青き瞳の天才
前方には二千万の光の艦隊。後方には五千万の闇の艦隊。
二つの艦隊に挟まれ、絶対絶命の三千万のシヴァ艦隊。
「さあ、降伏なさい。自分の部下が無意味に死ぬのは、シヴァあなただから、特に嫌でしょう? 十二翼艦隊で一番のクールで優秀な頭脳を持っているのだからね。さあ、全てを放棄して、あなただけ、こちらに来るのよ」
モイラは、第九翼の総司令官シヴァに無条件降伏を勧告した。
「私の事を良く知ってるみたいだな。ふん、そうだな。我が軍は降伏させようか」
シヴァがあっさりと頷いた。
「そう、それでいい。無駄な犠牲はあなたの戦いの指針に反するもの」
第七翼、旗艦マスティマのメインスクリーンを見たモイラが満足そうに微笑んだ。
「さて……おまえはこうやって光の艦隊を全てコレクションする気か?」
シヴァの問いに、モイラはクスっと笑う。
「ええ、そうよ。光の艦隊を全て集めて飾りたい。あなたたちはとても魅力的なんだもの。傲慢で、知的で、感情的で。そういうの私は大好き」
「まったく……新しい神は歪んでるな」
シヴァが瞳を閉じる。
「ふっ、好きにすればいいさ。ただし、私のコレクションは諦めてもらう!」
シヴァが叫ぶ。
「出力最大。目標、第七翼旗艦マスティマ! この艦をぶつけてやれ!」
第九翼の旗艦グリモアが、艦長の命を受けて全速で動き始めた。
モイラがシヴァを睨みつける。
「なあに? 知将、天才の光速のシヴァが玉砕覚悟の特攻? なんて見苦しい! ……私の思い通りにならないのなら……死になさい。今ここで!」
相打ちを狙ったシヴァに、勝算などないと言い切るモイラ。
「そうかな? この距離では、お互いに主砲は使えない。モイラよ、一撃で私を仕留めないと、後悔することになるぞ」
シヴァの言うとおり、この距離で主砲を使っては自分たちも吹き飛んでしまう。
そして主砲以外では、光の艦隊の旗艦を短時間で行動不能にするのは難しかった。
「フフ、確かにそうね。でもね、もう一隻、あなたを破壊できる船を忘れているわよ」
モイラの含み笑いの後、第九翼の旗艦グリモアのオペレーターがシヴァに緊急を伝える。
「緊急報告。左舷にジャンプを確認。艦名は黒き艦隊の旗艦アガレス。アガレスにエネルギー反応有り。エネルギー増大中です」
「なに!? 主砲を撃つ気か? シールド全開、全員対ショック対閃光防御、衝撃に備えろ! グリモアの進路を変更!」
防御と回避をシヴァが叫ぶ。
ジャンプで現れた黒き艦隊の旗艦アガレスに、漆黒のエネルギーが集まっていく。正面の装甲が開き、五つの竜頭が姿を見せる。
黒き艦隊総指令パルヒョンが、虚ろな目で命令する。
「目標、第九翼旗艦グリモア。主砲ブラックホールキャノン放て!」
五つの竜頭から、漆黒の弾が打ち出され、絡まるようにお互いが旋回しながら、一つの大きなブラックホールに成長していく。
巨大な漆黒の塊は、第九翼の旗艦グリモアに向かって突き進む。
「ク、回避出来ない……間に合わない……全員……」
シヴァの最後の命令を打ち消して、巨大な閃光が宇宙を照らした。
モイラの率いる、第七翼の旗艦マスティマのメインスクリーンが、ホワイトアウトした。
「どうした? 状況を報告せよ!」
フレイヤの体に入り込んだモイラが、司令官としてオペレーターに報告を求めた。
「……高出力のエネルギーが空間に波紋を起こしており、全てのスキャン機器が使用出来ません。映像、音声ともにロストしています」
黒き艦隊の旗艦アガレスのブラックホールキャノン。
その威力は、次空を揺らす程凄まじかった。
「グリモア……艦もろともシヴァが消滅。私のコレクションが台無しね」
不機嫌になったモイラは、司令官の椅子に座り、足を組むと天井を見上げた。
オープンされた装甲から星空が見える。
