第4話 一旦、町へ戻ろう
ギャンブル等に対して嫌悪感を覚えたり、悪意のある表現をしたりする場合がございますが、ギャンブル依存症患者等にとっての表現であり、ギャンブル自体やギャンブルを楽しんでいる方を貶める内容ではございません。
田村のあまりの強さに驚き、トモカとヒロムは声が出ずにいる。
〈ピコン〉
と、三人のポケットから同時に音が鳴る。田村がポケットを探ると、携帯電話のような機械が出てくる。
その機械をヒロムも確認すると、
「なっ、1千G⁉」
ヒロムが驚く。それを聞いて、座り込んだまま、トモカも機械を確認する。
「本当だ!うそでしょ!」
トモカも驚き、喜んでいる。
田村も機械を確認するが、『1千Gを獲得した』と書かれている。よくわからないが、おそらく、この世界のお金のようなものなのであろうと勝手に理解した、そもそも価値が分からないので、リアクションが取れない。
(まあ、大体1千円くらいの価値なのかな。)
と、思っていたが、ヒロムとトモカの喜びようからすると、もっと価値がありそうである。
「1千Gは、半年分の給金っす!これはすごいっすよ。」
ヒロムが近づいてきて、田村の肩を叩くがヒロムのとっての興味は、金の価値よりも、突然ものすごい能力を得た自分に向けられていた。
(異常なスピードにパワー、攻撃した時の反動もまるでない…これが、あの女の子、サリが言っていた、黒いボタンの成果『高ステータスの能力』というやつなのか?)
田村はいろいろ考えていると、周りから、再び視線を感じとった。
「おい、さっきのモンスターが来るかもしれないが、戦えるか?」
その言葉に、喜んでいるヒロムの顔色が変わり、トモカは顔を上げる。立ち上がろうとすると、足に痛みが走り、立ち上がれない。その様子を見ていた田村とトモカの目が会うと、トモカは首を振った。
「この子をすぐに担いで逃げるぞ。」
田村は、ヒロムに目を合わせて言うと、辺りの草むらを見渡した。かなり多い数のモンスターが集まっているように感じたが、田村が睨みをかけているため、出てくることができずにいるようだ。さきほどのような、二、三匹であれば対応できるかもしれないが、集団で襲われれば、負傷者を守りぬくことは困難である。
「わ、わかりました。」
と、ヒロムはトモカを背中に背負う。本来であれば、背中を見せずあとずさりをしていくことが正解だが、オオカミは集団で狩りを行う本能に長けており、負傷者がいるこちらの機動力が低いことがオオカミにばれれば、回り込まれ個々に襲われる可能性も高かった。
(さっきの子を真似してみれば、できるかもしれない。)
「ファイヤー!」
田村が右手を掲げると、その頭上に炎の龍が召喚されたかのように炎が渦巻いている。
(よし、イメージ通りだ。炎も意思で動かすことができる。)
太陽ができたかの如く、田村の頭上に燃える炎を見たモンスターは、周辺から距離をとる。田村は、掲げた手を振り下ろす。炎は田村を中心の円を描くかのように、三人の周りを囲むように動き、炎の壁を作った。
「よし、町へ向かって走れ!」
田村が言うと、はっとしたヒロムが背負っているトモカと走り出す。その後を付けて、田村も走り出すと、炎の壁も田村を中心に一緒に動いてついて行く。オオカミがその後を追いかけようとしても、炎の壁に邪魔され近づけない。しばらく走ると村が近づいてきたため、オオカミは追いかけることを諦め戻っていった。
村が近づくにつれ、炎の壁の勢いがだんだん弱くなっていく。
「どうしたんすか?炎の壁が消えてしまうっすよ!」
ヒロムが田村に聞く。
「力を入れても炎が消えてしまっている…、たぶん、魔力切れだ。オオカミは追って来ていないが、今の状態では、炎は出せない。」
ちらっと、後ろの様子を振り返りながら田村が応える。
「ええっ!」
と、炎の壁が消えていたが、オオカミが追うことを諦めていたため、無事に三人は町へ戻ることができたのであった。
この小説はフィクションです。本編に登場する人物・場所等は架空のものであり関係ありません