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21.マイノリティ クライシス

この作品のテーマ回です




娘がイジメにあっていると知ったのは、不登校になってすぐだった。

当初、私はイジメをなめていた。自分は昔、もっと酷い目に合っていたと、被害者マウントを取っていたからだ。

多くの大人は、自分の方が他人より苦労していると思いたがる。

「俺、もうずっと寝てないんだよね。(お前より睡眠時間短いよ)」自慢が良い例だ。

私は無意識でそれを娘にやっていた。


イジメというのはある種の『完全犯罪』だと理解したのは、娘を無理矢理学校へ連れて行った時に、過呼吸を起こして倒れたのがきっかけだ。


イジメの最大の問題点は、明確な罪として裁く為の、法的な基準を持たない事だ。

次いで、大きな問題点は、被害者と加害者の認識の違いが、天と地ほど離れていると誤解されている事だ。


加害者には明確な悪意がある。それを『解らなかった』『悪意は無かった』と、虚偽の証言をしても、その年齢を理由に免罪符が与えられる。

加害者は自身を裁く事ができる大人がいないことを理解した上で、『どれだけ犯しても許される罪』を、愉悦をもって行っている。

更には、悲しいかなアリバイがなくても成立する環境でもある。誰がやったかを確認する方法が、本人の供述のみで成立するからだ。


例としては、

上履きを捨てる→ゴミと間違えた。

ノートに落書きをされた→自分のノートと間違えた。

体操服を隠された→同上。己の服と何故間違える。

ツッコミどころは多々あるが、大人はそれをそのまま受け入れ、処理することで責任と仕事量を減らしたい。

だから、「そうだったの。」「今度から気をつけてね。」「それ位のことで目くじら立てて怒らないで。」と、被害者側に精神的な負担がかかるような解決策をとる。


日本の学校教育の最大の問題点は、教師の人数が少ないことではない。

マジョリティの意見を受け入れ、マイノリティを抑える事で、かりそめの安寧を積み重ねている点にある。

数の暴力が社会全体で日々行われている。


だから娘が不登校になった責任は、全ての大人にあると私は思った。


私の知る限り、世の中の保護者たちは、極端な話し、「自分の子が無事であること」が重要で有り、学校そのものへの不満は「卒業までの我慢」程度にしか思っていない。


私が子どもの異世界への引っ越しを受け入れたのは、保護者より上の存在である、『守護者』が娘に与えられるという約束を信じたからだ。




それをふまえて。

私はこの世界に居場所を求めている娘の為にも、頑張って住む場所と仕事を探す必要があった。


「あの子が守護者を見つけてくれれば安心できるのだけどね。」

そう、あの子が誰かを選び、その人と共に生きると決めたら、その後は、私は帰るだけだ。帰ったら掃除をして、洗濯をして、仕事はクビになっているだろうから探さないと。

とりあえずはこっちの世界での生活基盤をなんとかしなければ。


この3日間、聖女聖女聞かされて感覚がおかしくなっている。

人として、真っ当に生きる事の方が大切だと私は思う。だからとりあえず、

「職探しだ。」


できれば住み込みが助かる。




そんなわけで、私はビコー師団長に会いに行った。お忙しい中、申し訳ないです。

「師団長。少しお時間よろしいでしょうか。」

「はい。どうぞ。」

畏まって相談を

「実はですね、娘はこちらの世界への引っ越しを受け入れつつあるようでして。」

「そうですか。」

面接している気分だが、ある意味上司になる可能性もある。

「この世界での生活が落ち着くまでは、私も保護者としてこちらに滞在するつもりでおります。」

「それは、良かったです。」

「つきましては、こちらでの生活基盤をですね。持ちたいと思っております。」

「はい。」

「もし、よろしければ、私にもできる仕事と言いますか、職場を紹介して頂く事は可能でしょうか?」


ビコー師団長は固まっていた。

「…仕事…ですか?」

「はい。元いた世界では事務職をしておりました。」

「あ、はい。」

「王宮で働きたいとか贅沢は言いません。安定した職場であれば。あ、でも私、馬には乗れないので、家から歩いていける範囲だと助かります。」

「え、はい。」


歯切れの悪い返事しか来ない。これは相談する相手を間違えたようだ。

「ご無理を申し上げてすみませんでした。」

「えっ?」


そう言って頭を下げて私は退室した。

次はシルビアに相談してみようと廊下を歩いていると、すっ飛んできた師団長に

「ちょっとその件は持ち帰らせて下さい。」

とお願いされた。


する事がなくなった。



***********************************




ご飯を食べた後、天気が良いので外に出て、ジョギングでもしようかなと考えていると、

「お姉さん、噂の子持ち聖女?」

と声をかけられた。ヒューゴ以来のチャラ系登場か?と振り返ると、天使と見まごう程の美少年、青年?が立っていた。


「君は誰かな?」

と尋ねると、

「俺?王子。」

と返された。この青年は王子ではないだろう。どこの世界に自らを王子と名乗る王子がいるか。と、訝しんでいると、護衛と思われる兵士から


「殿下。恐れながら、その言い方。」

と注意されていたので本物らしかった。ママに似て美人ちゃんだ。


「何かご用ですか?」

「ああ、これ。」

と言って絵本を渡された。昨日シルビアが言っていた、護国の聖女と王太子のラブロマンス絵本を持って来てくれたのだ。ありがとうと言って受け取り、表紙を見ると、とても綺麗な絵が描いてあった。

丁度良い暇つぶしになる。良い物を頂いた。


王子様は何か言いたそうにしていたが、私はお礼を言ってからその場を辞して、さっさと部屋に戻って本を開いた。





その絵を見た時、何か妙な気がしたが、その時は気付かなかった。









ヒーローは遅れて登場する

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