第三話 『自己紹介』
「私の名前は花崎 美玲。みーちゃんって呼んで!」
そう、自己紹介が始まった。
相手を知る、相手に自分を知ってもらうための初歩的かつ王道なイベント。
俺が高校入学当初の自己紹介は、今も思い出したくないほどにしくじって高校デビューと同時に陰キャデビューを果たしてしまった。
友達が一人もいないとかではないが、立ち位置としては今も陰キャで変わりない。
「美玲ちゃんか、いい名前だね」
「ありがとう。でもこれからはみーちゃんだよ?」
「はいはいみーちゃんね」
「なにその適当な感じ!」
「みーちゃんかわいい大好き!」
「はわっ……!不意のそれはズルい……」
俺がそんなことを言うと、みーちゃんは顔を真っ赤にして俺から顔をそらしてしまった。
可愛すぎて召されそう我。
「じゃあ次は俺だな。俺の名前は金村 篤。呼び方は任せるよ」
「あーくん!」
「あーくん?」
「うん!あーくん!」
あーくんに決まったらしい。
最近の小学生のあだ名は名前の最初の文字を伸ばしたのが流行っているのだろうか。
いやではないから全然いいんだけどね。可愛いし。
何を思ったか俺はこんなことを聞いてしまった。
「あーくんのこと好き?」
「うん!あーくんのこと大好き!」
刹那__
視界がぐらついた。
興味本位で、軽い気持ちで聞くんじゃなかった。
この天使にはそれほどの破壊力があるのだ。
持ち堪えるんだ俺!
立つんだ俺!
かの有名なボクシングマンガさながら自分に呼び掛ける。
立てぇぇぇぇーーーー!!
「うおーーーーーーーー!!!!!」
「どうしたの?急に立ち上がって」
「あ、ちょ、ほんとにすみません」
我に返った。
いや俺マジで何やってるんだ俺……。
俺は恥ずかしくなりながらもその場に座った。
「あーくんおもしろいね。そういうところも好きかも」
そしてそんな俺に対して笑顔でそんなことを言ってくれた。
さっきのことに対するフォローにも聞こえるそれは、みーちゃんの表情からそれが本心なんだと理解した。
「ありがとう……」
「じゃあ次は質問を投げ合おう!」
「おー!」
みーちゃんが可愛らしく右手をグーにして上げながら言うもんだから俺もそれにならって右手を上げた。
「じゃあまず私から!」
「どうぞ」
ここはみーちゃんの希望にこたえてあげる。
「ん~、私のことは好きですか?」
「大好きです」
いやちょい待て!?
お互いのことを知っていく質問じゃないの?
即答した俺も俺だけど……。
それからというもの、少し脱線しながらもなんとか最低限の情報は確保することに成功した。
みーちゃんは小学五年生で、誕生日が十二月二十五日クリスマスだ。血液型がB型で、好きな食べ物はラーメン。
ひとしきり質問も終わったところで、そろそろいい時間なので帰ろうということになった。
別れるのはさみしいが、仕方がない。
「あっ!今スマホある?ライン交換しよ?」
まて、ライン交換だと!?
完全にこうなる展開を予想出来てなかった。
その場その場をみーちゃんに対して真剣に向き合っていた俺は、後先のことを考えるキャパが余っていなかったのだ。
そしてなぜライン交換に抵抗があるかというと、ホーム画面がもろ萌えアニメキャラクターだからだよぉぉぉ!!
「あれ、だめだった?」
「あっ、いやいや全然だめじゃないよ。交換しよ?」
「うん!」
そう言ってみーちゃんはスマホを取るべくランドセルを漁る。
どうしようどうしようどうしよう……。
ホーム画面がもろ萌えアニメキャラクターだったら幻滅されるだろうなぁ……。
俺はどうしたものかと必死に脳みそフル回転させる。