表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/43

14.王都へ行こう




玄関のドアを開けて外を見る。真っ白だ。

「これが一歩踏み出すと。」

大丈夫だと信じる気持ちと、お願いしますと祈るような気持ちで外に出る。

思った通り、見覚えのある場所へ出てほっとした。

今回は聖強院の外、最初に出てきた出口によく似た場所に出た。

「うん。この壁はあれだ。」

とりあえず私は聖強院の入口を目指し、壁伝いに歩き出した。改めて見るとここも四角い。魔法建築と四角い物体の関係性について研究するとか、誰かやってないのかなと思いながら歩いた。


入口に近付くと門兵がびっくりした顔でこちらを見た。

「アアアアア!!」

叫ばれた。

「見つけたああああ!!!」

声が大きくて恥ずかしくなった。




「すみません。私消えたみたいなんですけど、いつぶりに戻って来たのでしょうか?」


「さっきぶり。」


と後ろから声がして振り向くとヒューゴがたっていた。

「あら、ヒューゴどうしたの?」

と聞くと、

「ずっと後付けてたの!昨日なんて俺外にいたのよ?!」

叫んだ。


ヒューゴはあの後、「護衛に任命したのだから一応様子をみて、危険な様なら保護してあげて。」と所長に言われてずっと私の周辺に待機していたらしい。

とは言え聖強院に入るわけにもいかず、夜は近くの木に寄りかかって仮眠を取り、私たちの移動後はとぼとぼ後ろから付いてきていたそうだ。


「あいつら気付いてて無視しやがった。」


ぶりぶり文句を言い続けている。

聖強院は基本国軍とは別物なので、連携を取る必要が無い。その為、後ろから付いてくるヒューゴの扱いを持て余し、無視して気付かない振りをしていたのだ。

所長は凄い心配性で、聖女様のご家族と言うよりも『身寄りの無い迷子の母子がはぐれた』事が気になってしょうが無かったみたいだ。


「所長さん、良い人ね。」

「そうね?!俺は?!」


苦情が終わらない。あ、そうだと思い出し、リュックから小さめの双眼鏡を取り出すと、私は双眼鏡越しにヒューゴの顔を見た。すっごい近い。


「何してんの?」

「はいこれ。」

そう言って手渡す。ヒューゴは私の真似をして双眼鏡を目に当てて「うおっ!」と叫び、ぐるぐる回転しながら周辺を眺めて「近え!」と叫んでいる。それを聖強院の入口に立っている院兵が羨ましそうに見ている。

最新のゲーム機を親に買ってもらった子と、買ってもらえなかった子の構図がここにある。

仕方ないので院兵には「これ食べて」と袋入りのキャラメルを渡し、一緒に並んで食べた。ちょっと嬉しそうな顔でキャラメルを食べていた院兵が、


「あっ!」

と叫び、中にいる人を呼びに行って少し待つと、ビコー師団長がこっちへやって来るのが見えた。

身体強化をこの場面で使うとは思わなかった。

大男がもの凄いスピードで突撃してくる。そして一瞬で私の目の前に来た。ライオンに襲われるインパラの気持ちが解った。心臓がバクバクする。吊り橋効果は起きなかった。




「いきなり消えて焦りました。」

聖強院の師団長執務室へと移動した私とビコー師団長は、お茶を飲みながら私が持って来た茶菓子を食べていた。

「はい。すみません。カギに何かあるのかも知れません。」

「謝らないでください。私の判断に問題があったのです。あなたは悪くありません。」

この世界随一の責任感を持つ人だなと思った。(後にこれが真実だと判明する。)



