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3:時代が変わっても変わらないもの

 魔王は学園を見渡してみた。


 殺伐とした雰囲気もなく笑いながら談笑する生徒、見たこともない技術の道具、まさに時代は変わったというべきか、魔王の時代とは様変わりしている。


 外の世界がどうなのかは分からないが、1000年前ほど戦いの時代ではないのであろうと魔王は結論付ける。


「なかなかに平和は続いているようだな」


 今の所自身が介入して何かを起こす気はなかった、なぜならすでに面白い人間を2人見つけたからだ。


 しばらくは世界を見定める、魔王はそう決めた。


 となるとこの学園に求めるものは、見つけたのでもう用はない、


 来た道を戻り学園の外に行出ようとすると、その前の広場ではなにやら騒がしい音が聞こえた。


「はっ、落ちこぼれごときが俺の前に立つんじゃねえ」


 門の前では誰かがいがみ合っており、その周りを野次馬が囲っていたのだ。


「魔王候補生だぜあれ……」


 野次馬の1人が聞き慣れな単語を呟き、それが魔王の耳に入る。


「なんだそれは?」


「魔王の血を濃くついでいると主張する純血の一族だよ」


 それを聞いて、我の血を? と疑問に思うが子供を作った覚えはないのでどこかの阿呆がそう主張したものだと思い呆れ返る。


「おい、誰か助けてやれよ」


「無茶言うなよ」


 そのやり取りを見て、どこの時代も同じかと思いながら魔王は門に向かう。


「あ?」


 門の前でひと騒ぎが起きているため、魔王が門を通ろうとすればそれを横切る必要があり、必ず騒ぎの中心に顔を見せることになる。


 いきなり出てきた少女に魔王候補生の男は、なんだこいつという表情になるのだが、魔王は意に返さない。


「デカイ体で道をふせぐな、失せよ、もしくは自害せよ」


 魔王は道端に倒れている女子生徒を踏みつけている男子生徒に向かって、吐き捨てるように宣告する。


「な、なんだこいつ!?」


 周りの野次馬はざわざわと騒がしくなるが魔王はどこに吹く風といった様子だ。


「そもそも我を見下すその態度、その時点で極刑ものだと知れ」


「面白えな、入学生かなにかか?」


 そのリーダー格の男子生徒と取り巻きは標的を魔王に変える。


「だ、駄目」


 地面に叩き伏せられていた女子生徒はいけないと訴えかけるが、魔王はそんなもの無視であった。


「勇者きどりか? やめときな、そんなもの力の前には無力だぜ」


「たわけ、我は貴様らを邪魔と言っただけだ、もしそこに倒れている女のことを言っているなら見当違いもいいところだ、それに力だけしか取り柄のない雑魚など相手にするか」

 

