39:マフィアと接触
11番通り、ここは数多くのマフィアが存在する地区である。
といっても見た目は寂れているとか、スラムのように汚れていると言った感じではなく、むしろそれなりに人が居て、活気がある繁華街と言った様子である。
これには理由があり、無秩序を促すチンピラといった素人達は11番通りでは暴れることがほとんどない、なぜならここには暴力で秩序を保っている本物のマフィアがいるからだ。
もし暴れようものなら管轄しているマフィアに何をされるか分からない、それぐらいはチンピラでもわきまえている。
「フィンガーズか」
情報屋はフィンガーズと言った。
その名前は裏社会では3本の指に入るほどのマフィア組織である。
主に交易、貿易の産業に一枚噛むことで利益をあげているマフィアであり、海外にも顔が利くということから、不法入国はやりやすいというわけだ。
勿論、シエルもその事は知っている。
シエルは3階建ての立派な建物の前に立つ、入り口には黒い服を着たガタイの良い男たちが見張っていた。
シエルが近づくと彼らは不審な目を向けてきたが、そんなことはお構いなしに彼女は話を進める。
「おい、ここのボスに会わせろ」
「ああん? なんだテメェは」
だが見た目は若い女性なシエル、見た目だけで判別する輩には彼女の威圧が伝わらない、故に男たちはなめた態度の女を、脅かそうと手をシエルに伸ばす。
「は?」
だが次の瞬間、男の体は宙を浮き、何をされたのか分からないまま男は、背中から地面に激突して地面に倒れ込んだ。
「そっちのやり方で交渉するならそれでもいい」
なぜ男の体が宙に浮いたのか、答えは簡単だ。
シエルが投げ飛ばした、掴みかかろうとした男の手を逆にこっちが掴んで投げ飛ばす、隣の仲間の男は何が起こなわれていたのか分からないほどの一瞬だ。
だが何が起こったのかは理解していた。
仲間が危害を加えられた、襲いかかる理由は十分に出来たのだ。
男は何かを懐から取り出そうとする、だがそんな自由を与えることをシエルは良しとしない。
距離にして3m、シエルが剣を取り出して敵の喉元に当てる時間は男がただ何かを取り出そうとする時間より速く、気づいたら男は喉元に刃を突きつけられていた。
「お前は案内役だ」
シエルはそう言うと男は手を上げて命乞いのジェスチャーをする。
といってもシエルとしても殺そうとは思ってもなく、降参するなら降参するで全然良かったのでそのまま歩かせて建物の中に入ろうとする。
だがシエルが大きなドアに向き直ったら、突然と大きな音を立てて、勢いよくドアは開かれる。
何事かと思って注視してみるとドアの向こうでは、帽子をかぶったヒゲを生やした男が立っていた。
「おいおい、騒がしいかと思ったらどっかのマフィアの襲撃か?」
「あ、兄貴!」
「おうおう、無様に掴まちゃって、悪いけど嬢ちゃんそいつを離してやってくんねえか?」
シエルはその言葉に剣を下に向けて、目線で向こうに行けと目の前の男を開放する。
男は必死に逃げ出して、玄関口の広場でシエルと帽子の男だけが向き直る形となった。
「随分素直じゃないの、人質はいらないってか」
「私の目的はお前たちのボスと会うことだ」
「おいおい……こんだけ暴れてそれは無理って話だな!」
男は懐から2丁の黒い何かを取り出す。
「っ!」
今度はシエルは反応が出来なかった、懐から何かを取り出してこちらに向けて発射するまでに接近することは出来ずに、右に飛んで避けることしか出来なかったのだ。
「おいおい、こちとら最速の武器だぞ」
逆に帽子の男は避けられたことに驚愕する。
男が持っているのは銃だ、魔銃の様に魔法を発射するのではなく、魔力鉱石の機構で金属を発射する現代に置いて最速の武器だ。
どんな魔法よりも速く、魔法が使えないものでもそれなりの成果を上げられる、それが銃という武器の特徴であり、障壁を使えば防ぐは簡単だが、避けるとなると相当難しく、見てからではなく予測でしか避けられないであろう。
