光のメサイヤ
「ふん、少しは知恵の回る奴がいるようだな。まあ、猿知恵だろうが」
第九翼の総司令官シヴァが、第七翼の旗艦マスティマでつぶやいた。
直後、マスティマのオペレーターがシヴァに告げる。
「外部回線にて呼び出しがあります。黒き艦隊の司令、キノエと名乗っています」
クリスタルのように爪を光らせた細く長い指を立てる仕草で、シヴァは回線を開くように命じた。マスティマのメインスクリーンに初老の男が写る。
「お初にお目にかかります。私は黒き艦隊、艦隊司令キノエと申します。ほう、これはお美しい。さすが噂に違わぬ光の神、光速のシヴァですな」
いかにもつまらないといった顔でシヴァが聞く。
「下手なお世辞はいい。おまえの猿知恵を教えてくれ」
一瞬、驚いた表情を見せたキノエ、だがすぐにニヤリと笑った。
「さすがですね。私のことまで推測されていたのですかな?」
シヴァはその青く深い瞳で、全てを見越しているかのような視線をキノエに送る。
「黒き艦隊の旗艦アガレス、白き艦隊の旗艦マスティマ、そして私のグリモア。この世界を滅ぼせそうな船が三隻が今、ここにある。そしてフレイヤ、黒き艦隊の総指令パルヒョン。ついでにミジンコ娘が、異次元”現代”へ飛んだ。この隙に、私をどうにかすれば、この艦と艦隊、光の十二翼の二翼と黒き艦隊が手に入る。つまり世界が自分の物になる……と考える奴が現れてもおかしくはない」
黒き艦隊のナンバー2であるキノエが、自分の野望を表に出した。
「なるほど、そこまでおわかりなら、話はしごく簡単です。現在、我々の総司令官パルヒョンは意識が無い状態で、私が総司令官代行を務めております。パルヒョンは、あなた達との和平を希望しておりましたが、私には別の考えがあります。そうです、シヴァ、あなたの言う通り、こんなチャンスを逃がすわけにはいきません。世界が私のものになるかもしれない、少しくらいはリスクを冒すべきでしょう? 今、三隻は、非常に近い位置にあり、主砲は使えません。これはあなたの策略でしたが、こちらにとっても好都合。シヴァ、あなただけこちらに来て頂けませんか? 無駄な流血は避けたいのです。最後には全て私の物になるわけですから」
マスティマのメインスクリーンに、迫ってくる黒き艦隊が写る。
「おまえの艦隊は、三百万ほどか。黒き艦隊の総意というわけでは、ないらしいな」
黒き艦隊の内、五千万以上の艦は、シヴァの後方に待機していた。キノエが笑った。
「そうですね、まあ、獲物は独り占めに限りますから。いくら旗艦とは言え、司令官を二人欠いた状態。しかも黒き艦隊の旗艦アガレスは、動かせません。実質、自分の艦ではないマスティマにいるあなただけなら、三百万隻もいればで十分でしょう?」
シヴァが頷いた。
「ああ、わかった」
キノエが狡猾な笑みを浮かべた。
シヴァはメインスクリーンへと右手をキノエの方に延ばし、薄い笑いを浮かべる。
「わかった。かかってこい。私一人で相手をしよう」
キノエは困惑した顔でシヴァを見る。
「一人で、三百万の艦隊と戦う? シヴァ、あなたの言うことが、私には理解できない。無駄な被害は出したくないのですよ。光の艦隊も私の物になるわけですから。あなたが光の艦隊を再編して戦う気なら、その時間は与えませんよ。すでに、全艦が攻撃射程範囲内。私の艦、ライドウもマスティマやアガレスに引けはとりません。全ては無駄なあがき。人はそれを徒労と呼ぶのですよ」。
「おまえごときに、艦隊は使わんと言っている。やられ役のおまえ如きにな。そんな事をすればフレイヤに笑われるだけだ」
シヴァは表情を全く変えずに答えた。
「その余裕は、フレイヤと同様、光の鎧、バトルフォームでもお持ちなのかな? それなら凄い事ですが……まあ、あなたも光の獣なので油断はできません。ただ、艦隊相手に通用するかどうかは、はなはだ疑問ですがね」
キノエの、勝負にはならない、その言葉を聞いてシヴァが立ちあがった。
