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15.ヒューゴの過去




何故ヒューゴは聖強院師団長と王族しか知らない筈の情報を知っていたのか。

彼はこうも言った。

『今ここで話せない。』

あの時、ヒューゴが戻って来る前に師団長と会ってそのまま聖強院へ行ってしまったために、話しそのものを聞いていなかったことに今更気がついた。

彼は私に何を話そうとしていたのか。



『師団長自身が、己の後継者と決めた人間に、口頭で引継ぎを行う時のみです。』



つまり、おそらく彼は師団長から後継者として認められた人物と言う事になる。年齢から言っても、その相手はイサラ前師団長で間違いないだろう。

そんな彼に、私はスタンガンで攻撃し、あまつさえビニール紐で縛って馬車にくくりつけた。

その件については後で謝るとして。


何故、彼はその事を誰にも言わなかったのだろう。

師団長直々に後継者の指名を受けたのなら、心技体全て合格と言われた様なものではないのだろうか。もし私なら聖強院へ行き、自身も院兵になる事を選ぶだろう。何故それをしなかったのか。

イサラ前師団長は身寄りの無い人だと聞いている。と言う事は血縁関係者とは思えない。いや、もしかしてイサラ前師団長には家族がいたのだろうか。


おそらくは、イサラ前師団長の失踪と、聖女の消滅と関係がある。

どうしたら良いのだろうか。


「う~ん。」

「どうしました?」

私1人で抱えきれない。頼れる大男に丸投げしてしまおうか。


「あのですね。もし、もしもですが。イサラ前師団長と関わりのあった人物が私に接触してきたら、その時は、私、どうしたら良いのでしょうか?」

「つまりそれは、イサラ氏と関係のある人物がリッカさんに接触してきたと、そう解釈してよろしいのでしょうか?」

「…はい。」




「私も、今その話を聞いて気がついたのですけど…。」

「その話とは?」

「師団長自身が、己の後継者と決めた人間に、口頭で引継ぎを行う。」

ビコー師団長は驚いたまま固まった。彼のクセなのだろう、大きく息を吸うとゆっくり吐き出し、私に尋ねた。


「それはつまり、イサラ前師団長の後継者と会ったと?」

「多分、そうです。」



私はヒューゴとの出会いから今までの経緯を、バレバレと知りつつ名前を伏せて時系列で説明した。

誘拐されかけて馬車に乗って僅か2分程で助けられたこと。聖女の関係者だと言うと、自分を護衛として雇わないかと持ちかけられたこと。

この世界に来て最初に『祭祀の祠』について教えてくれた人だったこと。院兵は国の兵士では無くて聖女を護る兵だということ。聖強院は神殿寄りの考えを持つ人が増えたこと。

それから図書館に聖女に関する事を調べに行こうとしたら、聖女の情報は王家と聖強院しか知らないと教えてくれたこと。


「あと、こんな事も言ってました。『隣国とこの国とじゃ全然違う。豊かさもそうだけど、住みやすさが桁違いなんだ。』って。」


私の話を黙って聞いていたビコー師団長は、


「それは、あのヒューゴと言う傭兵ですね?」

と言った。

私は頷いた。




実は彼は院兵にスカウトされていたのです。とビコー師団長は教えてくれた。

「国軍の国境警備隊市街地駐屯地の所長からも推薦されていましたが、それ以前の国境警備隊前線防衛基地の隊長からも推薦が来ていました。」

めちゃくちゃ優秀だった。


ヒューゴは対魔獣戦において圧倒的な強さを見せていたと言う。

「魔獣ですか?」

「そうです。」


ヒューゴは人間との戦いを好まず、弱い者を助ける為だけに戦っていた。

ここは平和で安全だが、国境近くの森には魔獣がいる。今まではそれを駆逐、討伐よりも追い払う事に重きを置いていた。それを変えたのがヒューゴだった。自国のみならず、隣国の魔獣被害も減らす事を念頭に、日々、戦闘に明け暮れていたそうだ。


