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19.転移者多かった 帰る人も多かった

説明回です



2代前の聖女が子どもの保護を目的に設立した『養護院』が正式に稼働し始めたのは、今から約150年前になる。

開始後数十年は試運転状態のままで、王都に一箇所のみであった。それを少しずつ増やし、現在では国内の主要都市、並びに地方自治区と、鉱山地帯、沿岸部、穀倉地帯農村部の、全てのエリアを制覇した。それが今から30年前、施設数は30箇所ほど設置されているという。

養護院の規模は、その都市の人口に比例した収容人数で造られており、最大の養護院は王都に4箇所ある、第一から第四までの施設で、受入入所者数は60人まで収容可能と、かなりの規模だ。


驚いたのは、養護院の収容人数とは、完全扶養人数の事で、日中の預かり人数は別になる。そして学校も併設されていて、給食まで出る。

そこまで大きくなったのは、近年の爆発的な人口増加が大きく関係している。


人口増加の理由は、

「あたしがねえ。がんばったの。」

当時の王太子夫妻の地方行脚と、土魔法による国土整備が大きく影響した。それ以前は小規模の村落では、居住区を護る外壁は、柵だったり、見張りと櫓だったりと、防御よりも、有事の際は逃げる事をメインに暮らす国民がいた。


 「何が困るって、村長までそれなのよ。」

村ごと移転する人がままいた。しかも、住所変更登録をせずに、別の領地へ秘密裏に移民、その後、新たに登録していたのだ。何故誰も管理をしない。

『来る者拒まず、去る者追わず。』が常識だったと言うが、非常識すぎて驚いた。

ちなみに、それらの村民移転は、通称『まぼろしの村』と呼ばれている。今では物語のネタにすらなっているという。


「ほんと、雑だったの。同じ人が二箇所で登録しちゃって。片方は行方不明者になってるし。」

原因は、州や自治区の境界線が曖昧だったこと。国土が聖女に保護されている間は、割とどこも住みやすいため、国内での領地や利益の奪い合いがほとんど無かったそうだ。唯一管理が厳しかったのが、穀倉地帯の農村部で、そこをモデルケースとして、国内商人ギルドの助けを借りて、管理の基盤を作った。


シルビア達が最初に着手したのは、灌漑かんがい設備工事と、防壁の設置並びに塹壕工事だった。設備の見直し、強化と平行して、それ以前は適当に処理されていた、小規模な居住地や、貧困層の戸籍登録を地道に行った。

この世界は乳幼児の死亡率が高い。それを養護院で養育援助する事により、死亡率がぐんと下がった。


超が付く程のド貧乏国家を建て直し、人が多く住める様に姿を変えて、まだたったの30年…。まあ、そんなもんか。地球の歴史をみても、人間は意外とゆるい。


「シルビア凄い。歴史に名を残す人だ。」

真のチート持ち、聖女なんかよりずっと優秀だ。

「でしょお?」


だが、ほんの十数年前までは利用者が少なかった。旧態施設である孤児院との入れ替えの問題や、人身売買組織の妨害が主な原因だ。


この世界は魔獣被害だけじゃない。自然災害に対抗する手段はまだまだ少なく、医療技術も後れている。

不慮の事故や災害で父親を亡くした子どもを、女手一つで育てる、いわゆる母子家庭が数多く存在する。それら貧困家庭の一助となっているのは間違いないそうだ。


2代前は良い仕事した。


そんな養護院で、

「身元不明児の記録を細かく取り始めたのは今から30年前なの。」

それは先代聖女が崩御し、国内の治安が荒れる可能性を考慮し、急遽始めたそうだ。


この世界はアナログ社会だ。データベースなんて便利な物は無い。となると、地方の情報を中央に持って来るのは、基本的にお貴族様。その人が官僚へと報告をあげて、初めて王宮へと結果が届く。

