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6:決着の後に

 闘技場に立つ勝者と寝ころぶ敗者、負けた者の首と胴体が繋がっているのは勝者の気まぐれか、とにかくもマナは勝利して、闘技場の壁をふわりと超える。


「あんた……」


「どうだツイン、我はなかなか強いであろう?」


「いやもう反則よ、反則……」


 観客席に戻るとまず目があったのはアイリスであった。彼女はマナの強さに呆れたという様子であった。


「無事でなにより」


 その次にエルサが先程よりは、気持ち和らいだ表情でマナを迎え入れた。


 そしてシエルの方を見ると真剣な表情でマナを見つめていた。


 そしてなにを思ったのか、次の瞬間にはどこからか剣を取り出してマナに向けていた。

「ちょ、なにやってんよあんた!?」


 アイリスは驚き、エルサも目を見開いていたがマナだけは余裕な表情であった。


「私と決闘をしろ」


 その言葉にアイリスとエルサは完全に固まるが、マナは顎に手をやって何か考えているようであった。


「貴様は確か王を目指していたな?」


「そうだ、王であるならば誰よりも強くなくてはならない」


 それがシエルの在り方であった。王を目指すならば自身は誰よりも強くてはならない。そうでなければ人の上に立つことなど到底不可能、故に誰よりも力を求める。


「暴君か、まあ我好みではあるがまだ全力で戦うに至らないな貴様は」


 力で民を治める在り方は暴君である。


 自身の欲のために力を振るうのは傍目から見ると最悪の王であるかもしれないが、マナにとって力で一定の秩序が得られるのならば問題はないという考えであり、事実マナもそのやり方をとっていた。


 だがそれでも彼女とは、まだ本気で戦うつもりはなかった。


「なんだと?」


「暴君であろうと賢王であろうと魔王であろうと王たるものには王たる理由がある、ただ強いだけの貴様ではまだそれにはたどり着かん」


 王とは力が強いものがなるものか、それとも血筋で選ばれるものか、それとも運命によって選ばれるものか、否、王であるならば王でなければならない理由を必ず持っている。


 それは国を守る、民を守る、もしくは全世界を支配するなど千差万別だ。


 王というのはその欲を達するための地位にすぎない、その地位だけを欲しているシエルとはまだ戦うのに至らないという結論を下したのだ。


「強いだけでは駄目なのか?」


「貴様ならいつかそれに至るであろう、その時こそ我が全力で戦うに相応しい王と見定めているはずだ」


 それを聞いたシエルは素直に剣を収める、なんとなくだがマナの言うことを理解して納得できたからだ。


「……本当、何者なのあなた?」


 アイリスがそう聞くと、マナはよくぞ聞いたと言ったような態度になる。


「うむ、そういえばまだ明かしていなかったな、クリフォルトたる魔界を支配して……」

「あのう、すみません……」


「誰だ! 我の口上を邪魔する不埒者は!」


 突然、割り込んできた女性にマナはキレてそちらを向く。


「ひっ、すみません、すみません!」


 あまりの少女らしからぬ剣幕にその女性は頭を下げて謝り倒していた。


「すまんのう、だが少しばかり良いか?」


 するとその女性の後ろから初老の男が姿を現す。


「誰だ貴様は?」


「学園長」


「学園長とは?」


「学園で一番偉い人」


 マナの疑問にはエルサが答えた。


 この施設の王みたいなやつかとマナは納得するとさっそく学園長に命令する。


「うむ、学園長とやら我を学園に入学させよ」


「ちょっと、そんな簡単に……」


 一応だがこの魔法学園は歴史ある由緒正しい学園である。


 入学者も前日に招待状を配られれてなおかつ入学試験に合格しなければならない。


 アイリスとシエルがあっさりとパスしているが、これは本来ならば特待生という枠なのと、実力も周りと別次元だからだ。


 だからそう簡単に入学できるものではないとアイリスは思っていたが……


「うむ、良いぞ」


「いいんですか!?」


 アイリスは、結構厳しい学園と聞いていただけにその軽さに驚愕する。


「そもそも、それを言いに来たのでな」


 学園長の隣りにいた女性が自身のカバンを探り何かを取り出す、恐らくは学園長の秘書であろうか。


「こちら入学要項です」


 そしてマナに一枚の書類を手渡し、それを受け取ったマナは入学要項を読むのであった。


 