「魔獣が逃げても追いかけて殲滅するのだそうです。前線防衛基地の隊長曰く、私と同等の強さだと聞いています。」

「師団長と同等…。」


あの怪力と同じくらい強いとは、全く想像できない。そう言えば最初に助けてもらったときも、私は馬車の中にいたので彼の戦いを見ていなかった。


「基地では彼は『不死鳥ヒューゴ』と呼ばれていました。決して倒れない、何があっても生きて戻って来る不死身の男だともっぱらの噂でした。」

二つ名まで持ってた。


その彼が市街地に移動を希望した事で、院兵になるのだろうと皆思っていたらしい。それが蓋を開けてみると院兵にはならず、日々街の警備をしている。

彼は街の警護のみならず、聖女を狙った他国の工作員を捉える回数が圧倒的に多かった。

だからこそ、何故、院兵の試験を受けないのかと師団長は訝しんでいた。


「何か理由があるようですね。」

「はい。私から彼に何かを言ってもはぐらかされるだけでしょう。ですが、リッカさんからなら聞き出せるかも知れません。」


イサラ前師団長の事だけでも聞きだして欲しいと、ビコー師団長は言った。




*********************************




馬車は王都への中継地点である、街道にある街に入った。

もうお祭り騒ぎだ。装甲馬車に聖女が乗っていると信じている民衆の視線が痛いを通り越して怖い。

外敵からの攻撃を避けるかのように、小窓を閉めて身をかがめる。


「あの、王都へは何日くらいかかります?」

馬車の壁に耳を当てて外の歓声に怯えながら私が尋ねると、

「明日には着きます。大丈夫です。誰にも見えないように宿に入れる様に手配しています。」

と笑っている。

大丈夫だろうかと思いつつ小窓の隙間から外を見る。昨日までは誰1人私を見なかったこの世界の人間が全員まとめてこちらを見ている。

無視されている方が楽だったなと気付いた。


馬車が宿の入口に止まると、大きな黒い布を広げた院兵が両側に並ぶ。外から目隠しされながらコソコソと馬車を降りてそのまま宿の部屋に移動した。

それから宿の部屋に食事を運んでもらい、食べながら今後の打合せをする事にした。


「まず、リッカさんには王城へ行ってもらいます。」

「はい。」

「王城内では、警護の人間は私と院兵が2名、それからヒューゴに付いてもらいます。」

「ヒューゴですか?」

「はい。」

ビコー師団長は頷いた。目力が凄い。お前、ちゃんと聞き出せよと目が言っている。


「私はヒューゴに国境警備隊市街地駐屯地の所長から言付けられたと伝えます。リッカさんが聖女でなく、聖女の母という立場でここにいるからです。

聖強院の保護下に置くと取り決められているのは聖女のみです。

法的にはリッカさんは移民扱いになるからです。」

私は異世界移民だった。



「リッカさんが聖女である可能性は、今は秘密にするべきだと考えています。」

神殿で私が消えた事を知っているのは、あの時一緒にいた院兵と神殿関係者とササカ氏のみだ。このまま隠し通した方が安全だと言う。



一番重要な情報は、ヒューゴは聖女をどうするつもりなのか、次いでイサラ前師団長のその後について、最後にヒューゴは後継者として正式に後を継ぐつもりはあるのか。の3つを聞き出すことを確認し、私たちはいったん離れた。





食事と入浴を終えて1人で部屋でくつろいでいると、部屋にヒューゴが挨拶に来た。


「こんばんは。俺も護衛に加わったんで挨拶に来た。」

「あんた、私が若い娘だったらこの時間に来なかったわよね。」

ふんと鼻息荒く返事をする。


「関係ねえよ。ババアだろうが若かろうが。」

ババア。

いつもなら聞き流せるその言葉が、ヒューゴに言われた途端、もの凄く不快になる。


「ババアで悪かったわね!!」

「えっ?違っ。」


怒りにまかせて追い出してしまった。

しまった。

聞き出すつもりが何をやっているのだろう。

最近心が妙にざわつく。


「…更年期?…」


悩みは尽きない。




ありがとうございます。

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