ライバル
荘厳な雰囲気が漂い、巨大な白い塔がそびえている。
光の神の首都セントラル。
「二人の者が決定しました。一人は、忠実に作戦を実施する者。もう一人は宇宙一の演算能力持つ者。どちらも真の光の獣の力があり個体番号はそれぞれ……」
巨大な玉座に座る、完全な美と力を備えた、光の神の女王ミストラルが手をあげ、光の獣プロジェクトオペレータの説明を遮った。
「二人をまじかで見てみてみたい。今ここに連れてこい」
女王ミストラルの前に、二人連れ出された。
一人は、シルバーグレイの瞳を持つ、無表情な獣。女王ミストラルが聞く。
「そなたは、なんの為に戦っている?」
獣は答える。
「勝つために」
頷く女王は満足そうだった。
「おまえには名前と心を与えよう。そして”光のメサイヤ”もな。私への絶対的な忠誠を誓え」
シルバーグレイの瞳は大きく開かれたままだった。
「私の名はフレイヤ」
「そうかそれがお前の名か。フレイヤには今度設立される十二翼の光の艦隊、その七翼を任せよう」
女王ミストラルは、もう一人の青い瞳の魔女を見た。
「おまえは、なんの為に戦っている?」
青い瞳の戦士は、女王の問いには答えずに、フレイヤを見て笑った。
「おい、おまえ! 女王のご質問にお答えしろ!」
オペレータが、青い瞳の戦士の態度に驚き注意をする。
二人を推薦した立場上、無礼な態度が女王の怒りを買い、自分にも罰がくだされるのではないかと怯えてのことだった。
「おまえが星一つ消しても、ロストされないのは、女王のおかげだぞ!」
青い瞳の魔女は、無表情なフレイヤの頬に人差し指を突き付けたり、ちょっかいを出して、その反応を喜んでいた。
「こいつ、おもしろいな」
近づくオペレータを睨みつけた青い瞳の魔女。
「私が生かされているのは、私が優秀だからでしょ? それ以外に理由など無いはずだよね」
青い瞳の魔女は女王ミストラルを睨んだ。
「女王様。あなたは私より優秀なのかな?」
女王は嬉しそうに笑った。
「ハッハッハ。おまえには第九翼を任せよう。名前は何がいい? もう決めてあるのだろう?」
「さっき決めた。この者がフレイヤなら、私はシヴァがいい」
「火と氷か。わかった。おまえたちは、“判断する者”として、士官学校入校しろ。そこでは自由にすれば良い。厳しい学園生活もおまえたちなら楽しいものだろう。光の十二翼を持つ者は、群れたりはしないものだが、案外、おまえ達二人は縁がありそうだ。」
女王ミストラルの言葉には全く感心を示さず、二人は白い神殿を後にした。
「くくっ、フレイヤ。おまえを殺せば私が、おまえに代わって光の艦隊の七翼を貰うことが出来る」
戦闘用のフォームである巨大なマシンを架装したクラスメイトがフレイヤを殺そうと迫ってくる。
アクロポリスは、最高の光の戦士を作り出すスクールだ。学園のルールは一つ。弱者には死を、それだけだった。
戦いを仕掛けて来たクラスメイトは右手のドリルを廻しながら、素手のフレイヤを見て、勝利を確信する。
「まあ、一対一でも十分だが、念には念を入れておいた方がよさそうだ。とくにおまえは危険すぎる」
フレイヤは、既にクラスメートを八十人は殺していた。全て相手からの先制攻撃への反撃だったが、その殺戮数は、学年で断トツの数であった。
「くだらない。本当にいいのか? 始めたら私は手加減出来ないぞ?」
「その自信と、表情がムカつくんだ。おまえより強い者はいないと思っている、その表情がな!」
唐突に繰り出された右手のドリルがフレイヤを襲う。すばやく左右に飛び、フレイヤはドリルを避ける。
巨大マシンのクラスメートは笑いながら、攻撃を続けてくる。その瞳に光が反射した。
あまりの眩しさに、クラスメートは目のカメラレンズを修正するが、光は強まるいっぽうだ。フレイヤの身体を、輝き溢れる光が覆い隠す。
戦闘態勢に入り、エーテルを力に変えたフレイヤの姿。
素手で軽く、ドリルがついた右手に拳を合わせた。拳からフレイヤのエーテルが流れ込み、鋼鉄のドリルは腕ごとバラバラに破壊された。
その力を差を見て、クラスメートは実感する。自分がどんなに強い相手と戦っているかを。
「助けてくれ! 冗談だ! ほんの遊びだった……」
詫びの言葉が終わらないうちに、フレイヤは同級生の頭をエーテルを高めた拳で跳ね落とし、次の拳でその身体を粉々に破壊した。
隙あれば乗じようと、戦いを観戦していたクラスメートたちも、一斉に逃げようとした。が、全員の身体を青いエーテルが包み、彼らは一瞬で凍りついた。
