聞きすればおおよその見当はつくが。


「早く目が覚めないかしら。」

未だ明晰夢の疑いを持ったまま私もお茶を飲んだ。


この世界ではおよそ100年に1度、異世界から聖女なる人物が現れる。その人物を迎え入れ国で手厚く保護するのが慣例だと教えてくれた。聖女を迎えると国が豊になり国家の安寧が約束されるとかなんとか、正直どうでも良い話だった。


「聖女が降臨される時は祭祀の祠が白く輝く。と言われていた。」

あの白いペンキのことだろうか。とは言え、

「なんで家の娘が…。」

「それは俺にも解らない。ただ、今まで母親が一緒に降臨された話しは聞いた事がない。古い文献を調べれば出てくるかも知れんが、それは神殿にしかないしな。俺には解らない。」


聖女はいつも一人で現れた。


「だから周りも見落としたのだろうと思う。」

いくらなんでもそれは無いだろう。私は娘のすぐ後ろに立っていた。しかも目立つ銀色のリュックを背負っていたのだ。


「見落とす?」

そう呟くと私は立ち上がった。

「は?」

「あなた方は私を馬鹿にしているのですか?こんな派手な銀色のリュックを背負った人間が目の前にいるのに気付かない?ありえないでしょうが。」

そう言って非常持出袋を男の目の前に突きつける。アクセントの黄色い蛍光色が目に鮮やかだ。大男があたふたするが無視して続ける。


「私は無視されたのです。その場にいたのに居ない者として扱われたのです。この国には人権という物がないのですか?

そうですね、前時代的な野蛮な人が多そうですし、私の暮らす世界とは文明の水準も低いのは見て取れます。

おそらくは女性の地位もあほらしい位低いのでしょうね。」


私はリュックからペットボトルの水を出してキャップを開けるとゴクゴク飲む。


「聖女だか何だか知りませんが、余所の世界から人をさらってまで頼る。自分たちでなんとかしようとしない、他力本願の極み。

努力を怠るから文明も進まず停滞したまま。

こんな世界に呼ばれた被害者へのフォローも無し。

さぞかしおつむの優秀な方々が国を率いているのでしょうね。

ああ、きっと封建制度が生きてるのでしょう。愚かな遺伝子にしがみつく特権階級が国家を運営する。

ダメな社長って大概家族経営企業の2代目3代目ですからね。クソが!」


ひとしきり文句を言った後再び椅子に座り直してリュックにペットボトルをしまう。

そして厳つい大男に人差し指を向けて言った。


「私は娘を誘拐されたのに、あなたは、ひいてはこの国は神殿で保護したと言いました。

つまり国家規模の誘拐です。

おそらくは警察組織などこの国には無いのでしょう。だって「誘拐」を「保護」と言うような野蛮な世界ですから。」


再び立ち上がりリュックを背負い、男の情けない顔を見据えて宣言する。


「今すぐ娘を返せと言っても返してもらえないだろう事は理解しました。

だが!返してもらうからな!この腐れ外道の誘拐犯どもが!

お前ら全員!この世界全て転覆しろ!滅べ!朽ち果てろ!」


そう宣言して私はこの部屋を後にした。




そんな訳で、思いっきり暴言吐いた手前助けてとは言えず、勢いのまま外に出て一人歩く。


「やだわ。どうしよう。」

何だかこの世界が好きになれそうもない。


「テロリストになっちゃおうかしら。」

泣きたいが我慢した。



300年は長すぎるので100年に変更しました。

あと、ヒーローがいないと楽しめないとのご意見を、を、近しい者から頂戴したので、ヒーローを登場させる所存です。

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