あの後、なんと扉が開いたそうだ。そして中には大司教をはじめとする神殿の誘拐犯達全員がいた。逃げなかったのか。


「あの中にいれば外部の者は入れませんから、油断していたのだと思います。」

逃げ惑う華奢な神官たち対屈強な院兵たちが目に浮かぶ。

彼らは全員、一度王都へと連れて行かれるそうだ。だが、『聖女誘拐』として捕縛したつもりが肝心の聖女がおらず、大司教は


「誘拐などしていない。そちらの不備で聖女が消えた責任を、我々に押しつけようとしている。」

と反論しているらしかった。たいした面の皮だ。


「それなら問題無いです。娘の居場所は把握しました。」

「それは?どこに!?」

何と言って説明したら良いのか。

「この世界と元いた世界の中間地点らしいのですけど、私にもよく解らなくって。」


私は現在の状況をかいつまんで説明する事にした。

沙羅は白い空間内にあるアパートの自分の部屋にいること。そこは時間が止まっているような気がすること。それから食事は私が与えたこと。


「あと、自ら壁を作り閉じこもっていたので…もともとあっちの世界でも引きこもっていたんです。だから同じ状況というか…。」

つい目線が下がってしまう。ダメな親だと思われただろうなと、いつもの感情が頭をもたげる。


すると、師団長が私の前に跪き、私の手を取り下から見上げるようにしてこちらを見た。


「リッカさんは大丈夫でしたか?」

「え?ええ。はい。大丈夫です。」

「ならば、とりあえずは問題無いです。」

そう言って彼は微笑んでくれた。




**********************************




そんなわけで、

現在私は王都へ向かう馬車の中にいる。

あの後、大司教を裁判所へ連行、審議にかけるにあたり、聖女誘拐の容疑を証明する、いわゆる証人として出廷する為だ。


私の中で馬車と言えばシンデレラのかぼちゃ、或いは元の世界でテレビなどで見た王室、皇族などのパレードに使う豪華な馬車だ。

だがこれは戦車だろうか…ほぼ装甲車である。しかもゴツイ馬の4頭立て。軍事パレードだ。窓ちっちゃい…。


「すごい馬車ですね…。」

「聖強院の馬車はいかなる襲撃にも耐えうる装甲騎兵馬車ですから。」

得意げだ。

外装と車軸は鋼鉄製です。車輪は外側に魔獣の革を使用していて…などつらつらと説明が続く。私がオタクだったら食いついていただろう、いらない情報だ。

だが次の言葉がひっかかった。


「底部は海洋魔獣の革を使用していて、水の上でも浮いて移動することが可能です。」

「海があるのですか?」

「もちろんあります。この国の北部と南部が海に面しており、西部がエデル王国、そして東側は南北を縦断する形で山脈があります。」

その先に砂漠をはさんでアド王国という国があるそうだ。地理の成績が微妙だった私に全て把握というか記憶できるだろうか。


「聖女が現れるのはここだけですか?」

「いえ、他にもあるそうです。」

異世界から誰かが来ること、保護していることは、各国共に秘匿しているらしい。自国で保護するのはどこも同じ考えのようで、歴史上、聖女がらみの争いは枚挙に暇が無いそうだ。


「人数とか、どうなっているのでしょうか。」

「それも不明です。ですが。」

私たちが出てきたあの場所は特殊で、祭祀の祠と言うか石に何かがあるとずっと言われており、その為世界中から工作員が送り込まれていると言う。

私が誘拐されかけたのもその一つだ。


「じゃあ、聖強院の情報はどこまで漏れているのでしょうか?」

「情報とは?」

「歴代の師団長の報告などです。」

私が聞くと、師団長は


「歴代師団長の報告書は外部に持ち出しできません。写しもまた同じです。」

情報を外に出すことは叶わない。

唯一出す方法は


「師団長自身が、己の後継者と決めた人間に、口頭で引継ぎを行う時のみです。」


私の頭の中に1人の人物の姿が浮かんだ。

彼は言った。


『聖女に関する情報は全て秘匿されている。知っているのは王族と歴代の聖強院のトップだけだ。』


何故、ヒューゴは知っていたのか。




ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