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第二十一話 『えーえむえすあーる』

 とある日の休日。

 みーちゃんがうちに来ていた。

 ソファに座っている俺の上に座っているみーちゃんは何やらスマホの画面に夢中だ。

 横から画面をのぞいてみると、見覚えのある文字が画面上部に書いてあった。


「へー、みーちゃんもMeTubeとか見るんだ」


 MeTubeとはいわゆる動画サイトだ。今どきの人間なら大体は知っているだろう。


「うん!このえーえむえすあーるっていうのがすごいんだよ!」


 ……んー、間違ってるけど言い方がかわいいから許す!


「みーちゃん、それAMSRじゃなくて、ASMRだよ」

「えーえすえむあーる?あーくん詳しいね」

「俺もたまに聞いたりするからね。それともう一つ気になったんだけどイヤホンはしないの?」


 そう、みーちゃんはイヤホンをしないでASMRを観て(聴いて)いたのだ。


「いやほんって、耳に装着するやつ?」

「うん、そっちの方がよりリアルに聞こえるし、立体音響って言って、動画によるんだけどどこから音が鳴ってるかも分かるんだよ?ほら、俺が今後ろから話しているように、動画で喋ってたり音を鳴らしてる人がマイクの後ろで喋れば、実際に後ろにいるかのように聴こえるんだ」

「へー、イヤホンって偉大なんだね!」


 俺の方を向きながら説明を聞いたみーちゃんは、一等性以上に目をキラキラとさせながらイヤホンの偉大さを実感していた。


「……でも私、イヤホン持ってないや」

「大丈夫、俺が持ってるから」

「ほんと!」

「うん。持ってくるからちょっと待ってて」

「ありがとあーくん!」


 みーちゃんが俺の上から降り、俺はイヤホンを取りに行くべく二階の部屋に向かう。


「ってかだダメだ……。あの状態が長時間続くと理性が保たない……」


 俺の上にみーちゃんが座っていると、その密着度ゆえに必然的に女の子特有の甘い香りが永遠と俺の鼻を刺激してくる。

 小学生とはいえみーちゃんは女の子だ。

 こちらは男児高校生。あの状態で多少邪な感情が芽生えてしまうのも世の理といえよう。

 もはやあれだけ耐えられたことに自分を褒めたい。

 しかし、だかといってそもそも俺とみーちゃんは異常な関係、一線を越えてしまった瞬間すべてが終わる。

 だから慎重に、いついかなる時でも理性を保ち続けなきゃならない。


「よし!」


 俺は気合を固め両手で自身のほっぺを叩く。


「何やってるの?自分の頬っぺたなんかたたいて」


 ちょうど自分の部屋から出てきたであろう咲が不審な目を俺に向けてくる。


「まあなんだ、己との闘いに活をいれたっていうか?」

「何言ってるんだか。みーちゃんとイチャつくのもいいけど、たまには私……ううん、何でもない」

「なんだよ?」

「そんなことよりもうすぐ私友達の家に泊まりに行くから、夕食は自分で作ってね!」


 そう言い残し咲はトイレに入っていった。


「お待たせみーちゃんイヤホン持ってきたよ!」

「うわ~、それがイヤホンか~」


 戻ってきた俺は、見せびらかすようにイヤホンをみーちゃんの目の前に持ってくる。


「早速聴いてみよっか!」

「うん!」


 そう言い俺がソファに座ると、さっきと同様ぴょこんと俺の上にみーちゃんが座ってくる。

 みーちゃんのスマホのイヤホンジャックに俺のイヤホンを入れると、みーちゃんはイヤホンの片方を俺に差し出してきた。

 片方ずつ聴こうというわけだろうか。


「いやみーちゃん、ありがたいんだけどASMRはみーちゃんが両方イヤホンをつけなきゃあまり意味がないんだ」

「うん、だからとりあえずは一人で聴いてみて?」

「分かった!」


 俺のイヤホンを両耳にはめ、みーちゃんは再生ボタンを押す」


「うわ~……なにこぇ……しゅごくくしゅぐったいよぉ……」


 俺の上でくすぐったそうに身をよじらせながらASMR動画を聴いているみーちゃん……なんかめっちゃエロい!

 いかんいかん。

 ぶんぶんと頭を振り、煩悩を振り払う。

 みーちゃんはいったんイヤホンを外し、俺の方を振り向く。


「あーくん、これしゅごくくしゅぐったいけど……癖になるかも」


 イヤホンを外しても依然とろけそうな(めっちゃエロい)顔でみーちゃんはそう言う。


「あ、ああ俺も最初はそんな感じだったから、慣れればはまるんじゃない?」


 そんなみーちゃんに動揺してしまうが、何とか視線をそらしごまかすように言う。

 そうこうして、ASMRを聴きくすぐったそうに俺の上で身をよじらせるのが、小一時間ほど続いた。

 保て、俺の理性!

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