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8.聖女争奪戦

やっとイケメンを。




不思議な建物だと思った。

砦の様でもあり、お城の様でもあり、現代建築風のモダンな建物の様でもある。

これが1300年前に建てられた古代建築物だと言うから驚きだ。

地球で言うとこのオーパーツらしく、現代の技術では作れないのだと言う。


「魔法が使われているのなら、ここには魔法使いがいるのでしょうか?」

期待を込めて聞いてみると、

「魔術師は現在王国に数名おります。具体的に誰とはお答えできませんが。」

と期待していた数より遥かに少ない数字が返ってきた。

だがビコー師団長の

「私も身体強化の魔法が使えます。」

のセリフを聞いたところで気分が爆上がりした。


「だから君たちは安心して彼女をこちらに任せて欲しい。」

お偉い人からそう言われてしまったら帰るしかないだろう。ヒューゴ達はしぶしぶ駐屯所へと戻っていった。




驚いたことに、聖強院の建物には入口が1つしか無かった。

間口は大きいが、たった1つで問題無いのだろうかと聞くと

「出口は複数あります。」

と返された。

ここは院兵と認められた人間以外は武器を持ったまま入る事も叶わず、建物内部において無断で武器を手にした者は、自動的に外に出される不思議な魔法が施されているそうだ。

私が外に出されてしまったのは、

「扉を開けて外に出たら再び入口に戻らないと入れない。」

仕組みなのだと言う。


では何故、私はスタンガンとサバイバルナイフを隠し持っているのにもかかわらず今現在ここに入れたのか。

それについては尋ねることをやめた。

この世界の理の外からやって来た人間は『余所者』としてカウントされていないのだと言われている気がして寂しかったからだ。




ところで、ビコー師団長は気持ち悪いくらい親切になっていた。昨日の


「俺に聞かれても解んねえよ。」

的な態度はすっかりなりを潜め、礼儀正しく接してくれる。

「昨日とはずいぶんと態度が違いますね。」

とイヤミ混じりに尋ねると、昨日はいきなり『聖女降臨』が始まって本当にいっぱいいっぱいだったと心底申し訳なさそうに謝ってくれた。

師団長ほどの方でもいっぱいいっぱいになるものなのですか?と尋ねると、


「それについて、これからお話します。」


他言無用でと前置きしてから、彼は私の知りたかった情報、歴代聖女に関する話を聞かせてくれた。




*******************************




「私が聖強院駐屯師団長になったのは今から10年前です。」


彼は20歳で師団長になった。エリート中のエリートだ。

身体強化魔法が使える人はこの国に彼1人だけなのだと言う。

聖女を護る事に於いて圧倒的な強さは何よりも重要視される。師団長になる前は王家の近衛だったそうだ。


「聖女は王族よりも護るべき存在って事ですか?」

「そうです。」


聖女を護る事が国を護る事に繋がるからだ。それ位重要な役職に20歳で就任したのには訳があった。

今から10年前に先代の師団長が失踪したのだ。その為急遽決定したのだと言う。失踪したくなる程の重責を担う立場なのだろう。大変そうだ。


「ここには歴代の師団長の報告記録があります。これは代々師団長しか見ることができません。ここに聖女に関する重要事項が記載されています。」


彼を慌てさせた重要事項とは、聖女を保護する際の責任者に関する項目だった。それは、



『ひとつ、聖女は10歳から16歳までの女子である。』

『ひとつ、聖女は自ら望んでこの地へと来た者である。』

『ひとつ、聖女はこの地に於いて『最初に心を許した者と添い遂げるもとのする』

の3つだ。


つまり、聖女は小学校中学年から高校1年までの未成年者で、自ら希望してやって来る。その上最初に好きになった人と結婚する。となる。


「なんですか?それ。」

「歴代聖女は全てそうだったと書いてある。」


厳密には1300年前の『護国の聖女』からの記録だそうだが、歴代聖女は皆子どもだったという。最年少が10歳で、16歳の子(沙羅は15歳だ)が最年長。それ以外は皆12、3歳だった。


聖女は幼いその身に悲しみと絶望を背負い、酷く弱った状態で現れる。

そして、最初に心を許した相手、つまり最初になついた人を一生好きでいるそうだ。


それって依存じゃないだろうか。


「これって…聖女の親になれと言うんじゃ…。」

「私もそう解釈しました。ですが一般的には婚姻と思われているようです。実際、30年前に亡くなった先代聖女は20歳年上の人物、当時の聖強院師団長と婚姻しています。」


ビコー師団長は30歳の独身で、いきなり聖女の夫もしくは父親になれと言われてもどうしたら良いのかと悩んでいたそうだ。今代の聖女は15歳、親子になるには微妙な年齢差だ。


しかも今回、なぜか神殿関係者が入ってきて、いきなり師団長は閉め出された。ここしばらく聖強院は神殿との癒着が目に余る状態で、師団長が就任してから少しずつ神殿の影響をそいでいた最中の出来事だった。



「私は聖女に直接目通りしておりません。あなたが母と言うのだから幼子であろうと思います。ですから、私は、聖女の父親に…ですね…。」


何を言いたいのだろう。


「神殿は、と言いますか、大司教が聖女に対して異常な執着を見せていると報告が上がっている中、この誘拐は私の失態です。」


先代が20歳年上と結婚したから俺もいけるんじゃね?てか?

あのじじい、キモイ。キモ過ぎる。スタンガン100回打ち付けてやる。


「あなたと共に神殿へ行き、聖女を保護し、愛情を持って共に育てる事が責務であると私は判断しました。」

「娘は15歳です。」

「は?」

「娘は15歳です。あの気色悪いじいさんが何を思っているのか知りませんが、老いらくの恋など叶う事は絶対にありません。」


ビコー師団長は口を開きっぱなしでこちらを見ている。


「じじい…ぶっ殺してやる…。」



私はポケットからスタンガンを取り出して、バチバチ言わせながら立ち上がった。





読んで頂きありがとうございます。

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