それをシエルは初見で避けたのだ、その武器が見慣れたものなら予測も出来るかもしれないが、初見でそれを察知できたのは異常の危機感知能力だと言わざるを得ない。
「……銃ってやつか」
シエルは攻撃されてからその正体に気づく、アルメルキアで量産されている武器であり、最近では改良が進んでさらに使いやすくなったと情報も知っていた。
相手が持っているのはその改良された銃みたいだが、普通は国外に流出することはない。
だが相手はマフィアでなおかつ国外にパイプを持っているので、どうやってそれが流出したのかはたやすく想像が出来た。
シエルは物陰に隠れながら息を吐く、相手の武装は銃のみ接近すれば勝てる、剣を取り出して飛び出すタイミングを伺う。
――飛び出す。
踏み出す足に魔力を込めて、一歩で一気に男の懐に接近する。まさに神速、物陰から影が出てきた思ったら次の瞬間には懐に潜り込んでいる、到底反応出来る速度ではない。
剣を一閃、薙ぎ払うように振る、その一撃は的確に敵の攻撃手段を奪うために腕を狙うものだ。
盾も剣も持っていない相手、それを防ぐのは不可能であり、回避する時間も与えていない、確実に決まる一撃だ。
だがその一撃は金属音と共に防がれる、驚愕はシエルの表情であった。
なぜなら防ぐものを持っていても容易く防ぐことは出来ないそれを、男は銃ごときで防いでいたのだ。
しかもそれだけではない、銃を刃に滑らせるようにして距離を取るどころか肉薄してきたのだ。
そして男は肘打ちを決めようとしてくるが、それをシエルは空いている方の手で防ぐ。
「へえ、やるな」
男は余裕そうな表情であり、それから接近戦も得意ということが伺える。
お互いに攻撃を防いだ状態で膠着するが、次の一歩を踏み出せたのは相手の方であった。
男が持っている2丁の銃の銃口がシエルの方を向く、そして男はトリガーを引いて鉛の弾はシエルに向かって発射された。
「ぐっ!」
防御には2つの代表的な魔法がある、障壁と結界だ。
障壁は魔力をサーキットから放出して、魔力の壁のようなものを作り出し物理的、魔法的、力をある程度軽減する魔法だ、対して結界は魔力で層を作り出して侵入を防ぐ魔法である。
障壁は魔力の粒子を展開するのに対して、結界は魔力の層を作り出す、どんな違いがあると言うと、障壁は粒で防ぐのでどこかに隙間が生まれる、対して結界は隙間がなく、より強固なものである。
では結界を使えばいいと思われるがそういう訳にはいかない理由がある。
結界は常に魔力を注いで魔力の層を維持しないといけないので燃費が悪い。
対して障壁は1回放出すれば維持にかかる魔力は少ないので燃費が良い。
この理由から大抵は、防御には魔力障壁の魔法が使われるのだ。
「硬いな、大抵の障壁は貫通するんだがな」
シエルは銃弾を受けて、大きく仰け反らされていた。
障壁の硬さは、サーキットの数と粒子の配列で決まる。
サーキットが多ければ多いほど排出される粒子の数は多くなり、乱雑に置かれた粒子よりも規則正しく置かれた粒子の方が、隙間がなくなりより堅牢になる。
上記がどちらも最高水準なアイリスは障壁が城壁ほどの硬さを持ち、大体の攻撃を通さないが、残念ながらシエルは配列といった魔力の細かいコントロールは不得意だ。
故に魔力ではアイリスに匹敵するシエルでも、魔法になると大きく劣ってしまうのだ。
だがそれでも並以上の障壁を貼れるのはシエルの魔力の質の高さのおかげであった。
「くっ!」
「おっと」
シエルは苦し紛れに斬撃を飛ばすがそれは容易く避けられてしまう、そして男は銃弾を補充するためにリロードの動作を取る。
それを見逃すシエルではなかった。
その意味は把握出来なかったが戦闘の最中に、自身の武器に何かを装填する明らかにスキのある動作、意味もなく行うものではなく何かしらの制約だと考えていた。
ならばやることは決まった、まずは銃弾を撃たせることから始まる。
シエルは走り出して銃弾に当たらないようにして動き回る。
「ちっ、こりゃ弾の無駄だな、あんま安くないんだぜ銃弾ってのも」