 貴殿は本校の入学試験を突破したので、本校への入学を認める。


 第一に魔力測定を行う、本日中に第2体育館にて魔力測定を行うこと。


「魔力測定とあるが、これは一体何だ?」


 マナは最初の項目に魔力測定と書いており、一体何のことだと聞く。


「入学後、魔力を測定するのですが……」


「げっ、そういえば忘れてた」


 秘書の女性は説明しようとしたら、アイリスが魔力測定を行うのを忘れていたと思い出す。入学試験の後、そのままマナについていたから当然であるがこれを本日中に行わないと入学出来ないと書いてあるので大事なことなのだ。


「では今から行きましょう」


「うむ、では行くぞツイン」


「ツインって言うな!」


 エルサが案内しようとして3人はそれに続く。


「あ、ちょっと待ってください、この決闘のことは内緒にしておいてくださいね」


「む? なぜだ?」


「あまりにも衝撃的出来事だからのう」


「ふむ? まあ良かろう、言いふらす趣味はない」


 マナとしてはこの程度って出来事だが、それを見ていた観客は全員衝撃的すぎた。まず見知らぬ少女と特待生の純血の入学生が決闘をする時点で衝撃的だが、それを見知らぬ少女が圧倒して勝利を得たのもものすごい出来事であった。


 要するに学生には刺激が強すぎるのだ。


 4人は頷いて内緒にしておくと約束して闘技場を去るのであった。




 マナ達が案内された先は校舎の近くにある大きな建物であった。


 中に入ると見慣れぬ魔道具と入学生らしき生徒がその魔道具の前に順番に並んでいた。


 魔道具は大きなレンズのようなものでそれで入学生の全身を確認して、36,78,95といったような数字を魔道具を扱っている人が宣言していた。


「あれはなんだ?」


「体内のサーキットの数」


「サーキット?」


「魔力の通り道」


 サーキットとは魔力の通り道であり、全身に魔力を巡らせたり、魔力を貯蔵したりすることが出来るものである。


 マナの時代にはそういう概念はなかったので色々と研究されているなと感心する。


「そういえば、エルサさんは先輩なの?」


 アイリスはふと気になってエルサに聞く。


「いえ、私は特待生枠」


「へえ、すごいじゃない」


 特待生とは、主に純血の家系や優秀な魔法使いにのみ送られるものである。エルサは後者であり、入学試験はなく、入学の手続きは前日に済ましている。


「なるほど、だからいじめられていたのだな」


「どういうことだ?」


「純血ってのは混血の事を見下すのよ、特待生は、ほぼ純血だからその中でエルサさんは白い目で見られていたんでしょ」


 シエルの言葉にアイリスは説明を加える。


「……くだらん習わしだ」


 シエルのつぶやきを聞いて、マナもくだらないと一笑に付した。


「私としてはソル家とルナ家のあなた達が特待生で無いことのほうが疑問」


 ソル家とルナ家は、純血の中でも最も魔王と近いと言われた家系であり当然特待生として呼ばれているはずなのである。


「え、まあそれは……色々とね」


 アイリスは冷や汗を流しながら誤魔化そうと流すが、勿論そうはさせないとシエルは話を続ける。


「聞きたいか?」


「言わなくていいわよ!」


 どうやらシエルはその事情を知っており、アイリスにとっては聞かれたくない内容のようだ。止めようとするが、勿論この2人相手で止まるはずもなく。


「うむ、聞かせよ」


「この女はな特待生用の入学費を全部魔法の研究に使ってしまってな、両親からカンカンに怒られて、入学しなければ勘当すると言われて泣く泣く、今の今まで入学費を稼いでいたというわけだ」


