〜夢終〜
こびとたちはアーロンと別れた後、7人以上いる時だけ使える瞬間移動によって1秒もかからず城に戻ってきました。
クルンピグは神様からのお咎めをくらうと思いましたが、今日は幸せを願ったものに祝福を振りまく日だったので、作業が終わった後にお話があるということでした。
流石に神様への反逆はしてはいけないと思ったので、仕方なくクルンピグは仲間と共に祝福の入った絹袋を持って出かけました。
人の目には見えない星の絨毯で、民家の屋根より少し高い位置から、願いが強い所に向かって順に祝福をまきます。当然、お祭りがあるアーロンの街もですが人がとても多いというわけではないので最後の方です。
祝福は魔法のようなものに聞こえます。でも、繊細かつ脆いので人から発せられる「幸せだ」という感情に打ち消されてしまい、人によっては少ししか効果を発揮しません。
それに意味があるのか、はっきりしているわけではないですが煙突から聞こえる笑い声と、人々の柔らかい笑顔がこびとたちをやる気にさせるのです。いろいろ思うところはありますが、クルンピグも今は頑張ります。
ジウルクス当日になろうとした日付が変わる直前にやっと最後の街にたどり着きました。アーロンの街です。
アーロンに会いたい。けど、別れた後にまた会いに行くのも気が引ける。と思ったクルンピグは、アーロンの家を窓からちょっとだけのぞくことにしました。
「………え?」
クルンピグは自分が何を見ているのか全く理解できませんでした。
アーロンの家の照明はついておらず、かわりに血の海が溜まっており、その先には横たわった黒い犬と青年が______
さっきまで命の鼓動を発していた2つの命が点になっているのです。
クルンピグは動悸が止まらず、空いた口とまぶたが塞がっていない様子でした。無意識に星の絨毯を降りて家に降りようとしましたが、背後にいた仲間に肩を掴まれて止められました。振り返ると、仲間たちは何も言わずに首を横に振りました。
心がぐちゃぐちゃになったまま、何も動けずに城に帰って神様の前に連れてこられました。一対一の会話です。他に口を挟む者は誰もいません。
「クルンピグ何か言うことは?」
「………………」
クルンピグは悲しみのあまりうまくの物事が考えられません。こんなこと今まで一度もありませんでしたから。
一抹の沈黙が終わり、たった一言だけ思いついたように神様に言いました。
「…なんで、殺したんですか…いい人たちだったのに…」
「勘違いしておるぞ。私は何もしていない。真に原因があるとするならばクルンピグ、お前だ。飛ばされてもし誰かに拾われても、こびとが見えるものに悪いものはおらぬ。そこまでは心配しておらんかった。」
「じゃあどうして!」
クルンピグは感情を声に出して叫びました。
かえって、神様はクルンピグが原因に気がつかずに責めてきたことに頭を抱えながら返答しました。
「それは、お前が我慢というものをしなかったからだ。あの青年と別れる時に。そうすればお前に気を取られて鍵を閉め忘れることはなかった。早く青年が消灯したために、家に人がいないと考えた泥棒が侵入することもなかった。青年と犬が死の淵に立たされることもなかったのだ。」
我が儘なこびとは何も言えなくなりました。思い返せば返すだけ自分への後悔が膨らむばかりです。
「ただ、彼らを救う方法がないことにはない。」
神様は重そうに口を開きます。クルンピグは食いつくようにして涙目を光らせて前のめりになりました。
「ぼくは、ぼくは何でもします!だから…どうかどうか…」
「本当に覚悟はあるのか?永い時を生きるお前がたった1週間を共に暮らしただけの人間に対してだぞ?責任は確かにお前にある。しかし、人の死にお前が付き合う必要はないと思うが。」
鋭い眼光をクルンピグに向けました。
「あります…ぼくにできるのならやります!」
クルンピグの鋭い視線が、今度は神様に向けられました。
「…わかった。我が儘なお前の願いを叶えてやろう。青年への借りを返すという形でな。少しの間、目を瞑りなさい。」
クルンピグは目を瞑って跪きました。すると、神様の聖なる手が頭上を撫でてクルンピグを包み込みました。
神様が手を退けると、クルンピグは体を美しい琥珀色の玉へと姿を変えました。辺りをぐるぐると飛び回り、窓の外からアーロンの家を目指します。
誰もいなくなって、神様はひとりごちます。
「あぁ…またか…今回で何回目だろうか。同じことを起こさないために、人と触れ合うなと言うたのに。お前たちは本当に人間が好きだな…」
雪の降る夜を断ち切るように一目散に飛ぶ光玉は、煙突から家に入りました。
赫く、冷たい死の上で光玉は粒になって降り注ぎました。
「…ァ……」
アーロンはもう自分がよくわからない中で、聞き覚えのある声と仄明かりを感じました。
「あなたは要らないって言ったけど、やっぱりぼくは貴方にあげたいです。だから、お元気で。」