それを聞いて、ニヤニヤしている男の顔から笑みは消え去る、そして何かの魔法を唱えた。


「黒炎よ敵を焼き尽くせ!」


 それは黒い炎であった、周りの生徒達は魔王の炎と言っている。事実それは魔王が好んで扱った炎の魔法であるが質はまったく足元にも及ばない。


 魔王は見た目だけのそれを指を鳴らしただけで消してしまった。


「なっ!?」


 黒炎を出した本人は勿論驚く、どんな魔法を使ったのか、そもそも純血の家系だけが使える魔法をなぜこんな少女ごときが消したのか理解出来なかったからだ。


「これだけではなかろう?」


「てめえ、調子にのるなよ!」


 男子生徒は身構えて集中する。


「黒炎よ蛇となれ、標的に食らいつけ」


 今度は黒炎で蛇の形を作り出す、詠唱することで高度になった魔法である。標的を見つけて纏わり付き焼き尽くす黒炎である。


 標的は魔王となり蛇のように俊敏に目標に向かうが、それも魔王は指パッチン一つで消してしまう。


「馬鹿な! ルイエン様の黒蛇が!?」


「……たわけ、同じ黒炎であろう」


 魔王は呆れ返った。これは予想以上に大気のエーテルが薄くなった影響が出ているなと分析していた。


 魔法使いは生涯にて大気中の魔力、すなわちエーテルを体内に取り入れて成長する。


 身体の成長のようなもので老いれば老いるほど魔力は熟練していくので、熟練者は老人だということが多々ある。


 つまり魔力の源たるエーテルが薄いこの時代の魔法使いは、昔の時代より魔力が成長しにくいということなのだ。


「まあ良い興が冷めた、さっさと道を開けろ」


 魔王はすっかり冷めていた、あの二人を見てなかなかのものだなと思っていたがこの時代の平均が、これだと知るとやる気はなくなっていた。


 それを聞いて、取り巻きの連中は魔王から離れるが当の本人のルイエンだけは違っていた。


「ふざけるな! 決闘だ!」


「ほう? まだ吠えるか?」


 魔王は力の差を知って、なおそこまで吠えた男に少しだけ興味が湧いた。


「今日の12時、第4闘技場まで来い! そこで俺の本気をみせてやる!」


「良かろう、だがそこまで言ったからには覚悟をしろよ?」


 それだけ言うと取り巻きを連れてルイエンはその場から去っていき、野次馬も騒ぎながら散っていった。


「あなた……今すぐ……げほっ」


 倒れていた少女は血を吐きながらも魔王に何かを訴えようとしていた。


「内臓が傷ついているしゃべらないほうがいいぞ」


「あ……やま……げほっ、げほっ」


 魔王はそれを見て内臓が傷ついてると分析して喋らないほうがいいと忠告するが、何かを言おうと必死であり止めることはなかった。


「まったくしょうがない」


 魔王は蹴られたであろうお腹に手をおいてなんらかの魔法を唱える、するとみるみる彼女の息は安定して吐血もやむのであった。


「治すのは得意ではないのだがな」


「……治癒魔法?」


「まあ似たようなものだ」


 それは治癒ではなく、再現という過去の状態を持ってくる魔法であったが治癒する点で言えば同じなので訂正はしなかった。


 彼女は立ち上がり裾を払う、青白い髪の毛をしておりアイリスやシエルと見た感じ同世代に見える。


 だが発育……主に胸が2人より良いのが違いといったところか。


「それよりも彼らに謝ったほうがいい、いやもう遅いかも」


「たわけ、なぜ我が謝らないといかん、先に手を出したのはあいつらであろう」


「決闘は生死を問わない戦い、あなたは死ぬ」


「死なん、それにそんなもの何度も経験してきた」


 戦争を経験して生き抜いてきた魔王には決闘など所詮は遊び、退屈しのぎでしかなかった。そしてそんなことよりも重要なことに気づくのである。


「それよりも我は腹が減った、なにか献上せよ」


 魔王は手を差し出してなにか食べるものを寄越せと彼女に所望する。


 すごい理不尽であるが、助けって貰ったお礼もあるので彼女は、落ちてあるカバンからパンを取り出して渡す。


「ふむ、パンか……質素であるが良い特に許す、さて一口……」


 魔王はそれを一口食べただけで衝撃を受けた、それはまるで天界から裁きの雷が直撃したほどの衝撃である。


「な、なんだこのあまいくりぃむは! これはなんというパンなのだ!?」


「クリームパン」


 特に甘味が好きでは無かったが、魔王は少女の身体になったことにより好みの種類が変わっていた。肉体の形が変われば魂も変わる、魂が肉体に引っ張られた例である。


「こ、これはどこで売っているのだ!?」


「学園の購買部」


「決めたぞ、我はこの学園に入学する」


 魔王はこれだけでもこの学園に入学する価値があると決めつけた。


「して貴様は最上級の褒美として我の臣下にしてやろう」


「……どうも」


 1000年前では確かに最上級の褒美であったが、現代ではただのロリから言われたその言葉に困惑しながらも断れない雰囲気を感じていた彼女は、頷くことしか出来なかった。


 だがそこで魔王は肝心なことを忘れていることに気づく。


「そういえば貴様の名は何と言うのだ?」


「エルサ・ローゼンメルン」


「うむ、ではこれからエルサと呼ぶとしよう、ではエルサよ向かうぞ決戦地へ!」


 名前が聞けて満足した魔王は、臣下を引き連れて第4闘技場に向かおうとするが、それをエルサは呼び止めた。


「あなたの名は?」


「ん?」


「あなたの名前はなに?」


「我の名か? ル……」


 1000年前の世界を支配した魔王の名、即ち自身の名を名乗ろうとしてそれを押し止める。この容姿にそれは似合わないと感じたからだ。


「……マナ、我のことはマナと呼べ」


 遠い昔、暴虐な魔王を変えた少女の名を思い出しそれを名乗った。


「了解、マナ」


 どこか懐かしげになりながらもマナは第4闘技場の方に向かうことにしたのだ。

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