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17.護国の聖女

浮上回です




さて困った。

ヒューゴが戻って来ない。本当に辛そうな顔していたので、ちょっとトイレで泣いているのかなと思ったが、いくらなんでも遅すぎる。


「年取ると立ち直り早いから、すっかり忘れてたけどね。」

そう、若いうちは立ち直りに時間が少し多めにかかる。年取ると諦めるのが早くなる。それ以外、ATMの手続なんかはウルトラ遅いが。


「自分があっさりしてるから、つい他人への配慮が足りなくなるのよね。」

ため息混じりに素敵なソファに座って頭を抱えていると、コンコンとドアをノックする音がした。


「はーい。」と返す。すると、

「そんな間延びした返事があるか!」

と文句を言いながら男の人が入ってきた。


そして今、私の目の前には凄い人がいる。

なんだろう作り物だろうか、もしくは宗教画。もしかして魔法で作られた人造人間かも知れない。


見とれていると、唐突に自己紹介が始まった。

「私の名前はシャルル・ノワイエと言います。」

ここまで現実味の薄い、綺麗な顔の人間は初めて見た。美しすぎて気持ち悪くて返事すらできなかった。


彼は、『そんなもんは慣れっこだよ、私の顔が見たければ存分にどうぞ。』とでも言いた気な態度で、

「とりあえず。」

と前置きしてから、堅苦しい説明が長々と始まった。聖女のなんたらかんたら、王宮ではどうのこうのと延々とうんちくを聞かされた。

顔が良くなかったら寝ていたと思う。『目の覚めるような』と言う慣用句がこれほど似合う人はそうそういないと思う。


ひとしきり話しを聞いた後、私はこれから王妃様に謁見するのだと言われた。理由は王妃様が私に会いたいと言っているから。「承知しました。」とお返事して部屋を移動する為外に出た。




*********************************



この世界に来て初めて綺麗なお庭を見た。

奧にお茶の準備がしてある。どこだここ、そうか宮殿かと気付く。

自分の人生に全く縁の無かった世界、なんだろう、胸がむかむかする。来るんじゃ無かったと後悔しても遅い。

気にしたらダメだと己の心を叱責するが、ナイロンのパーカーに銀色のリュックを背負って、全身ファストファッションの私が居て良い場所じゃないなと、少しみじめな気持ちになる。


今朝からずっと、私はおかしいままだ。



少し待つと背後から


「お待たせえ。」

と綺麗な声が聞こえた。慌てて立ち上がり振り返ると、外国の雑誌から抜け出した様な美しい人がいた。ドレスはふんわりしつつもすとんとしているけど、髪型が凄かった。何だろう、既視感がある。神話に出てくる女神様の様でもあり、マンガやアニメに出てくる魔法少女の様でもある。