かすかだった光は彼方より、彗星となって彼に降り注ぎました。昼になったかと錯覚するほどに。
アーロンは光に目が眩み…次に意識がはっきりとしたのはあまねく光の空間でした。
夢、夢を見ています。
横にはダンがいます。向こうには絵に描いたようないつものリビングがあって、お父さんとお母さんが座って談笑しています。
探していたものを二人で見つけたかのように、アーロンとダンは顔を見合わせて走っていきます。
いつしか、青年は少年に。猟犬は子犬に。
テーブルの近くまで行くと、お母さんが優しい声で言いました。
「今日の夕飯は貴方の好きなシチューよ!ダンも大きな肉あげるからたーんとお食べ!」
「たくさん食べて大きくなれよ!」
お父さんはそう言って少年と子犬のの頭を撫でてポンポンしました。
「うん!」「ワン!」
二人は快活に返事をしました。
シチューはいつものように美味しくて、少年は何度もおかわりしました。
食べ終わってくつろいでいると、テーブルで両親が手招きしています。
「お父さん、お母さんどうしたの?」
二人は黙って泣きながら少年に抱きつきました。
「お母さんたち、勝手にどっかいってごめんね…寂しかったでしょ?これからもあなたとは一緒にいれないけど、ずっとあなたの中で生きているから。」
「これからもいっしょにいれないってなに…?」
「お父さんも何もしてあげられなくてごめんな。ずっと見守ってるからな!」
「ねぇ…なんの話?ぼくはずっとみんなといっしょだよ?」
少年は両親の言っていることがわかりません。わかりたくありません。夢でも、終わってほしくない。ずっとこのままがいいと心は頑なに訴えています。
抱擁をぎゅっとするとお母さんが深呼吸をして、落ち着いて言いました。
「もう時間がないみたい。もっと居たかったけど、しょうがないね。アーロン。もし辛くても一人で抱え込まないで。あなたには街のみんなやダンもいるんだから。」
両親の体が透け始めました。アーロンが手を伸ばして掴もうとしても無駄です。だんだん遠くに離れていきます。
「あ…あぁ!まって!おいてかないで!」
「アーロン、幸せに。」
「お父さんお母さん…!!!」
アーロンの両親は慈しみの笑顔をたっぷりと注いで、やがて消えていきました。
「はっ!」
アーロンが目を覚ましたのはベットの上でした。ダンも気持ちいい寝顔をしています。
ふと頬を触ると何かが伝って乾いた跡がありました。
カーテンを開けて外を見れば気持ちの良い青空が広がっていて、新しいページが開かれ、昨日までの大寒波が嘘のようです。ジウルクス当日は絶好のお祭り日和みたいですね。
冷たいフローリングを歩いて、一階のリビングに顔を出してみるとテーブルの上には手紙が残してありました。
裏をめくってみれば、『クルンピグより。』と書いてあって、その目線の先には がありました。
フッと泣きそうな笑顔でアーロンは言いました。
「この前言いかけてたけど、お前と出会えたことが『奇跡』だって俺は思うよ…クルンピグ…」
いろいろあって文だけ投稿していたのですが、イラストを挿入でき、無事に完全版になりました。ご迷惑をおかけしてすみません…
この作品はもともと童話祭に投稿せずに身内で楽しむ用にと趣味で書いたのですが、こっちも出せばいいのに…とイマジナリーフレンドに言われたのでギリギリ(間に合ってない)ですが出しました。
特異性はそこまでありません。古くさいどこかでみたお話をどこかの人間が書いているだけです。
しかしながら、友達の絵師(こっちは本物の友達)にイラストを提供していただきました。見てもらえれば、友達が大いに喜びます。
ちなみにこの前、本命で投稿した「星蘭の氷細工」もイラストを頼もうかと考えましたが、友達の負担と、あの作品に絵というある意味で1つの印象固定要素を与えるのは面白くないということでやめました。
そして最後まで読んでくれた貴方に、ささやかながらこのお話の[ヒント]をば。少しでも読者の皆様に後味を感じていただければ嬉しく思います。
・アーロンはアローンの言葉遊びからきてます。どこかの言語でクルンピグは不器用なという意味から取ってます。
・こびとはアールヴが元ネタ
・ジウルクスはもちろんクリスマスみたいなもの
・ジウルクスはジウリとルクスを組み合わせた造語、ジウリはユールのこと
・水仙月の四日からインスピレーション
・こびとの瞬間移動が7人以上なのは聖ニコラウスの伝承に因るもの
・とあるゲームで誰かが言ってました、「…起こらないから、奇蹟って言うんですよ」ってね
物語終盤にテーブルの上に手紙と一緒にあったものはわざとぼやかしましたが、私もなんだったかはわかりません。
でも、自分的に考察するならばクルンピグの服じゃないかなとおもいます。理由は言いません。
突然で脈絡がないですが、
童話祭に参加できて楽しかったです。
読んでくださった皆様もどうか幸せに。
本当にありがとうございました!