 それを聞いたマナは嘲笑というより情けなさというか哀れみが湧いてきたのであった。


「……なんとも間抜けだなツインよ」


「ほっとけ!」


 アイリスは顔を真っ赤にしながら不貞腐れてしまった。


「してシエルはなぜ特待生ではないのだ?」


「私は単純に特待生が気に入らなかっただけだ、血で優劣を決めているような腑抜けとはな」


「うむ、その心意気よし」


 シエルの理由はアイリスと違って、なかなかに面白いものであった。マナは彼女の自分の道を進むその姿勢を好ましく思った。


 そんな雑談を続けているうちにアイリスとシエルの番が来る。2人共、レンズの中央に立って何かしら測定されているようであった。


「ふむ、あの大きなレンズがサーキットとやらを計測するのか?」


 エルサはこくんと頷く、二人の測定の時間は他の者よりも長くそこそこ時間がかかっているようであった。


 そして30秒後ぐらいに2062と1680という声が聞こえてくる。


 それを聞いた周りの人間は驚愕の表情になっていた。


「ちなみにエルサはどのくらいなのだ?」


「513」


「なかなかやるではないか」


 その数値でも100いくかいかないかである入学生の間では突出した数値であった。


「これが才能の差ってわけ」


 アイリスは勝ち誇った様子でシエルを見ていた。


「質より量を優先するという言葉があるが、貴様はそれだな」


 だが売り言葉に買い言葉のごとくシエルは言い返す。


「なんですってぇ!」


 そして相変わらずもアイリスとシエルは喧嘩になる、といってもやはりシエルが口喧嘩では一歩上回っているようだ。


「たわけ、どかんか」


 それをマナは邪魔だと言って止める、言い負かされたのかぐぬぬと言った表情をアイリスはしていたが興味はやはりマナのサーキットの数に移っていた。


 なにせあれ程の魔法使いなのだ、アイリスが興味を持たないわけがない。


 マナの身体の周りをレンズが動き測定する、その様子を息を呑んで3人は見守っていた。


「1」


 その数は違う意味で周りを驚愕させていた、そんな少ない数でこの学園に入学出来たのかと、確かに質も重要であるがそれでも1は少なすぎた。


「はあああああああああ!? ありえないからもう一回ちゃんと調べて、ほら!」


「確かに信じられない数ではあるな」


 サーキットとは魔法と魔力の実力、魔法と魔力を主体として動いているこの世界ではサーキットが多ければ言わずと実力もついてくる。


 特に研究者基質なアイリスはそれを重要視していた。だからこの結果は納得できるものではなく、シエルもさすがにそんだけ少ないのはあり得ないといった表情であった。


「そ、そう言われましても」


 アイリスはマナの頭をポンポンとしながらもう一度調べろと抗議しているが、マナはそれを鬱陶しそうに払いのける。


「ええい! 1でもなんでも良い、とりあえず学園には入学できるのであろう?」


「は、はい」


 サーキットが少なかろうが入学試験を突破した以上入学は出来る。その答えに満足してマナは魔道具から降りる。


「では行くぞ、エルサ」


「はい」


 そう言ってマナとエルサは体育館から出ていった。


「……納得いかないんだけど」


 アイリスはマナの魔法から、軽く10000は超えているものだと思ったのでその一万分の1なことに納得が言ってなかった。


「だが実力は本物だ」


 対してシエルはどんだけサーキットの数が少なかろうが自身が見た情報によって、マナの力を認識していた。



 魔力測定が終わったものは荷物をまとめた後に事務室の受付にて寮の部屋を決めること。


 次に書かれていたのは上記である。


「ここが事務室か?」


 そこでは多くの入学生が受付で寮の案内をされていた。


「案内書を提出してください」


 受付の女性がそう言うと、エルサがさっと書類を手渡す。マナはそれを見て良い臣下だと満足そうに頷いていた。


「えっと、マナ……ああ、ではこれを渡すようにと言われてます」


「なんだこれは?」


「教科書です」


 受付の人に本の束をカウンターの上に出される。それをマナは空間の入り口を展開させポイポイとそこに入れていく、それを見た受付の人は思わずポカーンと口を開けて眺めていた。


「便利」


「うむ、この魔法を開発したあやつには感謝せんとな」


 それはマナの魔王時代に開発された魔法であり、神代ではすべての魔法使いが重宝していた。


「して、ここで部屋を決めろと言われているが……勿論 極上の部屋を提供するのであろうな?」


「えっと、一般生徒ならばこちらの部屋です」


 そう言って受付の女性は部屋の見取り図を机の上に出す。


「たわけ! 馬小屋で暮らせというのか貴様は!」


 勿論、その狭さにキレるマナであったが受付の女性はこれが普通だと言い返すのであった。


「2人部屋」


「む?」


「特待生の2人部屋なら結構大きい」


 エルサはふとそう言う。基本的に寮は1人か相部屋であり、一般より特待生のほうが大きい。さらに2人部屋になるとそこそこの広さである。


「確かに特待生が申請すれば特待生用の2人部屋に出来ますが……」


 一般生徒と特待生が相部屋にするのは前例がなかった。そもそも相部屋自体兄弟や姉妹と言った、家族間の生徒が借りることが多いのである。


「うむ、それでよい」


 マナがそう言うとエルサは寮の書類に自分の名前をサインする。


「荷物をまとめてくる」


 そう言うとエルサは荷物をまとめるために自分の部屋に戻る、その間にマナは部屋に案内されるのであった。

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