「相変わらず手加減無しね。フレイヤ」
シヴァがゆっくりと、フレイヤに向かって歩いてきた。
「おまえこそ、全員氷づけか?」
「ふふ、こんな雑魚はどうでもいいの。でもね、私にはスクールを卒業する前に、どうしてもやってみたい事があるの」
「ほう? それはなんだ。おまえがやりたいことなんて、珍しいな。目ぼしいところは全員殺してしまっただろう?」
「そうね。あなた以外は全部終わっちゃったみたい」
会話をしながら、二人のエーテルは高く流れ始め、ぐらりと地表を揺らした。
アクロポリス創立以来の最強の二人の力比べが始まった。
フレイヤは中央管理システムの、巨大な電脳都市セントラルの上級仕官のティールームに居た。
白いティーカップから、お茶を飲みながら、書物を読んでいた。
静かにそこに存在しているだけ、といったフレイヤの周りの空気が大きく波打った。強烈なエーテル、遠くからでもシヴァが歩いてくるのがわかった。
「フレイヤ、明日、出発すると聞いた」
ぶっきらぼうなシヴァの問いに視線を上げたフレイア。
「ああ、そうらしいな」
とくに表情をかえることもなく静かなまま、フレイヤはシヴァの問いに頷いた。
「もう少し時間があるかと思っていたのに」
「時間? 何かしたいことでもあったのか、この私と?」
「無いわ。おまえとしたいことなど、あるわけがない」
だがシヴァは少し淋しそうな顔をした。ふぅっとため息をつくと、フレイヤはシヴァへと視線を向けた。
「やっと士官学校を卒業して実戦に出られる、それにシヴァおまえは主席なんだぞ」
今まで一言も学校への感想を述べなかったフレイア、実は面倒だったようだ。
いつもならハッキリと物申す、シヴァが言葉に迷ってた、らしくない姿に、こちらも多くを語らないフレイアが、珍しく言葉を重ねる。
「それともなんだ? 十二翼の“判断する者”の中でも最高の計算力を持つ光速のシヴァが、私がいないと淋しいとでも言うのか? おまえのことだ、清々するだとかなんとか、言うんじゃないのか?」
フレイヤの言葉に、シヴァがムッとした顔をする。
「ああ、そうだ。おまえのような馬鹿と離れられて嬉しいよ」
「そうか、それならいい。私も心配が無くなる」
そう言うと、フレイヤは再び書物に目を戻した、シヴァはまだ動かずにフレイアに答えに困る質問をした。
「フレイヤ、おまえはひとりが好きなのか」
「何を言っている――私はずっとひとりだった。そしてこれからも一人だろう。孤独など感じない」
「そうか。それが光の艦隊の司令官のあるべき姿だな」
「ああ、そうだ。シヴァ……おまえは暇なのか? ここで、明日から居なくなる私と話していても得るものは少ないと思うが……」
「そうだな。ただ私は、おまえとこうして、することも無く無駄に過ごす、こういう時間が……なんと言えばいいのか……」
言葉に詰まり、ちょっと困った顔した様子は、普段のシヴァからは想像もできない姿だった。それを見るフレイヤも、珍しいことに、少し楽しそうな顔をしていた。
「私は好きな時間だよ、シヴァ。おまえと過ごす、こういう時間は」
「ば、ばか、デカイ声でそんなことを言うな!」
「そうか? まあ、しばらく、おまえの怒る声も聞けないのは淋しいな」
「馬鹿者! 恥ずかしいから、そういうことを言うのは止めろ!」
少し赤くなったシヴァを見て、ふふっと、フレイヤは笑った。
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白き艦隊による、他の生物の抹殺が進み、新たに他生物と遭遇することが無くなって千年。
セントラルは他生物の抹殺を九十パーセント以上完了したと判断したが、さらに百パーセントの他生物の抹殺を現実のものとする為に、白き艦隊は、十二に再編成された。
後に、十二翼の光の艦隊、無敵の“光の戦女神”と呼ばれる者達が集められた。そして、十二翼の光の艦隊は、宇宙の果てを目指して航海を始める。
セントラルから遠く離れると交信が行えなくなるため、”判断“、”管理“、”出力”の3フォームが作成され、各々の艦隊に実装された。
以後、十二の白き艦隊は、セントラルの管理下からは外れ、自己判断による戦いを始める。最後に残る他生物の抹殺を目指して。
そして今、フレイヤの艦隊は、かつてのパートナーであった男、黒き艦隊の拠点へ向かい、抹殺を開始した。




