第3話 いきなり戦闘、フクロオオカミ
ギャンブル等に対して嫌悪感を覚えたり、悪意のある表現をしたりする場合がございますが、ギャンブル依存症患者等にとっての表現であり、ギャンブル自体やギャンブルを楽しんでいる方を貶める内容ではございません。
夢を見ていた。
朝の六時、クルーの交代時間になる。
一緒に夜勤をしていた、大学生4年生クルーの鈴木が引き上げてくる。彼は、伸長は田村より少し大きいくらいだが体つきはしっかりとしており、野球部に所属している。野球部では正捕手として2年生のころからレギュラーを務めていた。
入れ替わりで、早朝のみシフトの女子大学生2年生クルーの佐藤と交代する。彼女の身長は低く、顔も童顔で、中学生に間違われるくらい華奢であったが、小学生相手にミニバスケットのコーチを行っており、素早い動きは得意だった。
見栄っ張りの田村は、二人に店のコーヒーマシーンを毎日一杯ずつおごり、自分の分も購入し、一緒にコーヒー等を飲みながらバックヤード付近で談笑する。朝の荷物も終わり、客も少ないこの時間の、若い二人との交流は、人との関わりがほとんどなくなっていた田村にとっては、この時間が何よりの癒しであった。
「あの…大丈夫、ですか?」
聞き覚えのある女性の声がうっすらと聞こえてくる。
「どうした?何があった?」
この声も聞き覚えがある。ぼやぼやした意識が覚醒し始め、視界が開けてくる。そこに飛び込んできたのは、先ほど夢で見た佐藤であった。
「気が付きましたか?」
田村は体をそっと起こし、その女を見る。どうみても、佐藤であったが服装がおかしい。ゲームでいう魔導士が着るようなロープを身にまとい、杖のようなものが近くに転がっている。
そこに背後から、一人の男か近づく、
「大丈夫か?ケガはないか?」
振り向くと、そこには鈴木がいる。しかし、鈴木も服装がおかしい。鈴木はゲームで見るような、甲冑をつけ、手には豪華な装飾が付いた剣を持っている。
「あ、ああ」
田村が答えながら立ち上がり、周囲を見渡すと、小さな石が詰められた道がある草原が、山の麓と遠くの小さい町につながっていたが、、明らかに現代のものではない。
「ここは…どこだ?」
「ここは、ファンタウン沿いのファーレ草原ですよ。」
「でも、すごいなお前、そんな装備で、この草原にいるなんて。」
「どういうことだ?」
「村の近くなどの、特殊な樹が生えているところには、モンスターは出てこないけど、それ以外のところでは、モンスターが現れるの。」
「そうそう、小型のネズミとか虫とかな。」
「でも、最近は、この辺の草原にも、狂暴モンスター獣が現れているの。今までは、みんな自由に行き来できたのだけど、町からほとんど出られなくなってしまった。」
「どうにもならず、中央のゴルボード城へ、援軍要請を出しているが、中央からも援軍がなく、使いに出たものも帰ってこない状況なのさ。」
「今回は、私たち二人で、ゴルボード城へ使いとして町を出たばかりなの。」
「そうしたら、その恰好で寝ている、あんたを見つけたわけだ。モンスターに襲われないのは異常だぞ。」
「そうか、ありがとう。」
知り合いの顔と声で、話をされたが、どうも別人らしい。おそらく、これが異世界というものなのだろう。田村はようやく、異世界というものに気付いた。
「そういえば、名前を聞いていなかったわね。私は『トモカ』。で、彼は『ヒロム』くん。」
「えっと、自分の名前は…」
と、田村話す前に、一瞬の緊張感の後、周りの草むらからガサガサと音が聞こえた。
「来るぞ!構えろ!」
ヒロムが叫ぶと、草むらから三頭の大きな狼が、三人の前に一頭ずつ現れた。
現れたのは、体長1メートルほどのオオカミであった。鋭い歯に、背中には縞模様があり、獲物を見るような目で、威嚇をしながらこちらを向いている。
「な、なんだ⁉」
田村は驚くが、トモカも、ヒロムも戦闘態勢に入っている。
「この大きさのフクロオオカミが3匹…。1匹相手に逃げるのも厳しいのに。」
トモカは苦汁の表情を浮かべ、杖を構える手には力が込められている。
「おい、あんた!戦えるのか⁉」
ヒロムは、フクロオオカミと対峙しながら叫ぶ。
「いやいや、格闘技の経験なんてない…。けど…」
田村はヒ答えるが不思議な感覚に落ちついていた。本来、このような大きな狼と対峙しているのだから、本能的に恐怖が芽生えるはずである。しかし、その感情が全くないのである。そのため、田村は一旦様子を見ることにした。
「行くぞ!」
ヒロムが叫び、剣を振り上げフクロオオカミに飛び掛かる。フクロオオカミに命中し、多少のダメージを受けるも、フクロオオカミはまだまだ余裕という表情だ。
「ファイヤー!」
トモカが呪文を唱え右手を掲げると、ソフトボールサイズの炎の球が現れ、フクロオオカミに命中しダメージを与えるが、フクロオオカミは倒れない。
次は、こちらの番と、フクロオオカミが順番に体当たりしてきた。
ヒロムは、力には自信があったが、剣を使い勢いを止めることが精いっぱいで、苦しそうな表情を浮かべる。
「きゃあっ!」
声の方を見ると、トモカがフクロオオカミに飛ばされていた。かなりのダメージを負っているようで、倒れこんで動けそうにない。
「おい!あんた来ているぞ!」
トモカに気をとられていた田村の目の前には、既にフクロオオカミが迫っていた。
(ヒョイッ)
田村はフクロオオカミの攻撃をかわした。
あまりに速い動きに、田村を見失ったフクロオオカミは左右を見渡し困惑している。一方の田村も、フクロオオカミの背の上空で困惑している。
(あれ?めちゃくちゃ早くジャンプできたけど…てか、高っ…)
体当たりをかわすために、ジャンプをしたところ自分の身長の倍のくらいまで、飛びあがっていた。そして、落ちる勢いのままにフクロオオカミの背中を蹴る。
〈ドコーン〉
何かが爆発したような強烈な音共に、蹴りを食らったフクロオオカミが倒れ、倒れたフクロオオカミは消えていった。
それを確認すると、田村は左右を見渡す。
ヒロムはフクロオオカミの攻撃を耐えながら、こちらの様子をみて驚いている。一方の倒れているトモカのもとには、じりじりともう一匹のフクロオオカミは迫っていた。
「この場所、しばらく任せる。頼むぞ。」
「あっ、はい、大丈夫っす。」
田村が言うとヒロムが応える。田村は方向を変えると、フクロオオカミは今にもトモカにとびかかりそうである。
「いやー!」
フクロオオカミが飛び込んでくると、トモカは叫び声を上げる。
しかし、トモカの下へフクロオオカミが到達することはなかった。
何も起きないことに、トモカが恐る恐る目を開けると、田村が目の前にいた。フクロオオカミは、右手側三十メートルほど先に飛んで行っており、しばらくすると消えていった。
田村は、トモカの方を向く。唖然とするトモカと目が会う。
「大丈夫か?」
「あっ…はい…」
田村は、トモカの無事を確認すると地面の石を拾い、振り向きざまにヒロムが対面しているフクロオオカミに目掛け投げる。投げられた石は、超剛速球のストレートボールとなりフクロオオカミの胴体に直撃すると、フクロオオカミは石の威力に弾き飛ばされ、しばらくすると消えていった。
この小説はフィクションです。本編に登場する人物・場所等は架空のものであり関係ありません