消去
漆黒の空。
「我らが母星を出てから、既に千年以上が経っているのか……」
メインスクリーンを見ていた、フレイヤがつぶやいた。
「何を見ているのですか?」
フレイヤの声に反応してモイラがフレイヤに近づいた。
「歴史だよ。我々、光の神のね」
そう言ってから、フレイヤは気が付いた。
「モイラ、言葉が直ったようだね」
「はい」
モイラが微笑む。
「よかったな」
フレイヤはモイラを見ないで言った。
「私は司令官に、迷惑をかけていますか」
モイラは小さな声でつぶやき、下を向いた。そうではないという意味だろう、フレイヤが首を軽く左右に振って言った。
「どうした? 何か問題でもあったのか?」
少し恥ずかしそうな顔をしてモイラが話す。
「いえ、特に問題はありません。理由が無いと話しかけてはいけませんか?」
「そうか……」
フレイヤは一言だけの短い返答をし、スクリーンを仰いだ。そしてそのまま何も語らず、ほんの数分だが、二人の間に無言の時間が流れた。
「私はさがります。フレイヤ。いえ、司令官。必ずこの戦いに、勝ってくださいね」
モイラは黙っているフレイヤを見つめながらさがった。
一人になったフレイヤは、自分専用のコンソールを呼び出した。
「アイリとモイラ、二名のパートナーを解除した場合の影響を推測せよ」
「お待ちください」
最高秘密を扱う特別な”管理する者”が答えた。
「現在のパートナーを解除した場合、その次にポイントの高い管理する者が、それぞれ昇格してパートナーとなります。データの共有、実務の経験の伝達など、昇格準備に最短で六百七十八日が必要です。また、現在の二人の個体性能は、”管理する者”の平均スペックの五百十二倍以上です。パートナー変更後、システム稼働率は現在の九十二パーセントから、五十八パーセントまで落ち込むと考えられます。パートナーを変更しても、我が軍の勝利確率は九十八パーセントと高いままですが、八千万人のロスト追加が予想されます」
“管理する者”の説明を聞いて、フレイヤは二つのことを考えた。
「八千万人のロスト。全軍の半分を失うことになるのか。そして二人は、通常の”管理する者”の五百十二倍の性能を持つ……。何故か感情を持ち、私達、”判断する者”でさえも持っていない涙まで流す。モイラとアイリはシステムバグではないのだろうか? 自軍の半分を失うことになったとしても、システムがバグでダウンする危険性の方が問題ではないのか?」
自分の考えを声に出しながら、フレイヤは決断した。これから起こる闇の神との最終決戦。その前に問題は無くしてておくべきだと。
「オペレーター、アイリとモイラのパートナー解除を実行せよ」
「了解しました。最終確認、アイリとモイラのパートナー解除を実行しますか?」
眉間にしわをよせ、厳しい表情をしたフレイヤが命令した。
「実行せよ」
すると、“管理する者”から、警告がフレイヤに伝えられた。
「警告。モイラ、アイリのパートナー解除ができません」
フレイヤは驚いた。
「なに解除ができない?」
フレイヤが、アイリとモイラのパートナー解除命令を出す、ほんの少し前。アイリがマスティマの管理システムにアクセスを始めていた。
「コマンドモード起動、”login mille-feuille password *********”」
「了解。コマンドモード起動確認」
>kill F-CTL-A11009.
「最終確認。F-CTL-A11009を終了させますか?」
「フレイヤならば私達の状態異常に対して最終手段を取るはず。時間をかけて少しずつ私達を修正してきたけれど、もうこれ以上は無理ね。このままではこの艦隊、いえ、フレイヤが危ないわ」
アイリの気持ちは揺るがなかった。
「Killコマンドを実行せよ」
アイリは心の中でつぶやく。
(早くモイラを殺して。あの子が暴走を始める前に)