「欲しい物は手に入らないの? フレイヤ……シヴァ……ク」
独りつぶやくと、椅子を立ち歩き出したモイラ。
そこへオペレーターが緊急を伝える。
「緊急。強制テレポートを確認。場所はここ、マスティマコントロール室。何者かが転送されてきます」
振り返ったモイラが報告を疑う。
「馬鹿な!? マスティマの多重のセキュリティを破って、テレポートするだと? そんなことが出来るのは……」
「そうだ。光の艦隊で最高の有機演算チップを持った、私、シヴァだけだ」
モイラが振り返ると、白く輝く身体に、腰まである蒼く輝く髪、それより目を引く強い意志を湛えた青い瞳が、微動だにしないで見つめていた。
「シヴァ!?」
第九翼の総司令官シヴァが、モイラが先ほどまで座っていた椅子の背に手を置いて立っていた。
「なぜ生きている? なぜここに居る!?」
モイラの言葉にシヴァが微笑む。
「おまえの命令で、アガレスがブラックホールキャノンを使うことくらい計算していたよ。だから事前に準備していた我が艦グリモアの主砲を使った。打ち出されたブラックホールに見合う質量のホワイトホールを打ち出し、アガレスのブラックホールを対消滅させた」
艦橋の窓から対消滅された巨大な主砲のエネルギーの残像が、光として射しこんでくる。
差し込む光。窓を指す長い細いシヴァの指。
「嘘だ、そんなことが出来るはずがない。そんな都合のいいように世界が動くものか!」
モイラの言葉に、シヴァは自分の頭を指差した。
「おやおや、新しい神は随分と謙虚と見える。神の力とは、信じられない、まるで嘘のように事を成すんだよ。同じ神でも、確かに、おまえには出来ないだろう。私は一秒間で七兆八千億回のシュミレーションが出来る。射撃のタイミング、パワーの調整など二秒もかからん。最後のさじ加減だけは勘だがな」
シヴァは、アガレスの打ち出したブラックホールに、グリモアから反属性のホワイトホールをぶつけることで力を完全に打ち消した。
それは光の十二翼、全艦隊最高の計算力を持つシヴァだけが行える、まさに神業であった。
目の前で絶対的な自信に溢れる青い瞳。
シヴァの迫力。漂う気品。
その全てが荘厳な美しさを放っている。
モイラは思わず、その姿に見惚れていた。
「ふぅ……さすがね。やはり光の神は侮れないし、魅力的だわ。フレイヤに感じた強さと美しさを、シヴァ、あなたにも感じる。でもね、だからこそ残念だわ。一人で敵陣に乗り込んで来るなんてね。クク、この艦は私のコントロール下にある。そう、私はフレイヤなの。一言命じるだけで、あなたの身体は捕獲できる。傷などつけないよ。一生保存してあげる。殺してエーテルを抜き取った後にね」
モイラがフレイヤ、旗艦マスティマの艦長として命じる。
「さあ、この侵入者を捉えよ。だだし無傷でだ」
やれやれと、首を振ったシヴァがモイラの頭上を見ながら呟く。
「私は頼まれたから来たまでだ。この艦の司令官は実に面倒な頼みごとをしてくれる」
シヴァが天空へ手を伸ばすと、モイラの頭上に銀色に輝く小さな星雲が現れ、光が霧のように発散した。
人型に変化していく光の霧。銀色の長い髪に、シルバーグレイの瞳。
「馬鹿な、フレイヤが、マスティマに帰ってきたと言うのか!?」
後ずさるモイラ。シヴァは自分のエーテルを高め、タイミングを計って、両手を天にあげた。持てるエーテル、自らの全ての力を解放する。
銀色に輝くフレイヤの姿が一瞬大きく広がり、モイラを包み込んだ。
「……ク、この身体からエーテルを吸い出す気か……シヴァ!?」
モイラのエーテルはフレイヤの体を離れ、そのまま光の霧に吸い込まれていく。
「……いや違う、シヴァだけではない……これは? 私を連れに来ただと? ……フレイヤそして……私」
モイラの言葉と共に、モイラのエーテル体が、マスティマから消えた。




