第十七話 『華怜の気持ち』
華怜、こいつ今なんて言った……?
俺には、直前の華怜のセリフがよく理解できなかった。
『私昨日あっくんの家に行って、告白するつもりだったんだ』
一度思い出してみたら、70パーセントほど理解できた。
目の前の華怜の顔は少し赤くなっていて、目をそらし、唇を尖らせていた。
「え、な……なんで告白なんてしようと……」
「そんなの好きだったからに決まってんじゃん……」
「……」
俺はその言葉を聞いてすぐ、何か言い返すことができなかった。
バツが悪そうに呟く華怜を見て俺は、こいつが女子だと初めて気づいた。
いやまあ、もちろんそのままの意味ではなく、こいつが俺に恋愛感情を抱いてると知って、異性として捉えていなかったこの女を、異性として認識したとでも言えばいいだろうか。
だって元幼馴染だぜ?
ちっちゃい頃から一緒に遊んだり、ご飯を食べたり、なんなら一緒にお風呂に入ってた時だってあったくらいだ。
そんな相手を異性として認識できるわけない。
だが今、異性として気づいてからは、なぜか華怜の顔を見て、心臓がいつもより速くドクドク波打っていた。
おいおい俺、あの元幼馴染相手に何ドキッとしちゃってんだ?
俺にはみーちゃんっていうだな___
「こんな俺のどこが……」
「全部だよ!全部好きだったの!」
耐えきれなくなった華怜は叫ぶように言い放ち、そのまま俺を残しどっかへ行ってしまった。
「全部……好きだった……」
さっきの言葉を、自分で声に出して繰り返し、再確認する。
まさかぁ、そんなわけ……。
否定しようとも、さっきの顔を見れば嘘じゃないと誰だってわかる。
「しかも、泣くまであるか?」
華怜が去り際、華怜の目から涙がこぼれているのを、俺は見逃さなかった。
◆◇◆◇◆◇◆
何とか一時間目に間に合った俺は、頬杖をつき、隣にいる華怜をチラッと見る。
目元にはほんの少しだけ泣いた跡が残っていて、華怜はむすっとした顔で板書をしていた。
顔に出てるって……。
だけどこいつもよく見ると普通にかわいいんだな。
学年トップカーストとかではもちろんないのだが、いつも決まった友達数人となんかいろいろやってる普通のJKだ。
いっちょ前に胸も成長しちゃってよ。
って、いかんいかん何を考えているんだ俺は。
そこからは余計なことを考えないため、俺も授業に集中するのであった。
◆◇◆◇◆◇◆
何とか三時間目の授業を終えた俺は、グッと伸びをする。
すると、
「篤君お昼行こ」
「おう」
こいつは俺の唯一の友達、多田 智弘だ。
身長は低めで、眼鏡をかけている地味で冴えない感じがまた話しやすくていい。
俺も人のこと言えないのはほっといてくれ。
そしてなにより、話しやすさだけじゃなく、智弘の趣味も全く同じで、話すのに飽きたことがない。
高校入学時からの友達だ。
お互い陰キャっていう境遇も似ていたしね。
華怜も、寄ってきた友達と楽しそうに話していて、その中の一人が、いつもと同じセリフで俺に言う。
「篤君机借りるねー」
「あ、はいどうぞ」
尾頭に『あ』と言ってしまうのはやっぱり陰キャならではなのだな。
無意識に言っちゃうし。
まあそんなわけで智弘といつも一緒に昼を食っている所定の場所に向かっている途中、俺のスマホに二件のLINEが来た。
一つ目は華怜だ。
えーと、『まだ話したりないことあるし、久しぶりに咲ちゃんにも会いたいから、今日あっくんの家に行くね。絶対に」
おお……マジかよ。
こいつさっき去り際怒ってたっぽいのにもう俺と話せるんか?
まあ俺としても聞きたいことあるから『了解』とだけ打って送信した。
そしてもう一つはみーちゃんからだ。
えーと、『あーくん大好き!』
相変わらずだ、みーちゃんは。
俺はもちろん、『俺もみーちゃんのこと大好きだよ!』とだけ送ってスマホをポケットにしまった。