男は愚痴を言いながらも動き回るシエルに対して銃弾を放つ、だが回避に専念したシエルに対して男は当てることが出来ずに、一発、二発と両手の8発ずつ、つまりは全ての銃弾を撃ち尽くすのだ。
そしてリロードの体制に移行するが、その瞬間にシエルは接近する。
足に魔力を込めて、一歩で接近するシエルの移動術、懐に接近したら魔剣を一閃、敵の攻撃手段を奪い取る。
だがその流れは初撃と全く同じものであった。
男も馬鹿の1つ覚えかと思い全く同じ対処法を取ろうとする。
遠距離武器を使うならば接近されるのは必然の事、それに男は元々短剣を両手に持って戦っていた、だから銃を短剣にように扱って剣を受け流すことが出来たのだ。
男は敵の攻撃先に銃を置くようにして受け止める、衝撃が着たら力に沿うようにして受け流すだけだが、いくら待ってもその衝撃が来ることはなかった。
なぜならシエルの魔剣は消えてしまい、盛大な空振りをしていたからだ。
「なっ!?」
気づいた時にはそのまま外側から腕を掴まれており、体は宙を浮いていた。そしてそのまま地面に強く背中から叩きつけられる。
「がっ!」
肺の空気が一気になくなり息苦しさを感じる、そして一瞬意識がなくなり、体中が麻痺したような脱力感に襲われる。
シエルの魔力を大量に受け止めたからだ、魔力なしではシエルの体では大人を片手で投げ飛ばすことなど出来ない、必然的に魔力を込める必要があるが、シエルの大きな魔力と接触したことで男の体にも彼女の魔力が流れてしまい、体の自由が奪われていたのだ。
これは魔力を持たない、もしくは少ない人間に起こる現象であった。
「おいおい、ありかよそんなの……」
「私が高潔な騎士にでも見えたのか?」
男は呆れていた、剣士が剣を捨てて投げ飛ばすなど想定外の発想であった。
まさにその戦い方は剣士ではなく戦士、だがどんな手段を使ったとしてもやられたのは事実、むしろ手段としては戦いの中での不意打ちという生温いものであった。
「さて、ボスのところに連れて行け」
「おいおい、こんなんで連れていけるわけないだろ」
男は体が動かずに地面に倒れながら呆れながら呟く、事実、男の声は弱く歩けるような状況ではなかった。
シエルはそれを見て自分から入っていこうと建物に向かうがその足を突然と止める。
「っ!」
剣を構える、シエルの肌はピリピリと何かに打ち付けられており、ドアの向こうからまた何者かがこちらに向かってきているのがわかったのだ。
しかも今度は只ならぬ殺気を向けられており、只者ではないと予想できる。
息を飲みドアを睨んでいたら、静かにドアは開き1人の男が現れた。
男は黒い長髪であり、身にまとう雰囲気は静かに研ぎ澄まされていた。
まさに静水、激流のごとく剣を振るうシエルとは対極の位置にあるであろう。
そしてシエルが目についたのは腰にぶら下げている刀である。
これはこの国の東から海を渡ったとこに位置する、島国の剣であったことを知っていた。
その国の剣士は侍と呼ばれ、高い剣の技術を持っている、この国で剣を扱うものなら誰もが知っている存在であった。
シエルは戦闘距離を図る、男はじわりじわりと静かに足を進めて刻々とお互いの戦闘距離の円がぶつかろうとしていた。
だがそれにぶつかる寸前に男は歩みを止める、男にも相手の戦闘距離の円が見えていたのだ、まさに達人同士、一触即発の空気。
長い睨み合いが始まるが、口を開いたのは男の方からであった。
「そう構えないでいただきたい」
「それだけ殺気を出してよく言う」
男から発された言葉に思わずシエルは言い返す、殺気を出しているのはそっちの方だと。
「すまぬな、これは職業柄癖のようなものだ」
そう言うと男は幾分か雰囲気を和らげるが、未だに油断出来ない状況であった。
だがその状況の中、男は背を向ける、よほどの自信なのか攻撃を誘っているのかシエルには判別が付かなかったが、飛びかかることはせずに押しとどまる。
「ついてこい、主が顔をあわせると言っている」
男はそれだけ言うと建物の中に入っていき、それを見たシエルはとりあえずは剣を収めて、続いて建物の中に入っていくのであった。