「緊張してるのかしら?大丈夫よ。」

にこにこと微笑みながら王妃らしき女性が私の手を取り椅子に導く。かろうじて、

「ありがとうございます。」

と返事ができた。私にこのお茶が飲めるだろうか。ツバなら今飲んだ。

彼女は心配そうに私を見て、

「アレッサンドロちゃんがね、今朝からあなたの元気が無いってウロウロしてるのよ。」

あの子ちっちゃい子のお世話に向いてると思わない?とコロコロと笑う。

はあ。と気の無い返事をする私に、王妃様はお茶とお菓子を勧めてくれた。



「あなたは聖女様のお母様だってアレッサンドロちゃんが言ってたの。でもね、あなた、聖女様でしょ?」

「いえ、私は只の、異世界から来た一般人です。」

意外にもお菓子が美味しい。もっとベタベタしてるかと思っていたが、お砂糖とクリームの使い方が上品で食べやすい。

私の頑なな態度を悲しそうに見ていた王妃様は、

「あのね?これからちょっと長話しちゃうけど、我慢して聞いてね?」

と、前振りしてから、シャルルさんから鍵付きの箱を受け取り、全員、席を外すように指示を出した。


「この箱には、1300年前に降臨された『護国の聖女』に関する記述が入っています。これを見て良いのは王と王妃だけなの。だからこの話は誰にも言わないでね?」


と言って、箱を開けた。



そこには『護国の聖女』の事が記されていた。




**********************************




この世界に聖女と呼ばれる女の子が約100年に1度の周期で『祭祀の祠』に現れる。

その子どもが、いかにしてこちらへ渡ってきたか、誰が何の為に連れてきたかは未だ解っていない。


1300年前、1人の女の子が降臨した。

その子どもは降臨時わずか10歳であった。彼女が時の大司教を恐れ、自身の身の上を嘆き、姿を消したのが、降臨してから半年後だった。

それから3年後に再び戻り、彼女はシム王国王太子と結婚した。

「13歳で?」

「早婚よねえ。」

当時の王太子は25歳。一回りも年上だった。


「怖いのはその後なの。」

結婚後、1年目に子どもが生まれている。

「14歳で?」

「早すぎよねえ。」

だんだん打ち解けてきた。


その子どもには魔法の才能があった。

後に解る事だが、聖女様の子孫にはごく稀に魔法を使える子が生まれる。

「一般人は?」

「全く。1人もいないの。」

ちょっと気になる事がある。

「この世界における結婚適齢期と言いますか、一般的に何才くらいで結婚・出産を経験するのですか?」

「そのしゃべり方やめて。普通に話してえ。」

と砕けろとの命を受けたので、言葉を崩すことにした。

「13歳で結婚、14歳で出産て、王族はあれですか?幼女趣味的な?」

「あら、今の王様は違うわよ。あれ?違うかな?うーん。」

幼なじみなのよーと王妃様は笑った。仲良しらしい。



それでねえ。と前置きしてから爆弾発言が落ちてきた。

「聖女様ってみんな子どもじゃない?」

どうやら結婚しても夫婦にならなかった人達の方が多いらしいとの事だった。

つまりそれは

「養子縁組みたいな?」

「そうなの。だから今回、初の大人の女性が降臨したって大騒ぎ。」

「大人?娘は15歳です。この世界では大人かも知れませんが、私の住む世界では結婚が認められる年齢じゃないです。」

鼻息が荒くなる。こんなセクハラ受けさせる訳にはいかない。

「違うわよ。あなたよ。」


「はい?!」


私が一緒に来たことは、一部にはすでにバレているそうだ。

「でも私は聖女じゃ…。」

「祭祀の祠から来た事が重要なの。もう聖女なの。」

「えええ。私は経産婦ですけどお。」

そこなのよ!と王妃様が言う。


今回初めて妊娠出産経験のある女性が祭祀の祠に降臨した。この世界の人間からしたら、聖女の子孫が望めると、誰も彼もが大騒ぎしているそうだ。何と言ってもすでに1人聖女を出産している実績がある。

この国のみならず、この世界で争奪戦が起きる可能性があると言う。

何故なら現在この国に魔法が使える人間は僅か4名。

「少な!」

「でしょ?でしょ?」


この世界で魔法が使えるのは聖女の子孫のみ。

現在魔法が使えるのは、

三代前聖女の子孫である、聖強院師団長アレッサンドロ・ビコーの身体強化魔法。

護国の聖女の子孫であり、先代国王の王弟である、タイロン・シム。

彼は微弱な物理移動魔法、物が動かせるそうだ。テレキネシスみたいなものだろうか。

それから、魔術師サロモン。彼は過去平民に嫁いだ聖女の子孫で、単純な結界魔法と魔法構築ができると言う。神殿のドアの修理ができますね。


「で、4人目がわたし。土魔法なの。」

と言って地面に手をかざすと、土がぽこんぽこんと盛り上がった。




「それでねえ。あなたと結婚したいって人が来ててえ。」

お見合い希望者がすでに二桁に達しているそうだ。

「みんなお金持ちよお。」

それはありがたいです。でも


「私は元の世界に帰ろうと思っています。」

私がそう言うと、王妃様は寂しそうな顔をした。




「私ね、小さい頃から魔法が使えたの。」


国中大騒ぎになったそうだ。彼女はすぐに現国王、当時の王太子の婚約者に決まった。丁度、先代の聖女崩御直後で国中が嘆き、悲しんで居た時だったので、尚更喜ばれた。


「婚約してすぐに、国中を回ったの。陛下と一緒に。10歳よ。」


それは本当に過酷な旅だったそうだ。

ある場所では魔獣により村が襲われ村人が全滅。間に合わなかった事を責められた。

ある場所では短期間で塹壕を作るように言われ、過労で死にかけた。

ある場所では使えない奴だと石を投げられた。

妊娠中は馬車に乗れないからと休むと、「王妃のくせに」と言われた。

子どもと一緒にすごす時間すら奪われた。

誰かに文句を言えば「国母にふさわしく無い」と影でささやかれた。


「30年。永かったの。陛下だけが私を護ってくれたの。」

子どもの頃は2人で泣きながら手をつないで寝ていたと言う。

話しを聞きながら涙を流していたらしく、王妃様がハンカチで拭いてくれた。


「私ね。魔法使いを産んで欲しいなんて思ってないの。」

ただねと王妃様は下を向いた。そのまま


「たいして仕事もしないくせに文句ばっかり言ってる、ウ●コみたいな顔した男達と一緒にいるの嫌なのね。


あいつらみんな他力本願の役立たずのくせに偉そうで頭にくるのよ。落とし穴作って落としてやりたいのだけど、一応王妃だから我慢ばっかりよ。と握った拳が怒りで震えている。


「ただ、私は、こうして一緒にお話できる、友達が欲しいの。」


私たちはお友達になった。





ありがとうございます。

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