その為今まで誰も気付かなかったそうだ。


「最初に見付かった子は、穀倉地帯にある森で迷子になってたの。」

その子は仮に少年Aと呼ぶ。

少年Aは『奇妙な服を着た、8歳の少年』つまり男の子だった。

彼は黒い色の四角いカバンを背負い、子どもの腕よりも短く細い縦笛を吹きながら、森から歩いて出てきたところを保護された。

訳)ランドセルを背負ってリコーダー吹きながら歩いてた。

「おおおおお。」


「それに気付いた人が、他にもいたら報告をあげる様に指示したの。」

その後、複数の報告があがってくるようになった。

だが、それらの情報を中央が欲している事に気付いたアホンダラもいて、

「嘘の報告も混ざるようになっちゃったの。」


「あるあるですね。」



急に後ろか声が聞こえ、驚いて振り向くと、さっき会ったシャルル・ノワイエさんが立っていた。


「あれ?さっきの?」

「兄なのよー。」

へええと良く見ると絵画的な美貌に幾つか共通点があった。

この人口倍増計画を考えたのが、シャルルさんだった。妹の才能に嫉妬せずに、有効利用を考える、なかなかできないことだと思う。


「優秀なご兄妹なんですねえ。」

「兄はねえ。独りぼっちで寂しくて、新しく友達作る為に人口を増やそうと思ったのよ。」

「くだらない冗談はやめなさい。」


兄と妹が仲良くしたところで、シャルルさんが話を再開した。

「人口倍増計画を行った一番大きな理由は、100年前の戦争です。」

ちょっと考えれば解るだろうが、と文句を言いながら教えてくれた。


先代の聖女と隣国の将軍とのゴタゴタが、前回の戦争のきっかけだ。

「その話はビコー師団長の方が詳しいです。興味があるようでしたら、後でビコー師団長に聞くと良いでしょう。」

「はい。」


戦争により、多くの尊い命が失われた。その多くは働き盛りの男性、つまり女性が残った。それで


「いっそこの国を『女性の国』にしようと思いました。聖女も女性ですし、やりやすいなと思いまして。」

男尊女卑なかった。凄いなこの人。




ここまで聞いてふと気付いたことがある。

この世界は、地球で言うとこの『昔』、数百年前の世界だろうと思っていた。

だけど違った。これはまるで『神話』の世界の話だ。




現在も養護院の職員はほぼ全員女性だ。

子どもを育てるにはその方が良いだろうと、あまり深く考えずにやってみたら、意外なことが起きた。

「報告書の内容が良い方向へ変化したのです。」

それまでは子どもの身体的な特徴、髪や目の色から始まり、親の有無、栄養状態など、本人を特定する、もしくは親を探すための情報しか書かれていなかった。だが、養護院の院長が女性になった途端、その子どもの日常的な言動や、知識水準が書き込まれるようになった。


「それで見付かった。」

「そうです。」



***********************************




第6養護院 ●●年●月×日。

女児A、年齢12歳、

海岸で貝殻を拾っていたところを保護される。

下着よりも露出の多い衣服を着用。当人はこれを「水着」と説明。

保護時、「ナンパかと思った」と話す。


第9養護院 ●●年●月×日。

男児B、年齢9歳、

ガラス製の物体を耳と鼻にかけた状態で保護。

当人はこれを「メガネ」と説明。

神童、他の子ども達に算術の指導を行う。


凄い枚数の報告書が置いてある。

「これって全て?」

「そうです。こちらが保護書類で、こちらが消滅書類ですね。」

「消滅?」


記録を取り始めた30年前からの人数だけで、年間100人前後いるそうだ。

「100人?!」

「はい。」


異世界から来た子どもは、数日間滞在後に、ある日ふっと消える事が多いそうだ。なるほど、帰ってるのか。元の世界では『神隠し』になるのだろう。

この地に残った人もたくさんいて、割合としては消滅が9割、居残りが1割だという。


「皆、普通に国民として暮らしています。」


消滅時に言葉を残して去る子もいて、ほとんどの子どもは

『お母さんに会いたい。』

と言って消滅する。だろうね。


「奇妙な発言は記録してあります。この子などは…。」


『俺はゲームを作るプログラマーになるんだ。ここにはパソコンが無い。』


と言い残して消えたそうだ。気持ちはわかる。退屈だったことだろう。






伏線が増えてしまいました

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