〜聖譚〜
時間の流れは気まぐれで、そんなこんなでこびとが青年に拾われてから1週間が経っていました。
仲間を探すという名目でクルンピグはたくさんの人間の生活を体験しました。厳冬の中でも活気のある市場、狩猟で見た雪の上に飛び散った血。
施す側であったクルンピグは受ける側の生活を実際に感じてみて、幾ら驚いたことか。たった7日でも数え切れません。
そうそう。街ではもうすぐ、お祭りが始まるようです。
「ジウルクス」と呼ばれるお祭りで、豊穣に感謝する行事です。今年は大寒波のためにそうはいきませんが、豊作を祈ることはできるということで教会や多くの家で火を焚くなどの催しが行われています。
この時期になると神に捧げるための獲物を獲らなければならないので、大寒波とはいえ、猟師は忙しくなります。
アーロンも例外ではありません。ジウルクスの前日まで猟をします。
「疲れた…」
外の格好のまま椅子に腰掛けて、つい口に出してしまいました。
「周りのみんなはあんなに楽しそうなのにアーロンさんだけ大変だね。何かぼくにもできたらいいのになぁ…」
「いいよ。別に。俺はお前が楽しそうにしてるのを見るだけで幸せだよ。」
そう言ってアーロンは少しだけ笑いました。その笑顔は嬉しそうですが、クルンピグと出会う前まで背負ってきた孤独の悲しみさえも物語っていました。
「ねぇアーロンさん。もし奇跡が…」
クルンピグが言いかけた時、外からドアをノックする音で話は遮られました。
「ん?なんだ?」とアーロンは玄関に向かい、扉を開けました。
すると、そこには奇妙な光景がありました。
クルンピグに似たこびとが20か30人ほど互いにおんぶし合い、アーロンの胸あたりと同じぐらいの高さまで積み上がっていました。
アーロンと目が合った瞬間にそれらはワッと崩れてから見上げて、こびとの中の一人が喋り始めました。
「こちらにクルンピグというこびとがお邪魔していませんか?もしいるのなら連れ戻せとの神様の命によりやってきました。」
「ああ。いるよ。少し待っててくれ。」
急に玄関の方からアーロンに呼ばれたので、クルンピグなんだろうと思いながらやってきましたが、闇夜に浮く同胞たちの姿でどういうことかを一瞬で理解しました。
仲間がついに迎えにきたのです。
灯りに包まれた家の中にいるクルンピグに仲間は声をかけました。
「神様が心配してる!」
「迷惑かかってる!」
「帰ろ!」
仲間たちの投げかけはどれも納得できるものでしたし、何よりも本来ここに居候している目的は仲間を探すための拠点とさせてもらうことでした。
ですが、後ろめたさと拒否したい気持ちが膨れ上がってきました。
寂しさです。
クルンピグはこの感情をはっきりと自分の中に見出しました。そして、アーロンが抱える寂しさの積をほんの一部理解できた気がしたのです。
「嫌だ。」
駄々をこねました。加えて、そのまま家の中にげようとします。
アーロンは見過ごしませんでした。背を向けたクルンピグの服の首あたりを掴んで捕まえました。どうにか振り解こうと足をバタバタさせていますが無駄です。
クルンピグを突き出しました。仲間はクルンピグを受け取るとまた逃げ出さないように両手首を抑えました。
こびとたちはアーロンにペコリとお辞儀をして言いました。
「クルンピグをありがとうございました。神様が貴方様に、お礼として願いを一つ叶えてくれるそうです。今、おっしゃってくれればジウルクスの当日に実現できるのですが、いかがしますか?」
アーロンは迷いました。あまりにも突然だったのと、めちゃくちゃなことだったからです。
願いがあるにはあるのです。
でも、叶えてもらうのはしなくていいや。と思いました。
それは、クルンピグとの出会いと別れる目前のことを通してはっきりと一本の道のように示されていました。
いなくなった人を探し求めて、そこに再開があったとしても、また別れることに対して怖がってしまう、また会いたくなってしまうと。
「いや、叶えてもらわなくていい。たまたまこびとを拾っただけだ。そこに礼なんていうのは申し訳ないからな。」
きっぱりとした声で提案を断りました。
「アーロンさん!なんで!」
「これでいいんだ。これで。1週間という短い時間だったが、お前ともお別れだな。元気に暮らせよ。じゃあな。」
手を軽くあげて、あっさりと扉を閉めました。
久しぶりに静かになった家の中は逆に違和感がすごく感じられ、外の空気の残り香がアーロンを責めたように冷たくさせました。