「私が持っている物……さすがは猿知恵だ。少しは解っているようだ。いいだろう、本当の恐怖と幸福をおまえに与えてやろう」
シヴァが両手を翼の様に広げると、身体に十二本の光のラインが接続された。自分の艦グリモアへ光速通信を飛ばす。
「グリモアオペレーターへ指示。シルバーノヴァを起動。指定座標へ光速転写を行え。十秒後、私を宇宙空間へテレポート。シルバーノヴァと融合を行う」
「了解しました。実行まで八秒、七、六、五、四、三、二、一」
シヴァの身体は一瞬揺らめいたかと思うとテレポートを開始した。同時にシヴァの艦グリモアから光速で、巨大な獣が打ち出された。
獣とシヴァの身体が重なり、徐々に姿を変えていく……かつて旧世界を滅ぼした、究極の化学兵器。光のメサイヤ。
その内の一頭の獣、シルバーノヴァが、その十二翼を携え、光り輝く美しい姿をこの宇宙に発現させた。
「総司令官代行、戦闘準備完了しました」
部下の言葉に苦笑いしながら、現行、代行で黒き艦隊総司令官となるキノエが指示を出す。
「ふん、代行か……まあいい。この戦いで私はこの宇宙の覇者になるのだから。重戦艦を三万単位で再編成。距離を一光年で展開しろ。分散陣形をとり、シヴァの高度兵器による被害を最小限に抑えるんだ」
歴戦の指揮官であるキノエは、シヴァが切り札となる何らかの超破壊兵器を所持すると考えた。そこで艦隊を三万単位に別れさせ、広く分散させる。それにより一撃による被害は抑えられ、一点集中攻撃でシヴァを狙う作戦に出た。
「全艦三万の小隊に再編成完了。一光年に分散中です」
オペレーターの報告を聞きキノエは告げた。
「各小隊攻撃開始。我が艦ライドウより艦載機発進」
超大型空母であるライドウの、全長三十キロを越える船体にある、三千もの戦闘機離陸ポートが開いた。
離陸ポートに誘導灯が点滅し、小さな銀河の様に見えた。
二十万の戦闘機バトルウォーカーが離陸を開始する。
「艦載機離陸完了。現在攻撃目標シヴァへ接近中です」
キノエは前方にある巨大なメインスクリーンを見て頷いた。
「全艦のコンピュータを本艦に接続。シンクロ開始」
キノエの命令で、個別に行動を行っていた小隊が、旗艦ライドウに完全コントロールされ、一つの艦の様に連動を始める。混戦になっても味方への被弾を最小限に抑えるための戦闘技術、シンクロ。
「シンクロ完了しました。艦載機、あと三十秒で攻撃目標に達します」
巨大な司令塔の一番高い位置に座るキノエが薄く笑みを浮かべ、最終指示を出した。
「では、光速のシヴァ、その力を見せてもらおう。これより、シンクロによる攻撃を開始する。火力最大。防御はいらん。全てのエネルギーを攻撃へ廻せ! これより攻撃を開始する!」
三百万の重戦艦から巨大な重粒子砲による攻撃が展開された。
三万の小隊の重粒子砲が、一つのエネルギーの束になって漆黒の宇宙を突き抜ける。広い円形の光が、レンズのように一点に集約される。その先には攻撃目標となったシヴァがいた。
艦載機がシヴァに近づき、確認した。重戦艦から発射されたエネルギーの塊が弾ける空間に、一匹の光の獣が発現しているのを。
超大型空母ライドウのメインスクリーンに、その美しい姿が中継で映し出される。純白に光り輝く、少女の様な姿、薄い光の衣をまとい、十二枚の翼を背中に携え、瞳を閉じている。
艦載機からライドウに、現状が報告された。
「推定サイズ二百メートル、パワー及び質量ゼロ。開戦からまったく動きはありません」
まさに、天使のような美しい姿は、どこかシヴァに似ていた。
その姿に、キノエも見惚れている。
「これは本当に美しい。出来れば私の捕獲品にしたかったな……シヴァ。ライドウの主砲を準備せよ! 一気に方を付けるぞ!」
ライドウの主砲、ブラックホールキャノンにエネルギーの集約が始まる。
「目標シヴァ。ブラックホールキャノン撃て!」
甲板にある一番巨大なゲートが開くと、直径二キロのブラックホールがシヴァ目掛けて打ちだされた。
数秒後、衝撃と巨大な引力による破壊が開始された。




